白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───前回までのあらすじ


生徒会任期満了直前、会長・白銀御行の突然の発案で四宮かぐや達は「月見」をして、御行とかぐやは嬉しいアクシデントに見舞われる。


005『第68期生徒会長選挙』

 

 

 

───月見の翌日

 

 

四宮かぐやと白銀御行は気まずかった。

 

御行はテンションの時間切れから冷静になり、自分の発言に悶えていた。

ただ、抱き寄せたかぐやは嫌がってはおらず自分の話を最後まで聞いてくれたのだから、夏休み明けのキスといい、自分への好意は決定的ではないのか?とは考えるのだが、やはり自分の発言の羞恥心がそれを上回り、かぐやを避けてしまう。

 

かぐやは事故と判っていたが御行からのキスで幸せな気分ながら、顔を見ると思い出して意識してしまいぎこちなくなり、冷静でいられない。

おでこへのキスは白銀かぐやとしても「初体験」だったのだ。

 

従って、警戒心や注意力が散漫になっていた両者は、藤原千花が持ってきた「パッピーライフ」ゲームに参加してしまった。

 

そして、石上優が交通事故イベントで退場せず、絶妙なバランスで子供ゾーンを抜け大人ゾーンになってから、藤原千花のイベントが炸裂した。

 

寝取られ・不倫・隠し子・蒸発等など、下手なドラマなど話にならない濃厚なイベントの連続に当の千花ですら轟沈し、優からの嵐の様な非難と指摘が千花に殺到した。

 

御行とかぐやは早々に結婚できて波に乗るかと思いきや、そこから運の尽きの様な、子沢山の養育費高額化・事業の倒産・多額の借金・交通事故・難治の病と立て続けに不幸に見舞われ、

 

 

 

『四宮!

俺なんか捨てて幸せになってくれ!!』

 

 

と、御行からゲームと思えない発言まで飛び出すほど追い詰められ、かぐやが必死に励まして、なんとかゴールできた。

 千花と優からはニ人に生暖かい視線を向けられたが、「原因を作ったのは貴女でしょ!」とかぐやは千花に抗議したかった。

 

(この人、落ち込むと底が解らないぐらいの落ち込み方するのよね・・・。)

 

あまりに酷い時に、一度だけ頭を抱き抱える様にあやして、気の済むまで泣かせたり愚痴らせたりしたのだが、本当に子供をあやしてる様な嫌な感覚になったので、それ以来「禁じ手」にしている。

 

かぐやは、自分の事は棚に上げて大概な事をいっている。

所謂、「似た者夫婦」でしかないのだが・・・。

 

翌日は業務の最終確認に終止し、

 

 

 

 

 

───その翌日

 

 

秀知院学園高等部、第67期生徒会任期満了の日。

 

 

かぐやが「経験」した通り、生徒会室の片付けと掃除を済ませて、秘密部屋の存在に優とかぐや以外が驚いた後、生徒会室を退出して少し歩くと千花が泣き出し、かぐやも感極まってしまい泣き合い、第67期生徒会は解散となった。

 

ファミレスで打ち上げのつもりだったが、廊下で偶然会った高等部校長に、四人は予想外の事を告げられた。

 

 

 

「他薦多数により、四宮かぐやさんが生徒会長選挙に立候補する事になるかもしれない」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───放課後・ファミレス

 

 

かぐやは突然の話に困惑を通り越して呆れるしかなかった。

 

死文化した条項、

 

「一、他薦が百人を超えた者は生徒会長選挙に立候補するものとする。

辞退は認められない。」

 

校長の説明では、第10期までは他薦多数により生徒会長が選挙前に選出される事が慣例であり、多くの仲間に推薦をされる人望も生徒会長たる者には大事であるとされていたが、第11期からは支持が割れる様になり、今の様な生徒会長選挙になったと。

 

 

 

『しかし、な?

それだけの支持が得られるのありがたいが、望んでもいないのに生徒会長選挙に立候補させられるとは。

結局は押し付けられてる様なものだし、卑怯だと言いたくなる。

自分達でやればいいだろうに。

 

すまん、四宮。

そんな条文を改正しなかったのは、俺のミスだ。』

 

『会長、ミスというのであれば副会長であった私も同様です。

お気になさらないでください。』

 

『しかしな・・・。』

 

 

苦々しげに言う前会長・白銀御行は、自身の選挙戦は苦戦を強いられたのでそれだけの他薦(=得票)が確定してる状況は羨ましく思える。

しかし・・・。

 

 

 

『かぐやさんにそれだけの支持が集まってるっ話は、私達の周りには聞こえて来なかったんですけどね。

石上君は何か知らない?』

 

『クラスメイトの名前と顔が一致しない僕に聞きます?

ただ、僕のクラスではそんな動きは無かったはずですけど。』

 

『そうなると、首魁は3年生か?』

 

『まあ、この事は明日以降考えます。

今は慰労会を楽しみましょう。』

 

『そう、だな。』

 

 

四宮かぐやとして「経験」した生徒会長選挙は同じ2年生の「本郷勇人」を出馬辞退させ、残った「白銀御行」と「伊井野ミコ」が一騎討ちとなり、接戦の末、白銀御行が勝利して第68期生徒会長になった。

 

まさか、自分が出馬する事になるなどと思いもしなかった・・・。

 

この時、かぐや以外の3人にはかぐやが思い詰めてる様に見えた。

千花ですら軽口を叩くのを憚られる様に。

実際は、犯人の目星をつけて責め苦を味あわせてあげましょうと考えてただけなのだが。

 

かぐやとしても、自分が生徒会長では「来年」の騒動の時に、「副」生徒会長の立場では御行に不利に働かないかと懸念がある。

そうならずに、事が丸く収まる事が一番望ましいが、なった時に不利に働く要素は排除したい。

その為に、京都本宅に毎週末通ったり、父を始め色んな人と人脈の再構築をしているのに、と。

 

