白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
白銀御行は第68期生徒会長に選ばれたが、四宮かぐやが副会長職を固辞してしまう。
そんな中、四条眞妃と白銀御行が体育倉庫で密会していた。
───放課後・生徒会室
突然訪ねてきた大友京子と、白銀御行等は生徒会室で対面する事になった。
『初めまして、生徒会長の白銀御行と言います。』
『副会長の四宮かぐやです。』
『三月まで中等部でした、大友京子です。』
生徒会室の奥側のソファに白銀御行と四宮かぐやが座り、対面のソファに大友京子と案内してきた関係で御行の妹の白銀圭が座る。
早坂愛はかぐやの横に座る事になった。
愛は関係者ではないから退室しようとしたが、かぐやに残ってくれる様に頼まれたのだ。
かぐやの発言に一瞬だけ御行が驚いた表情をしたが、直ぐに表情を引き締めたが気のせいか安堵した表情になったのを、妹の圭は見逃さなかった。
副会長とかぐやが名乗ったという事は問題は解決した様で、兄達にお節介焼かなくても良くなったようで、圭は胸を撫でおろす。
寝室は同じ部屋を仕切っただけなので、お兄が沈むとこっちまで引っ張られるからイヤだからと訪ねてきたけど、無駄足で良かったと圭は思ってる。
『それで、大友さん。
今日はどの様なご用件で。』
『はい。
・・・実は、石上優さんにお会いしたくて、伺いました。』
畏まっているだけかと思ったがそれだけではないなと御行は思う。
石上優と大友京子の間にはある問題が起きていて、それが為に石上は半強制的に引きこもりになっていた時期がある。
その優を引きこもりから連れ出し
、生徒会会計に任命したのは御行だった。
最も、優の「事件」を見つけてきたのは横に座るかぐやだったが。
しかし、会わせて欲しいと言われてもどうしたものかと考える。
件の石上優は、体育祭の紅組応援団の練習に行っている。
最近はそのまま帰るから、今日は生徒会には顔を出さないはずだ。
それに、やはり本人に聞かないと、と考える。
『何分急なお話なので、本人に聞いてみないと即答という訳には参りませんが、お会いになりたいという理由は差し支えなければお教え頂けますか?』
御行が応対している間、かぐやは京子を観察している。
今年の年明け早々に調べた時は闊達な女の子と聞いていたが、今目の前に居る人物は落ち着かない様子で表情も暗く、別人に感じる。
剣道部部長の小島から聞いた通り、元恋人の萩野に襲われ怪我をしたというのは事実の様だが、何が起きたのかは同じ女として想像したくもない。
───もし、私が襲われたら?
おぞましい仮定が現実になれば、私はどうなってしまうのかと考えてしまう。
───御行さんには知られたくない───
かぐやは自身の両腕を掴む手に力が入ってしまう。
『実は・・・、私と石上くんの中等部の時の「事件」は知ってますか?』
『・・・ある程度は、知っています。』
事が事だけに御行の受け答えも慎重になる。
躊躇いがちに俯きながら話していた京子は、意を決したのか顔を上げて自身に起きた事を話し出す。
『中等部の時、演劇部部長の萩野と一時期付き合っていました。
その時に、石上君が萩野を殴る事件が起きました。
私も含めて、突然の出来事に萩野の言い分を信じてしまい石上君は停学処分になりました。
その直ぐ後に、私は萩野から振れました。』
『私は石上君を恨みました。
酷い言葉も言いました。
周りの皆も・・・、石上君に味方してたのは風紀委員長の伊井野さんぐらいでした。
職員室で先生達に横暴だと抗議してるのを、何度か見掛けました。』
