白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
バイクの免許を勝手に取得した四宮かぐやは、兄の四宮雲鷹から貰ったバイクで先行して出掛けて、近侍の早坂愛は必死の思いで追い掛ける事になった。
───放課後・一階下足場近くの女子トイレ
トイレの洗面台に寄りかかりながら、四条眞妃は話し出す。
『・・・パパが、私を転校させると言い出したのよ。』
『転校?』
『・・・私は、幼等部から秀知院で友達も殆どここの子よ。
卒業前に他の学校なんて考えた事もなかったわ。
・・・パパは高圧的に言ってくる事は殆どないけど、今回はかなり強く言われたのよ。
転校っていうのは、そういう「段階」に入ったって事でしょう。
アンタも・・・、かぐやも聞いてるでしょ。』
『・・・私は末妹だから蚊帳の外よ。
それでも、多少は聞くわ。』
眞妃の横に並んで同じ様に洗面台に身を預けてるかぐやは、眞妃に同意しつつ九月以降(タイムスリップ以降)の眞妃との関係を思い出したが、端から見てそんなに距離を縮められたかしら?と首を傾げ。
「経験」したあの頃はそんな話は露程もなかったし・・・。
『ねえ、眞妃さん?
確かに以前に比べれば私と貴女はこうやって話してるけど、他人の見てる前で私達ってそんなに話してる?
殆ど生徒会室で皆さんとで会ってるから、私と特別仲良くしてると勘繰られる状態?』
『・・・それは私も引っ掛かってるのよ。
スープジャーも一回きりだし、私が自分で洗って返したからパパは知らない筈だし・・・。』
腕組みしながら眞妃も同意する。
二人の中では両家の抗争しか思い当たる節がない。が、二人とも腑に落ちない。
両家の関係は、かぐやと眞妃が産まれる前から固まっていた。
かぐやと親しくなる事が都合が悪ければ、眞妃をかぐやと同じ学校の秀知院の高等部まで通わせる事がおかしい。
両家の険悪な関係は今更な話だ。
眞妃の父親の「四条真琴」氏は子煩悩なところがあるから、強気な眞妃の扱いに困るところがあるぐらいなのに、眞妃が落ち込むほどに言うのも妙だ。
───そうなると、別の力が働いた?
───まさか、バイクで京都まで行った反動?
・・・凄く中途半端で回りくどいのだけど。
しかし、眞妃とこういう話が出来るほどになれたのに、理由の解らない力に邪魔されるのは癪だ。
どの道仲直り出来るのだし、こんな顔した眞妃を見るのは嫌な気持ちだわ、と。
我ながら悪手でしょうけど、「調整」の下地を作る必要もあり、時間も殆どない中、飛び込んでみますかとかぐやは考えていた。
『眞妃さん、各生徒の家庭の事情に踏み込むのは良くないと言われるでしょうけど、「生徒会」として今回の貴女の事情は静観すべきではないと考えます。
お父様とお会いする事は出来るかしら?
高等部生徒会「副会長」として、お話をお聞きしたいのだけど?』
意外な申し出に驚く眞妃だったが頭を振る。
『逆効果になりかねないわ。』
『それでも、よ。』
『・・・アンタ、本当に変わったわね。』
『そうね、誰の影響かしら?』
『なに、惚気る気?』
『会長は心配性なだけよ。
積極性は貴方の影響よ。』
『そうね、以前のかぐやからは考えられないわね。
こんな話が出来る様になるなんて。』
そう言いながら、四条眞妃は笑っていた。
もっとも、未来で眞妃と交流する様になってから眞妃の積極性の影響もかぐやは受けているので、私が変われたのは御行さんや貴女達のおかげよとかぐやは思ってるが。
近い内に口実を設けて眞妃の父親の四条真琴氏に、「生徒会副会長」としてかぐやが対面する約束を取り付けて二人は帰ろうとしたが、下校時間を過ぎた事で正面玄関を施錠されていて、渡り廊下から帰る事になった。
普段の二人からは想像できない、靴を片手に靴下で廊下を歩く姿は何故か可笑しくてクスクス笑いながら歩いた。
途中、スマホゲームをしていた校長を見掛けたが二人は無視した。
もっとも、校長はゲームを口実に徘徊してるが見廻りも兼ねてる事をかぐやは知ってるが。
ふざけた男と思っていたが、食えないところのある男でもある。
買いかぶりかもしれないが・・・。
───夜、かぐやの寝室
ベッドに入っていたかぐやは、スマホの画面に目が点になっていた。
白銀御行からの連絡、
「四条眞妃が転校するらしい。」
に、である。
『なぁ、なんで、知ってるんですか!?』
考えられる事は、眞妃が御行に教えた。
いつの間に、二人は連絡先の交換を・・・。
しかし、そういえば、既に「経験」した今秋にはいつの間にか生徒会室に来る様になっていて、御行さんや石上君と友達になってたわね。
後で知ったけど、三人で遊びに行く時もあったとか・・・。
段々、かぐやの中にドス黒い感情が渦巻き始めていた。
そんな中、御行からの第二報。
「四条とライン交換した。
言いそびれていた、申し訳ない。」
『やっ、やっぱりそういう関係だったんじゃない?!』
猜疑心から薄っすら涙も出てくる。
渦巻いていたドス黒い感情はかぐやの身体から染み出してきて陽炎の様に立ち昇る。
可視化しすれば天蓋に届く程の高さとなり、かぐやのベッドは別空間の様になっていた。
刹那、かぐやは自分の頬を両手で叩く。
大きく息を吐き深呼吸を繰り返して自分の中に渦巻く瘴気を吐き出していく。
(危ない危ない、何をやってるの、私!)
冷静になりはするが、しかし、不快は不快である。
『よし、明日シメる!
そして、私は寝る。』
割りと無条件に周りを助ける御行は、かぐやに恋敵を定期的に発生させるので、まともにヤキモチを焼いていては身が持たないかぐやは、ふて寝する事に慣れていた。
が、しかし、かぐやは予想外の爆弾を振り回される事になる。
───翌日、生徒会室上の秘密部屋
かぐやは理由を言いはしないが、昨日の一件で御行はかぐやに投げ飛ばされていた。
───口実は護身術伝授
に、かこつけた、「四宮かぐやの知らぬ間に四条眞妃とライン交換した事」に対するお仕置きだった。
アメリカ留学中に必要性から有段者のかぐやから御行は護身術を習っていたが、アメリカでも御行の優しさは勘違いされやすく余計な虫が湧いてくるのだが、御行の人の良い(優柔不断な)態度が余計相手を増長させて、虫を追い払った後で御行にかぐやがケジメ(折檻)を付けて仲直りが二人のお決まりになっていた。
かぐやにヤキモチを焼かれて内心喜ぶ御行もタチが悪いが・・・。
実際問題、来年の「事件」の際に少しでも御行が怪我をしなくて済む可能性を上げておく必要もあり、時間を考えれば今の内に鍛えておく必要もあった。
───八割方、かぐやの鬱憤晴らしだが。
『おっ、俺は初心者だぞ?!
いきなり投げ飛ばすな!!』
『何言ってるんですか?
