クソデカハムスターに転生した俺、2000年努力して最弱から魔王になる 作:yumui
転生から五十年が経った。
エルベリスは木の根元に身体を寄せて、朝日を浴びていた。体長は一・五メートルまで成長し、筋肉もしっかりついていた。ハムスターというより、もはや謎の魔物という風体だ。
「おはようございます」
ファウが目を覚ましながら、挨拶した。
「おはよう。寝たか?」
「はい。結構快適です」
リベットはまだ眠っていた。ネリーはリベットの胸に乗っかって寝息を立てている。
エルベリスはこの五十年間、リベットから強くなるための方法を習ってきた。
この世界の魔法には三種類がある。攻撃に使うことが多く炎や氷を操る魔力系。治癒や能力向上に使う信仰系。精霊との契約で使え、治癒や攻撃を行える精霊系。
そして、各魔法には位階がある。
誰でも使える0位階。
努力を続ければ使える1位階。
才能ある者や英雄にしか使えない2位階。
そして、伝説の魔術師級しか使えない3位階。
戦士は戦技という技を使う。強くなればなるほど、
より強力な戦技が使えるようになるのだ。
エルベリスは地道に修行を続けた。
毎日、毎日。
「見ろ、ファウ!」
エルベリスは木の前に立った。拾った二本のロングソードを腰に挿している。
『魔力系0位階炎の矢』
エルベリスの指先から炎の矢が放たれた。
バチッと音を立てて、木に焦げ痕がついた。
「どうだ? 凄いだろ!」
ファウは拍手した。
「すごいです〜! エルベリスはますます強くなっていますね」
エルベリスは満足そうに頷いた。
続いて、腰のロングソードを抜いた。
道端で死んでいた冒険者が使っていた武器だ。死んでいた体から拾ったものだが、質はいい。
『戦技剛撃』
エルベリスが全力で木に斬りかかった。
木が見事に両断され、倒れた。
「やったぞ!」
エルベリスは自画自賛して喜ぶ。
ファウも一緒に喜んだ。
「本当にすごいです!」
だが、その時リベットが目を覚ました。
「普通の戦士や魔術師なら三ヶ月でできるようになるんだが」
リベットは大きなあくびをしながら、呆れた顔で二人を見た。
「あ、いた」
エルベリスは拍手をやめた。
「リベット、俺だって凄いじゃないか。毎日続ければ、いずれ最強になれるんだぞ」
エルベリスは自慢そうに胸を張った。
「あ、そうですね。毎日の努力が大切です」
ファウも頷いた。
その時、エルベリスは倒れた木の裏に異変を感じた。
何かがある。
近づいてみると、武装した人間の死体があった。
恐らく数週間前に死んだものだろう。腐敗が進んでいるが、装備はしっかり残っていた。
そして、その人間の手には、奇妙な金色のリングが嵌まっていた。
光を反射して、キラキラと輝いている。
「なんだこれ?」
エルベリスは疑問を口にした。
リベットが起き上がり、死体を見た。
「あ、それレリクイアの参加資格じゃない?」
「何それ? 美味いの?」
「食べ物じゃないよ。あんたのボケって本当に謎だな」
リベットはため息をついた。
「レリクイアってのはね、辺境の人間達の国オルレアで十年ごとに開催されるレースなんだ」
「レース?」
「そ。複数の遺跡を探索して、多くの遺物を手に入れた者が優勝。景品は国王自らが宝物庫の秘蔵の品をくれるんだって」
リベットが説明する。
「魔剣とかもあるか?」
エルベリスの目が輝いた。
「もしかして、魔剣を手に入れれば、もっと強くなれるんじゃないか?」
「そりゃあ、魔剣なら通常の剣より遥かに強いし。あんたみたいな力が必要な奴には、ぴったりじゃないの?」
エルベリスは決意した。
この金色のリング。これはレリクイアへの参加資格だ。
レリクイアで優勝すれば、魔剣が手に入る。
魔剣があれば、今より確実に強くなれる!
