一日三食食べたくて   作:ケツバット

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あとみっく

 時を少し遡る。

 証拠不十分として釈放されたシドはアルファの報告を受けた。

 

 アレクシアを誘拐したのはディアボロス教団。教団の息がかかった騎士団はそのまま誘拐の罪をシドに被せるつもりらしい。

 

 シドは知ったかで目的は王家の血が狙いで魔人復活の為に使われる、故にすぐに殺されないと言えば肯定された。

 

(いい演技だ……)

 

 因みにシドはディアボロス教団の事をただの演技の設定だと思っている。その昔、陰の実力者なる存在に憧れている彼は意味深なムーブをしたくて悪魔憑きと呼ばれる肉体が腐敗していく不治の病に侵された彼女を治した際に適当に言ったのだが、その設定がまさか真実などとは思うまい。

 

 実際にディアボロス教団は実在し、英雄の子孫である証の膨大な魔力を持つ故に発症する魔力暴走を悪魔憑きと呼称し忌避されるよう印象操作したのは教団だ。

 

 英雄の血が濃い者たちを拐い実験に使い、また孤児や教団員の子供達の中から素質のある者を薬物、洗脳教育で手駒にして戦力とする。

 

 そして莫大な富により魔剣士のみならず多くの貴族、商人を取り込み再び金を生む。金は人を呼びすべての国の中枢に教団は入り込んでいる。

 

 抵抗らしい抵抗をしている聖教ですらディアボロス教団と反教団派が睨み合っている状況。教会を好き勝手させない、程度しか出来ていない。

 

 なので表向きには存在せず一部の王族貴族は勘付きつつも抵抗できない。それをただの男爵家が知るわけもないのだが、シャドウガーデン達はシドならば知っていると盲信している。

 

 アルファが帰った後やってきたベータも酒の味も分からず取り敢えず高くて有名な産地というだけで勝ったワインを飲むシドにキュンキュンしてるし。

 

 彼女からすればシドは全てを見通す叡智を持つ男。

 何も考えてない姿に何か深い考えがあると勘違いしているのだろう。

 

「作戦は王都に存在するディアボロス教団アジトの同時襲撃。それに紛れアレクシア王女の魔力痕跡を追い保護いたします。まずはデルタの奇襲を合図に………」

「陰は光ある場所に生み出される」

「…………はい?」

「我等は陰。これから起こる騒動に、民の心に不安という名の陰しか残せぬ。ゆえに、希望という光が必要だ」

「しかし、光になる者などこの国にいますか? 生半可な希望では、闇に飲まれさらなる絶望を広げるだけです」

 

 その言葉選び、なかなか良いね、と感心するシドはベータを見つめる。ベータは別の意味にとらえ顔を青くして跪く。

 

「で、出来すぎたマネを………」

「我等は陰。決して光になれぬもの………故に、光を導くのだ」

 

 

 

 

 シャドウに目をかけられている者がいる。それは彼に忠誠を誓うシャドウガーデンにとっては耐え難い屈辱。それでもシャドウの言葉は絶対。

 

 ベータは報告を受けたアレクシアの監禁場所の方向を伝える。方向だけなのはせめてもの嫌がらせか、あるいはシャドウに目をかけられるだけの何かを証明しろという事か。

 

 

 

 

「…………街が騒がしいな」

 

 街中で魔力が荒立つ。シャドウガーデンが派手に動いているらしい。

 

 襲撃先に統一性がなく騎士団も混乱しているようだ。と………

 

「グオオオオオ!!」

 

 醜悪な巨人が吠える。3階程もある爛れた肌を持つ巨人。鋭い爪が街灯を切り裂く。兵士が銃を撃つがまるで効かず、魔剣士達の斬撃で傷がつくもすぐに癒えた。

 

「悪魔憑き………魔人の因子を色濃く暴走させられたか」

「ガアアアアア!!」

 

 騎士達に振り下ろされた爪がサードが動く前に弾かれた。

 街灯に照らされる紅の髪が靡く。アイリスだ。

 

「アイリス様! あの化物、再生を………!」

「ならば、再生出来なくなるまで………」

「やめろバカ………じゃねえや。お待ち下さいアイリス殿下」

 

 連撃を放とうと魔力を迸らせるアイリスの前に立つサード。アイリスが思わず剣を止めるが巨人は止まらず爪を振るい、弾かれた。

 

「!?」

 

