ロトの血を引くあなたなら世界を救える? 知らん……何それ……怖…… 作:初音の歌
さて、美女とたっぷり夜のプロレスを楽しんだ俺は、勇者から賢者に転職していた。
ベッドに寝転がる俺。隣では美女が安らかに寝息を立てている。中々の強者だった。よもや俺のプロレスに最後まで着いてくるとは……ラダトームの美女、侮りがたし。
個人的には明日以降も、プロレス相手を探して街を練り歩きたいのだが……流石に何日も城下町に滞在は出来まい。
何せ、王様から色々と指令? みたいなものを受けている。王様の命を無視して女遊び――じゃなかった。プロレスばかりしていては、間違いなく噂になってしまう。そうなればラダトームから追い出されること間違い無しだ。なんと世知辛い世の中だろうか。
眼を閉じながら、今日の事を思い返す。
近衛兵の、ジジイとイケメンとかわいこちゃんを助けた。
で、ラダトームまで案内してもらった。ただ、ごめん。途中の説明、眠くてよく聞いてなかった。なんかジジイが懇切丁寧に何かを喋ってたのは覚えてるんだけど……うーん、何だったんだか。島がどうこう、竜王がどーのこーの言ってた記憶はあるんだけど。
まあ、聞いてなかったものは仕方ない。過去は振り返らず、未来に向かって進むのだ。
そいでラダトーム城に入って、偉そうな国王陛下の前に立ったんだっけ――
◇ ◇ ◇
「おお、勇敢なる若者よ。そなたが来るのを待っていた」
目の前で王様が、多分両手を広げながら俺を歓迎している。
何で多分かって? そりゃあ片膝着いて、顔を上げずに聞いているからですよ。王様の前で突っ立つ度胸は無いからね! 王族には低姿勢。これ鉄則よ。
あと右前方……大臣さんの方から、敵意に似た視線が向けられているのを感じる。
うんうん、解ってますよ。そりゃそうでしょうよ。こんな身元不明の怪しい傭兵を、謁見の間まで連れてくる……それ自体がありえない。確かに近衛兵の恩人だけれど、今のところの俺の身分は「勇者ロトの血族を名乗る怪しい男」でしかない。こんなの普通、丁重に持て成さないからね?
王様の話は続く。俺はもう、頷くだけの人形よ! 適当に「ええ」とか「はい」とか言う。
王様の言葉を遮ったりしないし、否定したりもしない。完璧なYESマンよ!
ただ、話を右から左に聴き流している途中、「竜王」がどうのこうの言い始めた。
あー、リムルダールでもそいつの噂は流れてたなー。海の真ん中の孤島の城に住んでるとかなんとか。あんな孤島に住んで何してんだろうね? ぼっち?
よく解んないけど、悪の親玉らしいから俺はよく「竜王を倒す為に鍛えている!」とか宣言してたりする。結構、ウケいいのよこれが。
話は続く。何か大臣さんが大声上げてる。
多分、ロトの子孫だなんて信じられないとか何とか。
安心して。俺も信じられないから。というか信じてないから。
夢のお告げの美女が、何を持って確信してるのかは知らないけど……あの戦士タネウマ(48歳)の子供が、勇者の末裔の訳ないじゃん。勇者って言葉を、辞書で引いた方がいい。
話は続く……え? まだ続くの? 王様、話長いんだけど。
思わず、少しだけ顔を上げてしまう。
するとそこには、満足げに、そして仰々しく頷く王様の姿が。
え、何?
「勇者ロトと、導きの声について知りたいなら……ロトの洞窟と、雨の祠を調べてみるがよい」
別に知りたくないし……ってロトの洞窟? 何それ?
え? 墓? 勇者ロトの墓標? ……何でラダトームから遠く離れた洞窟に、勇者の墓があるの? おかしくない? 普通、勇者の墓っていったら、王都近郊の、王族所縁の墓所にしたりしない?
……嫌な予感がする。謀略の予感。
言われてみれば確かに。魔王を倒した後、勇者に価値なんてあるのだろうか? いや、無い。けれど世界を救った勇者を無下に出来ず、何らかの方法で暗殺。まあ、毒盛るなり方法は幾らでもある。
で、特別感を装って、ラダトームから遠く離れた土地に埋葬……有り得る話だ。特に毒殺した死体は、検分すればすぐバレる。真に「死人に口無し」を実行するために、僻地へ埋めたのか。
流石王族。なんて汚い。
そして今、俺にその洞窟へ向かえと……ははーん。成程ね。こうやってロトの血族を騙る奴が来るたびに、そのフカシ野郎を僻地へ誘導。そして人知れず抹殺すると。
よく出来てるじゃん。へー…………。
……って、そのフカシ野郎って俺じゃねぇか!?
やべぇ、どうしよう!? ラダトーム王家に殺される!?
「ロトの洞窟と、雨の祠を調べ終えたら、解った事をわしにも教えてくれ。では、また会おう!」
また会おうじゃねぇ! 会えねぇよ! 二度と会えねぇよ!
どうしようどうしよう。やっぱ、勇者の末裔ですなんて言わなきゃよかった!