その後、冷水を掛けられた慰労会は盛り上がりに欠ける中でお開きとなり、千花と優は電車で家路についた。

かぐやは泉岳寺別邸まで御行に送ってもらい、門をくぐろうとした時───

 

 

 

『四宮!』

 

『はい・・・?』

 

 

振り返るかぐやに御行がある紙を差し出す。

その紙は白銀御行の記入済みの生徒会長選挙の出馬届だった。

 

 

 

『こ、これは?』

 

 

用紙を見ながら御行に真意を聞くかぐや。

理由は聞かずとも解るが言って欲しい。

 

 

『自惚れだが、俺が出馬すれば多少は票が割れるだろう。

あとはどうなるか判らんが、少なくともやりたくない四宮に生徒会長をやらせなくていい様にはなる。』

 

『・・・会長。』

 

『まだ早いぞ、四宮。

だから、そんな顔するな。

お前に、そんな顔は似合わない。』

 

 

込み上げてくる感情と涙を見せない為に、かぐやは頭を下げて。

 

 

 

『ありがとうございます。』

 

 

そういうのが精一杯だった。

 

言外に

 

「そうやって、困った時に助けてくれる貴方が好き。」

 

と。

 

かぐやに見送られながら、御行は手にした自身の出馬届を見つめて覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一部始終を見ていた早坂愛は、そういうのは学校の中でやってくれないかなと思う今日このごろ・・・。

 

面倒な仕事が増えるから、見なかった事にしようと黙認した。

 

翌日、届け出を済ませた白銀御行は正式に生徒会長選挙立候補を表明する。

高等部全体に伝わる様に。

目的は、「やりたくない四宮かぐやを生徒会長にさせない」為に、かぐやを守る選挙戦に突入する。

 

一方、他薦多数により生徒会長選挙に強制出馬の可能性があると告げられた四宮かぐやは、翌日から調査を始めた。

 

そして、知る事になる。

今回の面倒な裏面を。

 

端的に言えば、

 

「四宮家長女」で「純院」の四宮かぐやが「生徒会長に相応しい」という考えが原因である。

 

「混院」の白銀御行が生徒会長だった事が気に入らない「層」が主犯である。しかし、ハッキリ「層」と言い切れるほど纏まってはいない。

 

二学期中間テストで、かぐやと御行が同位一位だった事も影響している。

 

教師に見せてもらったかぐやの(勝手な)推薦人リストから同学年の20人程に直接聞いてみると、

 

 

『四宮さんな相応しいと思って。』

『前副会長だから。』

『混院の次は純院でしょ。』

 

 

と、拍子抜けする答えが返ってきた。

 

純院なら誰でもいい、という安直な考えが透けて見える様で呆れた。

 

 

『生徒会は激務だから、会長は経験者がなった方が良い。』

 

 

まともな意見を言ったのは一人しかいなかった。

 

 

 

『一年生・三年生の方も似たり寄ったりです。』

 

『ため息しか出ないわね。

これがわが学友たちかと思うと情けなくなります。』

 

『そんなもの、というと語弊がありますが、群衆心理みたいなものです。』

 

 

校舎の端の人目につかない窓辺で窓越しに愛からの調査報告を受けているかぐやは、段々真剣に対応する事が馬鹿馬鹿しくなってきた。

 

 

 

『ただ、一部で看過しない方がいい動きもあります。』

 

『と、いうと?』

 

『この間、かぐや様が勉強を見てあげた一年生三人は、かぐや様を本気で生徒会長に相応しいと考えてる様です。

同級生達への働きかけを強めてます。

今のところ、一年生の立候補者「伊井野ミコ」の選挙活動と相殺されてますが、かぐや様と白銀御行と伊井野ミコの三人に割れそうです。』

 

『・・・私、大分冷たくあしらった筈だけど、あの勉強会?』

 

『二日目までに脱落した者の一部は半分恨み節の様な事を言ってますが、自分から脱落したので逆恨みと周りも相手せず、自分自身も自覚のある者が大半で沈黙してます。

相対的にあの三人と伊井野ミコはかぐや様が最後まで見てあげた事で、かぐや様への好感度がかなり上がってます。

 

伊井野ミコは、かぐや様に応援演説を頼みたいと周囲に漏らしたとか。』

 

『迷惑な話だわ。

真剣なら余計にね。』

 

『マスメディア部の最新調査結果は、かぐや様3・白銀前会長2.5・伊井野ミコ1・特になし3.5、の様です。』

 

『私の強制立候補は100人に達しなければいいのね?』

 

『そうです。

100人にならなければ問題ありません。』

 

『解ったわ。

地道に一人づつ説得して回ります。

こういうのを「ドブ板選挙」というのかしら?』

 

『目的は真逆ですけどね。』

 

 

二人とも苦笑せざるを得ない状況である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───高等部・廊下

 

 

 

『四宮先輩!』

 

 

愛と別れて廊下を歩いてると背後から呼び止められ振り返ると、風紀委員の伊井野ミコと大仏こばちの二人がいた。

 

 

 

『確か、伊井野ミコ、さんだったわよね?』

 

『四宮先輩、勉強会ではお世話になりました。』

 

『四宮先輩、初めまして。

大仏こばちと言います。』

 

『初めまして、大仏さん。

それで、伊井野さんはなにか?』

 

『いえ、お見掛けしたのでご挨拶をと思いました。』

 

 

妙な間が三人の空間に降りかかってくる。

 

この感覚、選挙の時だけ連絡してくる人の奥歯に何か引っ掛かった様な歯切れの悪い、あの感覚に似てると思うかぐや。

 

面倒な事になりそうなのでその場をかぐやが離れようとした刹那。

 

 

 

『こ、これが私の主張なんですが、四宮先輩にも見てもらってもいいですか!?』

 

 

伊井野ミコから紙を手渡される。

書かれていたのは、立候補動機と校則の改定案。

髪型の規制案は、女子は三つ編み・男子は丸坊主だった。

そういえばそんな事を言ってたわね、この子はと思ったがコレは使えるかなと考え始めたかぐやの視界に伊井野ミコの髪が映った。

不自然に感じたかぐやはつい言ってしまった。

 

 

 

『伊井野さんの服装規定案に、伊井野さんの髪型は合致しないのではないの?』

 

 

慌てて自分の髪を気にしだした伊井野ミコは、『失礼しました!』と頭を下げると駆け出して行った。

 

 

 

『いいところつきますね、四宮先輩。』

 

『へぇっ!? あっ!

