白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
──前回までのあらすじ
来る二学期期末試験に生徒会の面々を始め各々勉学に励むが、石上優は束の間の疑似ハーレム状態を味わっていた。
───二学期期末試験結果発表の日
午前中に張り出された順位で、一年生は生徒会会計監査の伊井野ミコが490点で、高等部進学以来の連続学年一位を死守。
会計の石上優は当然ではあるが五十位圏内には入れず、悔しい思いをしていた。
しかし、彼は自分の悔しさなど話ならないぐらいの激しい後悔に襲われる。
昼休みに訪ねて来て、返された彼の答案の点数を見た子安つばめが、優が悪い点数を取ったのは自分のせいだと激しく落ち込んだのだ。
つばめは、優の実力を知らなかった。
「ごめんね」と言ったかと思うと泣き出してしまい、優はつばめを泣かせてしまったと打ちひしがれてしまう。
子安つばめは泣き上戸でよく泣くのでいつもの事なのだが、三年生のトップ10に入る成績上位者が教えてこの点数は、彼女を落ち込ませた。
最も、順位上位の生徒が教えて成績が簡単に上がるなら、かぐやが指導した前回の中間テストで順位が飛躍的に上がっているはずである。
しかし、四宮かぐやとしては複雑ではある。
同じ要件で掲示場で優を見掛けなかったかぐやは、つばめが泣くところに居合わせてしまった。
つばめ達の参加は優の奮起材料になればいい程度に思っていたのが、つばめが泣いた事で優に余計なプレッシャーになるのではないかと懸念が生まれた。
つばめが去った後、トイレに向かった優をかぐやは追う。
『石上君?』
『・・・四宮先輩・・・、すいません。』
返ってきた応えは暗いものだった。
不味い、非常に不味い。
せっかく明るくなっていたのに、これでは台無しになる。
『落ち込んでる場合じゃないわよ?』
『・・・僕は何やってもダメな人間なんです。
会長や四宮先輩みたいには・・・。』
『買いかぶりだった?
女の子に泣かれて、逃げ出すのが貴方なの?』
『そんなつもりは・・・、
でも、
子安先輩に泣かれて・・・、
頭が回らないんです!
こんな筈じゃなかった、
こんな筈じゃなかった!!
けど、僕は・・・。』
とんでもない逆効果になってしまった。
これなら無理矢理にでもつばめ達の輪に割り込んだ方が良かったかもしれない。
溜息をつきながら、優の背中に手を回してかぐやは詫びる。
『謝らないといけないのは私の方よ。
大見栄切ったのに、貴方に付いてないで他の人達に任せて。』
『そんな事、ないです。
あの参考書、解りやすかったですし、あの問題集も解いてると楽しくなって・・・。
なのに、僕は・・・。』
洗面台に両手をついて顔を上げない優の背中に、かぐやは手を添え続ける。
やがて、ひとしきりうなだれた優は心の整理に区切りが付いたのか、かぐやに再度謝って自分の教室に歩いていった。
それを見送る、かぐや。
しかし、二人は周りが見えてなかった。
場所が男子トイレで他の男子生徒がいる中でかぐやが慰めていた事、優の返答が周りに聞き取りにくかった事、直前に子安つばめが泣いた事、何より優が周りに嫉妬されていた事が無理矢理点と点を繋げてしまい、
「石上優が子安つばめに告白して振られて四宮かぐやに慰められたが、男子トイレ内まで付いてきたかぐやは優に惚れてる。」
という、勝手なストーリーが作られ、優を取り巻く環境はややこしくなっていた。
───そして、厄介事はもう一つ。
──ニ年生二学期期末試験順位──
一位、四宮かぐや 500点
二位、四条眞妃 496点
三位、白銀御行 490点
貼り出された順位を前に生徒会会長・白銀御行は、真っ白になって立ちつくて動けなくなっていた。
優を激励した後、恐る恐る自分達の順位を見に来たかぐやも、かぐやに満点のお祝いを言おうとした眞妃も、友人の柏木渚も、いつもなら喝の一つも入れる桃も、石像の様に固まっている御行を前に掛ける言葉が見つからない。しかし、そこは御行の友人である風祭豪と豊島三郎が二人がかりでシメて、正気を取り戻したがうなだれる御行を引きずって教室に戻った。
周りから見れば、学年三位で十二分以上の点数でありながら、嫌味と皮肉にしか取れない御行の態度に、豪と三郎は苛ついていたのだ。
『余程、ショックだったのね。
連覇が途切れた事が・・・。』
豪達に連れて行かれる御行を見ながら眞妃は独語する。
五教科満点なんてなかなか出来ないからかぐやにお祝いを言おうと思っていたのに、御行の様子にショックを受けてる今のかぐやには何も言わない方がいいとも考える。
かぐやも満点なんて取れるものでもないと思っていたので嬉しかったのだが、こんな事になるなら答案を一部白紙で出せばよかったとも考えてしまう程だった。
思いの外、全員が冷静な判断力を欠いている状態だった。
ちなみに、かぐやの近侍の早坂愛は五十位になっていた。
狙った順位になれる彼女もまた、かぐやや眞妃並の才女である。
───一日オフにボーナス付き(軍資金)の確約をかぐやから貰ったので、誘惑に負けたのだ。
これで検証できなかったデートプランが検証できると、人目の無いところで喜びを爆発させていた。
───放課後・生徒会室
生徒会メンバーの会長と会計の男子二人が非常に重い空気を纏って鎮座している為、生徒会室全体も重苦しくなっていた。
石上優は名前を貼り出される五十位圏外だったから、まだ理解できる。
問題は白銀御行だ。
合計点数490点は、五教科平均98点の非常に高い点である。
が、四宮かぐやがまさかの五教科満点。
二位の四条眞妃も五教科で二問しか間違えなかった事になる。
対して御行は、各教科で一問づつの五問間違えてる事になる。
掛ける言葉が見つからず、立ち尽くすかぐやを尻目に、この状態に噛み付いたのが書記の藤原千花である。
『何なんですか!