暴漢がこっちの都合に合わせてくれますか?』
絶対零度の氷のかぐや姫の態度に怯む御行。
このところ、かぐやの態度は優しかっただけに御行には余計にキツイ。
『大体、なんで急に護身術なんだ!?』
『覚えて損にはなりませんよ〜、会長〜。』
凄みのある笑顔が御行に有無を言わせぬ空気で追い詰める。
壁に簡易防音処理に床にカーペットを敷き詰めただけ(早坂愛に頼めないのでかぐや自身がこっそりDYIした)の生徒会室上の秘密部屋は、練習場としてはまあまあな広さがあったので、体操着に着替えた(御行は強制された)二人は練習をしていた。
『会長、体硬いですよ。
手順と瞬発力が大事なんですから。
決まった形に持ち込んで、こっちのペースに相手を嵌めるんです。』
御行は咄嗟に「普段のお前だな、四宮。」と言いそうになり、顔を背ける。
───言ったら殺される。
今のかぐやの態度からそう確信する御行だった。
『し、四宮、すまんがそろそろ生徒会室に戻らないと・・・。』
『お待ちなさい、まだ終わってませんよ。』
階段に逃げ様とする御行の襟首を後ろから掴む、かぐや。
そのまま背負い投げの体制に入ろうとして御行は慌てる。
『いやぁ、もう基本は解ったからぁ!
これ以上はぁ!!』
『私は!
会長に怪我とかされたくないんです!!』
『練習で怪我するっつうの!』
─────下の生徒会室
『石上、会長と四宮先輩は?』
『うえ、上。』
そう言いながら天井を指差す石上優。
激しい音と僅かな振動が伝わってくる。
今日の業務の書類を準備しながら伊井野ミコは、静かになった天井を見つめる。
『正直、意外だな〜。』
『何が、だ?』
『四宮先輩って中等部の時に何回か見かけたけど、近寄りがたい雰囲気だったわ。
高等部で会った時は親しみやすい雰囲気になって、よく白銀会長と連れ立って歩いてたから。
私は一年ズレてるからその間に何があったか知らないけど、二人はお似合いだよね。』
『・・・俺も伊井野と一緒で詳しくは知らないけど、お似合いってところは同意するな。』
『色々あったんでしょうね。
藤原先輩も交えて。』
『二人の普段を知ってるだけにな。』
『毎日激しいよね、二人とも。』
『最近、特にな。』
二人してクスクス笑い合う。
『お〜い石上、何勝手な事言ってる?』
『あ〜ら、伊井野さん、どういう意味かしら?
「毎日激しい」って?
石上君も伊井野さんも稽古つけましょうか?』
いないと思って二人とも好きに言ってたので、御行とかぐやからの猛烈な圧に晒されて冷や汗が出る。
『嫌だな〜、会長。
四宮先輩と仕事してたんでしょ?』
『そ、そうですそうです。
毎日二人は大変だなって石上と話していただけで。』
作り笑顔と適当な言い訳で誤魔化しに入る伊井野と石上。
『仕事というか、四宮に絞られてただけだ。』
『人聞きが悪いですよ、会長。
愛ある指導をしただけです。』
『余計、人聞き悪いわぁ!』
『それでは、私はお先に着替えますから。
会長、少し我慢してくださいね。
見たら怒りますよ?』
『見る訳ないだろう、四宮。』
『・・・今の会長の言い方はどう思います、伊井野さん?』
『会長〜、流石に失礼ですよ。
そこは「お前の事なんか、気にしてねぇよ(ポッ)。」が正解ですよ。』
『お前の趣味は知らんわぁ!』
『伊井野さん、フォローの方向性が違いますよ。』
『先輩先輩、着替えないと風邪引きますよ?』
『ああっ、そうでした。
急がないと。
直ぐ着替えますから、会長ごめんなさい。』
『慌てなくていいぞ、四宮。』
『ところで、なんで護身術だったんですか?』
『いやなあ、来てそうそう四宮に「手を掴んでみてください」と言われて、意図が解らないから断ったら逆に手を掴まれて、ひねり倒された。
そこから護身術を教えると着替えさせられて、さっきまで上で練習してたんだ。』
『それで、僕が来た時に二人で上に行ったんですね。
しかし、なんでまた。』
『あら、今時は護身術ぐらい覚えていてもおかしくないですよ。
会長、空きましたからどうぞ。』
『ああ、分かった。
・・・覗くなよ?』
『石上くん、会長をスマキにするからロープ頂戴。』
『なんでだよ!』
今日は二人に関わりたくないなと、ミコと優は思った。
特に、四宮かぐやが不機嫌なのは見て取れる為、早々に業務を処理したミコと優は生徒会室を後にした。
二人きりになった生徒会室。
今日は藤原千花は来ない様に思われた。
『四条眞妃さんのお父様にお会いしようと考えてます。』
『生徒個人の家庭事情に生徒会と言えども立ち入るべきではない。
・・・と言いたいがな、四条のあの様子では黙っておくのは得策ではないだろう。
俺も行こう。』
『いえ、会長は二の矢として控えていて欲しいので。
いきなり二人で伺っても変に誤解されては困りますから。』
(本当は一緒に来て欲しいけど、これまでの四宮家と四条家の事を考えると、御行さんを巻き込みたくない。)
『それもそうか。
確か、四宮と四条は従姉妹だったな。
親戚なら話しやすいか。』
(四宮と四条は対立してた筈だが・・・。)
『遅くなりました。』
何時になく大人しい千花がその時、生徒会室に入ってきた。
『藤原さん、遅いですよ。
どうしたんですか?』
『ちょっと部活が・・・。』
非常に歯切れも悪く、何時ものテンションもない。
おまけに、ソファに座ろうともしない。
『藤原書記、何があったか知らんが、あまりに、』
『会長、うるさい、黙れ。』
『藤原しょ、』
『うるさい、黙れ。』
『おまえな!
なんだ、その態度は!!
人が折角取りなそうとしてるのに!』
立ち上がって抗議する御行を一瞥して、吐き捨てる様に悪態をつく千花。
『女の子も口説けないヘタレは黙れ。』
『やかましいわ!
誰が口説けないだ、誰が!?』
『じゃあ、会長。
私を口説いてみてくださいよ。』
『な、っ!
なんでそんな話になるんだ!?』
『出来ないんですか?』
あまりの急展開にかぐやは既についていけなくなっていた。
少し考えて案が思い付いたかぐやは、言い合いをしてる二人の横を通ってお茶を淹れ始める。
電気ケトルが沸騰を始める頃には二人の不毛な言い合いは収まり、淹れた紅茶をそれぞれの前に出す。
かぐやがソファの真ん中に座り直して紅茶を飲み始めると、白銀も席に着き直して紅茶に手を付ける。
かぐやが横を開けたので、藤原もかぐやの横に座って紅茶を飲み始める。
次第に顰め面だった二人が穏やかな表情に変わっていく。
それを見てかぐやは声を出して笑い出す。
『ど、どうしたんですか、かぐやさん?』
『いえ、私が淹れた紅茶でも二人を穏やかな顔にできるのだと思って。』
『・・・。』
『いえ、三人だと思い出しますね、去年の今頃。
まだ生徒会が発足して直ぐの頃、殆ど毎日私と会長が喧嘩みたいになって、千花さんが仲裁してくれて。』
『ああ、あの頃はな。』
『私が尖り過ぎてたんです。
試験の点数で他人に負けたのも初めてでしたから。』
『・・・。』
『あの後、体育祭や試験や奉心祭やら、苦しめられましたね・・・。』
『特に会計関係が死ぬ程うんざりさせられたな。
部費関係は前会長達が処理してくれてたから助かったが。』
『もうあの書類の山は嫌ですぅ〜。』
頭を抱える千花を見つめながら二人は思う。
(貴女、遊んばかりだった(でしょ?・よな?))
