一日三食食べたくて   作:ケツバット

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サード・オリジン

 昔々。今より少し昔、少年は奴隷であった。

 生まれた時から奪われ、何も与えられず、人を殺す術と教団の素晴らしさに対しての教えを押し付けられる。

 

 物心ついた頃から握っていたのは父の手ではなく剣であり、温もりを与えたのは母の抱擁ではなく同胞の流した血。

 

 最初に覚えた言葉は『教団への忠誠を』。

 それが後にサードを名乗る少年、そして仲間達(ディアボロスチルドレン)普通(当たり前)だった。

 

 大陸の何処かの育成機関にして実験施設。

 攫ってきた子供達、孤児院に扮した教団施設から連れて来られた子供達。笑顔はなく、泣き言を言う者は殺される。

 

 それが日常(当たり前)。疑問を持つにはそれ以外を知らない。周りの子供達も同じ。

 そんな子供(自分)達を見て大人達は『さーどか……』と呟いていた。それを嫌がるのは本当に少数。

 

 名前すら与えられていない子供達。そんな中にも心を持つ者は数名居た。その一人によく絡まれた。いずれラウンズに至りこの施設の大人達を不敬罪で殺し尽くすのだとか。

 

 特に何も感じなかった。

 

 そしてランクを決める試験。よくある殺し合いによる実力の証明。組織の歯車たれと育てられ、聡明な故にそう育った彼は自意識が薄いと判断され3rdとなった。

 

「ふざけんな!」

 

 そう言ったのはチルドレンの中では珍しく夢を語る彼だった。

 

「俺が1stで、お前が3rd!? そんなわけあるか! そんなわけ! 手を抜いたろ! 俺が上がれるように枠を減らすために! 俺がお前に夢を教えたから、情けのつもりかよ!!」

「情け………?」

 

 相変わらず良く解らない奴だ。彼に抱いた感想などそれだけ。その瞳は目の前の彼も周りで困惑している者達も、その場の風景としてしか映していない。

 

「その目をやめろ! その目で見るな! 俺を無視するなよ!!」

「今の俺達は私闘を禁止されている」

 

 そう忠告したにも関わらず斬り掛かってくる。教団の希少な戦力である1stをラウンズでもないのに処刑する事は出来ない。

 

 後遺症が残らない程度に打ちのめした。彼は自分より弱いのだ。余計な時間を使った、程度の感覚。やはり少年は彼を見ない。

 

「ふざけんな…………ふざけんな!! 俺を無視するな! 俺を見ろ! 刻んでやるぞ、お前に俺を! 後悔させてやる、俺を見下した事を!!」

「………? お前はさっきから何を言ってるんだ?」

 

 

 

 

 それから正式な兵士として任務に明け暮れた。ある時は魔物を殺し、ある時は教団の情報を売ろうとした裏切り者を粛清し、ある時は新薬の臨床実験。

 

 とある村を滅ぼせと言われた。

 悪魔憑きを匿っていたらしい。

 

「……………」

 

 肉の腐りきった母の前でただ手を広げるしか出来ない弱い存在。そもそも悪魔憑きは死んでたので踵を返して小屋から出ていった。次の瞬間小屋が吹き飛んだ。チルドレン2ndの仕業だ。

 

「おっと、巻き込んじゃうところだったか落ち零れ。それより悪魔憑き、みてねぇの?」

「…………死んでた」

「はぁ? おいおい、てめぇが殺したんじゃねえだろうな? これだからちょっと会話できるだけの3rdはよ」

 

 妙だ。こいつは簡単に切り捨てられると確信出来るのに、こいつより遥かに弱いあの子供を、自分は何故か切れないと感じた。

 

 でもそれを疑問という形にする事なく、少年は直ぐに忘れた。

 

 

 

 その日も教団から受けた命令をこなしていた。

 教団と繋がっている商会の積荷が奪われたから取り返してこいとのことだ。衛兵に頼まないのは、余程見られたくないものでもあったのか。

 

 そんな時に奴は現れた。

 

「ヒャッハー! 金目の物置いてけやああああ!!」

 

 そう、盗賊だ。目撃者は殺せと命を受けていた団員達は即座に動き殺された。少年は取り敢えず盗賊を殺すことを優先した。

 

 殺し終えたので少年盗賊に目を向ければ仲間は全員殺されていた。少年盗賊が明らかに剣の届かぬ距離で剣を振るう。

 

 剣が変形し迫ってきたので弾く。

 

「わお………強いね、君。これまで会った中の誰よりも強い」

「……………俺はそうでもない」

 

 まだラウンズの方が強いな。そう思いながら剣を振るう。一体何の素材なのか、ぐにゃぐにゃ形を変える剣に、切っても再生する服。しかもどちらも尋常ならざる魔力伝達率。

 

