ハリー・ポッターと最後の蛇   作:蛇に憧れるヘビ

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どうも初めまして!

今回よりハリーポッターとメタルギアのクロスオーバー作品を書かせてもらいます「蛇に憧れたヘビ」です!

拙い文章ですが、どうかお楽しみください!


老兵の決意

 アラスカの空はどこまでも高く、そして青かった。

 

 

 デイビッドはウッドデッキの椅子に深く身を沈め、ゆっくりと息を吐いた。

 

 

 吐き出された白い息は、澄み切った冷気の中へと溶けて消えていく。手にしたマグカップからは淹れたてのコーヒーの香ばしい湯気が立ち上っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソリッド・スネークは死んだ。一年前、ビッグ・ボスの墓前で彼はその名を捨てた。

 

 

 伝説の英雄、世界を幾度となく救った兵士、その全ての過去をアラスカの凍てつく大地に埋葬したのだ。

 

 

 今の彼はただのデイビッド。

 

 

 急速な老化という呪いをその身に刻みながら、残されたわずかな時間を静かに生きる一人の男。ビッグ・ボスが最後に遺した言葉──「残りの人生を兵士としてではなく一人の人間として生きろ」──その言葉だけを心の支えにして。

 

 

 彼はもう戦わない。銃を握ることもCQCを振るうこともない。彼の日常は薪を割りコーヒーを淹れ、時折訪れるサニーやオタコンとの無線通信を楽しむそんな穏やかな時間で満たされていた。

 

 

 老いゆく肉体は時折悲鳴を上げたが、戦場で感じた痛みとは比べ物にならなかった。それは生きている証だった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなある日の午後だった。

 

 

 

 

 

 週に一度物資を運んでくる小型プロペラ機が一通の古風な手紙を置いていった。差出人の名はない。ただ緑色のインクでこう記されているだけ。

 

 

『アラスカ州、人里離れた山小屋に住む、デイビッド様』

 

 

 奇妙な手紙だった。彼の現在の居場所を知る者は世界に数えるほどしかいない。その誰もがこんな回りくどい手段で連絡してくるはずがなかった。

 

 

 デイビッドはマグカップをテーブルに置きその手紙を手に取った。

 

 

 封筒は羊皮紙のようなざらついた手触りがした。蝋で封がされておりそこにはライオン、鷲、穴熊、そして蛇が盾を囲む奇妙な紋章が刻まれている。

 

 

(…蛇か)

 

 

 彼は自嘲気味に口の端を歪めた。

 

 

 捨てたはずの過去の亡霊。彼はペーパーナイフで慎重に封を切った。中から出てきたのも同じく羊皮紙だった。そこには流麗な、しかし見慣れない筆記体でこう綴られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親愛なるデイビッド殿。

 

 

 

 

 突然のご連絡をお許しいただきたい。

 

 

我々はホグワーツ魔法魔術学校と申します。貴殿が我々の世界とは異なる場所のご出身であることは重々承知しております。

 

 

しかし、我々の世界は今かつてない危機に瀕しており、貴殿のその類稀なるご経験とご技能をどうしてもお借りしたく、こうして筆を取った次第です。

 

 

つきましては、貴殿を我々の学校の『格闘術』の先生としてお迎えしたく存じます。

 

 

詳しいお話は直接お会いしてご説明させていただければと存じます。

 

 

 

ホグワーツ魔法魔術学校 校長
 

アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デイビッドはその荒唐無稽な手紙を最後まで読み終えた。

 

 

 魔法魔術学校? 先生? 格闘術? 

 

 

 そしてアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア? 