『ねえ、千花さん?』
『・・・はい?』
気を取り直して、かぐやは視線を千花に向ける。
受けて千花もかぐやを見返す。
『中等部の頃から、今も貴女が側に居てくれた。
私は、それに甘えてしまって・・・。
この紅茶みたいに、私は貴女を穏やかにできてるかしら?』
『・・・。』
そう言われて千花は俯いてしまった。
それから会話はなく、三人は紅茶を飲み干すと帰り支度をして生徒会室を後にする。
『四宮、訪問の件だが、必要なら声を掛けてくれ。』
『解りました。
その時はお願いします。』
『ああ。
じゃあ、また明日。』
『はい。
また明日、です。』
御行は自転車通学の為に下足場で別れて、校門まで千花とかぐやの二人だけとなった。
『か・・・、ぐやさん?』
『はい?』
『もう少し、時間をくれませんか?』
『・・・。』
何も言わずかぐやは、千花を抱き締める。
誰も居ないはずの夕暮れ終わりの時刻。
かぐやは千花に見送られて車で帰ったが、千花は少し歩くと待っていた御行と合流した。
自転車を押しながら浮かない顔の御行に千花は尋ねる。
『ねぇ、おかしいでしょう、かぐやさんは?』
『何処がだよ。
俺にはいつもの四宮にしか見えないぞ。』
『かぐやさんは強情っぱりの意地っ張りだから、あんなに感情表現豊かじゃないんです。
絶対、おかしな物食べたんですよ。』
『お前の中で四宮はどういう存在なんだ?』
『大切な親友ですよ?』
『言ってる事がちっとも合致しない!』
『氷のかぐや姫時代を知らないからですよ、高等部になってからかな〜り丸くなったんですから。』
『・・・中等部の時は、そんなにすごかったのか?』
『一言言えば三人の心を粉々に破壊し、二言言えばクラス全体を地獄に突き落とし、三言言えば先生を辞職に追い込む、あの頃を知らないから会長はそんな事を言うんですよ。』
『・・・本当に大変だったんだな。』
『ええ、大変でした。
物凄く不器用で臆病で傷付きやすくて、純粋でお人好しで世間知らずで。』
『・・・本当に親友か?』
『親友じゃなければ、ここまで知りませんよ。
かぐやさんは、私には色々教えてくれましたから。』
『・・・羨ましいな、そこまで理解し合えてるなんて。
なら、信じて待ってやれよ。
四宮は、何も変わってない。』
『・・・これだから、胃袋を掴まれた男は。』
『何か言ったか?』
『いいえ、何も。』
『しっかり聞こえてるぞ?
四宮の味噌汁が美味いのは確かだろう。
弁当も美味いぞ。』
『・・・ガッチリ掴まれてるから手遅れか。』
『お前、イチイチ棘があるぞ。』
本人達はいつも通りだが、二人の連れ立って下校して行く姿は、他人には違う様に見えた。
───翌日
いつも通り登校したかぐやは、周囲から好奇の目を向けられてる事に戸惑う。
同級生達とも朝の挨拶を交わしはするものの、皆が余所余所しい。
何故か、
「気をしっかり持ってね。」
「人生こんな事もあるわよ。」
など言われ、意味が解らない。
それよりも、今夜にでも四条家を訪ねようと眞妃を探して中庭の通路まで来て、皆が余所余所しい原因が判った。
掲示板の一角を見つめて立ち尽くす眞妃、心配そうに横に立つ柏木渚を見つけたかぐやは、段取りをしようと眞妃に挨拶をする。
『おはようございます、眞妃さん、柏木さん。』
眞妃は顔だけ向けてかぐやに反応し、柏木はオロオロしている。
普段と違う眞妃が指差す掲示板の一角をかぐやも見る。
そこにはマスメディア部の号外が張られていた。
「禁断の三角関係!?
かぐや様と四条眞妃さんが熱愛!
が、藤原千花さんともかぐや様はただならぬ関係に!
しかし、藤原千花さんの本命は白銀会長だった!」
かぐやも想像して無かった内容の号外に唖然とする。
『四宮、おはよう。
ここに居るとは珍しいな。』
『かぐやさん、おはようございます。』
『四宮先輩、おはようございます。』
御行も千花と優を伴って通り掛かり挨拶をするが、かぐやと眞妃は顔だけ向けて反応する。
柏木は更にオロオロしだす。
周りの生徒も息を呑む。
『『『『『朝から修羅場だ!』』』』』
周囲の変な期待は、完全に無視された。
御行も千花も優も、号外の内容に唖然として言葉が出ない。
始業時間が迫り、各々の教室に向かうが、かぐや達四人とも好奇と同情と侮蔑の視線に晒される。
生徒会権限で掲示板からの号外の撤去と配布された号外の回収が行われたが、殆ど回収出来なかった。
発行元のマスメディア部は、部長は風邪で今週頭から休み、部員達は雲隠れしていた。
───放課後の生徒会室
『まず、事実の確認から、しよう。』
会長の御行から本日の議題が提示された。
メンバーは、白銀御行・四宮かぐや・藤原千花・石上優・伊井野ミコら生徒会の五人、巻き込まれた四条眞妃と付き添いの柏木渚、風紀委員で伊井野ミコの友人の大仏こばちの計八人。
早坂愛はかぐやの依頼で雲隠れしたマスメディア部の二人の追跡・捕縛に動いている。
田沼翼は事が事なので渚が遠慮させた。
『会長、二股ですか?』
口火を切ったのは伊井野ミコ。
御行に向ける視線が嫌悪感をあらわにしている。
『なんでだよ!
書かれた内容は俺達は全く知らん!!
完全なフェイクニュースだ!!!』
号外に書かれた内容は、四宮かぐやは四条眞妃に告白したが振られ、藤原千花にも告白したが白銀御行という彼氏が居た為、かぐやは二回振られたと書かれていた。
ご丁寧に下足場でのかぐやと千花の抱擁、かぐやが眞妃の肩を掴む姿、千花が自転車を押す御行と夕暮れに染まる道を下校していく姿の写真も掲載されている。
余談だが、かぐやと御行のカップル推しの勢力がマスメディア部を血眼になって探している為に、マスメディア部は身の危険を感じて
逃げ回っている。
『四宮先輩達は女同士だから良いんです!
問題は会長と藤原先輩です。
まさか、言葉巧みに藤原先輩を騙して手籠めにしたんじゃ!?』
『なんでそこまで話が進むんだ!?
フェイクだって言ってるだろ!』
『まあ、四角関係とか私的にはなかなかに萌えるシュチですけど。』
『お前の趣味は知らんわ!』
『こばちゃん、話ややこしくなるから止めて。』
生徒会長席まで詰め寄り喧々諤々の妄想話で責めるミコ、激しく抗議する御行、余計な合いの手を入れて余計ややこしくする大仏こばちの三人でヒートアップする中、テーブルの五人は冷静に話を進める。
『とりあえず先輩達には事実無根な捏造記事ですから無視が一番でしょうが、既に高等部全体に話が広がってる事が問題ですね。』
『まあ、私とかぐやはいいとして。』
『よくないでしょ、眞妃さん。
私は二股掛けたか、節操なく続けて告白した女にされてるのよ?』
『そうだよ眞妃、放置したらもっとおかしな話になりかねないから、否定はしないと。』
『そ・れ・よ・り、藤原さんだったかしら?
