さだめの糸を手繰るのは   作:シャケナベイベー

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呪いの子の舞台版にマルフォイ役が本人で出てきたってマジ?


ピカピカの一年生

 一九八九年は九月一日。空は気持ちの良い快晴。そしてキングス・クロス駅の九と四分の三番線は人でごった返している。

 

「人混みが苦手な人からしたら地獄だよな」

 

 ああ待って僕のフクロウ!!と叫ぶ少年の声を右から左へ通り抜けさせながらトランクを引く。その時、もう片方の手に持っていた籠がガタガタと揺れた。

 

「こら。大人しくしてろよアニマ」

 

 中に入っているのはペットの黒猫、アニマだ。彼は隙間から見える外の世界に興味津々なのか少し前から落ち着きなく動き回っている。

 

 見送りに来るはずだった母はどうしても外せない用事でここには居ない。ひどく申し訳なさそうにしていたので却ってこちらが気にしなくていいと宥める羽目になった。

 父も似たようなものだ──もっとも彼は闇祓い局の局長補佐、つまりNo.2で、現在は長期任務のため家に帰ることすら稀であった。

 

「我が両親ながら困った人たちだよホントにさ」

 

 やれやれと首を振りながら列車に乗り込む。

 列車の中は喧騒に包まれ、廊下は先輩生徒たちで混雑していた。幾つものコンパートメントを通り過ぎ、ようやく誰もいない一室を見つけ出した。重たいトランクを網棚に押し込むのに苦労したが、何とか収まりソファに身を沈める。

 そして床に置いた籠から慎重にアニマを取り出し膝に乗せる。

 

「大人しくしろよ。騒いじゃ駄目だからな」

 

 にゃあにゃあ、みゃうみゃうと鳴く黒猫の喉を撫でて言う。そしてローブに仕舞ってある自分の杖を取り出した。イチイにセストラルの尾毛、二十八センチ。

 それをクルクルと指の間で弄びながらぼけっとしていると、コンパートメントの扉が開いて一人の少年が顔を覗かせた。

 

「ごめん、ここ空いてるかな?」

 

 やってきたのは黒髪に灰の目をした優しそうな爽やかな顔立ちの少年。将来は少女たちの心を掴むことになるだろうことは請け合いだ。

 ひとまず杖を仕舞い、対面のソファを勧めた。

 

「是非とも」

「ああ、ありがとう」

 

 どこも埋まっちゃってて、と少年は困ったように笑ってソファに身を沈めた。そして少年は右手を差し出してきた。

 

「僕はセドリック、セドリック・ディゴリー。仲良くしてくれると嬉しいな」

 

 その混じり気のない笑みを見てその手を握り返す。実に好印象な相手だ。どこぞの二つ下の小生意気なマルフォイ家の坊ちゃんとは大違いだ。

 

「こっちこそよろしくセドリック。俺はリオン。リオン・アーデルだ」

 

 笑みを深める。入学前にこうして好さそうな人と知り合いになれたのは幸運だ。これが一部の高慢で礼儀知らずな貴族相手であれば早速縁を切っていただろう。

 その時、また扉が開く。今回顔を覗かせたのは絹のような黒髪と灰紫色の瞳の少女。

 

「ここにいたのねリオン」

「スピカ? 何か用か?」

 

 スピカ・ブラック。純血名家ブラック家の本家嫡女──つまり現当主の娘である。

 そんな彼女はリオンたちのいるコンパートメントに入るとリオンを奥に押しやってソファに座った。

 

「お前強引過ぎないか」

「何か問題でも?」

「無いです……」

 

 スピカの圧にリオンは即座に屈する。だって後が怖いし……彼女の亡き母はグリーングラスの長女であるため、血筋として申し分ない高貴さだ。

 そしてセドリックがどこか気まずそうな目でこちらをチラチラと見てきた。

 

「えっと…リオンの知り合い?」

「ああ、紹介するよ。スピカ・ブラック。俺の幼馴染だ──でスピカ。彼はセドリック・ディゴリー。今さっき仲良くなった」

「スピカよ。よろしく」

「こっちこそ。セドリックだ」

 

 二人はお互いに笑みを浮かべているが、どうもスピカの方は少しばかり警戒しているらしい。そんな感情をおくびも出さない辺りよく訓練されているが。

 

 

 

 チカリ、と首元から下げていた祖父の形見のペンダントが光を弾いた。

 

 

 

 

