白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
白銀御行が倒れた事を発端に、伊井野ミコ、妹の圭、そして四宮かぐやと本音の話ができたが、かぐやとは期末試験のリベンジを誓う事になった。
───週末・四宮本宅
いつもの週末の光景ながら、父親の四宮雁庵を前に、娘のかぐやは緊張していた。
今週はかぐや達の三者面談が予定されていた。
「経験」した三者面談は、最後まで雁庵は出席しなかった。
一つ上の兄である四宮雲鷹は保護者ではあるが親権者ではなく、かぐやが中等部の段階で学校行事等には関わらなくなっていた。
高齢などの理由もあり、父親は今回も出席はしてくれないだろうとは考えるが、せめてスマホのテレビ電話で参加をしてくれないだろうかとは思う。
『お父さん、お暇をさせて頂きます。』
『そうか、気を付けてな。』
『・・・お父さん、今週ですが、私の三者面談があります。
出席は難しいと思いますが、テレビ電話で参加しては頂けませんか?』
『・・・そうか、考えておこう。』
『・・・お願い致します。』
感触から恐らく今回も期待はできないと思いながら、本宅を後にする。
東京への帰途の途中、沈んだ様子のかぐやに近侍の早坂愛は声を掛けようとは思うが、物思いに耽る主人の邪魔をするのは憚られた。
───月曜放課後・生徒会室
その日、会長の白銀御行は会計監査の伊井野ミコから、前期の第67期からの繰越金が多過ぎると指摘があった。
『これだけの繰越金が出るなら、各部活の予算等に当てるべきです!』
『これは、これでいいんだ。』
『伊井野さん、予算はこうしておかないといけないんです。』
『四宮副会長まで・・・。
どうしてもというなら、納得のいく説明をしてください。
会計監査として合点がいきません!』
『会長、僕も前から疑問だったので説明をお願いします。
言われた通りに慣例に沿って処理してますが、やや不可解な慣例もあるので。』
ここで会計の石上優も話に加わる。
と見せつつ、御行に向かってるミコの意識を散らすのが目的だ。
書記の藤原千花は頃合いかなと、電気ケトルに水を入れ始める。
『・・・解った。
長くなるから、藤原書記。
コーヒーを人数分頼む。』
『は〜い、美味しいの淹れちゃいますよ。』
『なら、お茶請けもいりますね。
この間、お土産に買ったお菓子がありますから出しますね。』
『いつもすまないな、四宮。』
『その代わり、味や食感の感想は皆さん聞かせてくださいね。』
刺々しくなりかけた空気を藤原千花のコーヒーと、四宮かぐやのお菓子とその感想を考えて貰う事で解す。
最近は、御行もかぐやと千花の阿吽の呼吸のこの手の場作りを理解できる様になった。
最も、相手が感情的になってると逆効果になるので、どんな状況でも使える訳では無いが。
『さて、伊井野監査の指摘も最もだが、事情があるんだ。
場所を変えよ。』
そう言うと、御行は会長席からテーブル席に移動し、コーヒーとお菓子が各人の前に用意された。
『伊井野監査の指摘だが、生徒会の通期の活動に理由がある。
歴代の生徒会が腐心した事柄があって、それは寄付金集めだ。
石上、会計資料に明るいから解るだろう?』
『まあ、類似例の仕分け方を調べるのに当たりましたけど、ピーク時で支出が年10億円超えてましたね。』