 

 

(…手の込んだ悪戯か。あるいは俺の脳がいよいよイカれてきたか)

 

 

 彼は手紙をテーブルの上に置いた。

 

 

 FOXHOUNDの残党か。あるいは愛国者達の新たな刺客か。どちらにせよこんなおとぎ話に付き合っている暇はない。

 

 

 彼は再びマグカップを手に取り、冷めかけたコーヒーを一口飲んだ。

 

 

 そして手紙を暖炉の火にくべて忘れ去ってしまおうと思ったその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──その手紙は悪戯ではないんじゃよ」

 

 

 

 

 

 

 穏やかな、しかし芯の通った老人の声が背後から聞こえた。

 

 

 デイビッドの全身の筋肉が瞬時に強張った。

 

 

 彼の感覚はまだ死んではいなかった。風の音、木の軋み、遠くの鳥の鳴き声。その全てを把握していたはずだった。なのにこの老人の気配を全く感知できなかった。

 

 

 彼は椅子を蹴るように立ち上がり、流れるような動作で振り返った。その手にはいつの間にかテーブルの上のペーパーナイフが逆手で握られている。それはもはや兵士としての本能だった。

 

 

 そこに立っていたのは、腰まで届く銀髪と銀の髭をたくわえ半月型の眼鏡をかけた奇妙なローブ姿の老人だった。

 

 

 その男こそ手紙の差出人アルバス・ダンブルドアその人だった。

 

 

「驚かせてしまったかな。ミスター・デイビッド。いや…伝説の兵士、ソリッド・スネーク……と、お呼びした方がよろしいですかな?」

 

 

「その名で呼ぶな」

 

 

 デイビッドの声は低く静かだった。

 

 

 だがその言葉にはアラスカの冬よりも冷たい絶対的な拒絶が込められている。

 

 

 ソリッド・スネーク。その名は血と硝煙、そして数えきれないほどの死の記憶と分かちがたく結びついている。彼はその名を過去と共に葬ったはずだった。

 

 

 彼の視線は老人の全身を舐めるように観察した。

 

 

 奇妙なローブ。腰まで伸びた髭。そしてその手に握られた一本の木の棒。武器には見えない。だがこの男が常人でないことは明らかだった。気配を完全に消して背後に立つなど、いかなるステルス迷彩を使っても不可能だ。

 

 

「お前は何者だ。目的は何だ」

 

 

 デイビッドはペーパーナイフを構えたまま問いただした。その構えはいつでも喉を切り裂ける完璧なCQCの型。老化した肉体でも染み付いた技術は錆びついてはいない。

 

 

 老人はデイビッドの殺気にも似た警戒心を前にしても全く動じなかった。彼はただ穏やかに微笑むと片手を胸に当て軽く頭を下げた。

 

 

「失礼。古い名前を出してしまった。ワシの名はアルバス・ダンブルドア。君が手にしているその手紙を書いた本人じゃ」

 

 

 ダンブルドアと名乗った老人はゆっくりと顔を上げた。その半月型の眼鏡の奥の青い瞳は驚くほど澄んでいて、デイビッドの心の奥底まで見透かしているかのようだった。

 

 

「何者かと問われればただの学校の校長じゃよ。そして目的は手紙に書いた通り。君の力を借りたい。我々の世界を救うためにの」

 

 

 デイビッドは警戒を解かなかった。

 

 

 校長? 世界を救う? 

 

 

 その言葉はあまりにも現実離れしていて彼の疑念を深めるだけだった。愛国者達の手の込んだ心理作戦か。あるいは彼の脳を蝕むFOXDIEの新たな症状か。

 

 

「俺はもう戦わん」

 

 

 デイビッドは吐き捨てるように言った。

 

 

「ソリッド・スネークは死んだ。ここにいるのはただのデイビッドだ。人違いだ。帰ってくれ」

 

 

「人違いではないんじゃよ」

 

 

 ダンブルドアは静かに首を横に振った。

 

 

「我々が必要としておるのは伝説の英雄ではない。数多の戦場を生き抜きあらゆる絶望的な状況を覆してきた一人の男の知恵と経験じゃ。君がデイビッドとして生きようとしているその覚悟ごと我々は必要としておる」

 

 

 その言葉にデイビッドの眉が微かに動いた。この老人は一体どこまで知っている? 