 少年盗賊と自分が百の魔力を流したとして、彼の剣には99の、自分の剣には20そこらの魔力が通る。ならどうする? 千の魔力を流せば良い。

 

「おお………!」

 

 剣を切り飛ばし感嘆している少年の腹を蹴る。木々をぶち抜き吹き飛んだが、蹴りの瞬間あの妙な服を腹と背中に集めて防御力を高めた。

 

 強いのがいるな。その程度の認識。目撃者は殺す。

 与えられた命令をただこなすだけの人形。死んでないだけで生きていない少年はとどめを刺すべく少年盗賊が吹き飛んだ方向へ走る。

 

「…………!!」

 

 その足が止まった。前方から感じる膨大な魔力の圧。力だけならラウンズすら凌ぐ洪水のような魔力。

 

「我が名はスタイリッシュ盗賊スレイヤー………強き者よ、名を聞こう」

 

 魔力を体内で圧縮、爆発? ああすると魔力が増えるのか。増幅した魔力を濃縮し、さらにそれを再び圧縮。エネルギーは加速度的に上がる。

 

「…………名前……………ない」

 

 何故自分は足を止めた。早く殺せなくては。命令。誰の? 従う必要は? 何故果たさねば………。

 

 それは初めて生じた疑問。少年は、この場から逃げ出すための理由を探す。それはこれまで何も感じず、何も考えず動いていた人形に生じた自我。

 

「え、なにそれ陰の実力者っぽ〜い。羨ましいね………んん。では、せめて我が名と、この技の名をその魂に刻むがいい!!」

 

 瞬間、少年がとった行動は回避。刺し違えても敵を殺せと教わるディアボロスチルドレン3rdの姿はそこにはなかった。

 

「あい………あむ………」

 

 少年盗賊が抑えられる魔力の臨界を超えたのか、溢れ出す紫紺の魔力光。吹き荒れる風はこれから起きる破壊の予兆。

 

「Atomic………もどき」

 

 次の瞬間森の一角が消し飛んだ。

 

 

 

「…………ぶわはぁ! はあ、げほ…………はあ!」

 

 崖に飛び込み川を泳ぎ、一度も息継ぎをしないまま下流まで泳いだ。半刻ぶりに杯の中に空気を取り入れる。

 

「………はあ〜! はっ!」

 

 ガチガチと歯がなるのは体が冷えたからではない。

 初めて覚えた感情。恐怖。

 

 ただ続くと思ってたた明日が終わる。当たり前に歩むと思っていた道がなくなる感覚。

 

 続いて腹の底に湧き上がるのは後悔。自分はこれまで、そんな感覚を味合わせていた。

 

 そしてまた恐怖が蘇る。これまで感じたことも無い死への恐怖。それを与える者がいるという事実。

 それから逃れるにはどうすればいいか、知っている。強くなればいい。自身が死を与える存在より強くなればいい。

 

 

 

 それからひとまず街に入る。山向で起きた爆発で話題が持ちきりだ。

 ふと父と母に手を引かれる子供を見る。窓ガラスに映る自分の隣には誰もいない。

 

 もう一度子供を見る。楽しそうに笑っていた。自分はあれを奪う側だった。あれを奪う者がいるのを自分は知っている。

 

「お母さん、今日の晩ご飯なぁに〜?」

「ふふ。あなたの好きなハンバーグよ」

「わーい!」

「はん、ばーぐ?」

 

 食べ物らしいがどんな物だろうか。3rdに与えられるものなど何な粉を固めたっぽい栄養の取れる棒。

 

「………………ああ、腹が減ったな」

 

 そこから始まったのだ、チルドレン3rdではなく、サードという人間の旅が。

 

 盗賊を狩り魔物を狩り、金を稼いで飯を食いながら修行に明け暮れる。幸いあの時全員死んだことになっていたので教団からの追っ手はなかった。

 

 悪魔憑きを治したりしてると『聖女』率いる『テンプラー』が襲ってきたこともあったな。弱くて修行相手にもならなかったけど。

 

 街中はともかく、旅装束はなかなか丈夫な教団の戦闘服を着ていたら妙な連中に襲われた。シャドウガーデンというらしい。彼女達から色々聞き出し、霧の都なる幻の都市について知りそこを拠点にすべく旅の目的地を決め、キー君と言う友達も出来た。

 

 まあ結局、飯欲しさに時折街に降りていてのだが。

 最終的にはやはり街のほうが便利と言う結論に至り今こうして街に住んでいる。

 

 一日三食うまい飯が食える。飯とは生きるために必要なことだ。ならアイリスは命の恩人も同然。彼女の為に今日も行きる。

 

 それが人間サードが()()()()()()生き方である。

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