ロトの血を引くあなたなら世界を救える? 知らん……何それ……怖…… 作:初音の歌
ラダトームを出発した俺は、早速メルキド目指して歩みを進めていた。
なお、昨日の美人のねーちゃんとは一晩限りの付き合いだ。やっぱ後腐れなく別れないとね! 旅先の女とは、その場限りが一番よ! あ、ちゃんとお金渡しといたよ。昨日、王様から貰った120ゴールド。すげぇ微妙な顔してたけど。納得できないけど、文句も言い辛い金額でごめんね!
で、道中襲ってくる魔物しばきながら思う訳ですよ。
そういや王様、俺に何処行けって言ってたっけ。
はい。覚えてませんよ。俺の「おもいで」に記憶されてるのは、美女や美少女との会話だけだ。野郎や爺の言葉なんて、2分も保たねぇ。脳の無駄遣いをする趣味は無い。
まあ、あれだ。きっと世界を救えだの、竜王を倒せだの、そういう類の話だ。一応、勇者の末裔名乗った訳だし。適当に魔物しばきながら旅してれば、命令に従ったことになるだろう。
メルキドまでの道は長い。ガライに寄ろうかどうか迷う。
でも、あそこは別に名産も無いしなぁ……なんか有名な墓所があるけど、何が悲しくて墓所巡りなんてしなくちゃならんのかと。
ちと疲れるが、ガライには寄らずこのままメルキドに向かうか。
はあ、やれやれ。長い旅になりそうだぜ。
◇ ◇ ◇
それでですよ。途中で、旅の宿屋に入った訳ですよ。
いくらなんでも、休憩もせずにメルキドまで歩く気は無いのでね。
金払って、ベッド入って、すやすや寝ていたら――隣の部屋から、やたら煩い声と物音が。
たいしたものですよ。この俺を、ここまで怒らせるのは。ラダトームに行った昨日は、あのうるさい夢は見なかった。そして今日、この宿屋でも夢は見なかった。
本当に、久々に熟睡してたんですよ俺は。それなのに隣が煩くて眠れない訳ですよ。
まあ、当然、剣片手に乗り込みますよ。
安眠妨害は斬首も止む無し。誰であろうと、なますに切り刻んでやろうと。
そしたら――何か、見覚えのある、覆面パンツ男が。
「……げっ!? だ、旦那!? な、なんでこんなところに!?」
見ると、覆面パンツ男が窓から外に出ようとしている瞬間。
部屋の床には、商人みたいな恰好の男が倒れており、荷物が幾つか荒らされている。
ほほう、つまり……物盗りですか、そうですか。
まあ、別に俺以外の荷物から盗みを働こうが、どうでもいいのですけれどね。
ようするに、その音が、俺の睡眠を邪魔したんですね?
「ま、待ってくれ旦那! これには深い訳が……っ!」
知らぬ。存じぬ。心底どうでもいい。
故、要らぬ。見知った顔だが、奴の命と俺の睡眠では、睡眠の方が遥かに重い。
え? 商人の男の容態? いや、知らんよ。知り合いでも無いし、それはどうでもいい。
だが、奴は、あの覆面パンツ男――カンダタだけは赦せぬ。
さあ、我が鋼の剣が血に飢えておるぞ。
「や、やべぇ、あの目はマジの目だ……お前達、ずらかるぞっ!!」
「へ、へいっ!」
どうやら窓の外に仲間が――ああ、そういやお前に部下が居たっけな。
思い出した思い出した。リムルダールで、娼館のねーちゃんの相手に「料金が高い」だの「絵姿と違う」だの、ぎゃあぎゃあ騒いでいた下っ端共か。
あの時は鼻の骨折る程度で済ませてやったが……今回はそうはいかんぞ。
「
「あっつ!? 嘘だろ!? マジで撃ってきやがった!?」
「に、逃げろ! あの人に言葉なんて通じねぇ!!」
あ、くそ。当たらなかった。掠めただけだ。
ええい、逃げ足だけは速い奴らめ。あっという間に窓の外に飛び出して、宿から離れていきやがる。
すぐさま自分の部屋に戻り、鎧の早着替え。急いで宿の外へ向かう。
絶対に逃がさんぞ。
「ちょっとお客さん!? 一体何が!? 部屋が荒れてるんですけど!?」
「覆面パンツのカンダタって盗賊の荒しだ! 賠償はそいつにするんだな!!」
「ええ!? ……って、壁が焦げてる!! 呪文使ったんですか!?」
宿のオヤジが、わちゃわちゃ騒いでいるが、そんなの無視だ。
急がねば見失ってしまう。あの野郎、俺から逃げ切れると思うなよ。
地の果てまでも追い詰めて、痛覚を持って生まれた事を後悔させてやる!