 

 

「おとぎ話はたくさんだ」

 

 

 デイビッドは構えを解かずに言った。

 

 

「俺が信じるのはこの目で見たものだけだ。お前の言う『魔法』とやらを見せてみろ。さもなければこの山から叩き出す」

 

 

 それは最後の通告だった。

 

 

 もしこの老人がただの狂人かあるいは敵のエージェントならば、次の瞬間にはその喉を掻き切る。ダンブルドアはその挑戦的な言葉を聞いてもやはり微笑みを崩さなかった。

 

 

「よろしい。百聞は一見に如かずじゃな」

 

 

 彼はそう言うと手に持っていた木の棒──杖を軽く一振りした。

 

 

 すると信じられない光景が起こった。

 

 

 先ほどデイビッドが飲み干した空のマグカップがテーブルの上でひとりでに浮かび上がる。そしてポットから湯気が立ち上りコーヒーの粉が舞い、まるで映像を逆再生するかのように再び淹れたての熱いコーヒーがマグカップに満たされていく。

 

 

 デイビッドはその光景を目の当たりにしても表情を変えなかった。

 

 

 だが彼の心臓はかつてないほど激しく鼓動していた。

 

 

(これは何だ。サイコキネシスか? ナノマシンによる物質の再構成か? いや違う。もっと異質な…原理の分からない力…)

 

 

「さあミスター・デイビッド」

 

 

 ダンブルドアは熱いコーヒーが満たされたマグカップを杖の先で示しながら言った。

 

 

「我々の世界の少しばかり長い話を、聞いてはくれんかの?」

 

 

 デイビッドは沈黙した。

 

 

 彼の視線はテーブルの上で湯気を立てるマグカップと、それをこともなげにやってのけた老人の顔との間を数回往復した。

 

 

 彼の脳はこの現象を理解しようとあらゆる可能性を検索していた。

 

 

 未知の科学技術。精神感応能力者(サイキック)。あるいはついに自分の脳が作り出した精巧な幻覚。だが目の前の老人の存在感はあまりにも生々しくコーヒーの香りはあまりにも現実的だった。

 

 

 やがて彼は一つの結論に達した。

 

 

 理解できない。だが存在する。

 

 

 ならば次の行動は一つしかない。情報を引き出す。敵か味方か、あるいはただの狂人か。それを見極めるまで決して油断はしない。

 

 

「話だけは聞いてやる」

 

 

 デイビッドは低い声でそれだけを言った。ペーパーナイフを構えたその姿勢は崩さない。鋭い視線はダンブルドアの喉元に突き刺さったままだ。

 

 

 それは交渉のテーブルに着くという意思表示であると同時に、「余計な真似をすれば殺す」という無言の警告でもあった。

 

 

「すまんな、ミスター・デイビッド」

 

 

 ダンブルドアはにこやかにそう言うと、まるでデイビッドの殺気など存在しないかのように近くの椅子にゆっくりと腰を下ろした。その態度が逆に彼の底知れなさを際立たせていた。

 

 

「ではどこから話したものかの。…そうじゃな。まずは我々の世界の最大の脅威について語らねばなるまい」

 

 

 ダンブルドアはそう前置きして語り始めた。

 

 

 それはデイビッドがこれまで生きてきた現実とは全く異なる世界の物語だった。

 

 

 歴史の裏側に隠されたもう一つの社会。魔法の力を持つ者たちがマグル──魔法を持たない人間──の目から逃れ独自の文化と法律を築いてきた魔法界の存在。

 

 

 そしてその平和な社会を恐怖と純血思想で支配しようとした一人の男の物語。

 

 

「彼の名はトム・マールヴォロ・リドル。後に自らを『ヴォルデモート卿』と名乗るようになった男じゃ。彼は類稀なる魔法の才能を持ちながらその力を他者を支配し傷つけそして死を克服するためだけに使った」

 

 

 ダンブルドアの声は静かだったがその言葉の端々には深い憂いと確固たる意志が滲んでいた。

 

 

 彼はヴォルデモートがいかにして強大な力を手に入れデスイーターと呼ばれる信奉者たちを集め魔法界を内戦状態に陥れたかを語った。

 

 

 デイビッドは黙って聞いていた。

 

 

 彼の脳裏ではダンブルドアの言葉が即座に分析・再構築されていく。

 

 

