白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
秀知院学園高等部文化祭「奉心祭」に向けて準備が始まる中、四宮かぐや達二年生は三者面談となる。
───三者面談当日
今日は四宮かぐや達二年生は終日三者面談だが、白銀御行、かぐやと近侍の早坂愛、そして藤原千花に四条眞妃は、当日に順番の変更がされて、最後の五組にされた。
柏木渚と龍珠桃は午前中に面談となり、既に帰路に着いていた・・・筈だった。
順番が最後の御行は、生徒会室で決裁書類を処理しながら時間を潰していた。
会計の石上優は一年生の為、御行の業務に付き合っている。
同じく一年生の会計監査の伊井野ミコは、風紀委員会に参加していて今日はそのまま帰宅予定である。
『しかし、何なんだ?
俺の順番は変わらないが、他の連中は当日になってから変更というのは?』
『保護者と教師の都合らしいですが、クレーマーでも出たんですかね?』
『・・・で、帰った筈の二人を含めて、最後の順番の全員がここに居るのは、どういう事なんだ?』
『あら、いいじゃない?
授業は終わったんだから。』
『白銀、堅い事言うなよ。』
『・・・。』
御行の疑問に、眞妃と桃が返事をする。
女子会の様に六人がソファでお茶を飲んでいるのだ。
眞妃と桃の二人は不思議なぐらい馬が合うのか、常に一緒だった渚ではなく、眞妃の横は桃の定位置になりつつあった。
眞妃達の対面のソファには、左からかぐや・千花・愛の順で座っているが、渚が圧を桃に対して発しているのでかぐや達三人は居心地が悪そうで、渚の隣に陣取る桃は涼しい顔をしてるが渚の圧に時折圧を返してる。
そういう事に疎いというか受け流す千花ですら圧を感じる程であるから、相当なものである。
その桃の反対側に居る眞妃は、渚を気に止める様子もない。
変われば変わるもんだと、自分を棚に上げてかぐやは感心する。
『さてと、それじゃそろそろ行きますか?
先に行くわよ、白銀?』
『ああ、行ってくれ。
俺達は、もう少しで目処がつくから。』
『柏木さん、ごめんなさい。
後をお願いします。』
『・・・ええ。』
(そういう事は他でやってほしいのだけど・・・。)
かぐやと眞妃は阿吽の呼吸で退室する口実を口にすると、千花と愛も続く。
残る渚達と言葉を交わして、眞妃を先頭に四人が生徒会室を後にする。
『龍珠さん?』
『なんだ?』
『眞妃と、仲良いよね。』
『そうなのか?』
『私には、そう見えるけど。』
『なら、そうなんだろう。』
ソファに二人残った渚は不満を口にするが、面倒臭そうに桃は返す。
生徒会室の空気は渚が一言発する度に息苦しくなってきている。
正直、御行も優も逃げたいのは山々なのだが、機会を逸してしまった。
これなら四人に続いて脱出すればよかったと思っている。
たまらず、御行は優に話を振る。
『先週は済まなかったな、石上。』
『気にしないでください。
490点でも上に二人居るのかと思うと・・・。
倒れる気持ちも解ります。
・・・僕なんか。』
『まあ、あれは、その、だな・・・。』
そんなつもりで言った訳ではないので、御行が言葉に詰まってると桃と渚から抗議が飛ぶ。
『おい、それは嫌味か? 白銀!?』
『そうですよ、私なんか大きく下がったのに。
点数分けて欲しいぐらいです。』
(今の今までやり合ってたのに、共同戦線張るなよ!)
(やっぱり、女子は怖い!)