アレとはどこまでの関係なの?』
そういうと、眞妃は御行を指差す。
正直、証拠写真がなければフェイクと流すが、物証がある以上疑わざるを得ない。
全員、聞きたいが聞きづらい二人の関係を眞妃は聞いてしまった。
『100%無いです。
アレは、願い下げです。』
『・・・、最近の藤原さんはかなり辛辣じゃない?』
『かぐやさん、解るでしょ?
毎回、あんな事手伝わされるですから、今は尊敬もありません。』
『そ、そこまで言わなくてもいいのでは!?』
『・・・アンタ達は何があったの、アレと?』
『しつれ〜いしま〜す。』
ノックと共に早坂愛が入室してきた為、室内の喧騒は一旦収まる。
愛に連れられて(連行)マスメディア部の紀かれんと巨瀬エリカの二人が入室してくる。
途端に、生徒会メンバーの視線が厳しくなる。
促されて生徒会長席前まで進んだ三人。
『弁明があれば、聞こうか?』
生徒会長席デスクに広げられた号外を指差し、御行が二人を尋問を始める。が、返事は想定外だった。
二人を代表して紀かれんが返答する。
『私達は、潔白です。
この写真が撮られた時間帯は、私達は部長のお見舞いに自宅にお伺いしてました。』
『なに?』
『じゃ、誰がこれを作ったんですか?
風紀委員会としても盗撮に当たる行為は黙認できません!』
御行より先にミコが問い質す。
かぐや達、テーブルに座る面々は雲行きが怪しくなってきてる事に眉を顰める。
『あの子達が作ってないなら誰が作ったって言うのよ?
あの時間帯、校内に残っていた生徒はサッカー部ぐらいでしょ?』
『そう、ですね。
藤原さんは会長と帰る時、後ろから誰かが来たとか覚えてる?
後、なんで二人で帰ったの?
私が送るって言ったら、遠慮したわよね?』
『あぁ、ああ、あれはですね・・・。』
『なんで、そんなに、歯切れが、悪くなるの?』
かぐやの問いかけに合わせて、周りの視線が千花に集まる。
『あ、あの日は本屋さんに用事があって、駅に向かっていたら会長と会って、自転車がパンクしたから駅の近くの自転車屋さんに行くから一緒に帰っただけですよ。』
『本当に?』
『ほ、本当です本当です。』
『・・・まあ、良いわ。
それより、あの子達の話が本当なら盗撮魔がいる、という事になるから、そっちの方が生徒会としても問題だわ。』
『ですけど、今は殆どの人がスマホを持ってますし、空気に流されるというか意識の低い人も居ますからね。
対策としても注意喚起位しか。
ただ、号外としてマスメディア部を語って配布したのは悪意を感じますけど。
・・・眞妃、どうしたの?』
『・・・よくよく見たら、この号外はおかしいと思って。
ここよ、渚。』
『四条先輩、何がおかしいんですか?』
『シリアルナンバーが入ってないのよ、優。』
『・・・ああ、確かに。
マスメディア部なら号外でもシリアルナンバー入れますね。』
『石上君、それは確かなの?』
『会計の書類でもマスメディア部は通し番号入れてくれてたり、日付とナンバーはシッカリしてるから仕事しやすくて覚えてます。
ちょっと待ってくださいね。』
そういうと、優は私物のノートパソコンを起動してある号外の拡大を画面に映す。
『先日の体育祭の号外ですが、紙面の右上か右下に必ずシリアルナンバーが入ってるんですよ。』
画面に写された、優が指差す体育祭の号外には確かにシリアルナンバーが確認出来る。
『なんか、不気味ね。
計画的な犯行なら徹底してるけど、号外という形にしたのは私達を貶めたいから?』
『或いは、面白可笑しいから勢いで作ったとか?』
推論を言い合って、かぐやと眞妃は考え込む。
眞妃は犯人像を推測してるが、かぐやは「経験」した高二の秋を思い返してた。
この頃はカラオケ騒動と御行のラップ披露があって、こんな捏造報道は無かったなと。
来週末は二学期期末考査、その次に三者面談、奉心祭、御行からの告白と来て、クリスマスの追いかけっこから、晴れて二人は恋人になれた。
───もう一回告白を受けるのは悪くないけど、もしそうならお返しをしたいなと・・・。
あの後は素直になれなくて御行さんを傷つけてしまったし、そのせいで御行さんは倒れてしまったから。
そう回想してるかぐやだが、突然ニヤけ始めたかぐやに周りは引いている事に気が付いていない。
呆け始めたかぐやに眞妃のチョップが決まる。
『痛━い!
眞妃さん、いきなりなんです!?』
『こっちが聞きたいわよ、急にニヤけ始めて。
・・・なに?
まさか、クリスマスとかお正月の事考えてたの?』
『うっ!(流石、鋭い!)』
『全く、気が早いわね。』
『ちょっと、眞妃もかぐやさんも。
それより、あっちをどうにかしないと。』
そう言って指差す渚に促されて、生徒会長席で更にヒートアップしてる御行とミコ。
二人を放置して、号外を出した犯人を特定する為に話し込む早坂愛ら四人の姿が見えた。
千花が手招きすると四人はテーブル組に合流して、議論は活発になる。
『俺達を無視して話を進めるのはあんまりじゃないか?』
不毛な言い合いを終えて、ハブられていた御行とミコもテーブルに合流する。
既に両者は満身創痍状態だった。
『ああ、終わりました?
じゃあ、整理しましょう。』
(俺達の言い合いはそんな扱いかよ。)
御行とミコをよそに、かぐやの仕切りでマスメディア部は号外が勝手に第三者によって作られて配布・掲示された物との訂正記事の作成と掲示、引き続き勝手な事をした者の特定と流布してる憶測への対策が話し合われ、解散となった。
有力な犯人候補のマスメディア部が濡れ衣となると捜査は振り出しに戻ったが、下手に騒ぐと余計面白がられて尾ヒレが付くと優の助言(実体験)から暫くは静観する事になった。
生徒会室を片付けて皆が帰路に着く中、最後に生徒会室を出た御行はかぐやに声を掛ける。
『大丈夫なのか?』
『何が、です?』
『四宮グループと四条グループが対立関係にある事は俺でも知ってる。
いくら同級生と生徒会副会長といっても、会わせて貰えるのか?』
『話は通してます。
・・・100%の自信も保証はありませんが、会ってみます。
出たとこ勝負は時に必要ですから。』
『「出たとこ勝負」か・・・、四宮からそんな言葉が聞けるとは思なかった。
何かあれば連絡を。
飛んでいくよ。』
『・・・花火大会の時みたいに、ですか?』
『ああ! 必ず!!』
真剣な眼差しと真摯な御行の態度に、込み上げてくる感情がかぐやを動かす。
左手を伸ばして御行の左手を掴む。
驚く御行を無視して左手を引っ張り腕相撲をする様に体制に互いの手を組む。
『私も、必ず帰ってきます!』
拳越しに互いの視線が交わる。
男女のそれではなく、友情として交わす男臭さが感じられる誓いを二人は交わす。
通路の角でかぐやを待ってる愛はため息が漏れる。
もうちょっと抱き合うとか色っぽい事すればいいのに、と。
しかし、四条家に乗り込むか・・・。
私に相談無しで勝手に重大事項決めないでほしい!
