FGO 異端特異点 B.C.70000 反人類防衛神域スエズ 作:笑嘲嗤
深い森の奥。一人の少女が目を覚ました。
「今日も来たんだね、アダム」
少女は木々の間を駆ける。そして見えたのは戦場。肌が白く筋骨隆々の”ヒト”たちと肌の黒いヒトたちが戦っていた。石器を手にしたヒトたちは叫び、白い”ヒト”たちは咆哮を上げていた。
「見つけた!!やあ今日もおはよう!!」
樹の上から一人のヒトに向かって拳を振り上げながら少女は降りてくる。ヒトはそれをさっと避けた。
「無理だよ。森は超えられない」
「いいや。超えてみせる。我らは足を止めるつもりはないのだ!!」
二人の拳と石器がぶつかり合い、森の木々を揺らす。これは神代よりはるか昔の戦争だった。
僕たちカルデアはいつもいろんな時代を飛び回っている。思ってもみない場所。思ってもみない敵に遭遇し続けていた。人理のため未来を守る。それが使命。だけどいままで特異点も異聞帯もそれは今振り返れば、「歴史」と「文明」の内側だったんだ。
「新しい特異点の反応!場所は……え?嘘だろ」
ロマニがモニターを見ながらあっけに取られている。僕は尋ねた。
「どうしたの?変なのはいつものことじゃない?」
「……ありえないんだ」
「ありえない?」
「場所はスエズ」
「じゃあ古代のエジプト?」
「いいや。そうじゃないんだ。ちょっと落ち着かせてくれ。ふぅ」
ロマニの顔色が悪い。なにがあったというのか。
「人理の外だ」
「はぁ?え?」
「人理の外なんだよ!時代はB.C.70000!神代よりもずっと昔だ!!」
B.C.と言われて最初に思い出したのはバビロニアだった。あのような地獄のが待っているということなのか?神秘は時代を下れば下るほど強くなる。何万年も前ならば恐ろしく強い英霊に遭遇するのではないだろうか。少し不安を覚える。
「神代よりも前ですか。それってそもそも人がいるんですか?」
「いるよ。いるんだ。だから恐ろしいし信じられない」
ダ・ヴィンチも顔色が優れない。
「神代より前。考古学的生物学的にしか観測できない時代。それにスエズ……」
「スエズってたしか海峡ですよね?」
僕はそう呟く。だがダ・ヴィンチは首を振る。
「それは近代に作られた運河だ。人が切り離したんだ。もともとユーラシアとアフリカはスエズで繋がっていた」
それを聞いてはっとした。さんざんレイシフトしているのに僕はまだまだ歴史に浅かったということだ。マシュがモニターを覗き込む。
「特異点の名前は『異端特異点 反人類防衛神域スエズ』ですか?」
ロマニもダ・ヴィンチも頭を抱えていた。
「この時代に何があったんですか?」
僕はそう聞いた。ダ・ヴィンチが答える。
「アウト・オブ・アフリカ」
「アウト・オブ・アフリカ?」
「分子生物学の進歩で人類の発祥の地はアフリカだと証明された。考古学的調査から得られた知見で人類の一部がアフリカを出たのがだいたいB.C.70000前ごろだと言われている」
「それって……」
ロマニが蒼い顔をして答える。
「この特異点は異常だ。英霊たちの誕生以前の世界。神秘さえもない時代なんだ。もしこの特異点で起きているのが、何者かによる人類の出アフリカを阻止する行為なんだとすれば……」
僕は唾を飲み込む。これは今までの何よりも恐ろしい事態が起きている。
「人類史の根本が鎖される。英霊も文明も何もかもが失われることになる。人類は星を開拓することなく終わるんだ」
「嘘…ですよね?」
マシュも顔が引きつっている。
「とにかくすぐに向かいましょう!」
僕はそう言うがロマニたちの動きが鈍い。
「どうしたんですか!いつも闘って来たでしょう!」
「……英霊が召喚できるかどうかがわからないんだ」
ダ・ヴィンチは眉間を揉みながらそう言った。
「そんな?!」
「神代以前の時代。そもそも神秘さえもないんだ。英霊は歴史の記録の上に座標がある。英霊召喚システムの前提が成り立たないんだ」
マシュも僕も絶句していた。
「最悪のパターンだよ。つまりマスターである君とマシュの二人だけになる可能性がある」
「だけどそれは行かない理由にはなりません」
僕はそう言った。みんなが僕を見ている。
「未来を守らなきゃいけない。だから行きます」
「……そうだな。君はそう言う人間だったね」
ダ・ヴィンチとロマニが笑う。マシュも微笑んでいた。
「じゃあすぐにレイシフトだ!!行けばなにかヒントはあるかもしれない!今までもそうだったのだから!」
僕たちはすぐにレイシフトの準備をした。
レイシフト・レディ。
目的地:B.C.70000 反人類防衛神域スエズ。
目的:特異点の解消、人類史の再起動。
「さあ、行ってらっしゃい。人類がまだ“夢”すら知らなかった場所へ——その夢の始まりを、取り返しに行くのよ!」
「先輩、行きましょう……!私たちの、人類の未来のために!」
そして僕らは光に包まれて、飛び立った。