御行と優はこれ以上矛先が向かない様に急いで書類処理にスパートを掛けた。
───廊下
『パパ!』
『眞妃、こっちでいいのか?』
『まさか、迷ったんじゃないでしょうね?』
『初めてなんだ、迷うよ。
やあ、かぐや君。』
『こんにちは、おじ様。』
『四条さんとご父兄の方々、どうぞ。』
『グットタイミングね。
パパ、順番よ。』
『おお、そうか。
では、後でね、かぐや君。』
三者面談の教室の廊下で迷っていたらしい四条眞妃の父親・真琴は、娘達と合流した直後に呼ばれ、父娘で教室に入っていく。
『千花、来たよ。』
『お父さん!』
『こんにちは、四宮さん。
ご無沙汰してます。』
『ご無沙汰しております、おじ様。』
『お父さん、紹介します。
お友達の早坂愛ちゃんです。』
『えっ、あっ、はぁ、初めまして、早坂愛と申します。
よろしくお願いします。』
『千花の父親で、藤原大地と言います。
娘からも貴女の事は聞いてます。
これからも、末永く娘と仲良くしてください。』
『立ち話もなんですから、お座りになられては如何ですか?』
そういうと、かぐやは廊下に設置された椅子に大地を誘導して、自らは少し離れた椅子に愛と腰を下ろす。
藤原親子は直ぐに談笑を始める。
四宮家や早坂家程ではないが、藤原家も両親は多忙で話す時間もあまり取れない。
秀知院に通う生徒の親達は、というより世間的にもそうだが仕事に押されて家族の時間はなかなか持てない為に、こういう時位しか親子の会話を持てない。
思春期の子供ともなると尚の事、会話は減る。
そこかしこで、面談待ちや面談を終えた親子の会話が弾んでいた。
『愛は、奈央さんが来てくれるのよね?』
『多分、です。
・・・不思議なものですね。』
『どうかしたの?』
『前は会話も殆ど出来なかったのに、今は毎週末会ってますから・・・。
ママが来てくれると思ってますが、実感が湧かなくて・・・。』
『・・・うちが異常なのよ。
それなのに、それに気が付かずに当たり前と思って愛の時間を奪い続けて・・・。』
『かぐや様が悪い訳ではありません。』
『いいえ。
愛の気持ちは嬉しいけど、私はそれに甘え過ぎていたの・・・。』
『そう言って頂けるのは、望外の喜びです、かぐや様。』
『ママ!』
『奈央さん。』
二人に声を掛けた人物を見れば、早坂愛の母親の早坂奈央が立っていた。
『遅くなって、ごめんなさい。
間に合ったかしら、愛?』
『大丈夫だよ、多分次だから。』
『かぐや様、先週はお会い出来ず御無礼を。』
『奈央さんもお変わりなく・・・。
殆ど毎週会ってるから、あんまり実感ないですね。』
『そうですわね。』
そういうと、かぐや達三人は笑いあった。
もっと早く、こうするべきだったとかぐやは今更ながらに後悔する。
過ぎ去る時間の早い事、取り返せない大切な時間の貴重な事、大人になった今だからこそ解る。
───戻ったら奈央さんに会いに行こう。
愛と一緒に。
『そうだ、奈央さんに聞きたい事があったの。
この漫画みたいな事は出来ますか?』
かぐやはそういうと、自分のスマホに保存している電子コミックスを奈央に見せた。
ガン・アクションの漫画だが、散弾銃が仕込まれた防弾仕様の傘を持つメイドが、マフィアを文字通り撃ち倒していく姿が描かれていた。
『かぐや様、ママを何者と思ってるんですか?
こういうのは、あくまで映画とかと変わらないSFものですから。』
『やっぱり無理かしら?