 長い特急での旅を終えてようやくたどり着いたホグワーツ。話に聞いていたのと実際に見るのとではやはり感動の差があるだろう。

 そして楽しみにしていた組分けの儀。アーデル家は約八割がハッフルパフ、残りの一割ずつでレイブンクローとグリフィンドールだ。さて自分はどこだろうと考えながら帽子が被せられる。

 

「おやおや。レックスとエレインの子だね……流れる血はどちらも甲乙つけ難く、しかし無視するにはどれも惜しい。スリザリンかとも思ったが──ふむ、違うな」

 

 帽子はあーでもないこーでもないと呟くばかり。一瞬出たスリザリンという案に肝を冷やしたがそれは即座に切って捨てられた。

 

「おや、少し動揺したね? スリザリンと言われたことに戸惑ったか……ふむ、なるほど。君は勇敢だ。誠実でもあり、また好奇心もある。向上心もね。だが君は、君自身はどこの寮へ行きたい? 一つ言っておくならば、先ほども口にしたがスリザリンは似合うまい」

 

 帽子からの問いに一瞬固まる。どこ、どこに行きたいと来たか。まさか問われるなんて思っても見なかったから少し驚いてしまった。

 

「行きたいところ……」

「そうとも。父と同じレイブンクローか? はたまた母のようにグリフィンドールか? アーデルの名を持つならばハッフルパフか? 勇気か、誠実か、好奇心か……君には選択肢があるのだよ」

 

 幸せにおなり小さな子

 そんな声が聞こえたような気がした。そして無意識に口が開き、望みを口にする。それを正しく汲み取った帽子は、彼が往くべき寮を告げた。

 

 

 

 

 ──ハッフルパフ、と

 

 

 

 

 夜の帳が下りたロンドンの街並みを一人の男が歩いている。白金の髪は月明かりを受けて銀色になり、その鮮やかな蒼い目は細められている。闇祓いとしての長期任務を終えて自宅に戻ってみれば妻からブラック家から呼び出しがあったということでわざわざ歩いて出向いているのだ。

 

 やがて目的の場所に着いた男は足を止める。グリモールドプレイス。十一番町と十三番地という、隣り合うはずのない番号が隣り合っている奇妙な家として小さく噂になっているが、それは魔力のない人々から見た話であり、魔力を持つものであれば本当の正しい姿を確認することができる。

 

 ローブから杖を取り出し、軽く振れば十一番町と十三番地が横にずれ本来の番地──十二番地の邸が現れた。

 

「かつてのブラック家は何を思ってこんな場所の家を残したのやら。魔法で何処へたりとも移せば良かったものを」

 

 どうせそんなことは矜持に触るとかなんとか言って動かさなかったんだろうな、と考えながら男は邸の扉を開ける。

 邸の中は外観と異なり静寂そのものだ。いや、人の気配はするが彼は騒ぐ質でもなかったな、と思い直す。その時、応接間の扉が開いて一人の青年が顔を覗かせた。黒髪に灰の目は彼の生家の特徴。その美しい顔立ちは、男の妻を思わせる。

 

「時間通りですね、レックス先輩」

「こんばんはレギュラス。君の兄は執務室か?」

 

 レギュラス・ブラック。ブラック本家の末弟。元死喰い人──元、と言うのは彼が既に死喰い人ではないからだ。

 こちらに歩いてきたレギュラスは「兄様は人使いが荒くて…」と如何にも困ったように笑い、執務室への道を示す。

 

 そして長い廊下を歩き、重厚な扉を叩くと「入っていいぞ」との声が聞こえたので遠慮なく扉を開いた。

 

「弟を出迎えにこさせるかお前って奴は」

「レックスか。いやあ悪い悪い。何分当主としての仕事やら理事会のあれこれで忙しくてな」

 

 ははは、と朗らかに笑う男──現ブラック本家の当主、べガルスタス・ブラックは何か書き留めていたのだろう羊皮紙を脇に退かして一枚の書類を出現させるとレックスの前まで持ってきた。

 

「俺とレギュラスの調査結果だ。恐らく奴は今もどこかに潜んでいるだろう。大方の場所は──」

「アルバニアか」

「流石は闇祓い。理解が早くて助かる」

 

 顰め面を晒すかつての学友にべガルスタスは拍手を送る。流石叡智のレイブンクロー。

 

「大人しく死んでおけばよかったのに……」

「それが出来ているなら闇の帝王なんて名乗らないだろうよ」

「父上たちの事だってあれほど無惨に殺したくせに──」

 

 レックス、とべガルスタスが強めに声を上げる。それを聞いたレックスは頭を振り、「悪い」と一言呟いた。

 

