クソデカハムスターに転生した俺、2000年努力して最弱から魔王になる   作:yumui

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鍵巫女

ゴブリンの巣からの脱走から一週間。

 

エルベリスとファウの日々は、修羅場の連続だった。

 

「うわあああ!」

 

エルベリスはスライムに囲まれていた。透明な身体をした大型スライム。強さなんてたかが知れていると思ったのが、大間違いだった。

 

スライムの身体に包まれ、徐々に溶かされ始める。

 

「ファウ!助けてくれぇ!」

 

エルベリスが悲鳴を上げると、ファウが『魔力系0位階、火の矢』を放つ

 

スライムが一時的に怯み、エルベリスは身体から抜け出すことができた。

 

「もう無茶なことはしないでください」

 

ファウは呆れた声で言った。相変わらずです、ます口調だ。

 

「分かった。気をつける」

 

エルベリスは肩で息をしながら、うなずいた。

 

その夜、エルベリスは筋トレを始めた。

 

「よし、腕立て伏せだ。一日百回は絶対にやる!」

 

意気込んで始めたエルベリスだが、十回でへばってしまった。

 

「......」

 

くたくたになりながら地面に転がるエルベリスを見て、ファウはため息をついた。

 

「体力がないです」

 

次の日、ファウは栄養をつけるために森で食べ物を探していた。

 

見つけたのは、奇妙な形のキノコ。紫色で、触るとぬるぬるしていた。

 

ファウはそのキノコを食べた。

 

直後、視界がぐにゃぐにゃと歪み始めた。木が踊り始め、空が地面になり、地面が空になった。

 

「ファウ?」

 

エルベリスが不安そうに駆け寄ると、意識朦朧のファウが彼に飛びかかった。

 

「やめてくれ!齧らないで!」

 

「ぺっ、ハンバーグかと思ったら毛の味がします…」

 

こうして、エルベリスの毎日は失敗の連続だった。

 

 

 

 

三日後のこと。

 

エルベリスとファウが茂みに身を隠していると、声が聞こえてきた。

 

冒険者たちだ。

 

五人の武装した男たちが、森の中を歩いている。話の内容から、相当な実力者らしい。

 

「そろそろ鍵巫女に強くしてもらった方がいいな」

 

一人の冒険者がそう言った。

 

「同意だ。この頃、モンスターも強くなってきた」

 

別の冒険者も頷く。

 

鍵巫女。

 

その言葉を聞いて、エルベリスは思考を始めた。

 

何度修行をしても、一向に強くならない。でも、あの冒険者たちは「強くしてもらう」と言っていた。

 

もしかして、自分が強くなれないのは、その「鍵巫女」という存在がいないからではないか?

 

エルベリスはファウに目配せした。ファウは理解して、二人は茂みから抜け出した。

 

その夜、エルベリスはファウに提案した。

 

「ファウ。人間の街に潜入しよう」

 

「えっ、危険です」

 

「その鍵巫女ってやつを見つければ、俺は強くなれるかもしれない」

 

ファウは心配そうな顔をしたが、最終的には了承した。

 

 

魔族領と人間の国の国境にある町。

 

その日、この町ではお祭りが開催されていた。

 

人間たちで溢れかえっている町は、確かに潜入に適していた。人が多いほど、目立たないということだ…たぶん。

 

エルベリスとファウは町の門に向かった。

 

門番は二人を見て、怪訝な顔をした。

 

「魔物と、魔族か。何の用だ?」

 

エルベリスは深呼吸して、言った。

 

「俺はハムスターです。そして、この子は俺の飼い主です」

 

門番は目を細めた。

 

「ハムスターが喋るのか?」

 

「大丈夫です。ちょっと変なハムスターなんです」

エルベリスは必死に説得しようとしたが、門番は手を上げた。

 

「いや無理だろ。ハムスターが喋るわけねーよ」

 

その瞬間、エルベリスと門番の間に重い沈黙が落ちた。

 

結局、二人は門番に捕まった。

 

 

 

 

捕まった二人は、商人のもとへ連行された。

 

珍しい魔物だからと言って、商人に売り飛ばされたのだ。

 

檻の中に入れられ、他の魔物たちと一緒に並べられる。

 

その時、隣の檻から声がした。

 

「あ、新人さんか」

 

振り返ると、そこには頭から二本の角が生えた赤髪のツインテールの少女がいた。

 

「俺はエルベリス。こいつはファウだ」

 

「あたしはリベット。よろしくね」

 

リベットと名乗った少女は、ツンツンとした印象の顔つきをしていた。

 

「あ、そうそう。俺はいずれ世界最強になる男なんだ」

 

エルベリスが自慢げに宣言すると、リベットは大声で笑った。

 