できるって言って全く出来なかった人も居たから。』
『かぐや様、一度交友関係を洗いざらい教えて貰えませんか?』
かぐやと愛が真剣な話をしていると、渡されたスマホの漫画に一通り目を通した奈央は頭を振る。
『残念ながら、無理ですわ。』
『やっぱり無理だよね、ママ。』
『ご期待に添えられず大変申し訳ありません。
仕込み銃は連射し難い構造で耐久性も信頼性も低いので、実戦には使えないのです。
内容はところどころ誇張がありますが、10年前位なら私も描かれてるぐらいの働きはできたのですが、今はそういう荒事はめっきり減りましたから、訓練メニューから外されてしまいまして。』
『『・・・。』』
『どうか、されました?』
奈央の返答に唖然としていたかぐやと愛は、奈央の問い掛けに無言で首を横に振る。
───この人を、怒らせてはいけない。
二人の直感が警告している。
『でも、初めてですね。
かぐや様がこういう物にご興味を持つなんて。』
『流行りもチェックしておかないと、話題に乗り遅れるから。
うちに来る方々も意外なご趣味をお持ちの方もいますから、勉強も兼ねてです。』
『(私も読もうかな・・・。)』
かぐやは無趣味人で、愛(仕事が原因)共々漫画もロクに読んだ事もなく、御行の策略で少女漫画に一時ハマった事があるが、本格的に漫画やアニメの世界に入ったのは御行と交際が始まってからで、御行の妹の白銀圭の影響が大きい。
ハマり過ぎて漫画とアニメの部屋が出来て、夫婦で休日は中から出てこなくなる時もあり友人達に呆れられたが、ミイラ取りがミイラで友人達もハマって白銀夫婦共々全員出てこなくなるので、話にならないが・・・。
『やあ、かぐやちゃん。
元気にしてるか?』
聞き覚えのある声にかぐやは振り返ると、御行の父親が手を振りながら近付いてきた。
見知らぬ人物に瞬時に臨戦態勢に入る奈央に愛が耳打ちする。
『あの人が、生徒会長のお父さん。』
『ああ、例の。』
九月以降、毎週末会う早坂親子は仕事の情報交換も密に行っていた為、かぐやの恋の進捗状況も共有していた。
娘の愛の見立てでは御行に害はないと判断していると奈央は聞いていたが、白銀家と四宮家となると問題はあったが。
『お父様、会長の先日の件、私が付いていながらあんな事になってしまい、申し訳ありません。』
『(お父様呼びって、外堀は埋めてらっしゃるのですね、かぐや様。)』
『御行から聞いてるよ。
あいつの自業自得だ。
君達にこそ迷惑を掛けてしまったね。
・・・ところで、あれからどうなの?』
『可もなく不可もなくです。
予想外な事ばかり起きてしまって・・・。』
『イヤイヤ、そんな事ではなくて。
具体的に何処まで進んでるの?』
『(お義父様ってこういう人だった・・・)
進展なし、ですよ。』
そういうと、かぐやは自然とワザとらしさの中間の溜息をついてみせる。
『何だ、つまらんな。』
『何がつまらないんだ、親父?』
『何だ、来たのか?』
『そりゃ、こっちのセリフだ!』
白銀の父親の背後には、いつの間にか来ていた白銀御行が立っていた。
『会長、大丈夫でしたか?』
『俺が時間だから出ると言ったら、皆帰ると言ってな。
石上達はそのまま帰るそうだ。』
『その、何か起きませんでしたか?』
『いや、大丈夫だ。
俺もそれが心配だったから残ったんだが、生徒会室では何も起きなかった。
帰り道は、・・・知らん。』
途中から声を抑えて二人だけの会話をしてるが、話の中身は桃と渚の事である。
かぐやと御行、二人して小さい溜息をつく。
『なんだ、中々良い仲になってるじゃないか?』
『ええ、全く。』
二人の様子を見ていた白銀パパと奈央は、これなら心配ないなと感じていた。
『そういえば、初めてですね。
会長、お義父様、紹介します。
私の母です。』
『えっ!?』
普段動揺しない奈央がいきなりのかぐやの発言に驚く。
『かぐや様、嬉しいのですが誤解を招きかねませんので、訂正いたします。
初めまして、私はかぐや様の母代わりを務めております、早坂と申します。
乳母の様なものとお考えください。
以後、お見知りおきを。』
『(メイドに乳母!
おまけに、二人が親子って!!)