『正直、私には理解できませんでした。
萩野に暴力を一方的に振るい、謝罪もしないで私に「解るだろう」って。
そんな石上君を庇う伊井野さんの気持ちが、私はその時は解らなかった・・・。』
次第京子の姿勢が俯き出す。
『私は、進級試験に落ちて他の高校に進学したんですが、新しいクラスで酷く暗い子が居たんです。
何故か気になって、何度か話しかけてやっと話してくれる様になってくれて。
夏休み前に、その子が打ち明けてくれたんです。
秀知院の中等部に通ってた時に、萩野に騙されて酷い目に遭わされて萩野から逃げる為に秀知院を辞めたと。』
『その子は元々は明るい子で、確かに一年の時に居た事を私も覚えてました。
夏休み前に引っ越しで転校したと聞いてましたが、クラスも違い友達でもなかったので忘れていたんです。』
『私はショックで萩野を庇ってしまったんです。
「彼はそんな人じゃない。」と。』
『その時のその子の顔が、あの事件の時の石上君の顔に似てたんです。
誰にも解って貰えなくて、それでも訴えてくる石上君の顔に。』
『直ぐに、その子は学校に来なくなりました。
それで、夏休みに入って家族旅行に行って、旅先で偶然萩野に会ってしまったんです。
私は連絡先を交換して、その晩に泊まり先の近くで会う事になったんです。』
『会いに行ったら、萩野以外の知らない人達も一緒に居て、私は襲われたんです。
・・・あの子や石上君が言ってた事が真実だったんです。』
生徒会室に重い沈黙が下りる。
誰も、なんと言っていいか解らない。
女性陣は青ざめ、御行はかぐやがそんな目に遭わされたらと想像して両手の握り拳に血が滲む。
刹那、青褪めてはいるが目には強い意志が宿ってるかぐやの右手が御行の左手を包む。
『それから、私はあの子に謝りに行きました。
私が間違っていた、と。
最初は相手にされませんでしたが、段々と話を聞いてくれる様になって、最近許して貰えたんです。』
『それで、身勝手ですが、石上君にも謝りたくて、今日来たんです。』
『お前が謝る必要ないだろう、大友!』
急に開けられた扉から件の石上優が生徒会室に入ってくる。
『藤原先輩に呼ばれて、途中から聞いてた。』
京子の真横に立つ優。
『僕は、僕に優しくしてくれた君が萩野と幸せになるなら祝福したいと思ってた。
・・・けど、アイツはそんな良い奴じゃなかった!』
『だから、辞めさせ様としたらアイツは「君を好きにさせてる」と最低な事を言い出して、君をめちゃくちゃにされたくなかった黙ってろとまで脅してきた、最低野郎だ!』
『それなのに・・・。
君が傷付かなければいいと思って、僕は、僕は!』
『こんな事になるなら、あの時に・・・。』
最後は弱々しい声になる。
血の滲んだ優の右手の握り拳が激しく動く。
京子は自身の白いハンカチを取り出すと、立ち上がって優の右手を解き巻き付ける。
直ぐ様、ハンカチは血の色に染まっていく。
優の心情を表す様に。
『石上君、ありがとう。
こんなに思ってくれる人が身近に居たのに、私は気が付かないで・・・。
馬鹿だよね、私は。』
泣きながら優に身を預ける京子を、優は優しく抱きしめる。
扉の外には心配そうに二人を見つめる藤原千花と紅組副応援団長の子安つばめ、扉に隠れて話だけは聞いてる伊井野ミコと大仏こばちが、二人を見守っていた。
『今日は色々あり過ぎだな。』
『全くですよ。』
生徒会室の片付けをしながら、御行とかぐやは今日の出来事を振り返っていた。
あの後、校門まで京子を優は見送りに行き、御行とかぐやを生徒会室に残して他の者は帰途についた。
『なあ、四宮?
