白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───前回までのあらすじ


四宮かぐやの強制出馬の可能性が出るなど第68期生徒会長選挙は立候補段階から荒れた。
選挙期間中、白銀御行とかぐやは予期せぬハプニングで絆が深まる。


006『新生徒会長と体育倉庫』

 

 

 

───第68期生徒会長投開票日翌日

 

 

 

『副生徒会長職拝命は、私は辞退たいのです。』

 

『しっ・・・のみや・・・。』

 

 

第68期生徒会長選挙は、白銀御行の辛勝となった。

 

白銀かぐやが「経験」した生徒会長選挙と異なり、今回は御行の出馬動機は「かぐやに頼まれた」という受動から、「やりたくないかぐやを生徒会長にしない為」という能動に変わった。

 

 

また、「立候補演説で上がってしまいまともに喋れなかった」伊井野ミコは、今回は良い意味で適度な緊張感を持って「上がらずに演説」できた。

 

かぐや自身も、「経験」した選挙では色々と「工作に動いていた」が、今回は自身の強制出馬の可能性排除に注力させられ、歴史が変わってきてる事に躊躇いがあり、普通の選挙活動しかしていない。

応援演説は学友達に例の騒動で皮肉を聞かせた内容になったが、石上優演出の映像に合わせた内容だった。

 

つまり、普通の選挙だったのだ。

 

御行の立候補演説の最後に、ミコに問いかける形でミコの言い足りなかった事を全て出させたので、正面からの正々堂々の殴り合いの選挙結果は、

 

 

 

白銀御行 309票

 

伊井野ミコ 291票

 

 

 

18票差の僅差で白銀御行の勝利となった。

 

二人の討論終了後、白熱した議論に割れんばかりの拍手が送られた事がこの選挙への生徒の関心の高さを証明し、白銀御行は第68期生徒会長に選出されたのだが、前日に御行に打診されたかぐやの副生徒会長就任の返事の流れになった。

 

 

 

『・・・それは、俺の元では仕事はできないという事か?』

 

 

御行は努めて平静を装ってはいるが、絶望感に襲われていた。

 

 

 

『・・・考えさせて下さい。

お願いします。』

 

『・・・解った。返事は早めに頼む。』

 

 

生徒会室を辞しようとするかぐやを掴む手が、かぐやの動きを止める。

 

 

 

『かぐやさんが生徒会に入らないなら、私も辞めます。』

 

 

いつものおちゃらけた雰囲気など微塵もない藤原千花に言われて動揺する、かぐや。

 

 

 

『待って下さい、藤原さんまで辞め・・・。』

 

 

その時、千花以外に、御行と石上優とかぐやの三人が生徒会室にいたのだが、三人の頭に浮かんだのは、

 

 

 

『藤原(さん、書記、先輩)、普段何してたっけ?』

 

 

だった。

 

 

妙な沈黙に室内が満たされる。

 

かぐや達は必死に良い事を思い出そうとするのだが、ゲームに巻き込まれて嫌な思いしたり何かしらやらかしたりと、仕事で何かしてた記憶は御行とかぐやは「大友京子の調査」位しか思い出せない。

優に至っては皆無だった。

 

生徒会室内を気まずい空気が支配する。

 

 

 

『なんで、そこで止まるんですか!

かぐやさん!?』

 

 

 

三者アイ・コンタクトで会話をする。

 

 

(まさか、居なくて大丈夫とは言えないしな。)

 

(僕は辞めてもらって構いませんが。)

 

(そうはイカンだろ、生徒会役員はなり手が少ないんだから、いないよりは。)

 

(私達、色々酷い目に遭いましたしね・・・。)

 

(四宮、お前は友達なんだから何とかしろよ。)

 

(何で私なんですか?

こういう時こそ、会長の出番でしょ。)

 

(お前ズルいぞ、こういう時は共同で脅威に対抗するべきで。)

 

(藤原先輩はモンスター認定なんですね。)

 

(・・・否定する材料がない。)

 

(その前に、手を掴まれてるから私は痛いんですけど?)

 

(ここは穏便に、友達の四宮から伝えてくれ。)

 

(酷いです、私だけに押し付けないでくださいよ。

たった今、脅威には共同で対抗しようと言ったじゃないですか!)

 

(君の犠牲は無駄にはしない。)

 

(仕事終わったので僕はそろそろ。)

 

(待ちなさいよ、一人だけ逃げるのは酷いわ。

私も帰ります。)

 

(藤原と二人にするな。

それは酷い裏切りだぞ!)

 

アイ・コンタクトだけでなく、身振り手振り首振りまで混ぜた三人の白熱した議論は熱を帯びるが、蚊帳の外の藤原千花は事態が解らないが、三人の不可解な動きに何故か不快感が増していく。

 

 

 

『・・・三人共、何してるんですか?』

 

 

かぐやは手を掴まれてる為に動きが制約されるが、優は野球のサインのような動き、御行に至ってはドジョウすくいの様な怪しい動きをしているので、言い返せない。

 

席に着き直して咳払いをして仕切り直すと、平常運転に戻した御行は場を収める為に動く。

 

 

 

『とりあえず、仮はだめか四宮?』

 

『と、いいますと?』

 

『お試し期間というかな、取り合えず年内は行事が詰まってるから手を貸して欲しい。

どうだろうか?』

 

『・・・副会長ではなく、あくまでお手伝いだけでしたら。』

 

『OK、そうしよう。

とりあえずそれでいいか、藤原書記?』

 

『かぐやさんが生徒会を辞めないなら、私も辞めません。』

 

『では、早速だが、藤原書記。

この書類の処理を頼む。

やってくれるよな?』

 

『ドーンと任せてください。』

 

 

白銀御行がデスク上の書類の束から一部を藤原千花に渡す。

満面の笑みで受け取るが、優とかぐやは微速度カメラで撮影してたかの様に平常→咀嚼→理解→驚愕に表情が変わる。

 

早速ソファに座り書類の処理に取り掛かる千花を尻目に、優とかぐやと御行の三人の激論が再開する。

 

 

 

(会長、危険ですって!