「よし! 俺たち、レリクイアに参加する!」
ファウは目を見張った。
「本当ですか?」
「ああ。俺は最強になるんだ。そのためなら、何だってやる」
エルベリスは金色のリングを拾い上げた。
三人はオルレアに向けて出発した。
金色のリングは確かに参加資格だった。それはリベットの知識から推測できた。
辺境の国オルレア。
そこで、エルベリスの新たな試練が待っていた。
森を抜け、山道を進む。
ファウは相変わらず落ち着いていた。
「本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ。俺たちは強くなった。ゴブリン程度なら苦戦しねーよ」
エルベリスは自信を持って答えた。
それは本当だった。
五十年の修行の末、エルベリスは確実に強くなっていた。
リベットはネリーを肩に乗せながら、前を歩いた。
「懐かしいな〜。昔、ちょこっと立ち寄ったことがある」
「どんな所だ?」
「まだ未発見の遺跡の多い辺境だよ。レリクイアには、冒険者、騎士、魔術師、魔族すらも参加するらしいよ」
エルベリスは心を引き締めた。
つまり、強い敵たちだ。
だが、それでいい。
強い敵と戦えば、エルベリスはもっと強くなる。
五十年の修行で学んだことがある。
苦労が多いほど、成長も大きい。
エルベリスはそう信じていた。
雪が降り続いていた。
オルレアの王都。辺境の国とは思えないほど栄えた城下町だが、その繁栄も一部の者たちのものに過ぎなかった。
大通りの片隅。
金髪の少女がくたびれて座り込んでいた。
その名はマリア。
かつては有名だった家系の娘だ。建国時のオルレアでは、マリアの一族は偉大な騎士の家系だった。しかし、今は落ちぶれ、父親は寂れた冒険者の宿の主人に成り下がっていた。
かつて剣聖と呼ばれた父も、今は酒浸りになっていた。
マリアの夢は騎士になることだった。
だが、現実は残酷だ。父の世話をしながら、冒険者の宿でセクハラしてくるおっさんに笑顔で酒を運ぶ毎日、日銭を稼ぐ毎日。騎士になるなんて、遠い夢だった。
その鬱憤が溜まっていた時、マリアはレリクイアが開催されるという話を聞いた。
レリクイアでの優勝。
騎士たちの目にとまるチャンス。
マリアは父から習った剣と盾の扱いに自信があった。酒浸りになる前の父は、確かに剣聖だった。その父から直接教わった技術なら、そこまで劣っていないはずだ。
だから、マリアは先祖の白銀の鎧と盾、剣を持って飛び出したのだ。
だが、問題があった。
参加資格。
レリクイアに参加するには、金のリングが必要だ。王の魔法により、世界中の資格ある者たちの元に転移するという。
マリアは持っていなかった。
持っていないなら、どうするか。
参加資格を持つ者たちの仲間に入れてもらう。
そういう作戦だ。
マリアは必死に頭を下げた。
名誉を手に入れたい騎士たちに。
遺物を探し出したい魔術師たちにも。
一攫千金を夢見る冒険者たちにも。
腕試しに来た魔族たちにも。
だが可憐な美少女にしか見えないマリアの頼みに、首を振る者はいなかった。
夜になった。
マリアは意気消沈して、大通りの片隅で座り込んでいた。
雪が静かに降り続く。
白銀の鎧も、盾も、剣も、今は重く感じられた。
「何やってるんだろ、私……」
マリアはつぶやいた。
その時だ。
足音が聞こえてきた。
マリアが顔を上げると、奇妙な風貌の魔物が近づいていた。
体長一・五メートル。腰には双剣。そして、首から金色のリングが下がっていた。
ハムスターのような見た目だが、筋肉質な体からは力が感じられる。
マリアの心が跳ねた。
「あ!」
金色のリング!
参加資格だ!
マリアは迷わず行動した。
エルベリスの前に飛び出すと、完璧な所作で即座に土下座した。
「なんでもするから仲間にして!お願い!」
いきなりのことにエルベリスは戸惑った。
「……ん?」
エルベリスの後ろからファウとリベットが現れた。
「何してるんですか、この人」
ファウが首をかしげた。
リベットは笑った。
「あはは、あんたたちに早速トラブルが来たか」
マリアは顔を上げた。必死の表情で、エルベリスを見つめている。
「私はレリクイアに参加したいの。そのために、仲間が必要なの。あなたたちの力を借りたいの」
エルベリスは首をかしげた。
「お前は……?」
「マリアよ、未来のオルレアの騎士!」
マリアの声には、悔しさと絶望が混在していた。
エルベリスはマリアを見つめた。
落ちぶれた騎士の娘。
白銀の鎧と盾、剣。昔日の栄光を示すそれらは、今は無一文の少女を守っていた。
その姿は、かつての自分と重なるようだった。
何もできない。何も成し遂げられない。ただ、現実に苦しむだけ。
だが、今のエルベリスは違う。
五十年の修行で、確かに強くなった。
だから、こう言った。
「ファウ」
「はい?」
「マリアを仲間に入れよう」
ファウは驚いた。
「いいんですか?」
「ああ。レリクイアで優勝するなら、戦力が多い方がいい。それにな」
エルベリスはマリアに手を差し伸べた。
「お前の目つき、嫌いじゃない。必死の目をしてる」
マリアは驚いて、エルベリスの手を握った。
「本当……?」
「ああ。俺たちの仲間になれ。」
マリアは涙ぐんだ。
「ありがとう」
リベットが呆れた顔で言った。
「あんたら、本当に誰でも仲間にするんだな。でも、まあいいか。戦力は多い方がいいしね」
こうして、エルベリスたちのチームにマリアが加わった。