ダンまちin柳生新陰流   作:NEAR LIGHT

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参話

 

 

総一郎がミノタウロスとの闘争を終わらせてから数分後、同階層の支道を通じてベルを追走していたミノタウロスは、背後からの一糸の突きに命を絶たれた。

 

鈍色の銀刃がミノタウロスの魔石を貫いて肉体は消滅し、刃の主とベル・クラネルは対面する。

 

「………大丈夫?」

 

ベルは瞬き、彼女の姿を目に焼き付けた。

 

上半身を護る軽プレートと目を引く青いロングブーツ、携えた長い黄金色の髪と瞳、そして神秘を潜めたどこか幼い表情は、神すら魅力するだろう。

 

彼の者こそ世界の中心たるオラリオに剣姫なる異名を轟かせ、栄光を歩みながらモンスターを狩る復讐姫。

 

アイズ・バレンシュタインである。

 

 

 

 

そんな美少女を前にして………

 

 

「うわぁぁあぁぁ!!!!ごめんなさいぁあぁい!!??」

 

あろうことか少年、ベル•クラネルは逃げてしまった。

 

ミノタウロスの血液に塗れて分からぬが、茹で上げられたタコのように顔面を真っ赤に染め、正に脱兎の如くに逃げ去った。

 

錯乱していたのだろう、絶望的な死を前にして精神が混乱をきたしていたのだろう、それを踏まえたとしても、彼は恩人から逃げてしまったのだ。

 

残された美少女、アイズ・バレンシュタインは数刻呆然として呆けた後、共にミノタウロスを狩っていた同伴者の声に正気を戻す。

 

「アハハッ!!あのガキ逃げちまったぞ!こりゃ傑作だな!」

 

「むぅ………やめてベート。彼も怯えてたから仕方ない」

 

同伴者の名はベート・ローガ、灰色の毛並みをした長身の青年で狼人特有の耳と尻尾を持ち、纏う雰囲気は常に威圧感を孕んでいる狼人だ。

 

ひとしきり嘲笑して、割と強めにアイズからやめるよう言われたので、ようやく目尻からこぼれた笑い涙を拭いて笑い止む。

 

「それにしてもあの白髪のガキ、ミノタウロスの血ぃ浴びて大変だろうなァ。まぁ、アレのお陰で帰り道はモンスターに襲われないだろうがな」

 

 

「‪”‬白髪のガキ‪”‬というのは、もしや五寸四尺ほどの身長でしたかな?」

 

 

二人の背後から声が響く。

 

ただの虚空しかないと思っていた背後の空間、そこに居た‪”‬何か‪”‬に総毛立ち咄嗟に跳び退いた二人は、それぞれが構え武器に手を掛け振り返る。

 

「お、お待ちを!モンスターではないでござるよ!!」

 

背後に居た存在は慌てて声を上げ両手を上げて敵意が無い事を示したので、二人は互いに見合って構えを解く。尚も武器に手を掛けたままだったが。

 

‬それは実はのところ、モンスターでなく人間であり、尋常の人間ならざる剣士であり、ダンジョンを歩む柳生の剣士であった。

 

 

 

「いやはや失礼したでござる。某は柳生総一郎、実はお二方が話していた白髪の御仁を探しているのですが……

 

………どちらに行かれたかご存知ですか?」

 

柳生総一郎は少し戸惑っていた。

 

突然声を掛けたとは言え、過剰とまで取れる反応に何か失礼をしてしまっただろうか、この者達は大名のような面倒な存在なのだろうかと、返答を待ちながら考える。

 

明らか警戒している二人に、総一郎は黒の細くしなやかで艶やかな長髪を揺らしつつ数秒程待つと、金髪の少女がようやく口を開く。

 

「白い髪の子なら、上の階層に向かって走って行ったよ……」

 

「そうでしたか!感謝しますぞ見知らぬ麗しき乙女よ!それでは!!」

 

返って来た返答に総一郎にとって幸運だ。ベルの走力に僅かに劣るものの、ダンジョンに存在するあらゆる障害を加味すれば、総一郎に追い付けない事は無い。

 

思い付いたら直ぐ行動、速戦即決。常に総一郎を動かす刻まれた座右の銘は、彼の思考と行動を直結して繋げ、彼は即座にその場から去る。

 

 

 

 

 

 

「……ベート」

 

「あぁ…あの野郎、気配を全く感じなかった。なんなら足音も全く聞こえなかった」

 

総一郎が去り、残された二人は総一郎の異様な雰囲気にあてられ真底から不気味に感じていた。

 

まるで首筋に刃を添えられているかのような、それまでは居ない筈であったのに、対峙した瞬間に相手に底冷えするプレッシャーを押し付ける存在。

 

異様な存在であった柳生総一郎はこの場に居ないのにも関わらず、未だにアイズ達はその残滓を振り払えずに居た。

 

「凄かった……刀と鞘がぶつかる音もしなかった」

 

独特の気配も然る事ながら、彼の肉体そのもの扱いも卓越していた。

 

人間ならば大地を踏み締める音、空気を吸って吐く呼吸音、服と肌が擦れる摩擦音、あらゆる音が発生する。帯刀した剣士ならば尚更だ。

 

だが、総一郎はそのどれもを気取られず、第一級冒険者であるアイズとベートに接近することを可能にした。

 

身体能力自体は決して高くは無い。事実として、去る時の脚力はレベル1上位の冒険者と同等かそれ以下のものだった。

 

彼の人体の扱いは正しく卓越、尋常から抜きん出た技量は携えていた刀捌きにも通ずる所があるであろう。

 

「アイズ、行くぞ」

 

「うん……」

 

去る二人は思わずには居られなかった。

 

 

仮にあの刃がこちらに向けられていたらどうなっていたか………

 

 

生命を失わず、致命傷は負わずとも、きっと痛ましい結末になっていただろうと………

 

 

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