ごめんなさい、言わない方が良かったわね・・・。』

 

『いえ、誰かが指摘するだろうとは思ってましたから。』

 

 

大仏こばちも一礼して伊井野ミコの後を追い掛ける。

 

引きつり笑いで二人を見送るかぐやは思う。

 

「気が付いてなかったの?」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

『僕も四宮さんなら一票入れるよ。』

 

『いえ、投票の際には厳格に判断して一票を投じてください。

では、失礼します。』

 

 

今回は出馬しなかった本郷勇人はかぐやの勝手な推薦人に名を連ねていたので理由を聞いたところ、四宮かぐやの人気が強くて断念したとの事。

不快感を顔に出さない様に丁寧に断りを入れて離れるが、どうしても強制出馬になるなら公約は男女丸刈りにしましょうかと、かぐやは俯いて考え出した。

 

 

 

『あっ、かぐや!』

 

 

聞き慣れた声に呼ばれて顔を上げれば、四条眞妃が友人の柏木渚を伴って歩いてくるのが見えた。

心無しか、眞妃が不機嫌そうにかぐやには見えた。

 

 

 

『眞妃さん、柏木さん、ごきげんよう。』

 

『こんにちは、かぐやさん。』

 

『その様子だと、かぐやも出馬させられそうなのね。』

 

『ええ、そうな・・・。

もしかして、眞妃さん達も?』

 

『私はないんですけど、眞妃が。』

 

『迷惑な話よ、まったく。』

 

『実は、私も昨日校長先生からお話があって。』

 

『たまったもんじゃないわ。

そんなにやりたいなら自分達でやればいいでしょうに。』

 

『全くです。

眞妃もかぐやさんも忙しいんですから。』

 

 

かぐやは眞妃が話しかけてきた理由がなんとなく察せた。

渚と目線が合うと頷かれたのでそういう事なのだろう。

 

 

「四宮かぐやが出馬を嫌がっている」

 

 

と、周囲に印象付ける為だ。

 

周りで聞いていた生徒達は、自分のクラスに持ち帰り話してくれるだろう。

 

「貴女はそういう人よね。」

 

とかぐやは不器用な眞妃の事を思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───夜・かぐやの寝室

 

 

 

『ハァ〜・・・、極楽。』

 

『変な声出さないでくださいよ。』

 

 

主に心労で疲れたかぐやは、来客もなかったので早く寝ようと愛に就寝前マッサージをして貰っていた。

 

 

 

『愛の揉み方は心地良いのですもの。』

 

『お褒めに預かり嬉しいですけど。』

 

『じゃ、今度は私が揉むはね。』

 

『ちょっと、かぐや様。それじゃあ、アベコベですよ。』

 

『いいじゃない、やらせてよ。』

 

『もう・・・。』

 

 

照れながらもかぐやのマッサージを受ける愛。

「姉妹」はじゃれ合いながら、夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「秀知院高等部第68期生徒会長選挙

 

 立候補者公示日

 

 

 

立候補者

 

 

   2年生、白銀御行

 

   1年生、伊井野ミコ

 

 

 

以上、二名の立候補を認める

 

 

 

 

 

────投票日は10月15日とする。」

 

 

 

 

 

貼り出された立候補者名を見て安堵する、かぐや。

推薦取り下げをお願いして周り、自身の立候補は回避できたが勝手な推薦人は98人に達して、強制出馬の瀬戸際だった。

 

「経験」した生徒会長選挙は、「会長」と白銀御行を呼べなくなる事が我慢出来なかったかぐやが、御行に立候補をお願いする形で、「お願い」を先読みして準備していた御行が出馬する流れから、白銀御行と伊井野ミコの一騎討ちになる。

 

今回は強制出馬でかぐやが立候補させられたら、かぐやが生徒会長になる可能性が高かった。

 

勝手な推薦人が98人にもなったのが良い証左であり、純院の混院嫌いはかなりのものだ。

しかし、為にかぐやは選挙期間中にどう動くべきか悩んでいた。

自分が動けば藪蛇になり、御行に不利に働くのではないか?

その可能性があった。

 

 

 

『良かったじゃねぇか、四宮先輩。』

 

 

掲示板の前で思考に沈みかけたかぐやを現実に呼び戻す声に反応して、声の主を探す。

振り向いた先には、彼───。

剣道部部長、一年生の小島が居た。

 

 

 

『お久しぶりですね、小島さん。』

 

『他人行儀だな、疲れる事した仲なのに。』

 

『その言い方、わざとでしょ。』

 

『さてね。

 

・・・しかし、

 

この事と同じで気に食わない事が起きた。』

 

 

四宮かぐやの右横に並んで立った彼は掲示物を見ながら話を続ける。

 

 

 

『アレが国内に居た。

行方知れずの筈だったが、場所を変えてただけみたいだ。

で、大友に手を出した。

・・・夏の頃の話だそうだ。』

 

『アレって・・・、まさか。

荻野ですか?』

 

 

小島は人差し指を唇の前に持ってきて、内緒のポーズをする。

四宮かぐやの表情が困惑から驚愕、そして嫌悪に素早く切り替わっていく。

 

 

 

『私も聞いた。』

 

 

今度は、四宮かぐやの左側から相槌の声がして二人は目を向ける。

居たのは二年生の龍珠桃。

小島とは犬猿の仲だが、アレに関しては噂は耳にしていた。

二人と違って直接は関わってなかったが。

 

 

 

『怪我させたって噂だろ?』

 

『そうらしい。』

 

『どういう事になってるんですか?』

 

 

小島と龍珠の二人だけで話が通じてる事に困惑するかぐや。

 

 

 

『その内・・・。

今は、白銀を。

前会長に頼まれてるだろ、先輩。』

 

『それだけじゃないだろ?