さっきの大友京子の話だが・・・。
・・・俺は、自分を抑えられなくなるだろう。』
ティーカップ類を棚に直しながら、かぐやは答える。
『そんな「もしも」は聞きたくありません。
・・・でも、私はそうなったら居なくなります。』
『えっ!?』
驚く御行を残してドアに向かうかぐや。
このままかぐやが居なくなりそうな恐怖に襲われた御行は、慌てて彼女を連れ戻そうと動き出した刹那、かぐやが振り向いて口に人差し指を立てる。
怪訝な顔になる御行はかぐやが指差すドアを注視する。
わずかに振動してる様に見える。
静かに近付き勢い良く開けたドアの位置に張り付いて聞き耳を立てていた藤原千花・伊井野ミコ・白銀圭が視界に入る。
『何してるんですか、三人共?』
極めて低い温度のかぐやの冷たい声に、三人は愛想笑いを浮かべながら後ずさる。
少し離れた所にはヤレヤレといった顔の、四条眞妃・早坂愛・大仏こばち・龍珠桃が自分達は関係ないといった顔で立っているが、かぐやの鋭い視線が四人を撫でる。
かぐやの後からは怒りの炎を纏った御行が近付いて来るのが見えた。
戦術的撤退を選んだ七人は、キャアキャア言いながら蜘蛛の子を散らす様に逃げ去った。
『・・・今日は、もう帰ろう。』
『・・そうですね、かなり疲れましたから。
ああ、そうそう。 会長?』
『どうした、四宮。』
居住まいを正して御行に向き直るかぐや。
『副会長職、拝命いたします。
よろしくお願い致します。』
そういうと、かぐやは深々と頭を下げる。
それに合わせて御行も居住まいを正して頭を下げる。
『こちらこそ、よろしくお願いします。』
挨拶も終わり、二人同時に頭を上げて顔を見合わせた二人はなんだか可笑しくなって笑い合った。
和やかな空気のまま二人で帰途につくと、校門横に座り込んでいる優が居た。
心配で付き添っていたつばめが慰めてる様だった。
聞けば格好付けて京子を見送ったは良いが、実は萩野達に襲われたのは娘の行動を怪しんで後をつけてた京子の父親で、京子自体は無事だったのと父親は空手の有段者だったので、萩野達の方が自業自得の状態になったそうな。
想像してたのと全然違う内容に、京子を見送った後に優は気が抜けて座り込んでしまったのだ。
それを知ったかぐや達は、
『『『『『言い方が紛らわしい!!!!!』』』』』
と、絶叫した。
父親の事は一言も言わなかった京子に呆れる一同だった。
お陰でかぐやと御行は、互いに真剣だったからこそまた恥ずかしい思いをする事になった。
体育祭には見学に来る約束を京子と交わした優だが、先が思いやられると感じていた。
───夜・かぐやの寝室
『はぁ〜〜〜〜。』
テーブルに突っ伏して長いため息の出るかぐや。
これは聞いてほしいのだなと察した愛は、ベットを整えながらかぐやに尋ねてみる。
『どうしたんです、かぐや様?』
『・・・失敗したな〜、と思ってね。』
テーブルに突っ伏したまま、かぐやは愛に自分のスマホを見せながら答える。
『み・・・、会長に先にスマホに変えさせるより私が先にスマホに変えておけば、生徒会でスマホではなくなるのは会長だけになったのに。
そうすれば、会長は焦って・・・。
少なくとも夏休みの連絡はもっと取りやすかったのに・・・。
そう思ってね。
ハァァ〜〜〜・・・。
バカよね、私。』
「ええ、十二分に承知してます。」と言いそうになって慌てて口を抑えた愛。
他愛のない会話ではあるが、かぐやからすると気楽に話せるのは泉岳寺別邸内はかぐやの寝室ぐらいである。
別邸内を全ては調べきれてないが、既に10機以上の盗聴器の存在を別邸の建物内外に確認している。
かぐやの寝室は愛が居るから盗聴器は付けられてないのだろう。
あり得るでしょうねと思って念の為に調べてみたらこの結果だったので、うんざりもしてる為に出たのが冒頭のため息でもある。
四宮家の近侍制度には密告をさせるのが慣例の様であり、側にいる早坂愛にも密告をさせている。
白銀かぐやが経験した通りであれば、「来年」早々に愛とかぐやの関係は変化する。
最悪な結果にならなかった「だけ」マシなだけで、心底最低な思いをさせられ、愛には今させている。
───子供が生まれたら犬を飼えという。
子供の成長と犬の成長の時期が重なり、犬は子の大事な友になるが、犬は寿命が人間より短い。
老いと死別を経験させ子供の成長に寄与するから良いのだとか。
それを人間に強制するのが、四宮家の近侍制度と密告制度。
何時から制度されたか、解らない。
四宮家の先祖の誰かの経験か知恵か、他者の入れ知恵か。
四宮家が没落していれば消滅していたであろう制度だ。
『つくづく、因果な家・・・』
愛にも聞こえない様に小声で呟く。
愛が『クソ爺』とかぐやの父親の四宮雁庵を指していう気持ちが良く解かるし、同じ気持ちになる。
お父さん・・・
私は貴方を、そう呼べなくなってしまいそうです・・・
黄光達兄弟にも好印象は持てない。
しかし・・・、
スマホ絡みで何か忘れてると思うのだが、それが何か思い当たらない。
何かしら?と思っていて、かぐやは気が付く。
『あっ!?
