白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───前回までのあらすじ


二学期期末試験にて成績が振るわなかった石上優は、上級生・子安つばめに泣かれて激しく落ち込み、その態度に立腹した伊井野ミコは、自身の境遇と比較して恵まれてると感じていた優に本音を吐露、喧嘩となる。
四宮かぐやに絶対負けられないと思っていた白銀御行は、かぐやがまさかの満点を取り四条眞妃にも負け三位となり打ちひしがれていたが、二人の喧嘩を止めようとして倒れてしまった。


✕編集中✕

 

 

 

───御行の病室

 

 

運ばれた白銀御行は過労と診断され、点滴を投与された事でニ時間以内には目を覚ますだろうと、医師から付き添いの四宮かぐやは告げられる。

既に近侍の早坂愛も合流したが、かぐやにはタイムスリップ時の光景と重なり不安でたまらない。

 

ただ、時よりうなされているのか、寝言の様な事を言う違いがかぐやを落ち着かせている。

愛が合流する前に、「四宮」と呟かれた時は心臓が飛び上がったかと思うぐらいに鼓動が早くなるが、その後は寝息を立てるだけだったので期待外れに苛立ちを覚えたが。

 

 

 

『皆さんの様子はどうかしら?

さっきから引っ切り無しに通知が来てるから、バイブレーションをオフにしてたのよ。』

 

 

そういうと、かぐやは愛に自分のスマホを見せる。

表示された画面には生徒会の石上優と伊井野ミコ、友人の四条眞妃や柏木渚等からメールやラインが入っていた。

 

 

 

『返事を送ろうと思うと他の人から連絡が入るから、なかなか返事ができなくて。』

 

『心配はありがたいですが、混線していては意味がないですね。

あるあるですけど。』

 

 

画面を見てやや呆れ気味になる愛。

その時、病室のドアがノックされ医師と見られる白衣を着た初老の男性が、女性看護師を伴って入室してきた。

直様、かぐやが応対する。

 

 

 

『こんばんは、担当医から状況は聞いております。

私は医師で田沼正造と言います。

四宮家の専属も承っておりまして、お嬢様にはご無沙汰しております。』

 

『初めまして。

大変不躾で申し訳ありませんが、生憎お医者様にお会いした記憶がございませんで・・・。』

 

 

かぐやは田沼医師を「知っている」が、この段階では初対面に近い為、あえて知らないと返答する。

しかしながら、「経験」した今年と、先日の墓参りの折りの父親の四宮雁庵の発言から、田沼医師に聞きたい事がかぐやにはあった。

向こうから機会を作ってくれたのなら聞きやすい。

 

田沼医師は気分を害した風もなく応える。

 

 

 

『無理もありません、定期検診の際にお会いして以来ですから。

実は先程、急患対応をしていましたらお姿をお見かけしまして。

その後、御身体の調子はよろしいですか?』

 

『はい、お陰様で。

あの、会長の・・・。』

 

 

そう言うと、かぐやは寝ている御行に目線を向ける。

 

 

 

『おお、そうでした。

では、拝見致しましょう。』

 

 

田沼医師が御行の脈を見ていると、御行はうなされているのか頭が動いた。

つられて、顔を覗き込む様に田沼医師の顔が御行の正面に来たタイミングで、目を覚ました御行が酷く慌てた様に起きようとして、田沼医師と顔と顔がぶつかってしまった。

二人の顔は唇の位置でV字を作る様に、重なってしまった。

所謂、キスの状態である。

 

かぐやと愛と女性看護師は唐突な出来事に目を見開き、当事者の田沼医師と御行は事態が飲み込めず、固まってしまった。

 

永遠に感じる一瞬が過ぎた時、どちらからともなく離れた二人の男は唇に手を当てながら激しく動揺し、田沼医師は室外に出て、御行は屈んで、我が身に起きた事を処理しようとする。

両名と認めたくないのだが、ちょっと良かった事が余計混乱させてる。

その間、三人の女性達は動けなかった。

 

先に立ち直ったのは年長で経験豊富な田沼医師で、室内に戻って来ると何食わぬ顔で動揺が収まってない御行の診察をし、大丈夫そうだが少し休んでから帰るといいと告げると、酷い隈を作って倒れる程の徹夜は以後は止めなさいと釘を差して病室を出ようとする。

 

その頃には動揺が収まり現実に復帰した三人の女性は、女性看護師は仕事で、かぐやは父親の雁庵の病状を聞く為に、田沼医師に同道し、病室には愛と御行が残された。

この状況で御行にどう声を掛けていいかかぐやは判らず、少し時間が欲しい気持ちもあった。

 

残される愛は内心、

 

(かぐや様、それはないでしょ!?

気まずいんですけど!!)

 

とは思ったが、動揺収まらず混乱してる御行を一人にするのも可哀相には思える。

当の御行は、好きな女の目の前で知らんオッサンとキスしてしまい、それが少し気持ち良かったのが余計混乱を引き起こしていた。

 

(俺、そっち系なんだろうか?)