ああぁ、初めまして。
四宮にはいつもお世話になってます。
白銀御行です。』
『こちらこそ、ご挨拶が遅れました。
白銀御行の父です。』
『少し込み入った話ですが、私は早くに母を亡くしましたので奈央さんが私を育てくれたんです。』
『ほう、それは大変でしたな。
失礼ですが、そちらのお嬢さんは?』
『はい、娘の愛です。』
『初めまして、早坂愛です。』
『こんにちは。
利発そうな娘さんですね。』
『とんでもない。
中々やんちゃですよ、頼もしい娘ですけど。』
母親の奈央に褒められてまんざらではないが愛は顔が赤くなる。
一方、メイドと乳母のダブルコンボに内心興奮してる御行は、同じく顔を赤くしていた。
この方面は、御行の大好物なのである。
面談場のドアが開いて、四条親子が退室してくる。
『次、早坂さんよ。』
眞妃に声を掛けられて、慌ただしく四条親子と早坂親子が挨拶を交わす。
『早坂さんとご父兄の方々、どうぞ。』
そのタイミングで面談場の教室から早坂親子に入室の許可が出る。
『あら、では白銀様。
少しの間、かぐや様をお願いします。』
『うちは最後ですから、お任せください。』
『では、お願いします。』
奈央はそういうと、面談場の教室に愛と二人で入って行った。
四条真琴は眞妃に紹介される形で白銀親子とも挨拶を交わしながら、白銀親子に気取られぬ様にして観察する。
親子の経歴は報告されているが、実物はまあまあかなと品定めする。
『では、そろそろお暇しようか?』
『そうね。』
『では、かぐや君。』
『会長も、ごきげんよう。』
歩き去っていく四条親子を見ながらかぐやと御行は言葉を交わす。
『あの人が、四条のお父さんか。』
『なかなか、手強いですよ。』
『四条グループが本格的に大きくなったのは彼の代からだ。』
『親父、知ってるのか?』
『有名な話だ。
知ってる人間の間ではな。』
『かなりの辣腕家、か。』
『緊張してきたな。
ちょっと、トイレな。』
そういうと、大股で御行とかぐやから離れてトイレに駆け込む。
二人にしようとあからさまの気遣いに御行は気が気でないが、かぐやは内心嬉しかったりする。
『会長、とりあえず座りませんか?』
『あっ、ああぁ、そう、だな。』
ぎこちない御行より先にかぐやが椅子に座り、御行も横に腰を下ろす。
ふと、その瞬間に御行はある事に気が付く。
『早坂のお母さん、乳母で四宮の母親代わりと言ってたが、そうなると四宮と早坂とは・・・。』
『姉妹・・・、それ以上の関係です。
乳姉妹というものです。』
『・・・。』
御行はそれ以上、何も言えなかった。
姉妹以上の存在に密偵をさせて、かぐやの身辺調査をさせる四宮家の異常性に黒い感情が湧いてくる。
ふと見ると、かぐやの横顔は寂しさを帯びている様に見えた。
たまらず、御行が声を掛けようとした時、背広姿の眼鏡を掛けた男性と高等部校長が連れ立って歩いてくるのが見えた。
『シッノミヤさん、おゲンキですか?
シロガーネくんも大丈夫そうですね。』
唐突な校長先生の登場に反射的に二人は立ち上がる。
正直、胡散臭いカタコト日本語と神出鬼没で不可解な行動の多い校長は、二人共苦手である。
それにかぐやは、何故に本宅に居る筈の父・雁庵の秘書で愛の父親の早坂正人がここにいるのか?
疑問である。
『校長先生、ごきげんよう。』
『校長、先週はご迷惑をお掛けして申し訳ありません。』
『ノープロブレム。
さて、シッノミヤさん。
アナタの面談はこっちになりマス。
付いてきてクダサイ。』
『えっ? こちらではないのですか?』
『イロイロありまして。』
『・・・解りました。
それでは、会長。
失礼します。』
『あっ、ああ、気を付けてな。』
正人は御行に頭を下げただけで、かぐやとも言葉を交わさず、校長を先頭にかぐやの後ろを二人に続いて歩き出す。
御行が一行を見送っていると、トイレから出てきた御行の父親とかぐやは言葉を交わして、校長についていく。
不思議そうな顔をしながら戻ってきた御行の父親は御行に尋ねる。
『かぐやちゃんは、こっちで面談じゃなかったのか?』
『どうも違うらしい、親父。』
『やれやれ、チューでもするかと思ってたがな・・・。』
『・・・親父、トイレから覗いてたな?』