あああああぁぁぁぁぁ!!』
『いっ、いきなり、どうしたんですか!?』
突然のかぐやの大声にひっくり返りそうになりながら愛は理由を聞く。
『どうしよう、愛!
会長とライン交換してない!!』
『えっ・・・、してなかったんですか?』
『・・・完全に、・・・忘れてた。
私のバカーーー!』
整えたばかりのベットに飛び込んでジタバタを始める。
今晩はこれで既に3回目だ。
のたうち回るのはかぐやの勝手だが整え直すのは大変なんですけど・・・、とは言えない愛だった。
今夜は久々の「わがままかぐや」になってるなと、諦めモードになる。
まあ、会長とあれだけやらかしてれば仕方ないか・・・。
と、いうより、アホな作戦で会長をスマホに替えさせたのに、何やってるのこの子は?と、愛は呆れてしまった。
───一方、夕食時の白銀家
白銀圭は上機嫌で料理を食卓に並べる。
普段はご飯担当は御行なのだが、今日は疲れてるだろうと圭が代わったのだ。
圭の悪い癖は、作れるのに面倒がってやらない事なのだが、今夜は野菜炒めを作ってる。
昼間はなかなか良いもの見れたし、千花ねぇと久々に楽しかったなと。
しかし、帰ってからの御行のご機嫌取りが大変だったが・・・。
久々に「怖い御行」だったが、かぐやの話をすると途端に軟化したから多少楽だったが、恨み節を言われはした。
『お兄、出来たよ。』
『ああ、ありがとう。』
参考書を読みながら待っていた御行と二人だけの食事が始まる。
父親は、今日から数日は泊まりの臨時の仕事に出掛けた。
『前から親父はたまに泊まりの仕事に行くけど、何の仕事なんだろうな?』
『前に聞いた時は、山の中の高圧電線の鉄塔に登る仕事で欠員出たから行ってくるって言ってたから、それじゃない?』
『正直、親父の変なところで垣間見れる高スキルは、毎回驚かされるけどな。』
『凄いよね、普段が普段なだけにギャップがね。』
テレビは丁度気象予報の話をしていて、今夜は山間部は少し冷えるので体調管理にお気をつけくださいとアナウンサーが言っている。
心配になるがこういう時は父親は電話になかなか出ない。
『そういえば、かぐやさんと仲直りできたんだ、お兄。』
『仲直りって、四宮と俺は喧嘩してないぞ。』
『ウソウソ、丸わかりだったよ。』
『してないって。』
『手を握って貰ってたのは、誰だっけ?』
『うっせえなぁ。』
途端に赤くなる御行。
最近、圭は御行に反発するよりからかう事が増えた。
憧れの先輩の四宮かぐやから兄の白銀御行を好きだと告白されてから、二人が上手くいく様に気にしてない様に見せて、物凄く気にしてる。
そうすると妹目線だけでは気が付かなかった「男」としての兄の魅力が解ってくる。
───目付きは悪いと思ってる点は、かぐやと違うが。
かぐやさんが姉か・・・。
なんか、嬉しいなと思ってしまう。
話が話だから、血が滲むほど握り拳を作るのは、そんなにかぐやさんが好きなんだと兄ながら圭は妬けてしまう。
かぐやさんが羨ましいと思うけど、あれで二人とも周りにバレてないと思ってるのが面白い。
反発するより弄る方が楽しい。
もうすぐ、兄はかぐや「姉さん」のものになってしまうのだから。