何を書くか理解してないですよ、藤原先輩は。)

 

(仕方ないだろう、いつまでも遊ばせる訳にはいかん。)

 

(むしろ、遊んで貰ってる方が被害が少ないんじゃ?)

 

(・・・それじゃ何の為に居るのか分からなくなるだろう。

藤原一人でも出来る様になって貰わないと。)

 

(誰かスカウトしますか?)

 

(無理だろう。

俺と四宮とで探したが誰でも良い訳ではなく、守秘義務を守り実務能力を持ってる者がなかなか居ないんだ。

・・・ところで、何故二人はドアのところにいるんだ?)

 

(いえ、僕は仕事が終わりましたから。)

 

(私も所用が・・・。)

 

(逃げるな!

ベリーハードモードだぞ、これは!!)

 

((さようなら))

 

 

『会長、ここはどう書くんですか?』

 

 

二人を引き留め様としたら千花に質問攻めにされて、御行は遅い時間まで千花に付き合う事になった。

 

 

 

一方、選挙後にミコは生徒会入りを御行に打診されていたので生徒会室を訪ねたら、ドアを開けかけた瞬間にドアの隙間からかぐやの副会長辞退を聞いてしまい、何故だか頭が真っ白になって逃げ帰ってしまった。

顔面蒼白でショック状態を大仏こばちに発見され、その日は連れられて帰宅の徒についた。

 

何故ショックなのか、ミコ自身にも解らない。

それだけかぐやの影響力というものが強いのだろうとこばちは受け止めた。

 

それは御行も同じで、かぐやが副会長を引き受けてくれないなら、自身も生徒会長を辞め様かとも考えてしまう。

沈んだ気持ちのまま、眠りについたが翌日以降もこの気持ちを引きずってしまう。

言い訳など出来ない程に、御行の中でのかぐやの存在の大きさを再認識してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───夜・かぐやの寝室

 

 

 

『・・・どうしちゃったんですか?』

 

 

かぐや自身が白銀御行から離れる選択をするなど考えられないと思っていたのに、そのまさかの選択をしかけたかぐやに早坂愛は戸惑いしかない。

 

 

 

『・・・自分でも解らないの。

だからなのかしら・・・、このまま御行さんの側にいて良いのかしらと考えてしまって、気が付いたら副会長を断ってたの。』

 

 

ついに名前で呼び出したと思う愛。

 

それがかぐやの心理を表しているというか、そんなに好きになったんですね、と。

どこか安堵感と寂しさを感じてしまう。

 

 

 

『しかし、困りましたね。

副会長不在では生徒会の仕事は会長さんに集中しますよ。』

 

『それは何とかするわ。

仕事を奪ってでも御行さんの負担は減らす。

そうでもしないと、あの人は頑張ってしまう人だから。』

 

『なら、副会長の方が都合が良いでしょ?』

 

『そうなんだけど、そうじゃないの。

・・・結局、私は自惚れてたのかなって。

ダメだわ、整理がつかない。』

 

『この間からですけど、かぐや様は最近は変ですよ。

夏休み明けの色々はびっくりの連続でしたけど、メンタル的には反対に凄く安定してました。』

 

『・・・そんなにおかしい?』

 

『今やってるそれは、どう見てもおかしいと思いますけど?』

 

 

かぐやはノートPCで将棋と囲碁、スマホで麻雀しながら愛と会話してるのである。

 

 

 

『だって、モヤモヤして何やっても上の空になっちゃうのよ!』

 

 

将棋も囲碁も麻雀も上級レベルの設定で同時にやって勝ってるのに手がつかないとは、何の嫌味なんだろうかと思う。しかし、かぐやが思考の袋小路に入り込むのはよろしくない。

 

愛はかぐやの影響で23:00前には就寝する習慣が身に付いてしまったのだ。

 

しっかり眠るのは大事!

 

自分の為に、かぐやを軟着陸させる為に誘導に入る。

そっと後から、かぐやを抱きしめる様に腕を回す。

 

 

 

『自惚れていたって、何に対してですか?』

 

 

抱き締めて、耳元で囁く様に、かぐやに問い掛ける。

最新の愛が編み出した対かぐや用の対話術。

身体を密着させて、聴覚過敏に注意しながら深層心理に語りかける様に慎重にゆっくりと話すと、かぐやは落ち着いて自分の本音を話してくれる。

愛自身がかぐやにして貰って凄く癒された感覚から、かぐやにお返しとする様になった対話術。

誰にも話してない二人だけの秘密。

 

大した秘密ではないのだが、誰にも話したくない邪魔されたくない、二人だけの濃い時間。

 

ちょっと危ない方向に行きそうだなと自覚はあるが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───かぐやが副会長就任を固辞した翌日。

 

 

 

御行はただただ気が重い状態で登校した。

歩みの一歩一歩が重い。

 

一晩中、かぐやに断られた理由を探していた。

 

気持ちを理解して飲み込もうとしても、納得しない自分が居る。

そうすると、人間は面白いもので感情が振り切れ、反転する。

 

 

「四宮抜きで生徒会を運用してみせる!

アイツが自分の過ちを認めて詫びてくるまで、仕事なんかさせてやるか!!」

 

 

そう意気込んで生徒会室に入り、千花の置き土産に苦悶する。

 

 

 

『なんでアイツは出来るのにやらないんだ!?』

 

 

千花に昨日して貰った書類の手直しをしながら、所々出来てるが何処かしらに間違いや抜けが出てくる内容に溜息と憤りが募る。

 

 

───四宮ならこれぐらいの書類

 

 

頭の中に出てきた考えをかき消す様に頭を掻いた後、ティーカップを取ろうとして手が空を切る。

いつもならそこに置かれてる「筈」のティーカップが無い事に気がつく。

 

 

───いつもなら四宮が何も言わなくても差し出してくれるのに

 

 

まだ、千花も優も来てない生徒会室は、異様に広く感じる。

いつもなら四宮か、自分が当たり前に居るココは、こんなにも広く寂しい空間だったのかと思い知らされる。

 

 

 

 

 

頭の中で警報がなる!