『そ、そんな金額になるの!?』
『半分は、修学旅行の費用で持っていかれてたけどな。』
『その通りだ。
今より生徒数の多い時期に海外旅行が当たり前だったからな。
生徒一人100万円は下らない中で200人以上、それを毎年だ。
流石にいつまでもそれでは寄付金だけでは持たない。
歴代の生徒会長はじめ生徒会OBの多くが参加してる鳳凰会からも、保護者会からも、高過ぎる支出に不満が出る。が、一部の保護者達や在校生からは支出抑制に不満が出る。
板挟みに合うのが歴代の生徒会だったんだ。
そこで過大と思える繰越金を用意しておかないと、寄付金の集まり具合では修学旅行まで乗り切れるか不安なんだ。
記録に当たれば、予算が無くなった時が何度があった。
・・・最低な話だが、寄付金を集めるのに猥褻な行為を強いられた時期もあったそうだ。
生徒会役員が嫌煙される理由の一端が、業務の多さより寄付金集めと各種折衝になる。』
『・・・そ、そんな事が。』
思わぬ話に女性陣は身震いする。
『あっ、いや女子にも全くない訳では無いが、主に男子がその役目をしてたらしい。
この手の活動に熱心なのは、ご婦人方なんだそうだ。
頻繁にお茶会が開かれて談笑相手をしていたそうだ。
所謂、接待だよ。
ただ、まあ、スキンシップが激しかったそうだ。』
五人とも、おぞましい光景を想像してしまう。
『・・・僕は会計だけですから、折衝は会長がしてるんですよね?』
『俺と四宮だ。』
『いえ、私は何も。』
『根回しや強情者への直交渉をしてくれてるのを、俺は知ってるぞ。
四宮が出てくれるだけで、黙る相手もいるからな。』
『「四宮」の名は、それぐらいしか使い道がありませんから。』
『藤原書記や石上会計にも感謝してる。
藤原の人脈や情報も、石上が作る資料も交渉を有利に進める事ができてる。』
『一つ、忘れてますよ。』
『何だ、四宮?』
『白銀会長、「貴方」だから、私達は頑張るんです。
「貴方」でなければ、私を含めてここにいる皆は集まりませんでした。』
『・・・そうか。』
そういうと、御行はかぐや・千花・優の順に居並ぶ役員達を見渡す。
『そう言われると、心強く居られる。
皆、ありがとう。』
「四宮が言うと」という言葉は流石に飲み込んだが、他の二人が言っても同じ気持ちになるなと御行は思う。
感謝の気持もも言葉も御行の本心からのものである。
それに対して、三人は笑顔と信頼の眼差しで応える。
まだ参加して日の浅いミコは、そんな四人の信頼関係の中に入っていける程の貢献ができるのかと、焦りを覚える。
───御行はつい一年前を思い出す。
一年次の二学期半ばからスタートした第67期は、引き受けてくれるとは思わなかったかぐやが副会長に就き、書記に千花を迎え、他は滅多に生徒会室に顔を出さない当時の三年生達が卒業までの期間限定(三学期は殆ど不在)で参加してくれていた為、当初は折り合いが悪く対立する事が多かったかぐやとの不協和音で危うく機能不全になりかけたが、貸しのあった龍珠桃が時折様子を見に来てくれて、時には頑ななかぐやを叱責してくれた事もあった。
その分、御行は活を入れられたが・・・。
『・・・それで、会長。
繰越金の理由は解りましたが、会計の絡みでもう一つお聞きしたい事がありまして、語り草と言われてる去年の生徒総会での会長の大立ち回りというのは?