───高等部体育祭当日・・・の前に
かぐやは衝撃的な出来事を見てしまう。
御行のソーラン節(矯正前)を見てしまったのだ。
確か今ぐらいに練習していたわよねと、ソーラン節が聞こえてきたので内緒で見ていて驚かせ様として体育館を覗き、御行が悪魔に操られでもしてる様な奇怪な動きをするところを見てしまった。
入口の引き戸に手をかけて固まってしまったかぐやは、やっと合点がいった。
時折聞いていた千花の御行評がかなり酷かった事が、コレが原因だったかと。
だが、
かぐやは段々腹が立ってきた。
「何故、藤原さんには見せられて、私には見せられなかったの?」と。
当然、かぐやに幻滅されると解りきってるからなのだが、かぐやは思う。
「これぐらいで「貴方が好き」という私の気持ちが揺らぐとでも!」と。
───御行の目付きが変わって、途端に魅力を感じなくなった事で「真実の愛」云々言って、柏木渚に「頭が痒くなる」と言わしめた御仁とは思えないものだが。
幸いというか、かぐや自身も体育祭の練習の為に体育服だったので、二人の元に乗り込んで行った。
『し、四宮!?』
『えっ、かぐやさん!?』
驚く二人を気にもせずに、強い決意をして大股で御行に近付いたかぐやは、今の姿を見られたくなかったかぐやの登場に動揺する御行に唐突なハリセンを頭に見舞う。
不意打ちの一撃に御行は痛みに震えるが、かぐやが追い打ちを繰り出す。
『なんですか! そのへっぴり腰は!!』
『だからって、叩くな!』
『か、かぐやさん、それはあんまりでは?』
『藤原さん!』
『ハッ、ハイ!』
『貴女の苦労は、やっと解りました。
私も手伝わせてください。』
言うが早いか、何処から出したんだと言いたくなるハチマキを締めると、かぐやは御行に向き直ると目から炎が昇る様な眼光で御行を睨みつける。
かぐやの眼光にビビる御行。
千花が二人の間に入る。
『ダメです、かぐやさん!
怯えさせたら、この子はダメになります。』
『千花さん、甘い顔をしてはダメよ。』
『問題点を抽出して一つ一つクリアしないといけないんです。
ものすごく時間と手間暇を掛けないと、この子は伸ばす事が出来ないんです!』
『大丈夫です。
この子は「根性」だけはあります。
それに時間がありません。
即席でも形にして磨き上げれば間に合います!』
貶してるのか、褒めてるのか、そもそも何の話なのか解らなくなりそうな激論を二人は交わす。
とりあえず、埒が明かないのでメインの指導を千花、フォローをかぐやがする事で、折り合いがついた。
それがハマった。
根気よく基本を千花、こぼれる部分をかぐやがフォローしつつ進捗管理と第三者視点での意見。
それを全て御行が持ち前の努力と根気で達成して、訓練開始から三日で
「ソーラン節」を完成させた。
完成した時、三人は抱き合って喜んだ。
『しかし、一時はどうなるかと思いましたよ。』
『ごめんなさい、私が割り込んでしまったから。』
『いいえ、一番の原因は御行君の自覚の無さですよ。』
『自覚がないって、そこまで酷くなかっただろう。』
『『それが自覚がないんです!!』』
かぐやと千花が綺麗にハモる。
笑い合う千花とかぐや。
落ち込む御行。