守ってやれよ、勝負で負けたんだから。』

 

『お二人共、その言い草は聞き捨てなりませんけど?』

 

『おお、怖。

まあ、選挙頑張ってな。』

 

 

そういうと小島は手を振りながら右手に歩いていく。

 

 

 

『白銀は敵が多いからな。

かなり、やっかまれてるしな。』

 

 

龍珠桃も左手に歩き出す。しかし、かぐやが呼び止める。

 

 

 

『龍珠さん、お昼一緒にどうですか?』

 

『ああん?

まあ良いけど。

暇、あんのか?』

 

『ええ。

屋上ですね?』

 

 

そう答えると手を振りながら龍珠桃も歩き去った。

残った四宮かぐやは不安な面持ちで掲示物を見つめる。

 

 

 

『・・・怪我をさせたって。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───昼休み・屋上

 

 

天気が良い日は屋上が定位置の龍珠桃は、かぐやの弁当を2人で囲んでいた。

 

 

 

『しかし、初めてだな。』

 

『そう、ですね。私達はあまり接点なかったですからね。』

 

 

そう言いながら居住まいを正したかぐやは龍珠桃に頭を下げる。

 

 

 

『とりあえず、頭上げてくれよ。

謝られる覚えはないだから。』

 

『なかなか2人で会えませんでしたから、お礼を言いたかっただけです。

生徒会会計の手解き、ありがとうございました。』

 

姿勢を戻し、かぐやは感謝の念を伝える。

 

『手解きってほどの事はしてねえぞ。』

 

『白銀会長とニ人、三学期が終わるまで厳しかったですから・・・。』

 

 

遠い目をして空の雲を見つめるかぐや。

 

発足当初の第67期生徒会は、白銀御行会長・四宮かぐや副会長・藤原千花書記の一年生三人と、会計監査と庶務のニ年生の五人だけだが、ニ年生はほぼ持ち帰りで仕事していたので生徒会室にはあまり居らず、肝心の会計がいない為に発足後の体育祭・文化祭・二年生の修学旅行・年度末の決算(三月)や校内の様々な「お金」にまつわる処理をせねばならず、また、久々の「混院」の生徒会長だった為に風当たりも強かった。

 

加えて、御行は仕事を抱え込む癖がある。

 

そういう立て込んだ時に、前会計としてかぐやの居ない時に加勢に来てくれたのが、龍珠桃だった。

かぐや自身、数回遭遇して書類や処理の不備を指摘された事もある。

 

そんなこんなで、かぐやは御行に対して軟化していき、二年次には「素直じゃない」関係になり、今に至る。

 

 

 

『龍珠さんがいなかったら、私達はどうなっていたか解りませんから。』

 

『・・・白銀と二人で無言で書類を処理してる光景には呆れたがな。』

 

『喋るだけの余裕が無かったからですよ。』

 

『アイツもお前も要領が悪いんだよ。』

 

『・・・否定はしません。』

 

『そうやって態度に出るのが要領悪いんだよ。』

 

 

かぐや作のタコさんウィンナーを食べながら龍珠は茶化してくる。

咳払いを一つして、かぐやは本題に入る。

 

 

 

『それで、先程のお話ですけど。』

 

『私が知ってるのは、「怪我をさせた」らしいって事だけだ。

傷害が付くレベルだそうだ。

それこそ、お前なら調べが付くだろう。』

 

『・・・今なら少年院ですか。』

 

『表沙汰にしたくない奴らがいるだろうから、どうなるかな。

「秀知院」ブランド使って手広くやってたみたいだから。

・・・変わった味噌汁だな。』

 

『麦味噌を使ったサツマイモの味噌汁です。』

 

『へぇ~、麦って味噌に出来るのか。

自信がなければ選ばないぜ。』

 

『少しは自信ありますよ。』

 

 

食べ終えて、龍珠は敷物代わりにしてた愛用の寝袋に横になる。

かぐやはテキパキと片付けをしていく。

弁当といい、片付けてる様といい、熟練してると感じた龍珠桃は、感じたままを口にしてしまう。

 

 

 

『アイツとは上手くいってるみたいだな。』

 

『お陰様で。』

 

『否定しないのが凄いな。

去年と大違いだ。』

 

『そんなに酷かったですか?』

 

『まるっきり別人だよ。

人当たりも髪型も変わって。

こうハッキリ見せ付けられると、な。』

 

『あの頃は、「未熟」だったんですよ。』

 

 

単純にかぐやと御行に自覚がなかっただけだが、去年のクリスマスには「それ以前」を知ってる者(つまり同学年ほぼ全員)は「会長と副会長は交際してる」と認識されていた。

 

髪型をストレートからリボンで纏めた髪型に変え、校内を御行と二人連れでよく歩き、「氷のかぐや姫」とまで言われた態度は軟化し話し易くなった。

敏感な歳頃の集団で思い至らない方がおかしい。

 

従って、かぐやと御行は同窓会の鉄板ネタにされ、からかわれた。

二人の国境を跨いだ恋愛(通い妻)もネタにされて、拗ねる二人だった。

 

 

 

『なかなか美味かったよ。

私は残るけど、四宮どうする?』

 

『御暇します。

ですが、たまには此処で食べるのもいいですね。

陽射しや風が気持ちいいですし。

お邪魔ではなければ、伺ってもいいですか?』

 

『好きにしなよ。

私は断り入れて使ってるだけだから。』

 

『はい。

ではまた、ごきげんよう。』

 

 

軽やかに去っていくかぐやを見送りながら桃は独りごちる。

 

 

 