 

 

 

 

 

───これは四宮の策略だ、と。

 

 

しかし、それで、も・・・。

 

四宮が居ないのは寂しい、と。

 

結局、この日は生徒会の他の三人は生徒会室に現れなかったので、早々に切り上げて御行はバイトに向かった。

 

バイト中も家に帰ってから布団に入っても、御行はかぐやの事を考えてしまう。

 

 

 

───そういえば、キスの意味を教えて貰ってない。

 

───誕生日パーティーのお返しを考えなければ。

 

───弁当や味噌汁の礼をしてない。

 

───いつも淹れてくれるコーヒーや紅茶のお礼もしっかり言わないと。

 

───応援演説の礼も。

 

 

副会長として、会長として至らない俺を補佐し続けてくれてる事も・・・。

 

・・・俺は貰ってばかりで、貰い続ける事を当たり前に思っていたのかと・・・。

 

まるで乞食の様に・・・。

 

 

 

『あいつは・・・、四宮は副会長では無くなったんだな・・・。』

 

 

言葉にしてみて、それが大きな損失だと理解して、嗚咽が漏れそうになる。

やがて、御行は意識を手放す。

 

 

 

しかし、

 

 

 

───『四宮は副会長ではなくなったんだな・・・。』───

 

 

その言葉を受け取った者が居た。

 

 

 

 

 

 

 

他方、かぐやは自分の気持ちと向き合っていた。

 

愛と話をしてなんとなく自分の気持ちが解った様に思えたが、それが副会長職固辞に繋がらない。

 

自分から距離を取れば、御行を混乱させて傷付けてしまうのは解り切っていたのに。

 

・・・でも、何故か「はい」と言えない自分がいる。

 

 

 

『私は、何を怖がってるのだろう・・・。』

 

 

このモヤモヤした説明できない気持ち自体が原因だろうとは考えるが、それが何なのか解らない事がかぐやを悩ます。

 

 

 

『何ショボくれてるの?』

 

 

声に気が付いて顔を上げると、目の前に人が立っていた。

気が付かない程に考え込んでいた様だ。

 

 

 

『あ、眞妃さん。

柏木さんもごきげんよう。』

 

『らしくないわね、どうしたのよ?』

 

『かぐやさん、元気無いですけど?』

 

『そ、そんな事ないですよ。』

 

『ベタ過ぎる返事で丸わかりよ。』

 

『まあ、色々とありまして、ね。』

 

 

今この二人を相手にするのは分が悪いなと感じたかぐやは、話題を転じようとして機先を制された。

 

 

 

『言ってなかったわね。

白銀会長、就任おめでとうございます。

特待生の二期連続は「初」ですってね。』

 

『白銀会長は凄いですね。

ボランティア部設立の際にはお世話になりました。』

 

『一年の子じゃ、少し不安だったしね。』

 

『まあ、伊井野さんは良い子なんですけど、もう少しお勉強してからの方が良いでしょうね。』

 

『で、なんで元気ないの?

彼氏と喧嘩でもした?』

 

『・・・それはどういう意味です?』

 

『実は、白銀会長をお見かけしたんですが、いつも以上に眼光鋭くて話し掛けるどころか近付く事も憚れるオーラが・・・。』

 

『何があったか知らないけど、「彼女」なんだから面倒見ないとある事ない事言われるわ。』

 

『たった今、言われてますけど?』

 

『おお、怖。

じゃ、そういう事で。』

 

『あっ、眞妃。

かぐやさん、失礼しますね。』

 

『ごきげんよう。』

 

 

二人を見送って考える。

御行の事が気にはなるが、何故か生徒会室に行く気にならない。

結局、その日はかぐやは生徒会室に行かず、優も千花も生徒会室には行かなかった。

 

 

 

 

 

───このまま、会わずに終わるのだろうか?

 

 

 

それは嫌だけど、何故だか御行さんに会う気にならない。

 

・・・けど、何か忘れてる気がするのだけど、何かしら?。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───京都・四宮家本宅

 

 

 

四宮雁庵の長男で四宮家次期当主である四宮黄光は最近不機嫌である。

主たる原因は、雁庵の長女にして親子以上に年の離れた末妹・四宮かぐや。

 

九月早々、京都本宅に突然やって来たかぐやは、何をするのかと思えば現当主で父親の雁庵に会わせろと直談判してきたのだ。

 

鬼気迫るといった迫力と渋る黄光らに土下座までして止める親戚などを押し退けて通り、保護者役の雁庵の三男・雲鷹でさえ窘めて止めようとするが、『娘が父親に会いたいと来て何が悪いのですか!?』と咆哮かと思うぐらいの口上の激しさで押し切られた。

そうまでして父親と何をしたのかと思えば、「写真が撮りたい」だけだった。

 

別室で雲鷹と時間を潰していれば父親の元に呼ばれ、「家族四人の写真」が撮りたいとかぐやに頼まれた。

家族と言われた事にむず痒さを覚えたが、雲鷹も同じらしい。

 

父親の手前、断る理由もなく承諾したが、よくよく考えれば父親との飾らない写真はこれが初めてだと気が付き、後で眺めてほろ苦い気持ちなった。

 

それから、週末毎に必ずと言っていいほど本宅に来る様になったかぐやは、徐々に本宅での存在感を増していった。

 

あれほどかぐやを遠ざけていた雁庵はかぐやと必ず会う様になり、かぐやは本宅使用人達の心証も良く、あろう事か本宅の調理場に入り込み手伝いまでし味噌汁まで作った。

別邸では毎朝やってると言われて、卵入りという変わり種に驚きもした。

その味噌汁を雁庵が気に入ってしまったから、何も口出しできなくなった。

 

黄光も知らずに出され、味噌汁を食べてみたが美味かったのが癪に障る。

 

同時期、自分の嫁が娘の嫁入り修行と料理の手ほどきを始めた。

それはいいが、娘の料理が自分の口に一口も入らないのが、また癪である。

 