 跳ね上がった腕の勢いに押され倒れ込む巨人。アイリスを除き多くの魔剣士を屠った一撃をまるで歯牙にかけていない。

 

「サード! 何のつもり!」

「魔力量はあの巨人が上。耐久戦になっても負けるのは貴方だ」

「っ!」

「何よりあの悪魔憑きは苦しんで暴れているだけ」

「悪魔憑き? あれが悪魔憑きだというの!? なら、あれは悪魔の…………おのれ!」

 

 自国民が悪魔に憑かれ苦しんていると思ったのだろう。悪魔憑きは治療の方法がない。天に返すのが救いだと聖教は言う。まあ聖教の一部に住み着いた教団が死すら生ぬるい活用をしているのだが。

 

「分かっているなら下がっていなさい」

「!? 何者!」

 

 突然現れる金髪のエルフ。これまた痴女みたいな格好をした女。

 

「邪魔」

 

 と、そんな女の言葉など無視して駆けるサードはそのまま巨人の頭部に触れる。

 

「ちょっと痛いぞ。暴れんな」

 

 魔力注入。掌握、制御………過剰に膨れ上がり暴走する魔力に強制的に流れの向きを作り余剰の魔力を循環させ身体に馴染ませていく。

 

 細胞の異常増殖で膨れ上がった肉体が朽ち果て現れるは幼い少女の死体。サードはその瞳をそっと閉じてやる。直前に頬を伝った水は涙か雨か。

 

「……………サード、貴方………何を」

「悪魔憑きは治療出来るんですよ。それと、この子が来た方向………おそらくそちらにアレクシア殿下がいます」

「っ! 本当に!?」

「可能性は高いかと。この子の暴走には、濃い英雄………王家の血が関わっていると思います」

「貴方…………何者」

 

 と、エルフが睨みつけるように問いかける。サードは先ほどの女の言葉を思い出す。

 

「嘗ては陰に住まい、光に憧れた者………?」

「サード! 何をしているの、急ぎなさい!」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

「ふっ………」

「おのれえええ!!」

 

 その頃シドことシャドウは今回の王女誘拐事件の真の黒幕、ゼノン・グリフィと戦っていた。

 何を隠そうこのゼノン、実はディアボロス教団の一員だったのだ。

 

 それも教団を支える12の騎士、不老と莫大な力、そして権力が与えれるラウンズの末席候補に名が挙がるほどの。

 

 王家の血を手に入れるという功績を持ってラウンズ入りを果たすつもりだった。それが、どうだ?

 

 突如あられたシャドウと名乗る男が現れた。最近教団に喧嘩を売る愚か者。その首を手土産にしてやろうと思えば圧倒されるのはこちら。シャドウは余裕を見せるように笑う。

 

(こんな、こんな筈…………こんな筈が!)

 

 ゼノンは自身の腕に絶対の自信を持っていた。今でこそラウンズ候補だが、ラウンズとなり『雫』さえ与えられたなら直ぐにでも第一席になれると思い上がっていた。しかし、その高慢を叩き折る圧倒的な力。

 

「…………綺麗」

 

 その剣は才能で振るわれるものではない。積み重ねて積み重ねて、その果てに至った凡人の剣。自分が目指す最奥。

 

 もっと見ていたい、そう思ったが徐にシャドウは剣を収めた。

 

「来たか」

「アレクシア!!」

 

 通路の奥からやってきたのはアイリス。アレクシアの姉だ。ゼノンとシャドウを見てシャドウを敵と判断したのか斬りかかる。

 

 シャドウはあっさりと回避し、アイリスは追撃せずアレクシアの下に駆け寄る。

 

「アレクシア、下がっていなさい。よくも………!」

「ま、まって姉さま! そいつは敵じゃないの! 敵はゼノンよ!」

「…………なんですって?」

 

 アレクシアの言葉にゼノンを見るアイリス。苦虫を噛み潰したように顔を歪めるゼノン。

 アイリス王女にも知られた。何が何でも始末しなければいけないのに、この場にはシャドウがいる。と………

 

「げぇー! スタイリッシュ盗賊スレイヤー!?」

 

 サードもやってきた。サードはシャドウの姿を見て叫ぶ。

 

「ふっ………」

「うわっ、意味もなく笑った。気持ち悪っ………ス()レイヤー………てめぇ、なんでここに」

「我が名はシャドウ。陰に潜み陰を狩る者」

「? 改名したのか?」

 

 と、首を傾げるサード。と………

 

「おおおおお!!」

 