(トム・リドル、コードネームはヴォルデモート。カルト教団の教祖に近いか。信奉者(デスイーター)を率いて内戦を引き起こしたテロリスト。目的は純血主義による支配と個人の不死…)

 

 

 その単語は彼にとって聞き慣れたものだった。思想は違えど狂信的なリーダーが世界を混乱に陥れる構図は彼が何度も戦ってきた現実と何ら変わりはなかった。

 

 

「ヴォルデモートは一度敗れた。赤子であったハリー・ポッターという少年を殺そうとして力が跳ね返り肉体を失ったのじゃ。しかし彼は死んではおらん。禁断の魔法によって魂をこの世に繋ぎ止め今も復活の時を窺っておる」

 

 

「なぜ俺だ」

 

 

 デイビッドが問うた。

 

 

「お前たちの世界の問題だろう。お前たちの『魔法』で解決すればいい。なぜ部外者(アウトサイダー)である俺を巻き込む」

 

 

「良い質問じゃ」とダンブルドアは答えた。

 

 

「確かに我々には魔法がある。しかしヴォルデモートもまた我々が知る限り最も強力な魔法使いの一人。そして我々の社会は長きにわたる平和の中で彼のような絶対的な『悪意』に対する本当の意味での警戒心を失ってしまった。我々はルールに縛られ伝統に固執し正面からの『決闘』で物事を解決しようとする。…だが君は違う」

 

 

 ダンブルドアの青い瞳がデイビッドを真っ直ぐに射抜く。

 

 

「君はルールに縛られない。勝利のためにあらゆる手段を講じる。光の中ではなく影の中から敵を狩る。ヴォルデモートは魔法の脅威は知っていても君のような人間の本当の恐ろしさを知らない。彼の傲慢さ、その死角を突けるのは君のような男だけなのじゃ」

 

 

「買い被りだな」

 

 

 デイビッドは吐き捨てるように言った。

 

「俺はもう引退した身だ。おとぎ話の怪物退治に付き合う義理はない」

 

 

「義理はなくとも理由ならあるやもしれんぞ」

 

 

 ダンブルドアは静かに言った。

 

 

「君のその身体を蝕む呪い…急速な老化。我々の世界の魔法ならその進行を遅らせる手立てが見つかるやもしれん」

 

 

 その言葉にデイビッドの全身が凍りついた。ペーパーナイフを握る手に力がこもる。

 

 

「…どこまで知っている」

 

 

「君が思うておる以上にじゃよ」

 

 

 ダンブルドアは微笑みを消し真摯な眼差しでデイビッドを見つめた。

 

 

「これは取引じゃミスター・デイビッド。我々の世界を救ってくれ。そうすれば我々は君の残された時間を取り戻す手助けを約束しよう」

 

 

 伝説の傭兵の穏やかだったはずの余生に、最も抗いがたい悪魔の囁きが響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”時間を取り戻す手助け”

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉はデイビッドの心の最も深くそして最も脆い部分を的確に抉った。

 

 

 デイビッドはゆっくりとペーパーナイフを下ろした。だがそれは警戒を解いたからではない。思考の全てをこのあり得べからざる取引の吟味に集中させるためだった。

 

 

(罠だ)

 

 

 彼の脳が即座に警鐘を鳴らす。

 

 

 あまりにも話が出来すぎている。こちらの最大の弱点を正確に把握し最も抗いがたい報酬を提示する。

 

 

 これは敵がターゲットを誘い出す際の常套手段だ。愛国者達のやり口そのものじゃないか。

 

 

 この老人の背後には巨大な組織がいる。そしてその組織は俺を再び戦場に引きずり出そうとしている。

 

 

 老化の治療などという甘言で俺を釣り利用価値がなくなればあるいは任務が完了すれば容赦なく切り捨てるだろう。最悪の場合治療法そのものが偽りである可能性も高い。

 

 

(だが…)

 

 

 思考の片隅でもう一人の自分が囁く。

 

 

(もし本当だとしたら?)