愛の偽らざる本音である。
───夕方・四条家
眞妃の招きという口実で四条家を訪れたかぐやは、緊張していた。
別邸の迎えの車は眞妃を乗せると四条家に向かったが、門前で二人を降ろし別邸に返した。
流石に手荒な事はしないとは思うが、そこは未知領域。
踏み込んでみなければ判らない。
『いや、ようこそ。
まさか、我が家に君が来てくれるとは。
お兄さんは、お元気かな?』
別邸より幾分小さくした感じだが、それでも一般家庭からすれば巨大と言っていい広さの四条家の玄関ポーチに、現四条グループ代表にして眞妃の父親、四条真琴が待っていた。
『ご無沙汰しております、おじ様。
過日は兄が失礼な言動致しまして、私からもお詫び致します。』
そういうと、かぐやは四宮真琴に深々と頭を下げた。
少し意外というか、かぐやが頭を下げてくるなど予想してなかった真琴は面くらう。が、流石に代表を務めるだけあって、奥目にも出さない。
『パパ、かぐやも私も疲れてるし、先に着替えたいのだけど?』
『あ、ああ、そうだな。』
娘の眞妃が四宮かぐやを名前で呼ぶ事にも、少なからず動揺する四条真琴。
いつの間にそんな仲になったのかと思う。
やや困惑する真琴を尻目に眞妃はかぐやを自室に招き着替えを済ます。
『おまたせ、行くわよ。』
『お願いします。』
眞妃に案内されて二人は食堂に向かう。
別邸程ではないが幾人かのメイドが居るが、かぐやの事は話には聞いているのだろう、視線には棘がある。
「出たとこ勝負」等と言ってはみたものの、勝算がある訳ではない。
夕食にも招かれ軽めのものを出されたが、別邸ならば重めのものになるのもしばしばな為、これはかぐやは助かった。
いくら若いとは言っても好きで食べる訳ではなく、来客に合わせた好みの料理で少食気味のかぐやには辛い時が多い。
食後の談笑となった時、「本題」が始まった。
『さてと、眞妃からも話があったが、改めて今日はどの様な用件ですかな?』
口火を切ったのは眞妃の父親の四条真琴。
資料の写真より日焼けして口髭を蓄え少し髪を伸ばした今は、ラテン系の色男と言った風貌になっているが、その眼光は鋭い。
気を抜けば相手のペースに持ち込まれる。
『では、単刀直入に。
四条眞妃さんを転校させると仰ったとか?』
『・・・ええ、言いました。』
敬遠の仲等という表現は生温いと思える両家の関係を考えれば、そんな事を話せる仲にかぐやと眞妃はなっていたかと考えるが、子供同士ならそんなものかと真琴は思う。
しかし───、
『が、これは我が家の事情です。
他家の方に、例え娘の友人と言えども何か言われる理由は無いと考えますが?』
『そうも参りません。
眞妃さんは大事な私の友人であり、私は「高等部生徒会副会長」を拝命しております。
生徒会の目的の一つは、「生徒の有意義な学生生活の支援」があります。』
『ほう、「大事な友人」ですか?』
四条真琴の態度に軽い失望をかぐやは覚え始める。
いちいち反応に棘がある。
やはり、「四宮の娘が」という気持ちが見え隠れする。
『お父様にはご理解頂けると思います。
学生時代というものは、過ぎ去ってからその大切さに気が付きます。
何事もそうです。
そうある事が当たり前だと感じてしまう事こそ、失いやすく取り返しの効かないものであると。
眞妃さんの転校は考え直して頂けませんか?』
『・・・確かに。
しかし、親としては最高とは言わずとも、最善と思える教育環境を用意したいと考えるものです。
失礼ながら、今の秀知院はその点に難がある。』
ゆっくりとした所作で食後の紅茶を飲みながら、四条真琴は「否」の姿勢を崩さない。
『どの様な点がお気に召さないのでしょうか?』
『足りないというより、今より充実した環境を娘に用意したい。
具体的には飛び級での大学進学です。』
『えっ!?
そんな話し聞いてないわよ、パパ?』
『まあ、なかなか難しいが眞妃なら出来ると私は思ってるよ。』
『・・・飛び級での大学進学とは、具体的にはいずれの大学へ?』
『日本ではないですよ。
幾つか候補はありますが、選ぶのは眞妃ですから。
ご存知の様に、四条は日本以外が主戦場。
そうであれば、眞妃には他国の価値観を知り、他国の友人を作る方が良いのではないか?と考えます。』
『そんな話、今まで何も言わなかったじゃない?』
『今まで何回も言おうとしたが、聞いてくれなかったじゃないか。』
それはそうでしょうね、とはかぐやは思う。
眞妃さんにとっては、秀知院には渚さんと翼さんがいるのだから、と。
さて、どう攻めたらやら・・・。
『転校・・・、今回は進学先になりますが、するもしないも眞妃さんのお気持ちが固まってからでも遅くないのでは?』
『今は、むしろ遅いぐらいです。
アジア以外なら入学は九月になります。
日本なら、その後でいい。』
『眞妃さん自身は希望してないのでは?』
『そうよ、私は嫌よ。』
『眞妃、私は眞妃の可能性を試せる環境を作りたいだけだ。』
『それは、私が決める事じゃないの、パパ?』
『なら、眞妃はどうしたい?
秀知院大学は眞妃の希望に合うのかい?』
『眞妃さんを思うお父様の考えも解かりますが、結論を急いでも良い結果にはなりません。
今は時間を掛けるべきでは?』
『四宮さんの言う通りと思うけど?』
四人目の声の主はゆっくりと室内に入ってきて、そのままかぐやの席に近付く。
『久しぶり、覚えてるかな?』
『ええ、お久しぶりです、帝さん。』
『いつも、姉がお世話になってます。』
『早かったな、帝。
食事はいいのか?』
『部の連中と食べて来たよ。』
そのタイミングでメイドが四条真琴を呼びに来る。
『失礼、用事ができたので、今夜は此処までで。
かぐや君、ゆっくりして行くといい。』
『はい、お言葉に甘えさせて頂きます。』
『泊まっていけるの、姫?』
『ご迷惑でなければ。』
『かぐやは私の部屋に泊まるんだから、変な事したら承知しないわよ。』
(・・・社交辞令のつもりだったんだけど、泊まらないといけなくなってきたわね・・・。)
───夜・眞妃の部屋
眞妃はベットにうつ伏せ寝をした状態で、ベットの端に腰掛けたかぐやの横に並ぶ。
『で、大丈夫だったの?』
『さっき連絡入れたから問題ありません。』
『そう。
なら明日は一緒に登校ね。』
頬杖した状態で、何故か嬉しそうな眞妃に戸惑うかぐや。
ひょっとして、私と一緒?