父親の行動に苛立つ御行だったが、そのタイミングで藤原親子の面談が終わり、退出時に両家で挨拶と自己紹介が交わされて、白銀家の順番になった。
───校長室
道中、かぐやは考えを巡らせていた。
(おかしい。
早坂のおじ様は、奈央さんと一緒に愛の面談に参加するのが本来の筈。
奈央さんから何も引き継がない上に、私に何も言わずに後に付いてくるだけなんて・・・、ひょっとして。)
これは予め予定されていた事と考えたかぐやは、校長室にて待っていた人物に驚きを隠せない。
一個上(二十歳以上離れてるが)の兄・四宮雲鷹と、父親の四宮雁庵が既に居たのだ。
『お父様! お兄様!!』
『久し振りだな、かぐや。』
『来たか。』
「経験」した今年、叶わなかった父親との三者面談。
のみならず、初めて学校に父親が来てくれた事に、かぐやは涙が止まらなくなる。
『こんな事で泣く奴があるか。』
そう言って立ち上がりかぐやを慰める雲鷹も、その気持ちは理解できる。
四宮雁庵の子として生まれた以上、大勢にかしずかれても一番欲しかった父親の情は、触れ合いは得難かった。
雁庵自身が遠ざけていたかぐやは余計に難しかった事は、保護者として七歳から自分が養育をさせられた雲鷹が良く知っている。
正月の年始の挨拶以外に、雁庵がかぐやと会う事が無かった事も。
母親が違い、親子ほど離れていても、四宮の人間としてかぐやを育てた雲鷹は、かぐやの姿に込み上げるものがあった。
今更、自分なんかが抱く筈がないと思っていた感情が、雲鷹に雁庵を睨み付けさせる。
ようやく落ち着いたかぐやを雁庵の横に座らせると、雲鷹自身は二人の後ろに立つ。
雲鷹は保護者ではあるが、親権者ではない。
かぐやの親権は雁庵が持っていて、その雁庵が居る以上、かぐやの事に口を出す権利は雁庵にしかない。
『さて、シッノミヤさん。』
『その胡散臭い、ワザとらしい言い方は、寄せ。
俺に啖呵を切った時は、そんな喋り方はしてなかったと覚えてるが?』
『・・・親父?』
『お、お父様、校長先生ですよ!?』
『お前達は知らん筈だが、俺はこいつと関わりがあるんだ。』
『・・・懐かしい話ですね。
それで、どうですか?』
『!? (校長先生が普通に喋ってる!?)』
『・・・(さっき迄のはフェイクか)。』
『今日、俺がここに来てるのが答えだ。』
『認めて貰えて、光栄です。
なかなか、大変でしたよ。』
『フンッ、鳳凰会現会長がよくも言う。』
『さて、つもる話は後にしましょう。
今日の本題は、かぐや君の進路です。
かぐや君、君の希望はなんですか?』
『わ、私の希望は・・・。
・・・お父様、思うところを申し述べてよろしいでしょうか?』
『聞かせてくれ。』
『・・・私は、・・・海外の高名な大学に進学を希望します。』
『理由は、なんですか?』
『私は、日本どころか秀知院の全ても知らない世間知らずです。
お父様のご意向に沿う生き方が私の務めと思い、今日まで来ました。しかし、世間知らずで狭い見識しか持たぬ人間では、お父様に顔向けできないとも考えております。』
『・・・必要ない。
お前は・・・、かぐやは・・・、必要な相手に嫁いで子を成せばよい。』
『例えそうであっても、世間知らずの阿呆では子に悪影響が出ます。
子を育てるのに、豊富な見識は何ら邪魔になりません!
私は、進学したいのです!!』
『かぐや、頭でっかちでも子供に悪影響が出るぞ。
それに、どこに行く気だ?』
『米国・スタンフォード大学を希望します!』
『ならん!』
『お父様!』
『他国に行く必要もない。
行くなら国内の大学に行け。』
『国内で、「四宮」の名を知らぬ者は少ないです。しかし、海外ではその限りではありません。
今、秀知院には他国の王族の方も学びにいらしてます。
王族ですら他国に学ぶのに、私が学んではいけませんか、お父様?』
『『・・・。』』
雁庵と雲鷹は他国の王族が居る事は把握してるが、実態は国内に居ては火種になるから秀知院に預けられている事を知らない。
為に、咄嗟の反論に困ってしまう。
預けた王族側も、他国の要人の子弟との誼を将来の商いや政略に活かす腹づもりなのが見え透いている。で、あるならば、かぐやにも同じ役割を期待してもいい。
二人の男の頭には、打算の算盤が弾かれていた。