 

 

 彼は自分の手を見つめた。

 

 

 かつて数多の銃を握り幾人もの敵の首を絞め世界を救ってきたはずの手。その手には今深い皺が刻まれ時折自分の意志とは無関係に震える。鏡を見ればそこにいるのは疲れ果てた老人だ。

 

 

 穏やかな余生。ビッグ・ボスの遺言。

 

 

 それは確かに彼が望んだものだった。だが日に日に衰え死へと近づいていく肉体の中で本当に心からの平穏を得られていたか? 

 

 

 サニーの成長を見守りたい。オタコンとくだらない映画の話をもっとしたい。

 

 

 ただ朝日を浴びコーヒーを飲む。そんな当たり前の日常を一日でも長く。

 

 

 そのささやかな願いが彼の胸を締め付けた。

 

 

(そこまでして生きる意味があるのか?)

 

 

 自問自答する。

 

 

 兵士として多くの命を奪い多くのものを犠牲にしてきた。その俺が今更自分の延命のために見ず知らずの世界の戦争に首を突っ込むのか。

 

 

 それはあまりにも身勝手ではないか。ビッグ・ボスが望んだ「人間らしい生き方」とは最もかけ離れた選択ではないか。

 

 

 だがダンブルドアの言葉が再び脳裏に蘇る。

 

 

『君がデイビッドとして生きようとしているその覚悟ごと我々は必要としておる』

 

 

 この老人は俺を「ソリッド・スネーク」としてではなく「デイビッド」としてスカウトしようとしている。それは一体何を意味する? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い長い沈黙が流れた。

 

 

 暖炉の薪がぱちりと音を立てて爆ぜる。

 

 

 やがてデイビッドは顔を上げた。その瞳にはもはや迷いはなかった。そこにあるのは絶望的な戦場に赴くことを決意した兵士の覚悟。

 

 

「いいだろう」

 

 

 デイビッドは静かに言った。

 

 

「取引に乗ってやる」

 

 

 彼はダンブルドアを真っ直ぐに見据えた。

 

 

「だが勘違いするな。俺はお前たちを信用したわけじゃない。俺は俺自身の可能性に賭けるだけだ。もしお前が嘘をついていた場合…あるいは俺を裏切った場合」

 

 

 デイビッドの声が絶対零度の冷たさを帯びる。

 

 

「その時はヴォルデモートとやらの前にまずお前から殺す。世界のどこに逃げようと必ず見つけ出してだ」

 

 

 それは兵士が交わす血の契約だった。

 

 

 ダンブルドアはその殺意に満ちた言葉を受けてもなお穏やかな表情を崩さなかった。彼はただ深くそして少し悲しげに頷いた。

 

 

「それで構わんよ」

 

 

 彼は静かに答えた。

 

 

「君がそう決断した時、おそらく私もそれを甘んじて受け入れるじゃろう。…ではミスター・デイビッド。ホグワーツへようこそ」

 

 

 伝説の傭兵は自らの命を賭けて再び戦場へと戻ることを決意した。

 

 

「一日待て」

 

 

 デイビッドのその一言に、ダンブルドアはただ静かに頷き、来た時と同じように、ふっと姿を消した。まるで最初からそこに誰もいなかったかのように。

 

 

 残されたデイビッドは、すぐには動かなかった。

 

 

 彼はただ、静寂を取り戻した山小屋の中で、己が下した決断の重さを噛み締めていた。

 

 

 そして、ゆっくりと立ち上がると、地下室へと続く、重い扉を開けた。

 

 

 そこは、彼が「ソリッド・スネーク」と共に封印した、過去の墓場だった。

 

 

 壁には、彼がかつて戦場で纏ったスニーキングスーツが、まるで抜け殻のように飾られている。

 

 

 そして、頑丈なガンロッカーの中には、もう二度と握らないと誓ったはずの、相棒たちが眠っていた。

 

 

 デイビッドは、震える指で、ロッカーのダイヤルを合わせた。

 

 

 重い金属音と共に、扉が開く。

 

 

 そこに並んでいたのは、彼の体の一部とも言える、無機質な鋼の塊。

 

 

 カスタマイズされたM4カービン。

 

 

 サプレッサーが標準装備されたオペレーター。

 

 