『此処でイチャつくなら、場所変えよう。

邪険するのは、野暮か・・・。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

選挙戦初日に張り出されたマスメディア部の最新支持率調査は、

 

 

白銀御行 47%

 

伊井野ミコ 31%

 

決めてない 22%

 

 

 

混院嫌いの票が伊井野ミコ(純院)に流れた為、白銀御行としては油断できない状況になっていた。

元より嫌われ様が四宮かぐやの為ならと動いてるのは、流石ではあるが。

 

選挙参謀・藤原千花の助言に従い、千花が準備した選挙公約を打ち出し、ビラ配りなどの選挙戦を展開。

 

活動中に髪型を三つ編みにした伊井野ミコと遭遇して、互いの激励と選挙公約や選挙への姿勢など、軽く討論をする事にもなった。

 

今回は伊井野ミコの四宮かぐやへの好感から、あまり踏み込んだ話にはならなかった。

藤原千花は伊井野ミコに褒め称えられて、どっち陣営か解らない事を言い出したが・・・。

 

 

 

『丸坊主、か。

経済的ではあるが、強制は頂けないな。

俺も、正直嫌だ。』

 

 

(し、四宮がどうしてもと言うなら、やぶさかではないが。)

 

 

『こんなのを打ち出しても、通ると思ってるのが思いやられます。

・・・もう少しマイルドにすればいいのに。』

 

 

伊井野ミコの配っていた選挙公約の紙を見ながら、二人は対策を考える。

千花は煽てられた様に見せて伊井野ミコ陣営の潜入調査に行っている。

こばちは怪しんでるが、ミコは鵜呑みにしていて迎えてしまう。

 

 

 

一方、「経験」した選挙戦と違い、かぐやは自身の強制出馬など「違う歴史」になりそうな動きを警戒して今回は票集めなどの積極的な工作は躊躇している。

 

そして、御行はかぐやに選挙の応援演説を頼みに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───現れなかった。

 

 

放課後まで待ってたかぐやは、久々にプッツン───、

 

精神的に揺らぎの出たグチグチウジウジかぐやになってしまった。

 

 

『か、会長は、私なんか必要ないんだわぁぁぅぅぅ!?』

 

夜にかぐやの寝室に呼ばれた愛は、「久々にキター!」と思っていた。

 

正直、最近のかぐやは大人しくて大人びた対応していたので、無茶振りになれていた愛からすると物足りなかったのだ。

 

 

───人は環境に慣らされる生き物である。

 

 

 

『で、かぐや様はどうされますか?』

 

『・・・静観するしかないけど、会長が千花さんに応援演説を頼まないかが、不安なの。』

 

『・・・無いと言い切れないのが辛いですね。』

 

『もし、そうなったら演説原稿はしっかり監督しないと、何を言い出すから分からないわ。』

 

『その時は、私からも書記ちゃんにはフォロー入れますから。』

 

『そういえば、選択授業は私が会長とペアだったけど、愛は藤原さんがペアだったわね。』

 

『思いっきり、期待を裏切ってくれました。

期待したのが間違いでしたが・・・。

まあ、あれもアリかなと。』

 

『そうだったわね。

私なんか、あんまり上手く描けなかったけど、会長は大分誇張して描くから・・・。』

 

 

「はて、周りにバラか何か飛び出しそうなぐらい美男美女に描き合ってましたけど?」と言いたくなった愛だった。

 

何度も紙を破るは、描き直すは、「なんで四宮を美しく描けないんだ!」や「会長の凛々しさが表現しきれない!」と言い合って、かぐやの側に居た渚が大分引いていたけど・・・。

 

二人してテンションMAX(かぐやは童心に還っていた)で、見てるこっちが恥ずかしくて、千花と二人で他人のフリで目線を向けない様にしていた。

 

 

 

『万が一は藤原さんのフォローお願い。

それから、選挙が終わってからでいいのだけど、「大友京子」に関する調査もお願いね。』

 

『石上優の「大友京子」ですね、承りました。』

 

『・・・はぁ〜。

私って全然ダメね、こんな事で。』

 

 

赤くなったりと泣き散らしたりと、今宵のかぐやは表情豊かだ。

ショボくれるかぐやを何も言わず愛は後ろから抱きしめる。

愛の回した腕にかぐや左手を添えて二人は顔を近付ける。

 

 

 

『誰しも不安になるのは当たり前です。

かぐや様は最近は頑張り過ぎだったんですよ。』

 

『・・・そうかしら。』

 

『私は驚きの連続でしたよ。

夏休み明けの会長さんの家への突撃から始まって、ガラゲーをスマホにする、お土産を大量に買う、本宅に行く、皆の朝食や私のお弁当を作る、私とパパやママとの時間を作ってくれた、写真を始める等などエトセトラetc・・・。』

 

『あ、愛? 怒ってる?』

 

『はい、とっても。

毎日楽しくて嬉しくて・・・。

その分、かぐや様は無理をしてないか、我慢してないか、不安で心配で。』

 

『愛にそんな事を思わせてたのね。』

 

『違います。

かぐや様に我慢して欲しくないだけです。

 

朝の四時に起きて調理場に入って私達の為に御飯作ってくれるお嬢様は、かぐや様だけですよ。

おかげで、御味御付を食べないと朝御飯食べた気にならなくて、一日調子悪くなりますから。』

 

 

前から自慢でしたけど、もっと自慢なかぐや様になりましたよと思う。

 

 

 

『そう言われると、私って大概ね。』

 

『そうです、大概ですよ。

だから、周りに頼っていいんですからね。』

 

『・・・うん。』

 

 

俯いて照れる仕草も我が「妹」ながら可愛いなと思う愛だった。

 

 

───それにしても、「大友京子」か・・・。

 

 

前に調べ時は、事実も知らず萩野の言う事を鵜呑みにして石上優を逆恨みしてたが、進級試験に落ちるレベルなのに合コン等に割と行くとか、ある意味自業自得というか、脇が甘い感じだったけどと思い返す。

進学した高校でも楽しんでるみたいだったけど、と・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───選挙期間2日目

 

 

初日は地道に選挙活動をしていた御行は千花とも話し合い、意を決して四宮かぐやのクラスを訪れたが、入りづらくて入り口でモジモジしてるところを愛に捕まった。

 

 

 

『早坂さん、すまないが四宮を呼んでくれないか?』

 

『OK!