同じ調理場で手ほどきを受けているのだから、かぐやの影響と黄光は邪推している。

実際は両者の使う時間帯も曜日も違うので接点がなく、勘違いでしかない。

 

以前は猫を被っていても隠し切れない狡猾さを感じていたが、今は畏まりはするものの堂々としていて、かぐやが居るだけで場の空気が和らぐ。

 

更に、父親の雁庵の態度も違う。

かぐやが部屋を出た後に入れ代わりで入り、いつも通り「親父」と言っただけで殺されるかと思う程に睨み付けられた。

 

これには事情があり、かぐやは最初は「お父様」と言ったのだが、「お父さん」と言った時があった。

雁庵が満更でもない反応したのを見逃さなかったかぐやが、以後は「お父さん」と呼ぶ様になったのだ。

 

その余韻に浸ってる時に「親父」と呼ばれたのが無粋に感じ感情的になってしまったのだ。

しかし、予想外の雁庵の反応に動転した黄光は思わず、何をトチ狂ったか「パパ」と言ってしまったのだ。

 

「パパ」の意味を理解するのに雁庵と黄光や、居合わせた者達は五秒の時間が必要だった。

そうして頭が理解すればするほど、意外な人物からの似つかわしくない発言の為に、居合わせ各人は当人以外は笑いを堪えるのに必死だった。

黄光は赤っ恥をかいたのだ。

 

そういったものが重なったところで両者が対面する機会が生まれた。

 

偶然でしかないのだが、場を和ませ様とかぐやが千花を真似て花札を誘ったら黄光が食い付いた。

 

結果・・・

 

 

 

『もう一勝負だ!』

 

『良いですよ!』

 

 

黄光が熱くなって二人の花札対決となった。

勝敗は黄光が負け越している。

途中から部屋に来た雁庵は止めもせず、親子ほどの年の差の兄妹喧嘩の様な対決を面白いからと見物している。

 

 

「コイツは何を考えて毎週来てるんだ?」

 

 

昼下がりに親父に会って他愛も無い話をして泊まって、翌朝は必ず味噌汁作って昼には帰る。

 

 

「たったそれだけの為に、態々来るか?

あれだけ寄り付かなかった狡猾な小娘もだが、親父も親父だ。

ポックリ死んだ妾に見た目が似てると鼻の下伸ばしやがって。

お袋はどうなるんだ!?」

 

 

黄光が勘ぐってるが、かぐやにも全く考えなしで本宅に来てる訳では無い。しかし、御行との事で生じた苛立ちと鬱憤をこの「タコ」に今はぶつけて発散してるのだ。

 

最初の勝負で「タコ」の威圧的な言動が癇に障ったので、一方的に叩きのめした。

カスすら作らせない様に自分の役より「タコ」の妨害に終始し、散々邪魔した。

 

「タコ」もそこまで花札が下手ではないので、かぐやの意図が途中なら読めた。

 

 

「このクソガキが!」

 

 

黄光は文字通り逆上して茹でタコになってしまい、かぐやはからかい半分に勝っては負けてを繰り返し、黄光は勝っても勝った気になれず、よりムキになって負けてしまい、かぐやに踊らされる。

 

茶を飲みながら二人の勝負を眺めていた雁庵は、黄光も疲れてきたろうと強引に代わり、かぐやと勝負となった。

 

やたらうるさい黄光が黙るだけ途端に場は空気が変わり、かぐやは初めてとなる父親との真剣勝負となる。

互いに札を取り役を作り上げるを繰り返す遊びだが、花札を通してひと言も喋らないが親子の対話は続く。

 

 

 

『ダメですね、負けましたお父さん。』

 

『そうか? 俺が負けたと思ったが。』

 

 

その後も勝負は続くが、黄光は仕事の為に外出し今日は戻ってこない。

 

 

『なんだ、親父のあの目は?

かぐやも俺の時と違って、声一つ出さないで。

俺じゃ話ならないっていうのか、二人とも!』

 

 

その夜、黄光は荒れて深酒して数日寝込む事になった。

 

 

 

 

 

 

 

『次の週末、お父さんと一緒に出かけたいのですが?』

 

 

花札も終えて、娘の淹れてくれたお茶を飲みながら、雁庵は横に座ったかぐやの頼み事を聞いていた。

なかなか美味い茶だなと思いながら具体的な段取りは席を外してる早坂と詰めろと、秘書で早坂愛の父親の早坂正人に振った。

早坂親子は、家族水入らずの時間を過ごしていた。

 

その時は、雁庵は眠くなっていたので行き先は気にも留めてなかった。

 

若いだけに何処ぞの服屋で買い物でもしたいだけだろうと。

それより、久々の「真剣勝負」と「美味い茶」の余韻に浸っていたかった。

 

かぐやはそれ以上話しかけて来ず側に居るだけ。

それが雁庵には心地よく、かぐやの母親の名夜竹もそうだったなと思い出しながら、雁庵は寝息を立てていた。

高齢になれば若者が難なく出来る事でも、大変な労力を使う。

 

雁庵とかぐやは、会話はないが以前は想像も出来ない「二人だけの時間」が流れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───早坂家の車中

 

 

 

『はぁ〜〜・・・。』

 

 

週一になりつつある早坂家の親子団欒の帰り道、後部座席の早坂愛はため息をつく。

 

今日は少し遠出した帰りの車内、早坂夫妻と愛娘の愛の三人だけの為、愛の普段は見せない弱気な一面が出てしまう。

 

 

 

『・・・どうした?』

 

 

ハンドルを握る愛の父親・早坂正人は聞いてほしいのだろうと察して娘に声を掛ける。

 

年に一度も会えなかった娘が、四宮かぐやの近侍として四宮家・京都本宅に同道する事で、こうして会う事が出来るので意図的に週末は仕事を手すきにする様にしている。

 

それも、そろそろ厳しくなってきてるが。

 

 

 

『・・・私、・・・お役に立ててるのかな?』

 

 

助手席にいる正人の妻の奈央は、最近は正人に愛の話し相手を任せる様にしている。

まだ自由の利く自分は兎も角、夫・正人は京都本宅を職務上離れられないので、今は譲っている。

 