会計が原因だとは聞いたのですが、風紀委員会の先輩達も、会長本人に直接聞いた方がいいと教えてくれないんです。』
『その話、僕も知りたいです。
何があったんですか?』
さり気なくミコに合力する優。
『大した事をした訳じゃない。
第66期生徒会も、生徒会任期終盤の生徒総会と各部活との予算折衝という山場がある。
どんなにしても反発する者は出てくるが、標的にされたのが龍珠だった。』
『龍珠先輩が標的って。
それは、一体?』
石上からすればぶっきら棒だが男っぽくハッキリしてる桃は付き合い易く、良い先輩だった。
優だけでなくミコもサバサバしてる桃には好感を持っている為、前のめりに話を聞こうとする。
『龍珠の実家の家業と、会計という立場が「良からぬ事をしてる」と流言を生む土壌に利用された。
前会長・・・、俺が庶務で龍珠が会計だった時の生徒会長が、龍珠がその事柄で前から非難されている事を知っていたからな、反論したんだ。
それで余計に騒ぎ立てられてな。
龍珠を非難する奴らは、能力不足で断られたか、生徒会入りを断って好き勝手言っていたからな。
で、頭に来るから俺が流言の出処を突き止めて張本人達を生徒総会で追い詰めたんだ。
流言の内容も、不正会計での資金流用という決め付けと特定の生徒や部活への贔屓という、見方・取り方次第の流言だったからな。』
『そうだったんですね。』
『年々寄付金も減っていて、切り詰めておかないと体育祭や文化祭でも予算を食うからな。
俺達も最初は面食らったよ。
なあ、四宮?』
『二人して駆けずり回りましたからね。
今思えば、しょうもない言い合いにもなりましたしね。
会長、あの時は申し訳ありませんでした。』
『いや、今となればいい思い出だよ。
庶務で参加していたのに、金の流れとかは把握してなかったからな。
四宮には、大分鍛えられたしな。』
『あらぁ〜、それはどういう意味ですか?』
『なあ? こういう事さ。』
そう言うと、御行とかぐやは二人で笑い出す。
修羅場を潜り抜けた戦友同士でなければ出ない笑いである。
笑い合うかぐやと御行を見ていて素敵だとミコは思った。
空気が和んだところで、来る文化祭「奉心祭」に関して、かぐやからある「提案」がなされた。
『文化祭に生徒会として何か出し物?』
かぐやの意図はクラスとしては出し物を予定(コスプレ喫茶に決まりかけている)してるが、クラスの違う御行との思い出を作りたいのだ。
『昔は生徒会用の枠もあったみたいですけど、廃れたみたいですね。』
『そりゃ、これだけ業務が立て込めばな。
その代わりに伝統のオブジェじゃないのか?』
『オブジェは会長職の専任事項ですし、一度飾れば終わるまでそのままじゃないですか?
生徒会として、私は皆さんとやりたいんです。』
かぐやは、メンバーを見渡す。
『しかしな、出し物と言っても何をするかな・・・』
『和楽器バンドとかどうですか?』
『バンドか・・・、やれるならやってみたいな。
文化祭のステージでギターかき鳴らすとか1度はやりたいしな。』
『和楽器は私がやりますから。』
バンド演奏をやってみたかったとは、後々御行自身からかぐやが聞いた話だったので乗ってくると計算していた。
だが・・・、
『絶対、嫌です!』
『藤原書記、ダメか?』
『会長が原因です!
かぐやさんが凄くやる気なのは解りましたけど、かぐやさんとミコちゃんと三人でならやります。』
ここで石上優が手を上げる。
『僕は実行委員会に参加しますから、スケジュールが解らないので無理かも、です。
伊井野も風紀委員があるから、無理じゃないか?』
『スケジュール次第だけど、時間合わせて貰うのと、キーボードなら出来るわよ。』
『いけるのか?』
『石上こそ何が出来るのよ?』
『・・・ギター。下手だけど。』
『なら、教えてくれ石上。
楽器はちょっと苦手なんだよ。』
途端にかぐやと千花がジト目になる。
千花に至っては「やっぱり」と顔に書いてる。
かぐやも可能性は考えていた。
御行が「壊滅的」かもしれないと。
『なんだよ、二人ともその目は。
ちょっと苦手なだけだって。』
『そうは言われましてもね、千花さん?』
『ですよね、かぐやさん?』
『本当に「ちょっと苦手」なだけだって。』
『とりあえず、一度やってみませんか?