しっのみーやーさーんっ!』

 

 

(・・・早坂に四宮を呼んで貰ったのは失敗だった。

しかし、多分、自分だけでは呼び出せなかっただろうけど・・・、

 

なんでクラス中どころか他のクラスの奴らまで廊下に出てきて人垣作ってんだよ!)

 

 

(愛さん、これはやりすぎよ・・・。

・・・皆さん、そんな乗り出す様に聞こうとしなくても・・・。)

 

 

(かぐや様、バッチリ決めてください!

 

・・・ここまで人が出てくるのは予想外だったけど。)

 

 

生徒会解散から数日、同級生達はロマンスに飢えていた。

従って、猛烈な衆人環視に御行とかぐやは呑まれてしまい、あらぬ事をお互いに口走ってしまう。

見てる者達の雑音も言葉を聞き取りにくくしてしまい、

 

 

 

御行は、

 

『(四宮に応援演説を頼みたいので)話がある。(ここではなんだから)うちの教室で待ってる。』

 

 

 

かぐやは、

 

『・・・(素案を考えてますから)時間をください。』

 

 

 

それだけだが、雑音で聞き取れなかった言葉の部分に周りの勝手な妄想が押し込まれ、

 

 

 

─白銀御行─

『「俺達の関係をハッキリしたいから」話がある。「俺の気持ちへの返事を」うちの教室で待ってる。』

 

 

─四宮かぐや─

『・・・「まだ迷ってるから」時間をください。』

 

 

 

と、周りが勝手に変換・翻訳してしまい、白銀御行と四宮かぐやの交際は秒読みと高等部だけではなく中等部にも駆け巡った。

 

結果、放課後に千花の妹の藤原萌葉が興味本位で噂の出所を消極的な御行の妹の白銀圭と共に訪れ、「白銀達の同級生達(先輩達)」の早とちりと勝手な好意で、特等席(白銀御行の待つ教室の隣の教室)から二人を見守る事となった。

 

各所に分散潜伏した同級生達は、アリの這い出る隙もない様に教室を取り囲み息を潜めて今か今かと待ち構えている。

 

二人への包囲網は完成していた!

 

 

 

『・・・私は逃亡者か何か?』

 

 

向かいの校舎の最上階から愛に渡された双眼鏡で「状況」を確かめたかぐやは長い長いため息を吐いた。

 

行かないという選択肢はない。

御行が囚われの姫の様に自分の教室に居残っているから。

「経験」した応援演説の依頼の時より酷いと感じていた。

 

 

 

『申し訳ありません、かぐや様。

軽率でした。』

 

『誰であっても、これは予想外よ。

さて、ちゃちゃっと行きますか。』

 

 

そう言って双眼鏡を愛に返したかぐやは、下り階段に向かう。しかし、降って校舎を抜け自分達の教室にある校舎に入った辺りから、段々と鼓動の高まりを自覚し始める。

登り階段を一段上がるだけなのに、心臓の鼓動が昂っていく。

 

 

(なぜ!? どうして!?

応援演説の返事に行くだけなのに、なぜこんなに!?)

 

 

なんとか鼓動を許容範囲内に収める様に、

 

しかし、

 

 

既にノボセた様に顔も身体も真っ赤になりながら、

 

 

 

いよいよ、

 

 

 

 

 

白銀御行の待つ教室のドアを、

 

 

 

 

 

 

 

意を決して開ける四宮かぐや!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────そして!

 

 

 

 

 

 

 

誰も居なかった・・・。

 

 

 

 

 

目が点になり事態が理解できないかぐや。

 

 

 

『あ、あのぅ、四宮さん?』

 

『はぁ、はいっ!?』

 

 

飛び上がりそうなぐらい驚き振り向けば、周りに潜伏していた同級生達が申し訳なさそうに、ある方向を指差す。

 

 

 

───トイレの方を。

 

 

 

高まりに高まった気持ちは白銀御行の裏切り(生理現象は仕方ない)と、衆人環視で一部始終を同級生達に見られていた恥ずかしさから、急激な感情の反転現状を起こし、

 

 

 

 

結果!

 

絶対零度の氷のかぐや姫にかぐやを変貌させた。

 

間が悪い事に、そこにスッキリした御行がトイレから出てくる。

彼もまた、極度の緊張の中に居た。

そして、安堵の表情からかぐやを視認した事で一気に緊張の表情に変わる。

 

それが、かぐやの癇に障った。

 

一歩づつ、だが徐々に速度を上げ御行に迫っていくかぐや!

 

 

そして、御行に綺麗な回し蹴りを喰らわせた!

 

 

 

『おおぁぁっ!?』

 

 

脇腹を庇いながら悶える御行。

痛みを堪えながら態勢を立て直し、理不尽な暴力に抗議する。

 

 

 

『なんで、蹴るんだ!』

 

『呼び出しておいてトイレに行くって、どういう神経してるですか!?』

 

『仕方無いだろう!

止まらないんだよ、コレばっかりは!!』

 

 

もはや誰にも(当人達にも)止められない口論は続き、本人達が落ち着いた時には、白銀圭と早坂愛以外は居た堪れなくて立ち去った後だった。

 

 

 

『お兄、格好悪いよ。

 

かぐやさんも、落ち着いて。

 

二人とも喧嘩する為に会ったんじゃないでしょ。』

 

 

圭自身は兄に日頃は蹴りを入れてるのに、それを棚に上げて二人に大概な小言を言う。

 

 

 

『でも、今ならギャラリー居ないから、落ち着いて話ができますよ。

お兄、かぐやさん。』

 

 

まさか、自分が兄と彼女の仲裁めいた事をするとは、今日の朝には想像もしなかった白銀圭。

一方、御行やかぐやもまさか圭がいるとは予想できず、モジモジしてる。

二人を尻目に愛と圭はアイコンタクトをして、場を離れる。

 

二人の背中越しに、互いに謝罪が始まり肝心の話に進まずじゃれ合いみたいな会話に発展する。

あれならほっといて大丈夫だろう。

そう思い廊下を曲がると、壁かと見紛う人垣があった。

同級生達は息を潜めて二人を観察していたのだ。

 

 

 

流石、秀知院学園高等部!