 

 

『そう思える程度の仕事をしてるのか?』

 

『そのつもりはないし、仕上げてる。でも、かぐや様の事が時々解らなくなるの。』

 

『・・・主人の心は解らないものだよ。』

 

『・・・でも、朝早く起きて皆のお味噌汁作ったり、自分のついでだからって私のお弁当作ってくれたり、長時間労働だからって夜はお茶会にして休憩取らせてくれるの。

無茶な話も殆ど無くなったし、あんまりにも急に変わったから。』

 

『それは私も驚いたよ。』

 

『まったくよね。』

 

 

「それ」とはかぐやの料理の事で、正人の頷きに合いの手を入れる奈央だが、ニ人共苦笑せざるを得ないかぐやの「月見汁」(勝手に名前が付いた)は、知らずに食べた後で事実を知って唖然としてると、配膳や調理担当者達の目が笑っていた。

 

普段、京都本宅では笑う事も許されない雰囲気が支配しているのが、かぐや様が居られるだけで穏やかな空気になる。

 

大した「悪戯」だとご当主様も笑っているから誰も何も言えなかったが、まさか四宮家御長女が朝早くから調理場に立って朝食の手伝いをして味噌汁まで作ってるなど、信じられない光景だった。

 

いい影響なのか、黄光様の御母娘まで料理を始めて更に驚いたが。

伺ってみると、娘が年頃になったからと言われたが想い人がお出来になられた様だ。

 

蚊帳の外にされ食べる事も出来ない黄光様は、「お気の毒」と皆が噂してるのが小気味良かったが。

 

まだ下らない事を言ってる親戚方は居るが、ご当主様の健康を気遣って行動に移ったのはかぐや様だけだ。

あの親戚方は口では体を大事になど言ってるが、早く亡くなって欲しいという心底が見え透いてる。

 

味噌汁一杯で一食分としては十分栄養が足りてると担当者から報告を受けた時に合点がいった。

 

 

 

『東京でも、かぐや様はお作りになられてるだろう?』

 

『うん、毎朝ね。

この前は、料理長と競りに行ってたよ。』

 

『それも聞いた時は驚いたよ。』

 

 

愛は初めてかぐやの味噌汁を食べた時を思い出す。

 

 

 

───いつもの通り朝の支度を済ませてかぐやの寝室に入ったら、主人が居なかった。

 

 

 

慌てて別邸内をかぐやの居場所を求めて探すが見つからない。そして、意外な所に居た。

使用人用の食堂でかぐやが朝食を取っていたのだ。

使用人達も困惑してる。

 

 

 

『・・・なんで、ここで、ご飯食べてるのですか?』

 

 

取り乱して詰問したいのをこらえて、努めて冷静に周りの使用人達を代表して愛が尋ねると、

 

 

 

『朝から洋食は胃にもたれるの。

一人で食べても味気ないし、ダメかしら?』

 

『・・・。』

 

『それより、愛も食べない?』

 

『・・・朝は軽めにしてますから。』

 

『なら、御味御汁はどうかしら?』

 

『え、いえ、あの。』

 

『ね、飲んでみない?』

 

 

咄嗟にどう返していか解らなくなった愛の前に味噌汁が一杯差し出された。

料理長が味噌汁を出しながら時計を指さす。

かぐやの登校を考えるとあまり時間がないので、仕方なく今日は一緒に登校して車の中で小言を言ってやろうと考えながら味噌汁を一口飲むと、美味しかった。しかし、それより不可解だったのが料理長が楽しげだったのだ。

かぐやも楽しそうだった。

 

首を傾げる状況に料理長がひと言、

 

 

 

『今朝はかぐや様直々に作って下さった味噌汁です。』

 

 

言われた事を理解した時、

 

 

(会長さんの為に練習してたのか・・・。

えっ、みそ汁!?)

 

 

手に持ったみそ汁、次いでかぐや、料理長、また手元のみそ汁と愛の視線は目まぐるしく動く。

 

 

 

『どう、美味しいかしら?』

 

 

首を傾げてわざとらしく聞いてくるかぐやに、

 

 

 

『お、美味しいです。』

 

 

としか返せず、料理長とかぐやが同時に笑い出す。

してやられた悪戯とその時は思ったが、翌日から「かぐやの味噌汁」が当たり前になった。

 

 

 

 

 

 

 

早坂正人もかぐやの意外な行動に戸惑った事を思い出す。

 

まさか、かぐや様がハマチを目利きして、それを本宅に送ってくるとは想像など出来ず、「着いたら私が捌きますから置いといて」というメモ書きには2度驚き、本当に下ろして刺身にしていく姿に驚き疲れた。

 

理由を尋ねたら、『やってみたかったの。』と返された。

 

苦笑する料理人達にはさぞ愉快だろうなと、何時も張り詰めていた空気が多少弛緩する時があっても良いかと思えた瞬間だった。

ご当主様も最近は少し元気になった様で、庭にお出になってる時もある。

本当に、あそこまでかぐや様がお転婆だとは想像もできなかったが。

 

 

 

『戸惑う気持ちは解るよ。私も最近は驚く事ばかりだ。

 

かぐや様が、「愛がしっかりしてるから私はつつがなく生活ができてます。」と仰っていたよ。』

 

 

言うべきか悩んだが娘を褒められて喜ばない父親はなかなかおらず、少しでも愛の元気が出ればと言ってしまう。

それに、かぐや様と名夜竹様が居なければ、私達はどうなっていたか解らなかったとも思う。

 

ただ・・・、

 

京都本宅と泉岳寺別邸の料理長は「早坂家の人間」であり、調理場という狭い空間に異分子であるはずのかぐや様が立ち入る事を許してしまった。

 

本宅で一度拝見したが、調理場で他の料理人達と変わらぬ服装で動いていたかぐや様は、数年は居る駆け出しと言われても違和感がない程、絵になっていた。

料理長がドヤしてるところなど、他の者達と扱いに違いがなかった。

見た時は肝が冷えたが。

 

