クソデカハムスターに転生した俺、2000年努力して最弱から魔王になる 作:yumui
マリアの父が営む冒険者の宿は、決して豪華ではなかった。
古い木造建築。一部には傷や割れ目がある。だが、どこか温かみがあった。
エルベリス、ファウ、リベット、そしてマリアの四人は、宿の二階の使用されていない部屋へと案内された。
「ここを使って!」
マリアが言った。
その時だ。
一人の男が現れた。
マリアの父、レオナール。
かつての騎士は、今はぼろぼろだった。
顔にはしわが多く、目は濁っていた。左手には酒瓶が握られている。
「マリア」
レオナールが呼んだ。
「酒を買ってきてくれないか?」
マリアの顔がかっと赤くなった。
「……」
何も言わず、マリアは自分の部屋へと去ってしまった。
ドアが乱暴に閉められる音がした。
レオナールは酔いに任せて、エルベリスの方へと歩き始めた。
その目は、敵意に満ちていた。
「貴様……魔族か!」
レオナールは剣を抜いた。
「娘に何か企んでいるのか!」
「違う。俺たちはマリアの仲間で……」
エルベリスが言いかけた時、レオナールが斬りかかってきた。
エルベリスは身を翻した。
鋭い剣閃が、エルベリスの体をかすめる。
「うわあああ!…あれ?」
レオナールは何度も何度も斬りかかってきた。
だが、すべての攻撃をエルベリスは躱した。
五十年の修行で、エルベリスの反射神経も鍛えられていた。酔っ払った老人の攻撃など、避けるのは容易いが。
それ以上に男は老いていた。
レオナールは一振り、一振り、力を込めて斬りかかる。
だが、すべてが空を切った。
やがて、酔いが回ってきたのだろう。
レオナールの動きが鈍くなった。
よろけた足で、ばったりと倒れた。
「大丈夫か……?」
エルベリスは心配そうに近づいた。
レオナールは眠り込んでいた。
エルベリスは、そっと老人を自分の部屋へと連れて行った。
ベッドに寝かせ、毛布をかけてやった。
翌朝。
レオナールが目を覚ました時、エルベリスは傍らにいた。
水を差し出した。
「飲め」
レオナールは黙ってそれを飲んだ。
ごくごくと飲み干し、やっと酔いが覚めたようだ。
「……俺は?」
「寝てた」
「そうか」
レオナールはため息をついた。
「昨日は悪かった。町中に魔族がいるもんだからな……そうだった、レリクイアがあるんだったな」
「いい。ところでな」
エルベリスが聞いた。
「なぜ、お前はマリアに嫌われてるんだ?」
レオナールは黙った。
長い沈黙の後、彼は口を開いた。
「俺はな、昔は王に仕える騎士だったんだ」
エルベリスは静かに聞いた。
「剣聖とまで呼ばれていた。だが……」
レオナールの声は沈んだ。
「年をとってな。昔のように身体が動かなくなった。更に、病気にもかかってしまった」
レオナールは自分の手を見つめた。
「だから、騎士を辞めて。この宿の主人になったんだ」
「そっか」
エルベリスは理解した。
栄光から転落。
そして、酒に溺れる。
「人生って、理不尽だな」
エルベリスがつぶやいた。
「マリアの話だが」
エルベリスが言った。
「あいつがレリクイアに参加することを許してやってくれ」
レオナールは驚いた。
「なんだと?」
「ああ。あいつは騎士になりたいんだ。だから、レリクイアで優勝したいんだ」
エルベリスは真摯に話した。
「手伝ってくれ。親として、応援してやってくれ」
レオナールは何も言わなかった。
やがて、彼は口を開いた。
「俺は……マリアに申し訳ないと思ってたんだ」
レオナールの目には、涙があった。
「俺の世話をさせて。毎日、宿の仕事で疲れさせて」
「そっか」
「それなのに、酒を求める親だ。最低だ」
レオナールは頭を下げた。
「だが……」
エルベリスが言った。
「マリアはお前の子だ。お前のことを見捨ててない。だから、今度はお前がマリアを応援してやるんだ」
レオナールは顔を上げた。
「……そうだな」
「ああ。マリアはそろそろ独り立ちしてもいい時期だ。一人で飛び立つのを、見守ってやれ」
マリアはエルベリスたちと共に、冒険者の宿を出ようとしていた。
その時だ。
レオナールが現れた。
マリアは驚いた。
父が、こんな朝早い時間に起きてるなんて。
「父さん……?」
「マリア」
レオナールは近づいた。
「お前はレリクイアで優勝するんだ。そして、騎士になるんだ」
「俺から自由になれ。自分の道を進め」
マリアは涙ぐんだ。
「…ありがとう、父さん」
「頑張れ」
マリアは力強く頷いた。
「絶対優勝するから!」
こうして、マリアは新しい人生へと一歩を踏み出した。
五人は、レリクイアの第一課題の遺跡へと向かった。
雪は降り続いていた。
だが、その雪の中で、彼らの心は温かく輝いていた。
村の市場。
エルベリスたちが第一課題の遺跡に向かっている頃。
男性三人、女性一人。銀等級の冒険者たちが市場にいた。
彼らは食料を買い込んでいた。
レリクイアに向かうための必需品だ。
「これで十分だな」
リーダーの男が言った。
「ああ。遺跡探索は時間がかかる」
別の男が頷いた。
「優勝したら、何が欲しい?」
女の冒険者が聞いた。
「そりゃあ、マジックアイテムだ。あれば便利だし」
「俺も同感」
四人は村を旅立った。
遺跡へ向かうために。
レリクイア第一課題である遺跡へ向かう道中。
冒険者たちは野宿をしていた。
焚き火を囲み、四人は話し合っていた。
四人は笑い合っていた。
その時だ。
暗い林の中から、足音が聞こえた。
3
全身を覆い隠すような鎧を着た戦士が現れた。
大柄な体格。右手には巨大な斧を握っている。
銀等級の冒険者たちが警戒した。
即座に武器を手に取った。
その時、戦士が声を放った。
「リングを渡せ」
その声は、意外と高かった。
女だ。
冒険者たちは驚いた。
大柄な鎧を着込んでいるから男だと思っていたが、声は確かに女だった。
「断る」
リーダーが言った。
「そっか」
女戦士はそう呟いた。
斧を握る手に力を入れた。
戦闘は瞬時に始まった。
銀等級の冒険者たちが、一斉に女戦士に襲いかかる。
剣、槍、盾。様々な武器が振るわれた。
だが、女戦士は悠々とそれを受けた。
いや、鎧で全て受け止めていた。
女戦士が斧を大きく振るう。
『戦技/破天』
轟音。
一人の冒険者が、その一撃で吹き飛ばされた。
『魔力系1位階火球』
別の冒険者が魔法を放つ。
だが、女戦士の鎧には傷すらつかない。
武器のぶつかり合う音。
魔法の爆裂音。
悲鳴。
数分ほどの戦闘だった。
だが、銀等級の冒険者たちは、次々と倒れていった。
やがて、すべてが静寂に包まれた。
女戦士は冒険者たちの死体から金のリングを奪う
そして、鎧の兜を脱いだ。
灰色の髪が流れ落ちた。
頭から角が生えている。
魔族の女性だ。
その顔は冷徹で、感情がない。
その名は、ヒルカ。
レリクイアには目的があった。
「邪魔をするな」
ヒルカは冷たく言う。
「このレリクイアは、彼のものだ」
そう言い残すと、ヒルカはその場を去っていった。
暗い夜の中へ。
死体だけが、焚き火の脇に残された。