けれど、これも悪くないなと御行は心地よい疲れと満足感で二人と歩いていた。
因みに、かぐやは千花と御行とライン交換して、ミコと優を加えた五人のライングループ「生徒会連絡網」も出来、夜もお喋りに花が咲く様になった。
───高等部体育祭当日
プログラムは順調に進行したのだが、保護者席のある人物の石上優への声援は、優の同学年(特に女子)に巨大な波紋を呼んだ。
優が同学年から目の敵にされた原因であった「大友京子」自身が、優に熱い声援を送っていたのだ。
今まで散々に優をなじっていた彼女達はその根拠を失う事になり、ある者は沈黙を、ある者は大友京子に敵意を、ある者は混乱していた。
『いい気味ね。』
今回は愛とかぐやは白組、御行と他のメンバーは紅組になったので、生徒会メンバーを応援したいが憚られるかぐやは、フラストレーションを優を目の敵にしてきた人々にぶつけていた。
『かぐや、あの子が例の子?』
『あら、眞妃さん。
ええ、あの子がそうですよ。』
『なかなか熱心に応援してるわね。』
同じ白組の眞妃が声を掛けてきた。
彼女は大友京子の件で石上優を買っている。
『今更引っ込みがつかないのでしょうけど、皆さんは梯子を外されたと思ってるのでしょ。
彼女が真実を告げても聞く耳を持たないそうですから。
だから、彼女は「行動」で示してる様です。』
『フフッ、面白いものね。
あの子が頼んだ訳でもないし、違う学校に行ってるのに、勝手に優を弄ってたんだから。』
『先入観と決め付けは意外と強固ですからね。
自分で調べたり確かめたりは、なかなかしませんよ。』
かぐやと眞妃、二人ともかなり黒いオーラを発しながら石上優を虐めてきた連中を笑い合っているが、愛はかなり引いていた。
この二人は敵に回したくないな、と。
───グランドが見える校舎の通路
『先日は失礼致しました。
白銀会長のお父様ですね?』
『ええっと、どなたですかな?』
『失礼致しました。
生徒会副会長を務めています四宮かぐやと申します。
会長にはいつもお世話になっています。』
『しのみや、四宮・・・、ああぁ、なるほど。
こちらこそ、初めまして。』
保護者席ではなく、校舎の通路で壁にもたれかかりながらノンアルを飲んでいた白銀の父親にあいさつをするかぐや。
「経験」した体育祭では、ここで初対面で御行への想いを喋ってしまい、以後いじられてばっかりだったが、今回はそうはいきませんよと拳を握るかぐや。
『あいつが生徒会長ね。
器じゃないだろうに。』
『・・・白銀御行さんは、私を庇って生徒会長になってくれたんです。』
『・・・どういう事だい?』
『規定で推薦人が百人を超えると自動で立候補する事になるんです。
昔は、それで生徒会長が選挙前に決まってたそうなんです。
それで、私が立候補させられそうになった時に御行さんが立候補してくれて、それで票が割れて私は立候補しなくてよくなったんです。』
『御行さんは二期連続生徒会長で特待生としても初めての快挙なんです。
それに、御行さんは私の価値観を変えてくれた大切な人なんです。』
『あいつがね・・・。』
『お父様にはお考えがありましょうが、息子さんは素晴らしい人なんです!