え? 何? お金やるから旅に役立ててくれ? なーんだ、それならそうと早く言ってくださいよ王様ー。ちゃーんと軍資金まで用意して、思わず暗殺疑っちゃったじゃないですかー。
さーて、どれどれっと……ってショッボ! 120ゴールドてアンタ!
娼館にすら行けねぇよ! どうなってんだこれは!?
あー……間違いない。ロトの洞窟なんぞに行ったら、俺は殺される。洞窟の肥やしにされる。
まじかー。やべぇなこりゃ、どうにかして逃げないと。
ちゃんと王様に礼をして、静かに、礼儀正しく、謁見の間を離れる俺。
でも頭の中はメダパニ中。どうすれば殺されずに済むか、必死で考えてる。
まず、順を追って考えよう。落ち着け。まだ、慌てるような時間じゃない。
少なくとも、ロトの洞窟に行くまでは殺される可能性は低い。特に今は王城の中。この城内で殺人は犯さないだろう。やるとしたら城を出た後。
となると、正門から出るのは危険か? いやいや、さっき自分考えた。ラダトームの領内で死ぬ可能性は低い。慎重に、慎重に行動しないと。
てくてく歩きながら考える。
まず、俺の顔は国王に覚えられてしまった。大臣にもだ。安易な逃亡は図れない。
大切なのは、どのタイミングで行方を眩ますかにかかってる。
街中で、人混みに紛れて消えるか? だが、俺はラダトームに来たばかり。街の構造を把握していない。ええい、近衛のジジイに案内されてるとき、ちゃんと見ておくべきだった! 誰だ眠いからって無心で歩いていた奴! 俺だよ! 畜生!
ああ、もう、真面目に不味い。なんで睡眠不足解消のためにラダトームまで来て、俺は王家に命狙われなきゃならんのだ!? 俺が何かしたか!? 勇者の末裔ですって言っただけだろうが!?
畜生! なんて理不尽な世の中だ! こうなりゃ死なば諸共、城に火点けて盛大に暴れてやろうか!? 本気になった俺は、マジでやるぞ!?
ふんすふんすと鼻息荒く、城内を歩く。
そして気づく。
……えっと、ここ何処?
……あー、城の裏庭か? 考え事して歩いてる内に、変なとこ来ちまった。
というか、帰りの案内くらい付けてほしい。警備の安全も考えれば、そっちの方が確実よ?
来て早々思ったんだけど、ラダトーム大らかすぎやしませんか?
しかし……ホント、何処だよここ。何か階段あるし。
地下行きの階段。
……すげぇ怪しい。何で城の裏手に、こんなのがあんの?
……ふむ。何か王家の秘密でもあるのか? となると逆にチャンスか。
ここでラダトーム王家の秘密を握って、俺の方から脅迫する。最低限、ラダトーム領から無事に逃げ出せれば良いのだから、多少の実力行使は許容範囲。きっと、多分、許容範囲。
色々考えながら、既に足は地下へ。おじゃましますよっと。
……なんじゃここは。明かりがある。
人の気配は……あー、なんか一人分くらいある。この奥か。
で、扉がひとつ。しかも魔力のかかった扉。
常人では開けられない。昔、噂で聞いた「盗賊の鍵」でも開ける事は不可能だろう。
……間違いない。ここにラダトーム王家の脅迫材料がある。
この中に居る誰かが、国の秘事を握っていると見た!
となれば、早速突撃だ。魔力の掛かった扉?
俺を舐めるなよ。一体何回リムルダールで、借金の取り立てやったと思ってる! 娼館のツケは一度も逃がしたことはねぇんだ! ヤリチン用心棒を甘くみるな!
魔力のかかった扉なら、魔法で開ければいいだけの話!
いくぜ、これが俺の握力と魔力の合成呪文……
「ふんがっ!」
バキャ!
◇ ◇ ◇太陽の賢者side◇ ◇ ◇
この地下に籠って、どれだけの月日が流れただろうか。
ラダトームの地下。知る者は僅か。王族すら知らぬラダトームの秘事。
誰の声も聞かず、誰の顔も見ずに、この地下に留まるのは……思いの外、辛い日々である。
無論、重要性は解っている。代々受け継いできた聖なる宝を、万が一にも悪しき者の手に渡してはならぬ故。儂の命は、その役目を果たす為にある。
それは、解っているのだ。
「……ゴホッ」
だが、はたして……それまでに儂の命が保つかどうか。
この地下にも食事を届けに来る者はいる。ラダトームの暗部。情報局の一員だ。その者達から外の状況も、多少は聞いている。
聞けば闇の軍勢が暴れまわり、なんと姫殿下まで攫われてしまったとの事。
なんたる事か。最早、一刻の猶予も無い。
早く、少しでも早く、この聖宝を勇者に渡さなければ。
だが、本当に居るのだろうか。かつて世界を救った勇者ロト――その末裔がこの時代に?