「気持ちは分かる。あの男への怒りは多くの人が持っている。特にお前は……お前のご両親は、あの男と縁深かったからな……」

 

 憐れみの籠もった目がレックスに向けられる。レギュラスもまた、壁に背を預けながらも同様にレックスを見ている。

 

「はぁ……止めだ止め! こんな暗い話ばかりしていたら身が持たん!」

「そうですね。兄様、レックス先輩、紅茶はいかがです?」

「貰おう」

 

 三人でソファに座り、屋敷しもべ妖精のクリーチャーが用意した紅茶と菓子を摘む。とはいえクリーチャーのレックスを見る目はわずかながら複雑そうだ。

 

「兄様。そう言えば先ほどスピカから手紙が届いたのですが──」

「お前それを早く言えよ馬鹿!!」

 

 慌てて手紙を末弟からひったくり目を通す。内容は取り留めもないもので、スリザリンに組分けされたこと、リオンはハッフルパフに組分けされたこと、モンタギューが突っかかってきたのでシバいたこと等。実にハートフルだ。

 

「モンタギュー家の坊ちゃんよりにもよってスピカに突っかかったのか」

「あの家のご子息は随分やんちゃだと聞き及んでいましたが、まさかスピカに手を出すとは……退学にしますか兄様?」

「過激すぎるだろ落ち着けって」

 

 姪のことになると途端にブレーキが壊れる末弟を宥め、「とりあえず大事は起こってないようで安心だな」とべガルスタスは手紙を閉じた。

 

「それにしてもリオンはハッフルパフか。お前の読みが外れたなレックス?」

「俺は父や歴代アーデル一族の人々と比べれば預言の才能は無いに等しいからな。精々勘が良いくらいだ」

 

 レックスが手をひらひらと振り、肩を竦める。アーデル家はこれまで数多くの預言者を輩出してきた家系であるが、レックスに時を読む才は無かったようだ。

 

「レックス先輩の見立てだとどこに組み分けされる予定だったんですか?」

「スリザリン」

「……リオンには合わない寮だな。根拠でもあるのか?」

「いや? 単純に「ここになるんだろうな〜」っていう漠然とした予想。外れたけどな」

 

 ブラック兄弟が訝しげな顔をする。なぜよりにもよってスリザリンに、とでも言いたげだ。レックス本人も何故かは分からない。歴代アーデル一族の中でスリザリンに組分けされたものは一人としていない。たとえ親のどちらかの血にスリザリン系列の家のものがあろうとだ。

 だと言うのに自分は何故か息子がスリザリンになると予想した。根拠も何もなく、何故か「そうなる」という確信のもとに。

 

「……もしかしたら」

 

 複雑に絡む運命の糸の一つで息子がスリザリンになることがあったのかもな

 

 

 

 

「箒はクソよ」

「身も蓋もない事を言うなよ」

 

 ホグワーツに入学して数週間。俺たち以外誰もいない空き教室の一つでそんな事を口にした幼馴染を嗜める。

 どうも今朝の飛行訓練で思う通りにならずムカついたのだとか。確かにブラック家の所有する箒はどれも一級品かつ在学時代はシーカーだったレギュラス伯父様が選りすぐったものである為に大人しく言うことを聞く箒ばかりだっただろう。

 

「ホグワーツに置かれている箒が気難しいってだけだろ」

「ああいうのは初心者も扱いやすいよう親切設計が基本でしょう」

 

 椅子に座って足を組むスピカは心底不満げだ。よほど箒に振り回されたのがプライドに障ったらしい。

 かくいう俺はと言えばそんな彼女を宥めつつせっせと課題を終わらせていた。家でとっくに教えられていた基礎のものとは言えこういうのは復習が大事だと父が言っていたので。

 

 その時、教室の扉がガラリと音を立てて開くとそこから三人の生徒が入ってくる。一人はすっかりこの集まり──いわゆる勉強会だ──の常連になっているセドリック・ディゴリー。その後ろに立つ赤毛の少年二人を見てスピカが眉を顰めた。別に彼らの着ている制服がグリフィンドールだから、というわけではない。

 件の彼ら──同じく新一年生のウィーズリー家の双子、フレッドとジョージは既に悪戯好きの双子として早くも名を馳せていたからだ。

 

「ディゴリーあなた、なんだってこの問題児二人を連れてきたのよ」

「問題児とは失礼な!」

「俺たち二人ほど機転が利いて悪巧みも巧い魔法使いはそうそういないぜ」

「誇るところじゃないと思うんだけど」

 