彼が私の人生を変えてくれた、物凄く大切な人なんです!!』
御行の父親の素っ気ない態度にかぐやはつい力が入って言ってしまった。
そうなると、開き直ったかぐやは白銀の父親に礼を述べる。
同時に、謝罪もする。
四宮の家が原因で白銀家に多大な苦痛を与えた事を。
だが、その謝罪は御行の父親は受け付けなかった。
『子供がそんな事を考えなくて、良い。
それより、御行とやりたい事をやりなさい。
キスとかガンガンやっとけ。』
そう言ってかぐやの肩を叩くと、保護者席に戻って行った。
───体育祭終了後
四宮かぐやは、早坂愛から大友京子の調査結果を聞いていた。
『大友京子を騙して襲った萩野は、死亡してます。』
『・・・それはどういう事なの?』
『大まかな話は大友京子自身の話で合ってますが、強姦未遂は大友京子の父親の突入が僅かでも遅れていれば、強姦になっていた状況でした。』
息を呑むかぐや。
愛が重い口を開き報告を続ける。
『その後、逮捕された萩野達ですが全員から薬物反応が出て、萩野は三日後に心不全で死亡してます。』
『・・・。』
───体育祭は紅組勝利で終わった。
優は校門まで京子を見送っていくと、タクシーと一人の男が待っていた。
『彼がね、話してた子なの。
私の・・・、彼氏。』
石上優は強烈なショックを受けた。
また、このパターンかと・・・。
『今日は楽しかった。
久々にあんなに大きな声出したよ。』
『結構びっくりしたけどな。』
『じゃあね。』
優に見送られタクシーに乗り込む京子。
タクシーが動き出す瞬間、京子が涙を流したのを優は見てしまった。
走り出すタクシー。
気が付いたら、優はタクシーを追い掛けていた。
『やり残した事は、出来た?』
彼に問い掛けられて京子は言葉に詰まりながら、想いを紡ぐ。
『私がバカだから石上君を傷付けた。
・・・私は、嫌われたくないから皆に話しかけて、馬鹿にされてる事を無視してたのよ。
萩野みたいな奴の本性を判らないで・・・。』
『あのぅ、男の子が追い掛けて来てるよ。』
タクシー運転手に告げられて慌てて後部座席から振り返る京子。
『運転手さん、速度を上げて!』
『信号なんだよ。』
赤信号で止まるタクシー。
追い付く優。
観念した京子はタクシーを降りる。
『何で、追いかけて、来たのよ。』
『お前が、泣いてるのが、見えた。』
『何で、見ちゃうのかな。』
困った顔で優を見返す京子は、息の上がる彼を見つめる。
本当の事を言おうと・・・。
『・・・本当はね、萩野達に殴られて裸にされたの。』
息をのみ、目を見開く優。
彼女は続ける。
『本当は言いたくなかった。
・・・でも、知って欲しいとも思う。
裸にされて押さえ付けられて、抵抗してもダメで・・・。
萩野が笑いながら覆い被さって来ようとした時に、お父さんが飛び込んできて、萩野達を殴ったの。
・・・その姿が、萩野を殴ってくれた石上君と重なったの。』
『「解るだろう」って石上君に言われた事、その時理解できたよ。
なのに私は、そんなに想って助けてくれようとした君を裏切って傷付けた・・・。』
『会わせる顔もないし・・・。
でも、誤解を生んだ原因は私だから、君を傷付け続けてる原因を少しでも減らす事が出来たら、と思って。』
『副会長の四宮さんに教えて貰った。
君が停学中も学校に来る様になった今も、どれだけ傷付けられてるか。
・・・でも、私が否定しても皆は信じてくれないの!
本当に、ごめんなさい。』
京子の涙が地面を濡らす。
『・・・笑ってくれよ。
大友、僕は君が笑ってくれたら救われるから、大丈夫だから。』
『笑ってくれよ。
泣いてる大友は、らしくないよ。』
『石上君・・・。』
既に信号は5回青信号に変わったが、この道は一方通行でこの時間は交通量が少ない為に後続車はまだ来ない。
タクシーはエンジンを切り賃走のメーターも切っている。
ラジオから流れる音楽だけが辺りを包む。
『・・・もう、行くね。
お別れだよ、石上君。』
『ああ、元気でな大友。
・・・ありがとう。』
『うん。
私もありがとう、優。』
タクシーのドアが開き、閉じられる。
エンジンが掛かり赤信号が青信号に変わる。
ゆっくりと、唄を流しながらタクシーは走り出す。
『泣いているのに
微笑まないで
唇が震えている
ちがう愛ほど余計つらいこと
誰よりもわかるから
強がってみせる 友達のままで
見つめている 僕にまで
想いをいま届けたい この街角で
抱きしめたい かわらない強さで
あなたを いま見つめてる この先ずっと
ただ誰より 瞳きれいな 恋人』
─────つづく
使用楽曲
鈴木雅之「恋人」
楽曲コード017-6281-8