男二人が揃いも揃って、落ち込んで!!
私に対する嫌味ですか!!?』
今回も、千花は順位を下げた為にお小遣いを減らされる事が確定していた。
吠える千花を横目にミコは優の前に立つ。
いつもなら何らかの反応をする優は、無反応だった。
彼の脳裏には、つばめが泣いてる光景が、大友京子が泣いていた光景と重なっていた。
「つばめ先輩を泣かしてしまった。」
それに彼は堪えていた。
『・・・石上?』
声を掛けても無反応の優に、ミコは静かにキレた。
いきなり優の顔を両手で無理矢理自分に向ける。
流石に予想できなかったミコの行動に優は目を見張る。
かぐや達も反応できない。
『石上・・・、アンタどれだけ恵まれてるか解ってんの?
点数低くても生徒会に入れて、私はどんなに入りたくても毛嫌いされて門前払いで・・・。
勉強だって、四宮先輩はじめ何人に見て貰ったの?
私は、自分一人だよ。
それで、結果が出なかったからって腐っても皆に見守られて・・・。』
知らずに涙が出ていたミコの声は嗚咽混じりになっていた。
『私は、アンタが羨ましいよ。
私が毎回どれだけプレッシャー掛かってるか解る?
試験が近付けば、毎晩夢に見るのよ。
一位から最下位に落ちて、真っ暗な場所に落とされて侮蔑と嘲笑と罵倒に晒される惨めな思いをする自分を・・・。』
同じ思いを、小学生から挫折を経験させられた御行は、ミコの言いたい事が痛いほど理解できる。
『アンタ、そんなプレッシャーに潰されそうになった事、ある?
ねぇ、あるの!?』
周りの期待と練習の日々にピアノが嫌いになった千花や、何事も出来なければ手の甲に鞭を打たれたかぐやは、ミコの叫びに共感する。
『・・・って、
・・・だからって、
どうしろっていうんだよ!?
僕は・・・、期待に応えられなかったんだ。』
『立ち止まってたって、どうにもなんないでしょって言ってんのよ!?
もがくしかないのよ、それしか手段はないのよ!!』
『お前に、僕の何が解るっていうだ!』
言い合いから取っ組み合いの喧嘩に発展したのをかぐや達が止めようとする。
直後、自分の席から立ち上がって二人の居たテーブルに辿り着くまでに、視界が暗転して御行は意識を手放した。
御行が倒れた事にかぐやと千花の悲鳴が上がり、取っ組み合いになっていた優とミコの二人は我に返り、救急車や教師を呼ぶなど対応に追われる事になる。
救急車が到着し、かぐやが付き添う形で御行が搬送される中、居た堪れなくなった優は逃げる様に帰ろうとするが、校舎の階段で陰で泣いてるミコを見て帰れなくなった。
『・・・伊井野。』
『・・・なによっ。』
涙声で返事が帰ってくるが、冷静さを保とうと自制してる事が傍目からも解るほど、ミコは震えていた。
ついさっきまでの立場が逆転してしまった事に、優はやり切れなさを覚える。
諸々、泣きたいのはこっちなのに先に泣かれて、正直女はズルいと思う。
その後、互いに交わす言葉はないがミコが落ち着くまで優は側に居続けた。
一方、病院に搬送された御行を診察した医師は、一目で過労と診断してベットに安静にさせて、念の為の点滴を付けた。
かぐや達は、御行の目の隈を毎日見てるから見慣れてしまい変化に気が付かなかったが、とても高校生がなる様なレベルの隈ではなくなっていた。
最も側にいて、御行の極端な勉強時間も知っていた筈のかぐやは、自分の迂闊さを呪った。
前回の中間テストでかぐやが一位同位であった事が御行に大きなプレッシャーを掛けてたのは想像できるが、倒れるほどに勉強しては意味がない。
では、当の御行はどうなのかというと、試験前で追い込みを掛けていて連日徹夜であった事、にも関わらずかぐやだけでなく眞妃にも負け三位になった事、風祭達に現実に戻された後に聞いた男子トイレでのかぐやと優の噂話が、御行の思考力を奪い思い詰めてしまった。
───四宮に劣る自分に価値はない、と。
─────つづく