 彼は、そっと、オペレーターを手に取った。

 

 

 ひやりとした、鋼の感触。ずしりとした、心地よい重み。火薬の、微かな匂い。

 

 

 その全てが、彼の全身に忘れていたはずの戦場の記憶を鮮明に呼び覚ます。

 

 

(…結局、俺はこれから逃れることはできないのか)

 

 

 自嘲の笑みが漏れた。

 

 

 穏やかな生活。人間らしい生き方。

 

 

 それは所詮、束の間の夢だったのかもしれない。俺の本質はどこまでいっても兵士(スネーク)なのだとこの冷たい鉄の塊が嘲笑っているようだった。

 

 

 彼は黙々と準備を進めた。

 

 

 オタコンが彼の余生のためにと密かに用意してくれていた最新の装備。ナノマシン技術を応用した軽量なボディアーマー。

 

 

 あらゆる環境に対応するサバイバルキット。そして彼の眼帯の代わりとなる多機能アイパッチ『ソリッド・アイ』。

 

 

 オタコンやサニーには何も告げていない。

 

 

『少し長い旅に出る』とだけ短いメッセージを送った。

 

 

 本当のことを話せば彼らはきっと泣いて止めるだろう。特にオタコンはデイビッドの残り少ない命を削るような行為を決して許しはしないはずだ。

 

 

 彼らの顔を思い浮かべると胸が痛んだ。

 

 

 だがもう後戻りはできない。

 

 

 全ての準備を終え黒い戦闘服に身を包んだ時彼は鏡に映る自分を見た。

 

 

 そこにいたのはもはや穏やかな余生を送る老人デイビッドではなかった。その瞳に冷たい戦士の光を宿した伝説の傭兵ソリッド・スネークだった。

 

 

「その格好もなかなか様になっておるのう」

 

 

 不意に穏やかな声が背後から響いた。

 

 

 ”スネーク”は驚かなかった。もはやこの老人の神出鬼没ぶりには慣れていた。彼はただゆっくりと振り返り忌々しげに老人を睨みつけた。

 

 

「普通の人間のようにノックをして玄関で待つという礼儀はないのか」

 

 

 その言葉には純粋な苛立ちが込められていた。

 

 

「すまんすまん」

 

 

 ダンブルドアは悪びれる様子もなくにこやかに答えた。

 

 

「長年の癖での。つい最短距離で来てしまうんじゃ」

 

 

 その言葉はまるで自分の魔法を当たり前の移動手段として語っていた。

 

 

「準備はできたようじゃな」

 

 

 ダンブルドアは戦闘準備を完了したスネークの姿を、まるで価値の高い美術品でも鑑定するかのように満足げにゆっくりと見渡した。

 

 

 その瞳には老獪な好奇心とある種の期待が入り混じっている。

 

 

「ではミスター・”デイビッド”。ワシの肩にしっかりと掴まってくれんかの」

 

 

 その言葉にスネークはわずかに眉をひそめた。彼はダンブルドアの視線を真っ直ぐに見据え、静かにしかし明確に告げた。

 

 

「『スネーク』と呼べ」

 

 

 それは感情的なものではなかった。ただ任務を遂行する上での合理的な線引き。「デイビッド」という個人の名前はこの戦場には不要だというプロフェッショナルとしての判断だった。

 

 

 ダンブルドアはその言葉の裏にある兵士としての徹底した精神性を瞬時に理解した。彼は興味深そうにそしてどこか感心したように目を細めた。

 

 

「ほう、なるほどの。承知した。ミスター・スネーク、君のその流儀を尊重しよう。では改めて、ワシの肩にしっかりと掴まってくれんかの」

 

 

 その言葉はあまりにも場違いで穏やかだった。スネークはその突拍子もない提案に反射的に眉をひそめた。

 

 

「何故だ」

 

 

 彼の問いは当然だった。これから戦場へ向かうのだ。敵かもしれない男に無防備にそれもCQCの絶対的な間合いにまで接近するなど兵士の行動規範から逸脱している。それは自殺行為に等しい。

 

 

「なに、大したことではないんじゃよ」

 

 