『ねえ、眞妃さん。
明日なんだけど・・・、歩いて学校に行ってみる?』
『あら、かぐやも同じ事を考えていたの?』
『私は送り迎えがあるから、なかなか出来なくて。』
『でしょうね、うちも同じよ。
最近は帰りは歩かせて貰えるけど。』
『色々あるんでしょうけど、「普通」をしてみたいとも思うわ。』
『「恋」とか?』
『・・・なんでそんな話になるんです?』
『誤魔化さない。
・・・本当いうと、毎日当てられてるから、嫌でも気になるのよ。』
『・・・こういう恋は辛いわね。』
『かぐやだって、どうなのよ?』
『振りかえて欲しいけど、なかなかですよ。』
『結構ストレートにやってる様に見えるけど?』
『一年近く、進展なし。』
『・・・奥手もそこまで行くと立派だわ。』
『貴女の方が健気じゃない。』
『・・・人を好きになるって、難しいわね。』
二人揃って深いため息をつく。
二人ともプライドを脇に置いて素直になれば簡単に進展するのだが、それができない。
最も、かぐやはいつタイムスリップ状態が解消するか判らないのと、大きな変化は未来にどんな影響を与えるか判らないので、慎重に探りながら進めてるだけだが。
───深夜・四条家
四条眞妃の部屋に泊まる事になった四宮かぐやは、夜も更けた頃にトイレに立った。
特別寝付きが悪いとか、特定の寝具がないと眠れないとかではないが、流石に四条家には初めてのお泊りなので緊張している為だ。
これまで他家にお泊りした事があるのは藤原千花の家ぐらいで、千花と妹の萌葉のお陰で疲れさせられるので眠れないという事はないのだが。
そして、かぐやの別邸程ではないが広い上に初めての家の為、迷った。
眠っている眞妃を起こすのは憚られたが、付いて来て貰えばよかったかと思う。
困っていると意外な人物から声を掛けられた。
『かぐや君、どうしたね?』
『ああ、おじ様。
おトイレをお借りたのですが、お恥ずかしいですが迷ってしまいまして。』
『そうか。
眠れそうかね?』
『すいません、少し緊張してしまって。』
『なら、ココアぐらい入れよ。
私もようやく仕事が片付いたのでね。
時差がある相手とは辛いものがある。
飲むかい?』
『頂いてもよろしいですか?』
かぐやは四条真琴の案内で彼の書斎に通され、少しすると真琴自身がココアを二つと少量のクッキーを持ってきた。
勧められて、かぐやはココアとクッキーを頂く。
『しかし、大きくなったね。
当たり前だがね。』
『身体は成長しても中身は子供ですよ。』
『自覚があるなら、良い。
自覚もない者が大半だからな。』
『そう言って頂けるなら幸いです。
・・・あの、おじ様のお気持ちを教えて欲しいのですが。
・・・おじ様は、・・・私がお嫌いですか?』
『そう感じさせてしまったか。
・・・正直に言えば、四宮と名がつくものは好かんよ。
そう教え込まれて、実体験もした。
が、それ以上に外で苦い経験もしてきた。
今の心境は、複雑と言えるかな。』
『・・・四宮の家は、
・・・因果な家ですね。』
かぐやと真琴は互いに気持ちを押し流す様にココアを飲む。
今日、かぐやが急であっても無理に真琴に会う事にしたのは、彼こそが今後を左右する存在だからである。
「経験」した来年の四宮対四条の全面戦争は和解する事はできたが、雁庵の死後、双方の一部が互いに暴発した。
どうしたところで、やられた恨みと記憶は鮮明でいつまでも残る。
そこにどちらが先か、どちらが悪いか、などは意味はない。
この点は、和解調停の当事者だったかぐやや帝、黄光や真琴も判断が甘かった。
そして、彼らは火消しに右往左往させられる事になる。
この事態収拾にかぐやの夫となっていた白銀御行もかぐやと共に加わり、その功績と雲鷹の口添えで父親の会社であり、四宮に奪われた白銀製薬を取り戻してもいるが。
全面戦争前から両陣営内で動いていたのが四条帝だが、いくら優秀で将来を期待された存在でも、父親の真琴氏の黙認や追認無しでは事態を動かす事はできない。
兄である四宮黄光が父・雁庵の意向無しで何が出来る訳ではないのと似ている。
『・・・四宮成らば
人に頼るな
───成らば使え』
『・・・人から貰うな
───成らば奪え』
『人を愛すな
───成らばはない』
『君も仕込まれたか。』
『覚えてらっしゃるのですね。』
『呪詛の様に耳にこびりついてるよ。
眞妃と帝には、教えてない。』
『この家訓を要約すれば、「使って信じず」です。
信じないから、使う事も、奪う事も、愛さない事も、できる。
そこにあるのは、絶対的な支配と上下関係だけです。
しかし、支配は相手の服従あって初めて成立します。
その失敗した例が四条グループであり、今日の状況を作ってしまった。』
『つまり?』
『この家訓は失敗したという事です。
無論、無条件に全てを否定するつもりもありません。
有用な部分はありはしますから。
ですが、通じない相手や状況があるという事を考えなかった。』
そう考えれば、父親の雁庵がかぐやに対する態度は「家訓」に従った結果と見えはする。
が、かぐやからすればたまったものではないが。
また、後に判明するがこの「家訓」にある事情があった。
『四宮家内での君の立場。
ついでに言えば、お兄さんの雲鷹氏の立場。
それに対する雁庵氏の態度。
つくづく四宮の家というのは、とは思う。
私なら、耐えられない。』
『よく、ご存知ですね。』
『嫌でも、耳に入ってくる。
四宮の恥部もね。』
(青龍の事かしら・・・。)
『仕方ありません。
生まれを呪っても何もなりませんし、同年代の子達に比べれば何不自由のない生活を送れてますから。』
『その代価としての肉親の愛情欠落は、あまりに大きいと思うが。』
『おじ様のそのお気持ちだけで十分です。』
『・・・君は、やはりかなり変わったな。』
『と、おっしゃいますと?』
『一昨年だったかな、秀知院を訪れた時に君を見かけた。
正直、今日の君は別人かと思ったよ。
もし、あのままだったら、今日はお引き取り願おうと考えていた。』
『お恥ずかしいですわ。』
『眞妃も似た様なものだったよ。
小さい頃からお転婆だったから、手が掛かったよ。』
「そうでしょうね。」とはかぐやも思う。
幼い時にパーティーで幾度か会った時は、毎回貴方か帝さんが反抗されてましたものね、と。
『・・・父に会ってみてはいかがですか?』
『雁庵氏、かい?
・・・難しいだろう。
小さい頃の僅かな記憶では怖い人物としか憶えてない。』
『・・・おじ様は現在の状況、四宮と四条の関係は今後はどうなる方が良いとお考えですか?』
『・・・過去を水に流す事は無理だろう。
そうするには、あまりに大きな溝になってしまった。
付かず離れず、互いに邪魔をしない関係が望ましいかな。』
(フランス銀行との資本統合の妨害の件ね。
全般的な妨害の事も含むでしょうけど。)
『お互いに競合する分野は難しいのでは?』
『だが、競り合っていては消耗でしかないよ。
それに、世界は広いよ。
もう無いか、おかわりは良いかね?』
『いえ、これ以上は眠れなくなりそうですので。
ありがとうございました。』
『出て、左の階段を上がって、突き当たりを右の二つ目のドアが眞妃の部屋だよ。
済まないが、私はまだやる事があるから。』
『はい、判りました。
夜分にありがとうございました、おじ様。』
かぐやが書斎を辞して数分、かぐやが出て行ったドアとは別のドアから息子の帝が入ってきた。
『どうだい、父さん。』
『悪くはないな。
眞妃とも相性が良い様だ。』
『姉貴と相性がいいのは、柏木さん以来じゃない?