料理長に聞けば、本人からそう扱って欲しいと言われて直ぐに音を上げるだろうと思ったら、「なかなかやれているので困ってます」と何時も仏頂面の「彼」から笑いながら言われて唖然とした。

 

「彼」だけでなく、本宅の者達のかぐや評価も徐々に好感に変わりつつある。

 

対照的に他の男三兄弟の人となりが「四宮家流」なのが原因だが・・・。

 

 

 

長男・黄光を言い表わすなら、「威圧」と「猜疑」。

当人も自覚があるのか、多少は気配りもするが「四宮雁庵の長男」・「次期当主」の圧力で歪んだ。

難はあるが学生時分までは普通に近かった。

 

 

次男・青龍は長男の繋ぎでしかない。

才覚なども兄・黄光に劣る。

名家の次男としては才覚等は立場を弁えていると言えるが、当人は己を弁えていない。

長男・次男は先妻の子である。

 

 

 

 

 

三男・雲鷹は殆ど本宅に居ない。

一応関東在住だが、長男・次男派の薄い分野を開拓して自身の派閥を作り上げている。

才覚等は兄二人よりは上である。

結婚し子ができてから幾分丸くなったが、勢力的には長男派に一歩譲る。

彼は後妻の一人息子で、かぐやの保護者役を務めてる。

かぐやへの人格的影響は一番大きい。

 

 

 

彼ら三人は、今のかぐやの様に気さくではない。

近寄りがたく喋りづらい。

三男は人によっては「鼠」と罵倒し蔑視する事もある。

彼らが身を置く政財界は人が良いと貶められる為、身に付けたソレは自己防衛と教育によって植え付けられたともいえ、彼ら三人は普通の家庭に生まれれば秀才だが凡庸な人に育ったやもしれない。

 

 

 

では、長女で末妹のかぐやはどういう評価だったかというと「狡猾な箱入り娘」だった。

 

才覚はあるかもしれないが所詮「四宮家」の人間であり、男三兄弟の寝首を狙っている。

そう思わせる様にかぐや自身が演じていたが、「九月の強襲」でかぐや自身でその評価を覆した。

長男、三男相手でも一歩も引かず、居合わせた親戚衆を一喝してみせた姿に在りし日の雁庵を重ねた者も居た。

 

そうかと思えば、大量の土産を持ってきて年頃の娘の振る舞いの茶目っ気も出す。

土産も、定番物から変わり種や人気はイマイチだが息の長い物など、多種多様で話題になりやすい。

 

誰であっても気さくで、護衛や使用人達にも気を使う。

本宅は長男派か雁庵派が固めていたのが、かぐやが来る日が近づけば彼らの間で自然と話が出るほどに好感を獲得してしまった。

今までかぐやが本宅に近付かなかった為に、その人となりを詳しく知らない者が殆どなのだ。

 

眉を顰める者や煙たく思う者もいるが、かぐやは週末にしか来宅しないので嫌ならば本宅にその間居なければ良い。また、面倒な来客も時折あるのだが、かぐやが「雁庵や黄光」の代わりに対応してくれる。

 

為に、嫌がらせもあってかぐやの居る時間に来訪の時間を合わせてるのだが、粛々とかぐやが対応してくれる。

 

 

 

───それがかぐやの計算と看過せずに

 

 

 

雁庵と早坂正人は早々に考え至ったが、黄光は気が付いてない。

 

実のところ、黄光はかぐやが面倒な来客の対応する事で助かっている側面がある。

人間誰しも苦手な相手は居る。

しかしながら、その場合は本来ならば次男の青龍がしなければいけない事を、末妹のかぐやがしている事に青龍自身は何も感じていないかの様だった。

実の兄である黄光ですら、その事にはため息が出る。

 

 

 

 

 

やがて、早坂家族の車は京都駅から少し離れた近くで愛を降ろす。

駅の側は混む上に取り締まりがうるさい為である。

 

愛はかぐやと合流して京都駅周辺の土産物屋等を巡って、東京に帰る予定になっている。

土産物を買い過ぎて買ってないのを探すのが大変だと愛は溢し、早坂夫妻は苦笑するしかない。

どれだけの種類を買ったのか想像も出来ない。

 

駅に元気に向かう娘を見ながら車を出す夫妻の胸中は、後何回こんな平穏な日々が送れるのかと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週明け、事件が起きた。

 

 

体育祭の準備が忙しくなった生徒会は四宮かぐやも参加して手伝っていたら、会長の白銀御行が戻って来ないのだ。

 

 

 

『「体育倉庫」に備品の確認に行かれた筈なんですが?』

 

 

正式に生徒会に参加したミコから、かぐやはそう告げられる。

まだかぐやは手伝いで参加してる状態で、この時は他の事の確認をしており「あの時」の様に体育倉庫に御行と二人で備品の確認には向かわなかった。

 

 

 

『心配だから見に行ってくるわ。』

 

『私も行きます、四宮先輩。』

 

 

胸騒ぎがしたかぐやは、ミコと二人で件の体育倉庫に行き重い引き戸を開けると、泣いてる四条眞妃と眞妃の肩を抱いてる白銀御行が居た。

 

視線が合い固まる三人と、お構いなしに泣き続ける眞妃。

 

 

 

『なっ、な、何してるですか!?』

 

 

ミコの絶叫で金縛りが解ける御行とかぐや。

眞妃も伊井野の声に反応して顔を上げるが涙でグチャグチャなっている。

 

すかさず倉庫内に入り、ミコは御行と眞妃の間に自身の身体を入れて二人を引き離す。

 

どう見ても御行が眞妃に良からぬ事をして、眞妃が泣いてる様にしか見えない。

 

御行がミコに何か言っているが、かぐやの耳は声を伝える役割を放棄した様に何も聞こえない。

 

かぐやは見ている光景を信じたくなかった。

 

両手で口を押さえたが、同時に涙が流れ始める。

見たくない現実を見ない為に、想い人に泣いてるところを見られない為に、かぐやは外に走り出した。

 

 

 

『四宮!』

 

 