 

 

 

進級すべきか不安になりだす白銀圭だった。

 

 

 

結局、途中で感極まったかぐやが泣き出して、謝罪するかぐやと距離を取って監視してる同級生達、蹴られた事で緊張が解けた御行は全部どうでもよくなって、かぐやをお姫様抱っこして逃亡した。

 

 

 

『俺達は見世物じゃねぇーーー!!』

 

 

という、雄叫びを残して。

 

因みに、藤原千花、石上優、伊井野ミコ、大仏こばちもちゃっかり参加して二人を観察してた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───騒動の翌日

 

 

 

『ムスッ━━━!』

 

『フンッ!』

 

 

御行とかぐやは非常に不機嫌だった。

その不機嫌は互いに対してではなく、自分達二人を見世物の様に楽しんだ同級生達に対して向けられていた。

 

 

 

『お前達が俺達二人をどう見てるか、よ━━━くわかったから!

おぼえておけよ!!』

 

『いいですよ、いいですよ!

皆さん、そうやって面白がって楽しんだら!!』

 

 

今、白銀御行と四宮かぐやは世間(面白がった同級生達)の理不尽に対する怒りでかつてない強さの絆で結ばれている。

 

デリケートなお年頃故に(かぐやは違うが)の過剰反応である。が、あまりに機嫌が悪いので最初は引け目のあった同級生達も大人げないと反撃に転じる。

 

口火を切ったのは御行の友人の豊島三郎と風祭豪。

白銀のらしくない意固地さに楔を打ち込む。

 

 

 

『いい加減観念して付き合ってるって言えよ。

悪く言ってんじゃなくてお似合いだって言ってるだから。

人の好意は素直に受けろよな!』

 

『俺達は生徒会の仕事で一緒にいるんだ!

大体、四宮の気持ちはどうなんだよ?

四宮の気持ちを考えろよ!』

 

『それは悪かったって言ってるだろうが!』

 

 

 

喧々諤々の言い合いになった。

 

 

 

 

 

 

一方、かぐやは───。

 

 

 

『かぐや、私は度々貴女達がイチャついてるところ見てるんだけど?』

 

『あれは討論や対話してるだけ!』

 

『まあまあ、二人とも。

(色々聞いてるから、こういう時困るな〜。)』

 

 

 

かぐやには、眞妃&渚が懐柔に掛かる。

 

この態度こそが余計妄想を駆り立てて、二人の仲を周りに確信させてるとも知らず、二人は余計に意固地になる。

 

因みに、二人の交際の可能性に関しては、藤原千花も負けず劣らず不機嫌である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────昼・屋上

 

 

 

『なんか騒がしいなと思ったら、そんな事になってたのか。』

 

 

愉快でたまらないという態度で、龍珠桃は御行達に応える。

 

今日のランチは昨日の気分転換にと屋上で、白銀御行・四宮かぐや・藤原千花・石上優・四条眞妃・柏木渚・龍珠桃・伊井野ミコ・大仏こばちというメンバーで食べる事になった。

教室だと周りの視線がうるさくて食べた気にならないのだ。

愛は嫌な予感がしたので遠慮して参加してない。

 

しかし、御行は桃が余計な事を言わないか、かぐやは渚が余計な事を言わないか、気が気ではない。

 

 

 

『まさか、藤原書記や石上会計までギャラリーに居た、とはな。

俺は良いクラスメートや後輩を持ったもんだ。』

 

『藤原さんも石上君もお楽しみな様で。』

 

『ちょっとちょっと、かぐやさん。

それはこっちが言いたい事なんてですけど。

二人は付き合ってるって聞いても、度々否定したじゃないですか?』

 

『会長、僕は作った選挙の資料を会長に持って行ったら、理由も解らず巻き込まれただけなんですけど。』

 

プリプリしながら藤原千花と石上優の弁明を聞いてる白銀御行と四宮かぐやを見ながら、当人二人以外の参加者は思う。

 

弁当食べるだけなのに、手が触れただけで赤くなるは(主に御行)、おかず交換や食べ物の感想の言い合い(褒め合ってる様にしか聞こえない)、阿吽の呼吸でお茶や味噌汁(ランチの定番化しつつある)を出してきたりと、どう見ても高いレベルで意思疎通が出来てる二人はお似合いの「カップル」だと。

 

かぐやに声を掛けたが無視され続けて落ち込んでるの見たり、ハッタリかませば良いんだと喝を入れた事もある桃は二人をニヤニヤしながら見ていた。

しかし、生徒会会長選挙の候補同士がご飯食べてていいのか?とは、疑問に思うが。

 

一方、集団で屋上に上がっていく一同を見かけて、気になって声を掛けたら一緒にお昼をする事になった伊井野ミコと付き添いの大仏こばちは、面食らっている。

 

 

 

「「言い合ってるけど暖かいな。」」

 

 

それが二人の率直な感想だった。

人数が増えたから、紙コップで貰った四宮先輩の味噌汁もホッコリ感を足してくれる。

 

 

 

『四宮先輩。

このお味噌汁、何が入ってるんですか?』

 

 

場が硬直しそうなので話題を転じる為にこばちが味噌汁の具を聞いてみる。

 

 

 

『大仏さん、でしたね。

今日は京風にしてみたんですけど、味噌は薄めで出汁を効かせてるんです。

具はカブを入れてます。』

 