僕は、かぐやを迎えたいのだけど。』
『なら、ライバルはどうにかしないとな。』
書類を読みながら真琴は帝に一冊の報告書を渡す。
折り目の付いたページをめくれば、ある人物の写真と詳しい経歴が書かれていた。
『白銀御行君、というそうだ。
高等部からの特待生入学で二期連続の生徒会長は、特待生では初の快挙。
秀知院高等部生徒会長としても、二期連続は数人しかいない。』
『名前は知ってるよ。
いつも全国模試で見てる名だ。
補欠合格で入学後に成績を伸ばして、かぐやや姉貴を抑えて学年首席を一年間維持して、全国模試でも一位常連。
親は事業で多額の借金を背負い、両親は別居状態。
決して華々しいだけじゃない、か。
会ってみたいな。』
『私なら、彼もうちに迎えたいね。』
『・・・それもいいかもね。』
ドアの向こう、部屋に戻った筈のかぐやはドアを完全には閉めずに四条親子の会話を聞いていた。
かぐやは何も言わずに眞妃の部屋に戻ろうとしたが、階段の踊り場に待ち人がいた。
『冷えるわよ。
戻りましょう。』
『ごめんなさい、起こしてしまいましたね。』
眞妃と二人で部屋に戻りベットに入り直す。
天井に目線を向け遠い目をしてる眞妃を心配そうに見つめる、かぐや。
立ち聞きを見られたのもバツが悪い。
何か言うべきか、言わぬべきか逡巡していると、眞妃から話してきた。
『・・・パパやアイツは、大人の話をしてる時は別人みたいな顔になる。
嫌っていた四宮の不調法者と同じ様な顔に、ね。
特にアイツは、そんな顔は似合わないのに・・・。』
『・・・。』
『もう大人と変わらないから、余計にアイツの顔をアイツ自身に私は忘れて欲しくないの。』
『・・・私も同じ様に仕込まれた。
だからなんでしょうね、私が白銀さんに惹かれるのは。』
『アイツには悪いけど、私はかぐやを応援するわ。
少なくとも、かぐやと白銀は向き合う努力はしてきたんだから。
アイツはボール転がしてただけだから。』
実力に差のある味方と強敵相手に、チームで戦って勝つのは並大抵ではないのだけどとは思うかぐやだが、折角の眞妃の好意に水を差すのもの野暮と聞き流す。ただ、その横顔は弟の恋を応援したいと物語っていた。
かぐやは左手を眞妃の右手に絡め握る。
一瞬、眞妃は身を固くするが握り返してくる。
『・・・私は「普通」で良かったのに・・・。』
『・・・何が災いで、何が幸いか、解らないわ・・・。』
いつしか、二人は互いの寝息を子守唄に眠りにつく。
一方、御行はかぐやに掴まれ握られた左手に残るかぐやの感触に、眠れる夜を過ごしていた。
───翌朝・四条家
かぐやは別邸と同じ感覚で目が覚めてしまい、眞妃を起こさない様にベットを出るが、する事がない。
ベットに入り直そうかと考えたが憚られたので、キッチンなら居てもいいだろうと向かってしまった。
『ごめんなさい、コーヒーを淹れても良いかしら?』
朝食の準備に来た担当者に断りを入れてコーヒーを淹れたかぐやは手伝うつもりはなかったが、朝食のメニューはそんなにバリエーションがある訳ではなく、準備された材料や調理器具を見れば大体何を作ろうとしてるか推測できる。
今朝の四条家の朝食は和食の様に感じたかぐやは、材料を揃えるところから、下ごしらえ、調理、盛り付けと担当者達と談笑しながら、気が付いた時には味噌汁まで作ってしまっていた。
『アンタ、何やってるの?』
『ごめんなさい、毎朝の習慣だから、つい。』
朝は弱い四条眞妃は、少し眠いままベットから抜け出したかぐやを探して、かぐやの声が聞こえた食堂兼キッチンに来たが、メイド達に混ざって朝の支度をしてるかぐやを見つけて唖然とする。
両手を合わせて悪戯っぽい笑顔で謝ってくるかぐやに、眞妃は少しときめいてしまう。
「妹がいたらこんな感じなのかしら。」
そう頭をよぎる。
『すいません、私がお願いしてしまって。』
『良いわよ、どうせかぐやが無理やり入り込んだんでしょう。
それより、コーヒーをお願いね。』
『はい、かしこまりました。』
朝食担当のメイドがかぐやを庇って謝まるが、眞妃は構わないと態度で示して席に着いて、少したらかぐやがコーヒーを持ってきた。
『・・・なんで、かぐやが持ってくるの?』
『大体終わったから、私もブレイクタイムです。』
気にするのを止めて、眞妃はかぐやが持ってきたコーヒーを一口口に含む。
いつもと違う優しい舌触りに、敏感な眞妃は気が付く。
御行がコーヒー党(カフェイン中毒気味)の為、かぐやは愛に師事して淹れ方をマスターした為だ。
その間に朝食が並べられていく。
『毎朝、手伝ってるっていうのは本当だったのね。』
『あら、嘘だと思ってたんですか?』
『四宮の令嬢が朝から使用人に混ざって朝食を作ってるなんて聞いて、信じる方が難しいわよ。』
『花嫁修業みたいなものですよ。
今時、料理は男性もしますから。』
『まあ、ね。』
女として物凄い差を付けられてる様に、眞妃はかぐやを感じていた。
澄ましているがかぐやの横顔が眞妃にはドヤ顔に見える。
「悔しいけど負けたわ」と眞妃は内心褒める。
いつもは何も言わずに準備をしてくれるメイド達が、今日は時折談笑しながら、かぐやと冗談まで言ってるのだから。
弟の四条帝の才能である「おじさん達と仲良くなれる」人心掌握術と通じる部分がある事に、寒気を覚える。
眞妃自身も帝やかぐやと同じで、白銀御行や石上優と短期間で親密になっているので、人の事は言えないのだが。
『おはよう、二人とも早いね。』
『姉貴、かぐや、おはよう。』
朝食の配膳が終わった頃合いに、眞妃の父親の四条真琴が帝を伴って現れる。
正直、昨日からの帝の「かぐや」呼びに当のかぐやは思うところはあるのだが、状況が状況なのと、白銀御行と結婚後も「かぐや」呼びは改まらなかったので、消極的妥協で諦めてはいる。
御行が友人になった帝に「かぐや」呼びを禁じたら、「姫」とか「(凄く強調して)奥さん」とか余計イライラする呼び方をしてくるので、二人とも「かぐや」呼びで妥協した経緯もある。
もっとも、帝も御行の前でしかかぐやを名前で呼ばないので「ウザ絡み」の一種だが。
が、しかし、かぐやは帝の数少ない弱点をしている。
帝は、配膳された朝食のメニューにかぐやが紛れ込ませたある物を退け様として、かぐやに声を掛けられる。
『あら、帝さんは納豆お嫌いですか?』
『いっ、いや、苦手というかなんというか・・・。』
『コイツはダメよ。
納豆食べれないから。』
『・・・そんな事は、ないよ・・・。』
眞妃はさり気なく言ってはいるが、口元は笑っている。
それに対して、弟の帝はみるみる血の気が引いていく。