不安ばかりが胸を過ぎる。
この地下の扉は、通常の手段では絶対に開かない。
特殊な鍵……魔力を込めた「魔法の鍵」がなければ開けるのは不可能だ。
しかし現在、その魔法の鍵は、一部の街の賢者しか造れない。壊れない鍵となると、この世にひとつとして無いだろう。
つまり、そんな鍵を入手するには、力だけでも知だけでも足りない。
力と知恵、そして勇気を兼ね備えた勇者でもなければ、あの扉は開かないのだ。
……今日も、扉が開く気配は無い。
儂は扉から目を背ける。もう、待つ時間が苦痛になってきた。諦めの感情が、浮かぶ。
どうせ今日も、明日も、この先永遠に、あの扉は開かれない。
世界の全てが闇に包まれたとしても、絶対に。
――バキャ!
何かを壊す音が、聴こえた。
突然の音に驚き振り返る。
そこには開け放たれた扉と……一人の青年の姿。
静かにこちらを見据える、戦士の姿があった。
今の音、まさか……力で壊した?
否、不可能だ。力で壊せる扉ではない。あの扉を開けられるのは「魔法の鍵」……そして遥か昔に失伝した呪文、
ならば……来たのか? 遂に、勇者が儂の前に。
「……儂には分かっておった。いずれ、ロトの血を引く若者が、ここを訪れる事を」
思わず、涙が零れる。
万感の想いとは、まさにこの事なのであろう。
「この、誰も知らぬ地下室まで来られたということは、お主がそうなのであろう」
男は言葉を発さない。
ただ、静かに頷くのみ。その瞳には何か……決意のようなものが込められている。
凄まじいまでの意志。必ずやり遂げるという強い志。
「さて、お主にこれを渡そう」
最早、迷う事はなかった。
時が来たのだ。代々受け継いできた、この聖宝を渡す時が。
光り輝く、この太陽の如き聖石を、今こそ汝に手渡そう。
「その太陽の石は、遥か昔、勇者ロトからラダトームの大臣が託されたものじゃ」
太陽と雨雲が混じりし時、虹の橋が道を繋ぐ……ふふ、その全てを知っている訳では無い。
だが、これは希望だ。儂には分かる、この石に込められている聖なる力が本物だと言う事を。
「この事は、王族や、儂の息子である現在の大臣すら知らぬ、国の秘事じゃ。見つけるのに、苦労したじゃろうが……」
そして、今目の前にいる男こそ、伝説の勇者の子孫なのだということも。
この地下を見つけるのには苦労をかけたと思う。
だが許してくれ。
「全ては、太陽の石を、悪しき者たちから守る為。悪く思わんでくれ」
男は、太陽の石を見つめ、静かに頷いてくれた。
儂の声など、耳に入っていないような様子。
ふふ……それでよい。こんな老人の事など些末事。
大切な役目は、他にある。勇者のすべき事の前に、儂など路傍の石に過ぎぬ。
「さて……長い間、太陽の石を見守り続けて、儂も少しばかり疲れたわい。そろそろ休ませてもらう事に、しようかのう……」
ああ、長かった……だが、これでやっと……眠れる。
おさらばですじゃ……国王陛下……ローラ姫。
ラダトームの繁栄と平和を……爺は、いつまでも願っております……。
「この地に再び平和を……頼んだぞ」
去っていく男を見つめる。
扉が閉まる、最後の瞬間まで。
老人は安心したように――永い永い眠りについた。
◇ ◇ ◇勇者side◇ ◇ ◇
うーん、今日一日だけで随分激動だ。俺みたいな傭兵が国王陛下に謁見とか、多分二度と無い経験だよね。緊張して、話の内容殆ど覚えていませんぞ! 決して聞いていなかった訳ではなく!
覚えてるのは、地下で爺さんにやたら綺麗な石を貰ったことだけよ!
何か太陽だの愛用だの、ごちゃごちゃ言ってたけど……俺には分かる。
この石は……高く売れる!
いやぁ、これだけピカピカしてる石、並みの宝石じゃないぜ? 10000ゴールド……いやもっとするかも知れない! この輝きは伊達じゃない!
なにせ、この石見せただけで、街のねーちゃんが「素敵ー!」って言って着いて来たんだから。
おかげでナンパ大成功! 夜のプロレスも大満足! ピカピカの石に大感謝! これがパワーストーンってやつかも知れないね!
うーんでも……流石にラダトームで売るのは足がつくか。どっか遠い町まで行って売らないと。
どこがいいかな……リムルダールは無し。地元は駄目。知り合いがすり寄ってくる。
マイラとかは……うーん、温泉宿としては有名だけど、あそこはラダトームからも近いし。
ガライ……まあ、無難っちゃ無難だけど、高く売れるかなぁ。
ドムドーラはとっくに滅んでるから論外として。
メダル王……あそこの王様、メダルにしか興味ないから却下。
となると……メルキドか! うん、それがいい! ラダトームから遠いし最高!
よーし、そうと決まれば明日メルキド目指して出発だー!
……あれ? 俺、そういえば何しに地下行ったんだっけ?
えーと、うーんと……。
……まあ、いいか! 忘れるってことは大した事じゃない! 大切なのは金と女!
よーし、明日からも頑張るぞー!
つづく