 ダンブルドアはスネークの殺気すら孕んだ警戒心をまるで春のそよ風でも受けるかのように平然と受け流した。その余裕がスネークの神経を逆撫でする。

 

 

「ここから君の新たな職場となるホグワーツまでは少々距離があっての。我々の世界の便利な移動方法──『姿くらまし』で一気に飛んでしまおうと思うてな。お主は一人で飛ぶことはできんじゃろうから私に掴まってもらうのが最も効率的というわけじゃ」

 

 

「姿くらまし…」

 

 

 スネークはその単語を口の中で反芻した。

 

 

 昨日や今日、この老人が現れた時と去った時のあの空間が途切れるような気配の断絶。あれがそうか。原理は不明だが一種の瞬間移動技術であることは間違いない。

 

 

 彼は一瞬躊躇した。

 

 

 自分の身体のコントロールを完全に他人に委ねる。それは彼が最も嫌う行為だった。戦場では一瞬の判断の遅れ、一瞬の主導権の喪失が死に直結する。

 

 

 この老人をまだ信用したわけではない。この移動の最中に意識を刈り取られる可能性もゼロではない。

 

 

 だが同時に彼の脳は冷静に状況を分析していた。

 

 

 この世界ではこちらの常識は通用しない。それを理解し適応することもまたサバイバルの一環だ。

 

 

 この『姿くらまし』という技術はいずれ自分が利用すべき重要な潜入・脱出手段になり得る。ならば今ここでそれを体験しデータを収集しておくべきだ。

 

 

「分かった」

 

 

 スネークは短く答えた。その声には感情がなかった。彼は自らのプロフェッショナリズムを信じリスクを受け入れたのだ。

 

 

 覚悟を決めダンブルドアの分厚いローブ越しの肩を無骨な手で掴んだ。その感触は思ったよりもがっしりとしており老人のものとは思えなかった。

 

 

「よし」

 

 

 ダンブルドアは満足げに頷いた。その青い瞳の奥が悪戯っぽくきらりと光る。

 

 

「ではしっかりと掴まっておれ。初めての『姿くらまし』は少々肝を冷やすやもしれんのでな。息は止めておいた方が賢明じゃろう」

 

 

 その忠告とも冗談ともつかない言葉を最後に世界が悲鳴を上げた。

 

 

 スネークの全身を万力で締め上げられるような強烈な圧迫感が襲った。

 

 

 まるで狭いゴムチューブの中を猛スピードで引きずり込まれるような不快な感覚。視界は黒と紫の混沌とした渦に飲み込まれ平衡感覚は完全に機能を停止した。

 

 

 内臓がねじれ骨が軋む錯覚。呼吸ができない。思考ができない。ただ圧倒的な暴力的な力の流れに翻弄されるだけだった。

 

 

(これが…姿くらまし…!)

 

 

 兵士としての彼の最後の理性がその感覚を脳に焼き付けようとする。

 

 

 そして永遠とも一瞬とも思える時間の後。圧迫感は嘘のように消え去り彼の足は硬い石の床を力強く踏みしめていた。

 

 

 ひんやりとした夜の空気。漂う古書の匂いと湿った土の香り。そして遠くから聞こえる湖の水音。

 

 

 目の前には月明かりに照らされその威容を浮かび上がらせる巨大な城がそびえ立っていた。無数の尖塔が夜空を突き刺し窓からは温かいオレンジ色の光が漏れている。

 

 

 それは彼がこれまで潜入してきたどの要塞とも似ていない幻想的な光景だった。

 

 

 そこが彼の新たな戦場ホグワーツ魔法魔術学校だった。

 

 

 スネークはしばらくの間、無言で城を見上げていた。

 

 

 その巨大な建造物は、彼がこれまで潜入してきたどの軍事要塞とも異質だった。

 

 

 威圧感はある。しかしそれは武力によるものではなく、積み重ねられた歴史そのものが放つ、荘厳な圧力だった。

 

 

 無数の窓から漏れる温かい光は、ここが戦場であると同時に、多くの子供たちが生活する「学び舎」であることを示している。

 

 

(要塞であり、学校…か)