 

という、おかしな事まで考える程に混乱していた。

 

二人っきりの病室を、気不味い空気が重く支配する。

 

 

 

 

 

意識を失った間、御行は夢を見ていた。

酷く現実味のある、起きる可能性のあった現実の夢。

 

かぐやに初めて試験で挑んだ時の「あり得た現実」の夢を。

 

奮闘及ばず、かぐやに負けた御行がかぐやから突き付けられる現実。

 

 

「二度と私に話し掛けないで。」

 

 

その恐怖が彼を叩き起こした。

 

実際、そうなのだ。

御行はかぐやに許しを請い続けてる状態なのだ。

生徒会長であり続けても、学年一位を死守し続けても、かぐやがそれを一顧だにしなくなった時点で価値は無くなる。

かぐやの横に立ってても、御行はかぐやの気持ちを御行に向かせ続けなければいけない。

その最低条件であり、それ以外に御行には無い唯一の勉学においてかぐやに負けた事は、御行には死刑宣告でしかなかった。

 

だから、寝起きに知らんオッサンとのキスは、御行にはある種の罰と理解した。

動揺はするが、「これで済んだ」とも思える。

 

何故なら、かぐやが居てくれたからだ。

 

かなり卑屈な思考になっているが、実際にはそうなのだ。

今は、かぐやが御行に興味を失えば、破綻する関係でしかない。

 

頭の整理をして、気不味いが折角の機会を無駄にする訳にはいかない御行は、愛に話し掛ける。

 

 

 

『・・・その、早坂さん?

俺は、どうなっていたんだ?』

 

『・・・生徒会室で倒れて、この病院に運ばれてから三時間ぐらい経ってるよ。

診断は過労で点滴を打って貰った。』

 

『そうか・・・、ありがとう。

心配・・・、掛けたな。

その、四宮達は?』

 

『会長が倒れてからバタバタだったみたいで、かぐやと私だけ来てる。

他の人達からは連絡がかなり来てる筈だよ。』

 

『・・・そうか。』

 

 

また、妙な沈黙が室内に降りる。

田沼医師と女性看護師は戻って来ないだろうが、かぐやも時間が掛かるだろう。

間をもたせようと、御行は話を振る。

 

 

 

『・・・その、君が以前教えてくれたメイドのハーサカさんと同一人物、という事だが、別人に変装しないといけない事情というのは、何なんだ?

変装ならひょっとしてとも思うが、四宮がウチに来た時の執事の人も、君なのか?』

 

 

妙な所で記憶力があるなと愛は考えたが、変に勘繰られるのも困るので事実を話す事にする。

 

 

『・・・四宮家は、面倒な家なんです。

外にも中にも敵がいます。

私はかぐや様の側付きですけど、状況に合わせて演じ分けをする必要があるんです。

会長さんの予想通り、夏休み明けの執事は男装した私です。

私は、かぐや様の影となりかぐや様をお守りするお役目なんです。』

 

 

そうは言いつつ、かぐやを裏切ってかぐやの情報を本家に流してる事に、拭い様の無い罪悪感を抱えて仕えてはいるが・・・。

事実を告げられた御行は唖然としていた。

自分と同い年の少女が護衛役として男装までしてかぐやに尽くすとは、映画かテレビの世界の出来事に感じていた。

だが、同時に四宮家の異常さを実感させられもした。

 

 

 

『いつからなんだ?』

 

『小さい時から、ずうと・・・。

もう十年にはなるよ・・・。』

 

『・・・昼も夜も休みなしか?』

 

『前はね。

今は、違う。

・・・かぐや様が、気を使ってくれてるから。

・・・貴方のおかげだと思う。』

 

『俺が?』

 

『一昨年からだけど、最近はかなり変変わられました。』

 

『まあ・・・、確かにな。』

 

 

九月からのかぐやの変化は、それしか考えられないのが愛の見方になる。

御行にしても、あの不意打ちのキス以来、かぐやに驚かされる事が多い。

 

 

 

『驚いた?』

 

『まあ、な。』

 

『・・・驚きついで、というとおかしいけど、協力して欲しい事もあるの。』

 

『・・・なんだ?』

 

『私は、・・・かぐや様の身辺調査も仕事なの。

かぐや様の交友関係とか、そういう情報を報告しないといけないの。

密偵、という存在なんです。

だから、事実を知った貴方に避けられたりすると、仕事に支障が出るの。』

 

『・・・何を、するんだ?』

 

『普通に、お友達になってくれませんか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

───田沼医師の個室

 

 

 

『はい、申し上げました。

以前から認知症の兆候が出ていましたし、体は丈夫な方と言っても高齢である以上、確実に衰えてきます。』

 

『先生の見立てでは、どれほど?』

 

『───数年の内に。』

 

 

既に「経験」した事ではあるが、改めて告げられると避けられない事実に衝撃を受ける。

 

 

 

『この事は、どれ程の人が知っているのでしょうか?』

 

『貴女と御本人、秘書の方ぐらいです。

他の方々には言うなと御本人から口止めされてます。

御本人がお話なられている方は判りませんが。』

 

『そう、ですか・・・。

先生、ありがとうございます。』

 

『まだ、です。

あくまで長くてであり、急変しないとはとても言えません。

それだけ、御身体に気を配る必要があります。』

 

『・・・解りました、留意致します。

お忙しいところを、ありがとうございました。』

 

 

謝意を述べて、かぐやは御行の病室に戻る。

わざわざ個室で、付いていた女性看護師を遠ざけて話す内容は軽い筈もないが、かぐやにはショックだった。

事前に知らされる・知っている事と、突然訪れる訃報は、どちらがまだマシなのか?

 

かぐやには、解らなかった。

 

 

 

 

 

─────つづく

 

 

 

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