 ゼノンが膨大な魔力を纏い叫んだ。足元には小瓶が転がっている。

 

「っ!? なんて魔力、まだ余力を………!」

「見るがいい! これこそ!」

「覚醒者3rd…」

 

 意気揚々に宣言しようとしたゼノンの言葉を遮るように呟かれたサードの言葉。サード、とアイリスが反応した。

 

「貴様………何故それを!」

「知ってるの、サード?」

「覚醒者1st………膨大な魔力の発露による細胞死滅の悪魔憑き。覚醒者2nd。魔力の方向性を身体強化に持っていき戦闘能力を爆発的に高める魔力半暴走の自壊………んで3rd。増幅した魔力を制御した者が至る力………だったか」

 

 サードは胡乱な瞳をゼノンに向ける。シャドウはほう、と感心したようにサードを見た。因みに『なかなか練られた設定だね』という感心だ。

 

「貴様は…………貴様はなんだ!!」

 

 斬りかかるゼノン。駆け出した衝撃で溢れる濃密な魔力が破壊力を伴い壁や天井を破壊する。それだけの魔力で強化された一撃をサードは受け止める。

 

「馬鹿な………!? なんだお前、何者なんだ!?」

「ディアボロス教団末端………ディアボロスチルドレン3rd。陰に生まれ落ち、光に憧れた咎人だ」

「ディアボロス、教団?」

「チルドレン………3rd、だと!?」

「元だがな」

「いい………」

 

 なんか一人だけ反応が気持ち悪かったな、と思うサードであった。

 

「あ、ありえん! お前等に自意識などあるわけがない! 何より、3rd!? 1stならいざ知らず!!」

 

 どれだけ力を込めても押し込めない事実に叫ぶゼノン。サードが虫でも払うように腕を振るうと天井と壁を跳ねながら吹き飛んでいく。

 

「自意識が育ってなかっただけだ。だが、ある日絶対的な力を前に死を覚悟した。死は生きているから感じる………俺はあの時初めて生まれた」

「う、うおおおお!!」

 

 魔力で傷を癒しながら剣を振るうゼノン。その全てをサードは容易く受け止める。響く金属音。アイリスですら目で追えない剣戟のすべてをサードは防いでいる。

 

「これ以上見る価値はない。すでに勝者は決まった」

 

 シャドウはそう言うと剣戟の雨の中を悠々と歩き通路の奥へと消えていった。

 

 サードは漸く妙な目がいなくなったのを確認するとゼノンを弾き飛ばす。

 肉体からゼノンとは比べ物にならない膨大で濃密な魔力が溢れ、それを球体状にして飲み込む。

 

 溢れる魔力量が増大。アイリスが思わず冷や汗を流す。吹き荒れる魔力の余波がサードに向かい崩れ落ちた瓦礫を破壊する。

 

(この感覚を、知っている…………!)

 

 未だ未熟な頃、教団の最高戦力、ラウンズの一人と対面した時に感じた隔絶した実力者へ抱く畏怖。

 

「馬鹿、な…………馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なあああああああ!! 私は強くなった! あの時よりも! ラウンズに選ばれるほどに! 今の私は最強だ! その私が、恐怖など!!」

「俺が怖いか? なら、俺もお前に、俺が感じた恐怖を見してやる」

 

 膨大な魔力が注ぎ込まれたサードの剣に亀裂が走る。絶叫しながら全魔力を剣に込めたゼノンが剣を振り下ろし………

 

「あいあむあとみっく」

 

 放たれる黒緑の魔力の奔流。人の手から離れれば霧散するはず魔力がゼノンの魔力に包まれた剣を消し去り壁も天井も消滅させ天へと突き進む。

 

 魔力に耐えきれなかった剣が塵となって消え失せた。

 

「……………これが、人の力なの?」

「…………サード」

 

 呆然とするアレクシア。それだけの絶対的な力を見せたサードにアイリスは一歩近付いた。

 

「…………ちゃんと話しなさい」

「後悔は?」

「しないわ。私は、貴方の主となる女です」

 

 


 

 

 サード。元ディアボロスチルドレン3rd。赤子の頃から教育を受けており、情緒が育たなかったのを自我が崩壊したと判断されていた。スタイリッシュ盗賊スレイヤーのアイ・アム・アトミック擬きを見て死を意識した。死の恐怖により自己を獲得。教団から逃亡した。その後独学で己を鍛え続けた。

 

 アイ・アム・アトミックを一目でラーニングした。

 

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