『へぇ~、これは大根じゃなくてカブなんですか。

なんか甘いなと思ってたんですけど、味噌汁に合いますね。』

 

『なんか、どんどん腕上げてるわね、かぐや。』

 

『もう下手な主婦さんじゃ太刀打ちできないですよ、かぐやさん。』

 

『私も練習しようかな。

何かイマイチなんですよね。

この間は、彼にちょっと辛いとか言われちゃったし。』

 

『・・・。』

 

 

渚から彼(田沼翼)の話が出ると、途端に重い空気を纏う眞妃。

 

彼女もかぐや同様に大変分かり易い。

 

流石、血は争えない。

 

かぐやの影響で、かぐやの周りは少し味噌汁ブームが来ていた。

 

 

 

『柏木さん、そういう時は砂糖や水飴を入れると良いですよ。』

 

 

すかさず、千花が合いの手を入れる。

 

 

 

『いやいやいや、砂糖はないでしょ藤原先輩。』

 

『煮魚なら解るけど、味噌汁に砂糖って。』

 

 

優とミコからツッコミが入るが、

 

 

 

『いえ、入れますよ?』

 

『『『『えっ?』』』』

 

 

幾人かは信じらないといった面持ちで発言者のかぐやを見る。

 

 

 

『し、知らなかったんですか?』

 

『かぐやさん、これは上級者向けの話でしたかね。

そっかぁ、石上君は知らないんだ〜。』

 

 

普段やられる分、千花が馬鹿にした態度で優を弄り始めるが、言い返せず口惜しがる。

 

実のところは御行も知らなかった(予算の関係で白銀家では味噌汁は・・・)が、こういう時は何も言わずに知らん顔を決め込んだ方がダメージが少ないと経験則から判断して沈黙する。

 

 

 

『あれと一緒ですよ。

厚焼玉子に砂糖と、隠し味に塩を入れるのと。』

 

『『『『えっ?』』』』

 

 

段々、何で知らないの?とかぐやは疑問に思い出す。

料理をしない人間には無縁な知識でしか無い。

 

 

 

『そういえば、四宮は卵入りの味噌汁は最近は作らないのか?』

 

『あれは、結構手間がかかるので最近は止めてます。

朝食の時に作るのですけど、量が多いので他の人の手伝いができなくなってしまうので。』

 

 

食後の団欒で少し残念そうな御行の話に、ミコが反応する。

 

 

『四宮先輩、量が多いってどれだけ作ってるんですか?』

 

『そうですね。

3〜40人分ぐらい?かな。』

 

 

指折り数えながら、家庭の主婦は作らない量が出てきてミコとこばちは呆気にとられる。

前に聞いて、たまに味噌汁を振る舞って貰ってる御行達も動揺する。

 

 

 

『量だけ聞いたら、食堂にでも勤めてるかと思うわよね。』

 

『前より増えてますよ、かぐやさん。』

 

『なんか、勝てる気がしない。

勝てる訳ないけど。』

 

 

眞妃・千花・渚の順に感想を漏らす。

 

 

 

『一人でやってる訳じゃないですからね。

大体、五人ぐらいで二十人分の朝ごはん作って、お昼や夜の下準備とかしたりで。』

 

『四宮、いじめられてないかそれは?』

 

『私からやりたいとお願いしたんですから、それは無いですよ。

周りと同じ扱いをお願いしましたから。

たまに、間違って怒られますし。』

 

 

恥ずかしそうに舌を出して俯くかぐやに御行はときめき、眞妃と渚は「四宮かぐやが叱られる」事に驚きを隠せない。

 

 

 

『前は軽いものしか食べない子や一日一食しか食べない人も、私の御味御付を食べて美味しいって残さず食べてくれるから、嬉しいですよ。』

 

『・・・かぐやって、自分の立場理解してるのかしら?

聞いた事無いわよ、朝から厨房に入って使用人達の料理作る「ご令嬢」なんて。』

 

『まぁ、まあ今風で良いんじゃないですか?

ただ、料理の腕はプロ並みになりそうよね。

 

・・・もし、何か四宮さんと作る事になったら、自信失くすのは確かね・・・。』

 

 

眞妃とヒソヒソ話をしてる渚は、絶対にかぐやの料理を彼氏の翼には食べさせてはならないと固く決心した。

 

 

「四宮さんの方が美味しいね。」

 

 

───そんな事言われたら、絶対立ち直れない。

 

そう思う渚だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───夜・かぐやの寝室

 

 

 

『そうですか、仲直り出来ましたか。』

 

『私と会長は・・・、

 

喧嘩なんか・・・、

 

してません・・・。』

 

 

消え入りそうな声で抗弁するかぐやを見ながら、愛は昨日の事を思い出す。

 

二人で逃亡した後、我に返った当人達は御行は黒歴史がまた一ページ刻まれ、かぐやはお姫様抱っこ(白銀かぐやとしても久々)されたと喜んでた。

 

しかし、帰宅した辺りからかぐやは御行に回し蹴りをキメた事を深刻に受け止めて、寝室で突然泣き出したかと思ったら

 

「私みたいな女は、居なくなった方が御行さんには良いのよ!」

 

と絶叫するし、久々に手のかかるかぐやになって大変だったなと。

 

抱き締めて頭ナデナデしてどうにか落ち着かせ様としたら、泣き疲れたのかいつの間にか寝ていて、シーツを掛けて手の掛かる妹だなと思いながら頭を再び撫でたなと、シミジミ思い出す。

 

かぐや自身も何故ここまで心が安定しないのかと思うが、御行もかぐやもテンパるとやらかすタイプなのだ。

 

ファーストキスがディープキスだったのが良い証左である。

 

結局、今回の事(お姫様抱っこで二人で逃亡)は同窓会の鉄板ネタでイジられる未来しか待ってないのだが。

そういう意味では歴代で一番人気のある生徒会メンバーではある。

 

 

 

 

─────つづく

 

 

 

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