無論、かぐやも「未来」で帝が納豆だけでなく発酵食品全般が苦手なのを知っている。
まともに食べれるのは火を通したチーズと調味料ぐらいで、納豆が特に嫌いという事も。
何らかの発作を起こすとかではなく、納豆は味と臭いがダメなのだ。
が、目の前には想い人がいて、納豆がダメなど男のプライドが帝に言わせない。
おかげで、楽しめる筈だったかぐやの味噌汁は手を付けれていない。
皆が食事を進める中、帝一人だけ箸が動かない。
『要らないなら貰っちゃいますよ。』
意地悪しすぎたかなと、かぐやが帝の納豆を自分の元に取り寄せる。が、釘を刺す。
『私は好きだから毎日食べてます。』
かぐやの発言が帝の頭の中を反芻する。
「かぐやと一緒にいる為には納豆を食べなければいけない。」
そう、かぐやが意思表示している。
帝はそう受け取った。
でなければ、メニューから外されてる筈の納豆が自分の前に何故置かれているのかの説明がつかない。
そう思いかぐやに目線を向けると、かぐやは声を出さず唇だけを動かした。
「お・か・わ・い・い・こ・と」
唇の形から意味を理解した時、帝は耳まで真っ赤になる。
その後、かぐやと帝は一言も交わさず朝食を終えた。
そんな羞恥心とプライドの板挟みになった帝に、落ち着きを取り戻させたのはかぐやの味噌汁だった。
特別美味しい訳では無いが、温もりを感じる優しい舌触りの味に、帝は身体の芯から温まり蕩けさせられる。
具の種類の多さと卵には、既に知ってる眞妃以外は、面食らったが。
『そういえば、沖縄の味噌汁も具沢山だったな。
丼で出てきた時は驚いたがね。』
『かぐやは毎日種類を変えてるわね?』
『季節感を出したいですからね。
今なら里芋とか美味しいですよ。
手が痒くなりますから、触る時は注意が要りますけど。』
会話に入らず味噌汁を堪能している息子を見て、これは難しいかなと真琴は思っている。
手強いなんてものでない事とかぐやの帝への接し方から、ひょっとすると夜中の親子の密談は聞かれていたかと・・・。
───四条家玄関
『『いってきま━す!!』』
準備された送迎の車の横を素通りして、眞妃とかぐやは笑いながら外に掛けていく。
運転手やメイド達は突然の予想外の行動に虚を突かれ対応できず、右往左往する。
『こりゃ、大変だぞ。』
メイド達が慌てる中、二人の見送りに出てきた四条真琴は頭を掻きながらボヤくが、その前を帝が自転車を取りに掛けていく。
二人を追いかけるつもりで自転車に飛び乗り走り去っていく。
が、眞妃とかぐやは僅かな時間に物陰に隠れて、帝や慌てて追いかけて来る四条家の護衛達をやり過ごすと、学校への道の一本横の道を悠然と歩き始めた。
この為に、いつもよりかなり早く出てきたのだから邪魔などされたくもない。
『たまには良いわね、歩くのも。』
『気持ちいいわね、朝の街も。』
が、二人は解っている。
かぐや達の周辺は、直ぐに四条家の護衛達で警護体制が敷かれる事を。
少し歩けば、そこかしこの物陰や通行人に気配を感じる。
それでも秀知院への道中は何事もなく進んだが、道程の半ばまで来た時に護衛からの連絡を受けた帝が必死の形相で前から自転車で走ってくるのが見えた。
この辺は下り坂の為、帝は登り坂を必死に登って戻って来る事になった。
『あら、遅かったわね?』
『姉貴、解っててやったろう・・・。』
『後先考えずに突っ走るからよ。
早朝訓練になってよかったじゃない。』
帝が言い返そうとしたタイミングでかぐやがスポーツ飲料と缶コーヒーを二人に差し出す。
『はい、どうぞ。
眞妃さんも、どうぞ。』
『・・・かぐや、缶コーヒーなんていつの間に、』
『そこの自販機。』
かぐやが指差す先の住宅の一角に自販機が設置されていた。
かぐやと眞妃には缶コーヒー、帝にはスポーツ飲料をかぐやは二人のやりとりの間に買っていたのだ。
『ありがとう、優しいね君は。』
『私は優しくなくて悪かったね。
言外に全部出てるわよ。』
『解ってるなら、こっちの苦労も理解してくれよ、姉貴。』
眞妃と帝のやりとりを苦笑しながら聞いていたかぐやだが、素早く辺りに目線を走らせる。
見分けがつく護衛は三人だけか・・・。
かぐやは飲み終えた缶コーヒーとスポーツ飲料を眞妃と帝から受け取ると、折り畳んだレジ袋を取り出し入れていく。
ついでに、適当に織り交ぜて缶コーヒー等を同じ自販機で10本を買い別のレジ袋に入れると、一番近くの護衛と見分けた出勤中を装った男性に渡す。
『お疲れ様です、皆さんで飲んでください。』
『えっ!?
あっ、あり・・・がとう。』
反応から四条側の護衛だろうと推察する。
かぐやは、侍従の愛の手配した護衛なら顔や仕草や雰囲気などで見分けがつく様になっている。
見覚えのある者も居るので、見覚えがないなら四条側だろうと考えた。
一連の行動に眞妃は不思議に思うぐらいだが、「何で解ったんだ!?」と帝は唖然とし冷や汗をかく。
その護衛は、帝と面識のある護衛役だった。
再び歩き出した三人は眞妃とかぐやが並んで歩き、自転車のある帝は後を歩く。
『さっきの人は知り合い?』
『ええ、ちょっとした知り合いですよ。』
『相手は驚いていたわよ?』
『いつもは会わないルートですから。』
その後も直前の出来事や世間話など、女二人ならとめどなく会話が続く。
こういう時は男は会話に入ろうとしない方が経験上いいと、帝は話を振られない限りは喋らずにかぐやを観察している。
大きめの交差点に来た時に信号待ちで並んで、帝は二人の会話の途切れ目から会話に加わる。
『今度、そっちのサッカー部と交流試合があるから、秀知院に行くよ。
出来れば応援して欲しいんだが。』
『あら、そうなんですか?
そう言えば、サッカー場の使用の申請がありましたね。』
『あら、それならしっかりと、うちのサッカー部を応援しなきゃ。』
『姉貴ならそういうと思った。
かぐやは応援してくれないの?』
『生徒会としては公平に、』
『四条、四宮!
おはよう!!』
交差点で交通量があるとはいえ、声量のある声に三人は振り向く。
振り向いたかぐやの目元が柔らかくなるのを、帝は見逃さなかった。
声を掛けていた相手の男は秀知院の制服を着て自転車を押して、胸に資料で見た高等部生徒会長を示す飾緒を付けている。
その顔も資料で見た。
確か───、
『白銀会長、おはようございます。』
帝に対する時より一段高い声でかぐやが挨拶を返す。
心なしか、上気してる様で頬が赤みを帯びていた。
───そうだ!
「白銀御行」だ!!
秀知院高等部生徒会長───
四宮かぐやと浅からぬ関係───
全国模試の一位常連───
俺の壁で───、ライバル!!
直感的にそう四条帝は理解した。
─────つづく