余談だが、「今回」は「前回」と違い、かぐやは学園内外のコネクション強化に動いていて、件のガルダン・アーラサム王国の王子とも気安く話せる程の関係になっていた。
『・・・今日は、お子さん達の希望を聞く日です。
今日聞いた事を必ず実行しなければいけない訳ではありません。
日本国内であっても、進学かそれ以外の道を選ぶのは重大な決断です。
ただ・・・、』
『なんだ?』
『日本と違い、米国の入学時期は秋です。
試験もそれに合わせて行われます。
半年待つか、早めるか、です。』
この段階で御行の受験したアーリーは締め切られている為、かぐやには年始までにレギュラーに出願する必要がある。
「経験」した来年、かぐやの出願は兄であり四宮雁庵の長男・四宮黄光に妨害(脅迫)されて、かぐや自ら出願取り下げをせざるを得ない状況となり、のち、黄光と和解して進学したが、御行とは一年違いでスタンフォード大学に進学する事になった。
かぐやとしては、「今回」は御行と一緒に入学・卒業したい。
また、その一年の間に三年次の夏から秀知院を早退して進学した御行の元に、自身が秀知院を卒業するまで毎週末通い続けたかぐやだったが、悩まされ続けたのが「女の影」だった。
米国は、恋愛はデートからスタートであり、デートして気が合うか確かめてから交際を続けるか、判断する。
日本は、告白してから交際がスタートであり、この習慣の違いの為、又、人の良い御行は単純な交流は語学力向上の為に受けてしまうので、誤解を招く事が多く、毎週末訪れるかぐやは御行の部屋に二人以外の髪色の髪の毛やらが落ちてる事にヤキモキし、たまに御行と喧嘩になる。
御行も御行でヤキモチを焼かれる事が満更でもなかったりするから、達が悪い。
かぐやは自分の恋人が魅力的に見られる事自体は嬉しい反面、万が一が怖かったのだ。
最も御行はイロモノに好かれる性質から、危うく同性に後の純潔を奪われそうになったが、この時ばかりは互いに牽制し合う関係だったかぐやと御行に好意を寄せていた
留学先女性陣が共同戦線を張って御行を守った経緯がある。
兎にも角にも、「来年」のゴタゴタで二人だけの甘い時間は満足に取れなかった(会うのは殆ど生徒会室のみ、たまに御行の家でお泊り)かぐやは、二人の時間確保プラスヤキモキする事を無くしたいのだ。
『ともかく、四宮さんの希望は外部進学に一応しておきましょう。
決断は早くした方が良いですが、慌ててもよくありません。
今日は以上です。
遠路、お疲れ様でした。』
流石、かつて四宮雁庵と渡り合った曲者校長。
雁庵の性格上、これ以上はこじらせる可能性が高くなると話を切り上げる事にした。
『かぐや、今夜は食事会がある。
お前も出席だ。』
『お食事会ですか、お兄様?』
『俺と親父も出る。
主催は、・・・藤原元総理だ。
ただ、な・・・。』
『藤原元総理って、確か・・・。』
『「あの」爺さんだ。
・・・俺は、苦手だ。』
『・・・私もです。』
『・・・。』
校長室を出た四宮兄妹が暗い気持ちになるのは、件の元総理がこっちの理屈や計算が殆ど通じない上に、振り回される確率の高い御仁だからだ。
が、元総理だけあって引退した今でも政・官・財界に影響力があり、国際的な問題が生じた時は政府特使を務める人物の為、付き合わない訳にはいかない。
因みに、「あの」藤原千花のひいお爺さんに当たる人物でもある。
隔世遺伝で藤原姉妹に資質が出たとしか思えないぐらい似てるが、姉妹より遥かに予想もコントロールも出来ない。
『四宮。』
暗い気持ちになり始めていたかぐやは、一番聞きたい声で声を掛けられて正面を向く。
御行と父親がそこには居た。
『誰だ?』
かぐやが反応するより早く、雲鷹が反応しかぐやの前に立つ。
既に、雁庵は正人が庇う立ち位置に移動していた。
『雲鷹様、高等部生徒会長の白銀様です。』
『生徒会長?』
『初めまして、生徒会長を務めております、白銀御行と言います。
四宮のお父様ですか?』
『・・・まあ、そう見えるわな。』
『お兄様!
すいません、会長。
ご紹介します、私の兄です。
父は、あちらです。』
『・・・申し遅れた、かぐやの兄の雲鷹だ。』
雲鷹は名乗らず去ろうかと思ったが、かぐやの手前もあり名乗る事にした。
続けて、父親同士で短い挨拶を交わす。
─────つづく