相性もありますから。
楽器と場所が問題ですね。』
空気が帯電し始めたのを感じた伊井野ミコが、話を一段進める。
ここで温めていた腹案をかぐやは出す。
『ここの上はどうです?』
『ああ、隠し部屋か。』
『確かに、ここの上ならスペースありますね。
生徒会室に近い大きさのスペースはありますから。
デッドスペースで使ってませんし、移動も手間ですからね。』
『でも、石上。
照明とか電源とか大丈夫なの?』
『先月見た時にコンセントはあった。
以前に修繕したみたいで、埃は被っていたけど新し目のコンセントだったから、電気とかは大丈夫だろう。』
『換気は大丈夫なのか?
二酸化炭素中毒とか洒落にならんしな。』
『通風孔はありましたよ。
意外と空気は淀んでませんでしたから。』
『とりあえず、見てみるか。』
(皆に分からない様にこっそり改造しておいて良かった!)
かぐやはアメリカに留学してる間に、詳しい学友達からDYIなどアメリカ仕込みのスキルを磨いていたが、日本に帰ってからは殆どする機会が無かったので、この機会にと夏休み明けから秘密部屋を密かに改造していたのだ。
来るべき「来年」の騒動に向けて・・・。
生徒会メンバーで確認して、換気と電源と照明と防音は問題ない事を確認したが、楽器をどうするかが問題だった。
この日は遅くなったので後日考える事となった。が、かぐやは早かった。
『これで楽器は揃うかしら?』
石上優に100万円入りの封筒を渡して手配を依頼したのだ。
『いきなりでビックリしますよ。
しかし、何故僕なんですか?』
『信頼できてネットに強いのは、貴方しか居ないじゃない。
私はお金は出せても、家がうるさいから実際に購入は無理だから。』
『ですけど、誰がどの楽器を担当する事が決まってない段階では。
とりあえず、予算として預からせて貰います。』
『やっぱり石上君に頼んで正解だったわね。』
『そんな、四宮先輩・・・。
しかし、今回かなり力入ってますね。
あの部屋の改造、こっそりやってたの知ってますよ。』
『・・・気付かれてた?』
『多分、会長達は知らないと思います。
僕があの部屋を見つけた時は、コンクリ壁に通気口と裸電球しか無かったのが、壁は防音板に床にカーペット敷かれてれば、流石に解りますよ。
先輩が大きな板を持って上がるところ見ましたし。』
『・・・見られてたのね・・・。』
『手伝うべきだと思ったんですが、誰にも言わずにやってるのは、会長の誕生日パーティーみたいなサプライズなのかと思ってました。
凄く意外で、やっぱり四宮先輩は凄いなって実感しました。』
『力が強いって事かしら?』
『腕相撲は完敗です。』
『しょうがないじゃない、嫌でも身に付いちゃったの。』
『・・・失礼な言い方になりますけど、とんでもないお金持ちで何でも出来てしまう、けれど冷酷で近寄れない氷のかぐや姫・・・、僕達一個下の学年でも色々噂めいた話は聞いてましたから、一学期の時は先入観で怖さがありました。
でも、先輩は花火大会にも自由に行けないなんて・・・。
二学期になってから毎日楽しいですし、今は良い先輩だと思ってます。』
『怖がらせてたのね・・・。
私なんて、世間知らずの子供だわ。
・・・でも、ありがとう、石上くん。』
秘密部屋の改造は、「来年」の騒動を見越しての準備のひとつなのだが、今は言う必要はない。
こうして二人の密談は直ぐに終わったのだが、たまたま目撃した御行はモヤモヤした気持ちで家路を自転車で飛ばして走っていた。
「四宮と石上、距離が近すぎないか?」
と。
ただ、かぐやも御行もお互いどう接したら良いか手探りだった一年生の頃を思い出して、あの頃に比べれば変わったなと実感するのだった。
特にかぐやは、二人の馴れ初めの時期だったが慣れない事が多く、それがブレーキの役割を果たして決定的な事にならずに済んだとも考えている。
そうでなければ、生徒会を辞めていたかもと・・・。
─────つづく