 

 

 その二律背反な存在が、この任務の複雑さを象徴しているようだった。

 

 

「どうじゃな、ミスター・スネーク。君の新たな職場は」

 

 

 隣で同じように城を見上げていたダンブルドアが、静かに問いかけた。

 

 

「…大きいな」

 

 

 スネークはそれだけを答えた。

 

 

 だがその短い言葉には、兵士としての分析が含まれていた。

 

 

 潜入経路、監視ポイント、死角、脱出ルート。彼の脳は、この巨大な城を瞬時に戦場として再構築し、情報をスキャンし始めていた。

 

 

「ほほ、違いない。では、ここからは少し歩いて向かうとしよう。夜の散歩も、たまには良いものじゃよ」

 

 

 ダンブルドアはそう言うと、ゆっくりと城に向かって歩き出した。

 

 

 スネークは無言でその半歩後ろに続く。CQCの達人である彼にとって、それは常に相手の動きに対応できる最適な距離だった。

 

 

 道中、ダンブルドアは様々なことを語った。

 

 

 千年以上前に、四人の偉大な魔法使いによってこの城が築かれたこと。

 

 

 グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、そしてスリザリン。それぞれの創設者の理念と、彼らが作った四つの寮の存在。

 

 

 動く階段や喋る肖像画といった、この城が持つ奇妙な魔法の数々。そして、生徒たちを守るためにかけられた、数多くの古代魔法による防御壁のこと。

 

 

 スネークは、その話を黙って聞いていた。

 

 

 彼の耳は、おとぎ話を聞いているのではない。敵地のブリーフィングを受けているのだ。

 

 

 創設者の名前は重要人物(キーパーソン)として、寮の名前は派閥として、城の魔法はトラップ及び利用可能なギミックとして、彼の記憶にインプットされていく。

 

 

 やがて二人は、巨大な樫の扉の前にたどり着いた。ダンブルドアが杖を軽く振ると、重厚な扉が音もなく開く。

 

 

 城の中は、外から見た印象よりもさらに広大だった。高い天井、揺らめく松明の光、壁にかけられたタペストリー。

 

 

 そして、あちこちに飾られた肖像画の中の人物たちが、新顔を興味深そうに眺め、ひそひそと囁き合っている。

 

 

「ようこそ、ホグワーツへ」

 

 

 ダンブルドアはそう言うと、スネークを連れて薄暗い地下へと続く階段を下りていった。ひんやりとした空気が肌を撫でる。

 

 

「君の部屋は、ここじゃ」

 

 

 ダンブルドアが一つの扉の前で立ち止まった。

 

 

「元々は魔法薬学の先生が個人的な研究室として使っておった部屋でな。少しばかり匂いが残っておるやもしれんが、すぐに慣れるじゃろう」

 

 

 扉を開けると、薬品の微かな匂いが鼻をついた。ハーブのような、それでいてどこか金属的な複雑な香り。

 

 

 部屋は石造りで、広さはそこそこあった。簡素なベッドと、頑丈そうな机と椅子。そして壁の一面には、空の棚がずらりと並んでいる。かつてはここに、様々な材料や薬品の瓶が置かれていたのだろう。

 

 

「特に不便はないじゃろう。食事は時間になれば大広間で皆と取ることになる。君の教師としての役割については…追って説明しよう。今夜はまず、この城に慣れることじゃな」

 

 

 ダンブルドアはそう言い残すと、静かに扉を閉めて去っていった。

 

 

 一人残されたスネークは、部屋の中央に立ったまま、ゆっくりと周囲を見渡した。

 

 

 窓の外には、月明かりに照らされた黒い湖が広がっている。

 

 

 彼は背負っていた装備を静かに床に下ろした。

 

 

 これから始まる、奇妙で、そして危険な任務。伝説の兵士は、古城の地下で、静かに牙を研ぎ始めていた。

 




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スネークのパワーバランス

  • 魔法界を一人で殲滅できるレベル
  • 魔法使いより強い
  • 老化により数名相手では手こずる
  • 魔法使い一人でも怪しい
  • 作者に任せる
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