体育倉庫から離れていくかぐやを視界に捉えた御行は、一瞬躊躇ったがかぐやを追い掛ける選択をする。

背中越しにミコに訴える。

 

 

 

『後で説明するから、四条を頼む!』

 

 

意外に足の速いかぐやを見失わない様に御行は全力で追い掛ける。

直ぐにかぐやの歩みは近くの校舎裏の人気のない区画で止まった。

暴れる心臓を落ち着かせ、努めて冷静にゆっくりとかぐやに近付く。

 

 

 

『四宮、こっちを見れるか?』

 

 

かぐやが頭を左右に振るのを確認して歩みを止める。

 

 

 

『さっきの事、話させてくれないか?』

 

 

続けて声を掛けるが、かぐやの肩が震えてるのが見て取れる。

 

 

 

『そっちに、行く。』

 

 

ゆっくりとかぐやに近付く。

大きな声で話し掛けて誰かに聞かれては困る為に、出来れば間近に近付きたい。

 

 

 

『何を、してたんですか?』

 

 

二人の距離は御行が腕を伸ばせばかぐやに届くほどに近付いた。

その刹那に、かぐやから御行は問い掛けを受ける。

震える声と身体はかぐやが自制を失わない様にしてる反動に感じれて、御行の心が痛む。

 

 

 

『備品の確認で体育倉庫のドアを開けたら、四条が中で一人で泣いてたんだ。

見なかった事にしてドアを閉め直そうとしたら、四条に呼び止められて・・・。』

 

 

『・・・違うのでは、ありませんか?

 

眞妃さんと、

 

・・・そういう事を、男女の事を・・・。

 

だから、二人で。

 

眞妃さんが泣いていたのは、そういう事では・・・。』

 

 

ゆっくりと、確認する様に言葉を紡ぐ。

 

少し落ち着いてきたかぐやは意を決して御行に体を向けるが、かぐやが目にしたのは意外な御行の姿だった。

呆然と立ち尽くした御行は涙を流していた。

思わず息を呑むかぐや。

 

初めて、ハッキリと御行が泣くところを見たのだ。

 

涙ぐんだり軽く泣くところは見た事はあるが、ここまでハッキリ泣いてる御行を見た事がかぐやは無かった。

御行は特にかぐやには、そういう姿を結婚してからも見せたがらなかったからだ。

 

当の御行はかぐやに疑われた事がショックだった。

そして、ショックのあまり座り込んで泣き出してしまった。

 

完全に立場が逆転してへたり込んで涙が止まらない御行と、そんな御行を両膝をついて必死に謝り慰めるかぐや。

 

かつて、千花が御行を評した「ダメな子供の躾をしてる気分」と言わしめた事を、かぐやは今体験してる。

 

 

 

『ごめんなさい、言い過ぎました。

けれど、あの状況では。』

 

『こんな状況で信じてくれとは言えないが・・・。

 

だが、虫がいいと言われるだろうが、俺は四宮に誤解される様な事を四条としてない!

 

信じてくれ!!』

 

 

 

副会長職辞退でかぐやへの気持ちが鬱積していた御行は、感情が止められなくなっていた。

 

 

───10分後

 

 

泣き止んだ御行とすっかり毒気を抜かれたかぐやは、お互いに謝り合っていた。

 

 

───更に、10分後

 

 

座り込んでいた二人は互いに謝罪が終わり立ち上がり、自分達がギャラリーに包囲されてる事にやっと気が付いた。

 

 

 

早坂愛が赤面して両手で顔を隠してる。

龍珠桃や小島がニヤニヤしながらこっちを見てる。

マスメディア部の二人が号外を刷るのに駆け出していく。

テーブルゲーム部の二人や藤原千花と伊井野ミコと四条眞妃が真っ赤な顔をしてる。

何故か高等部校長までスマホ片手に居る。

 

 

かぐやと御行の顔が引きつり歪む。

 

 

 

『み、見せもんじゃねぇ!』

 

 

咄嗟にかぐやを抱く様に庇いギャラリーに背を向けた御行は、龍珠桃が追い討ちをかける。

 

 

 

『まあまあ、お熱い事で。』

 

 

途端に激しい羞恥心に襲われたかぐやと御行は耳の先まで真っ赤になる。

 

 

 

『雨降って地固まる。

それで良いじゃねえか。

なぁあ、龍珠?』

 

 

言ってる事はまともだが完全に茶化してる発言を小島がして、桃と二人で笑い出して連れ立って場を後にする。

 

 

 

『おお、新しい出会いデス。

では皆さん、しーゆー!』

 

 

スマホ片手に校長も場を後にする。

 

恥ずかしさと咄嗟に庇って抱き合う体勢になった為、至近距離に互いに相手の真っ赤な顔がある分、余計羞恥心を刺激する。

 

 

 

『『ここからどうしたらいいんだろう・・・。』』

 

 

二人でモジモジしてると眞妃が爆弾を投げる。

 

 

 

『かぐや、早くしないとあの子達、号外刷っちゃうわよ。』

 

『『へっ!?』』

 

 

事態を理解したかぐやはマスメディア部の二人を止める為、慌てて駆け出す。

 

 

『会長、後で!』

 

 

かぐやの視界に困惑して立ち尽くす御行と、楽しそうに手を振る眞妃が映る。

「貴女のせいでしょ!」と言いたかったが、今は号外を止める事が先と加速する。

愛もかぐやを追いかけて行く。

かぐやに置いていかれた御行に眞妃が追加の爆弾を投じる。

 

 

『じゃあ、「御行」。

そういう事で後はお願い。

私も「スッキリ」したから帰るは。

色々「ありがとう」。』

 

 

 

『四条、その言い方はわざとだろう?