 自信満々にそう言ってのけた双子にスピカは頭が痛そうにする。とはいえスピカ自身、彼らの所業どうこうは抜きにしても頭の出来に文句を言うことはないらしい。

 彼らは決して馬鹿ではない。スリザリンの大半が『血を裏切るもの』と揶揄していようがウィーズリー家は紛れもなくリストに載っている──彼らにとっては不本意だろうが──純血一族であり、この双子の三人の兄も現時点で頗る優秀な成績を叩き出しているのだから。

 

 一番上の兄、ビル・ウィーズリーは既に卒業しているが十二ふくろうの首席、二番目の兄のチャーリー・ウィーズリーはクィディッチのプロチームから勧誘が来るほどの箒乗り、三番目の兄のパーシー・ウィーズリーは一つ学年が上なだけだがそれでも現時点で優秀な成績を収めている。

 そんな三人の弟であるこの双子もまた、漏れなく優秀だとこの数週間で──寮も違えば合同授業も少ないとはいえ──理解できた。

 

「お邪魔だったかな? 何してるんだって聞いてきたから案内したんだけど」

「人が好すぎるわね」

 

 申し訳なさそうにするセドリックにスピカが鼻を鳴らす。俺は手をヒラヒラとさせ、「別に知られても問題ないだろう」とだけ言った。

 

「おお、あのハッフルパフの才児様のお許しが出たぜ兄弟」

「これで俺たちも大手を振れるって訳だ」

 

 イエーイとハイタッチを交わす双子。まあ別に知られたところで問題なんて本当に無いし別に良いのだ。

 元々は俺とスピカで来学期用の復習と予習を兼ねた集まりだったのを俺がセドリックを誘い、さらに今日こうしてセドリックがウィーズリーの双子を連れてきた……徐々に広がる人脈である。

 

「騒がしくなるじゃないの」

「良いじゃないか。賑やかなのもお前好きだろう」

「それとこれとは話が別よ」

 

 はぁ、とため息を零す幼馴染に俺はクスクスと笑い声を漏らした。

 

 

 

 

「五年連続スリザリンが寮対抗を制したわけだ。おめでとうスピカ」

「中々皮肉が効いてるわねリオン。どうもありがとう」

 

 すっかりたまり場のようなものになってしまった空き教室の一角で俺の賛辞にスピカが嫌味ったらしく答える。酷いなあ偉大なるスネイプ教授の采配のもと寮杯を獲得した事を祝っているだけだというのに。

 

「君たちのそれは端から見たら一触即発だよ」

「でもリオンの言うことも分かるぜ」

「何せスネイプの奴スリザリンとそれ以外とで態度の差が酷いのなんの!」

 

 セドリックは苦笑し、双子が大仰にスネイプの所業を語る。流石に思うところがあるのかスピカはそっぽを向くだけに留まる。

 そしてあれから新しくメンバーに加わった金髪の少年、ロジャー・デイビースがアニマにミルクをやりながら会話に参加してくる。俺のペットなんだが?

 

「でもなんだかんだ四つの寮の人たちがこうしてなんのいがみ合いもなく揃ってるのって凄い変な感じするよね」

 

 それはそう。俺たちは心の底から頷いた。




リオン・アーデル
主人公。黒髪に綺麗な蒼い目をした少年。ハッフルパフ。人付き合いが上手い、要領が良く大抵卒なくこなせるタイプ。

スピカ・ブラック
ブラック本家嫡女。黒髪に灰紫色の目。現当主の一人娘。ブラック家の例に漏れずスリザリンだが純血主義者ではない。ウィーズリーの双子のことはなんやかんや言いながら受け入れている。リオンの幼馴染。

レックス・アーデル
白金の髪に蒼い目。現アーデル当主にして闇祓い局局長補佐、つまりNo.2。レイブンクロー卒。ヴォルデモートに両親を殺されている。中々外れない自分の勘で息子はスリザリンに行くだろうと思ってたら違ってビックリ。

べガルスタス・ブラック
スピカの父親、黒髪に灰の目。ブラック家当主。ホグワーツ理事会長。紆余曲折あってルシウス・マルフォイは副会長に。ヴォルデモートの動向を追っている。

アーデル家
類稀な預言、もしくは予言の才を持つ者が生まれやすい家系。大抵ハッフルパフに行く。大抵の預言者は水晶などの力ある魔法具を使わなければ未来を見れないがアーデル家の預言者は大抵そういうものに頼らずとも未来を見れる。
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