「ふっ、そんなこと言ってんのか。あんたみたいなか弱い魔物が?」

 

「笑うな。俺は必ず最強になる!」

 

「まー、頑張れや。でも、まずここから脱出しないとね」

 

 

 

 

 

「なあ、リベット。お前、なんでこんなところに?」

 

エルベリスが聞くと、リベットは深刻な表情になった。

 

「あたしはね、鍵巫女なんだ」

 

エルベリスの目が輝いた。

 

「鍵巫女?」

 

「知ってる?」

 

「冒険者たちが話していた。強くしてもらえるやつ?」

 

「そういう事。鍵巫女は人間と魔族に稀に生まれる者で、信仰系魔法を唯一使える。その人の経験に応じて、その人を強くすることができるんだ」

 

リベットは説明した。

 

「強くなるには鍵巫女の助けが必須なんだよ」

 

エルベリスは納得した。

 

「ゲームで言う経験値をレベルアップに変えるようなもんか」

 

「げーむ…?まあそんな感じ?」

 

エルベリスはリベットに言った。

 

「仲間になってくれ。俺を強くしてくれ」

 

リベットはエルベリスをじっと見つめた。

 

「あんた、本当に弱そうなんだけど.....」

 

悩んだが、やがてリベットは了承した。

 

「わかった。ただし、条件がある」

 

「何だ?」

 

「あたしのペットを助けてくれたら、仲間になるよ」

 

 

商人の屋敷は、使用人たちの目を逃れて移動するしかなかった。

 

エルベリスは頭の小さな角を使って、檻の鍵をピッキングした。

 

カチカチ......カチン。

 

鍵が開いた。

 

檻から出る前に、リベットがエルベリスに触れた。

 

『信仰系1位階、能力向上』

 

エルベリスの身体が光った。

身体が軽くなったような気さえする!

 

「これがお前の経験を強さに変える魔法か!」

 

エルベリスは喜んで、近くの檻をパンチした。

 

「いてっ!」

 

骨折した。強さはあまり変わらなかった。

 

「あの…こいつで本当に大丈夫なの?」

 

「やる時はやる人なんです…ほんとなんですよ…」

 

ファウとリベットは呆れた顔で見つめていた。

 

 

 

 

 

商人の屋敷を探し回り、私室でリベットのペット、ネリーを発見した。

 

小型のネズミのような魔物で、知能はネズミ並だが、リベットに懐いていた。

 

「ネリー!」

 

リベットが喜んで抱き上げると、ネリーはリベットの頬をなめた。

 

だが、そこに商人と一人の冒険者が現れた。

 

「何をしているんだ?」

 

商人が呆れながら言う。

 

「牢に戻るんだ…勝ち目はないよ」

 

「こんなところで躓いてはいられるか!」

 

エルベリスは冒険者に殴りかかった。

 

冒険者は涼しい顔で構えた。

 

『戦技/剛撃』

 

冒険者が放った一撃は、エルベリスを壁まで吹き飛ばした。

 

「うぐっ......」

 

エルベリスが動けなくなると、リベットが駆け寄った。

 

『信仰系1位階、治癒』

 

リベットの魔法がエルベリスの傷を癒やす。

 

冒険者は三人に近づいてきた。

 

「これ以上抵抗するなよ、商品に傷つけたらクビになっちまう」

 

その時、ファウが問いかけた。

 

「こんなことをしてる暇がありますか?」

 

冒険者が不審がると、屋敷中から魔物たちの声が聞こえてきた。

 

鳴き声、咆哮......

 

「どういうことだ?どうなってる?」

 

その質問に答えるように、屋敷の壁に取り付けられた檻が、次々と開いていく。

 

ファウが魔物たちの檻を全部、壁に下げられた鍵で開けていたのだ。

 

解放された魔物たちが、次々と屋敷を駆け回る。

 

三人は窓から飛び出した。

 

後ろからの商人と冒険者の慌てる声を聞きながら。

 

 

三人は下水道を通って、街から脱出した。

 

夜の森で、三人は笑い合った。

 

「あんたら、本当に無茶だね」

 

リベットがネリーを撫でながら言った。

 

「でも、あたしはあんたたちが好きだ」

 

「本当か?」

 

「ああ。あたしも、自由に生きたいと思ってた。商人に囚われるまでは、ずっと自由だったしね」

 

リベットは星を見上げた。

 

「あんたたちの旅に加わる。いい?」

 

エルベリスは笑顔で頷いた。

 

「ああ。ようこそ、俺たちの仲間へ」

 

こうして、エルベリスの旅に新たな仲間が加わった。

 

元奴隷の魔族の少女ファウ。

 

そして、鍵巫女リベット。

 

三人は森で夜を過ごす。

 

遠い空には、二つの月が輝いていた。

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