恩知らず!』

 

『さあ〜ね〜。』

 

 

「だって、ムカつくのよ。」とは言わずに、手をヒラヒラさせて去っていく眞妃と入れ替わりに、千花とミコは詰問する気満々で御行ににじり寄ってくる。

テーブルゲーム部の二人は興味津々で御行の退路を断つ。

万事休すかと諦めた御行は、ここで話すのは不味いからと四人を伴って生徒会室に戻る。

千花に人数分のコーヒーを淹れて貰いながら、かぐやが戻ってくるだろうから話は少し待ってくれと、話を急かす四人を持たせる。

 

少しして号外を差し止めた四宮かぐやが、疲れた様子で愛に付き添われて生徒会室に戻ってくる。

揃ったところで御行は話を始める。

 

 

『詳しい話は四条に許可を取ってないから話せないから、俺の見た事を話す。

詳しくは、後で四条に聞いてくれ。』

 

 

六人に話して聞かせた白銀御行の話は、体育倉庫に備品の確認に行くと何故か引き戸の鍵が開いていて(壊れてた)、中から物音の様な話し声の様な物が聞こえてきたので、意を決して引き戸を開けると、眞妃がマットに突っ伏して泣いていたと。

 

何故泣いていたかの理由は本人に聞いて欲しい(意趣返し)と前置きした上で、見なかった事にしてドアを閉め様としたら呼び止められて、相談に乗っていたら酷く泣き出して慰めていた、と。

 

この説明を聞いて、眞妃を知るかぐやと愛は納得する。

許可なしでは話せないという泣いていた理由も、田沼翼絡みでしょうねとかぐやは理解する。

 

かぐやは「既に」知ってるが、愛は眞妃の恋愛事情を「まだ」知らない。

が、校内で時折見かける眞妃は翼と渚を見つめて半泣きの暗い顔をしていたから、そういう事なんだろうとは理解した。

 

 

 

『それにしても人騒がせな四条さんですけど、それが原因で会長とかぐやさんが何故謝り合ってたんですか?

 

私はそこが謎なんですけど?

 

正直、四条さんの話はどうでもいいんです。

 

会長はヘタレだから女の子に何か出来る度胸無いの知ってますから。』

 

 

『・・・お前はそういう風に俺を見てたのか、藤原書記?』

 

 

なかなかに辛辣な発言の千花。

 

そこまで言っちゃうのと軽く引くミコ以下三人。

 

本当の事だけどそこまで言わなくいいじゃないのと思う、かぐや。

かぐやとは反対に、愛はかぐやの風邪の際の御行の見舞いの一件を知ってる為、苦笑いしてる。

 

 

 

『ヘタレと言いましたけど、どんな状況でも会長なら一線を越えない節度があるという意味ですよ?』

 

 

そう言われると少し気分の良くなる御行。

内心、チョロいと思ってる千花。

なかなか腹黒い笑顔を千花は見せる。

 

 

 

『謝ったのは、色々と四宮には負担を掛けていたなと思ってな。

知っての通り、生徒会は仕事が多い。

やはり、俺がどれだけ頑張っても手が回りきらない。

今日の事で痛感した。』

 

『そんな事ありません!』

 

 

御行の前に座っていたかぐやが御行の考えを否定する。

 

 

 

『会長がどれだけの仕事量を抱えてるか、それを一人で抱えて私達に回さない様にしてきたか、私は知ってます。

私はそれが歯痒くて・・・。』

 

 

それを知りながら、自分の勝手な感情で副会長を固辞していた自分が腹ただしい。

今日も私が一緒に行ってればこんな騒動にならなかったのに、とも。

 

 

 

刹那、突然の大きな音に全員が驚く。

音を起こしたのはかぐやの横に座っていた千花だった。

 

 

 

『怒りますよ、二人とも。

俺が私がって、貴方達二人は何時からそんなに偉くなったんですか?』

 

 

千花の言ってる事を、かぐやも御行もミコも理解できなかった。

テーブルゲーム部の二人と愛はなんとなく理解できたが。

 

 

 

『人間一人が出来る事は知れてます。

だから「仲間」が必要なんでしょ?

 

会長もかぐやさんも俺が私がって言い合ってますけど、それは相手を信頼してないの一緒じゃないんですか?』

 

 

かぐやと御行の二人に衝撃が走る。

 

 

 

「「藤原(さん、書記)がまともな事を言ってる!!」」

 

 

普段を知らないミコは千花を尊敬してるだけに感動してるが、テーブルゲーム部の二人と愛はヤレヤレという顔をしてる。

 

 

『わかった、俺が自惚れていた。

よし、それなら藤原書記には・・・。』

 

 

そういうと御行がソファから立ち上がり生徒会長席の書類をかぐや達に背を向けて少し仕分けして、分けた書類の束を掴んで振り向き直した時にはかぐやと愛しか居らず、千花以下四人はそそくさと生徒会室から出ていた。

 

かぐやと愛は呆れ果ててた。

直前に言ってた事は何だったんだと思うのと、千花以外の三人の素早さにも呆れる。

 

 

 

『ふ、ふっ、藤原書記!?!?!?』

 

 

白銀御行の絶叫が室内にこだまする中、かぐやと愛はヤレヤレと諦めた。

御行より付き合いが長い二人は千花はこういうキャラだと諦めてる。

 

 

 

『お兄、どうしたの?

千花ねぇ達は慌てて出て行ったけど?』

 

 

白銀御行の絶叫を聞きながら御行の妹で中等部の白銀圭が扉を開ける。

 

 

 

『あ、ああっ、圭ちゃんか。

イヤ、何でもない。

それより珍しいな、どうした?』

 

 

『イヤ、お兄に用事があったんだけど、お兄達にお客さんだよ。

元ここの生徒さんらしいけど、会いたい人が居るんだって。

立ち入り許可は校長先生から貰ってるって。

 

どうぞ、こちらが高等部の生徒会室です。』

 

 

『失礼します。』

 

 

圭に促され生徒会室に入室してきたのは、他校の制服を着たポニーテールの女子生徒だった。

女子生徒を見たかぐやは席から立ち上がり硬直する。

御行も愛も驚きを隠せない。

何故なら、三人は「彼女」を知っていたからだ。

 

 

 

『初めまして、白銀生徒会長。

中等部までここの生徒でした、「大友京子」と言います。』

 

 

 

 

 

─────つづく

 

 

 

 

 

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