◇ ◇ ◇
それから、すごかった。
俺とカンダタの、追いかけっこは、本当に長く続いた。
夜の草原を駆け抜けて、森を潜り抜けて、毒の沼地すら踏破して……気づけばカンダタ達を見失っていた。
畜生めが。あの野郎ども何処へ行きやがった。
この先に大きな町は無い。このまま行くと、滅びたドムドーラがあるだけだし……メダル王のとこか? まあワンチャンあるか。あの盗賊団共のことだ、メダル王の城でも盗みを働く可能性がある。
よし。ひとまずメダル王のとこまで行くとするか。
そこで見つかれば良し。見つからなくてもひとまず休める。
あいつらがメダル王の城で盗みを働いていたら……盗んだ品だけ奪って、罪を全部あいつらに擦り付けておくか。盗賊の言い分など、信じないだろう。
おのれ。リムルダールで見逃してやった恩を忘れやがって。今度会ったら覚悟しておけよ。
で、今、ドムドーラ近辺の砂漠に居る訳だが……あっちぃなぁ、ここ。
魔物の分布も変わって来たし、面倒な事この上ない。
ったく、やれやれ。マトモに宿で休んでないし、踏んだり蹴ったりだ。
あーあ。早いところメルキド行って、この綺麗な石売らないと。
そして手に入れた金でしばらく豪遊するのだ。面倒な傭兵稼業なんてやってられねぇぜ。
◇ ◇ ◇カンダタside◇ ◇ ◇
走り続けた先にあった洞窟の中で、俺様達はようやく一息つくことが出来た。
「はぁー……はぁー……はぁー……」
死ぬかと思った。割とマジで、命の危機を感じた。
隣を見れば、俺様の子分たちも似たような様子。全員が汗だくで、蒼褪めた顔をしてる。
そりゃそうだ。あの旦那は、リムルダールで会った時から変わってねぇ。女以外、雑草か何かだと思ってやがる。俺たちの命は一度狩ったら、二度と生えてこねぇっていうのに。
つか、おかしいだろ。あの人はリムルダール娼館の用心棒だった筈。なんだってあんな場所に居たんだよ! 地元から出てくるんじゃねぇよ! 地元から出すんじゃねぇよ、あんな危険ブツ!
リムルダールの無料案内所で笑顔で客引きしてるかと思いきや、トラブルが起きればすぐに出動。娼婦に怪我なんてさせようもんなら、あの旦那が肋骨5~6本折って大人しくさせる。
『おう兄ちゃん。ウチの姐さん方に、怪我させんでもらえますかね?』
そう言って、ダンピラ片手に脅してくる危険人物。一回、揉め事起こしたが最後。全身ボロボロにされた挙句、慰謝料と賠償金払わせられる。ちくしょう、何で怪我した側が金払わないと……いやまあ、娼館の譲さん方に、あれこれ文句言ったのは悪いと思ってますがね?
でもあれはさぁ……パネマジにしたって、限度ってもんがあるじゃろ?
俺様はスレンダー系の姉ちゃんを頼んだの! それで何で「きめんどうし」みたいな熟女が出てくんだよ! おかしいだろうが!!
「いや、あれはおかしらが、番号札間違えた所為じゃないすか」
うるせぇ! 18番の隣の19番が、あんな熟女系だなんて誰が思うか! 普通、ジャンル毎に纏めておくだろうが! 何でスレンダー美女の隣が、鬼面系熟女なんだよ!!
まったく……思い出しただけで疲れた。もうリムルダールには行かん。
あの旦那の相手はコリゴリだ。命が幾つあっても足りやしない。
「お、おかしら……ところで鍵は……?」
「おう。そりゃ勿論ここに……ほれ」
心配そうな子分たちを安心させる為、俺様は懐にしまった鍵を取り出す。
これこれ。これだよ。これが俺様を、あの商人の跡を追った理由。
この『盗賊の鍵』。元々ウチに代々伝わるお宝。そんな大事な家宝を、あのクソ商人め。俺様が酔い潰れて寝ている間に、盗み出しやがって。
居場所を突き止めるまで苦労したぜ。もし売られてた思ったら、気が気がなかったぜ。
けれど
「これ取り返した途端、まさかあの旦那から逃げる羽目になるなんて……」
本当に不味い。あの旦那は一度狙った獲物は逃がさない。正直なところ、この洞窟の中に留まるのも危険。いつまた剣片手に襲い掛かってくるか分かったものじゃない。
子分たちも同じ考えのようだ。顔色が悪い。
「これから……どうします?」
「ぬぅ」
かなり難しい。
ただでさえ、俺様達は盗賊団。その名を至る所で知られている。
「とりあえず、でかい町には行けねぇな。メダル王の城なんて、絶対行けねぇ」
あんな城なんぞに行ったら一発でアウトだ。人目に付き過ぎる。
となると、小さな村や町がいいか。地図にも載っていない、小さな集落を渡り歩いて、旦那の魔の手から逃れよう。
……しかし、本当になんだってあんな場所に居たのやら。傭兵稼業も魔物退治も、リムルダール近郊だけで済んでいただろうに。あの旦那の性格上、今の世界情勢なんてどうでもいいだろうしな。
魔物が増え、竜王なる魔物達の王が出現した、今のアレフガルド。
城の兵士や騎士なんかは、国の平和を守る為に戦うだろうが……あの旦那が、そんな殊勝な事する訳が無い。金儲けと女遊びしか興味ねぇんだぞあの人。男の話なんて2秒で忘れるし。
まあ、考えていても仕方ない。さっさとこの洞窟から出て――
「ん……? 何の音だ?」
何か、音が聴こえた。
足音……のような。羽音……のような。
魔物、か? まあ、洞窟の中だからそりゃ居るだろうが。
「そういやこの洞窟、人を惑わせる妖精がでるって噂があるっす」
「妖精だぁ~? はっ、あの旦那に比べたら、妖精なんぞ屁でもねぇよ!」
魔物も妖精も、はっきり言ってどうでもいい。あの旦那に比べたら、どんな敵もスライムみたいなもんだ。泣く子も黙るカンダタ盗賊団は伊達じゃない。リムルダールでの、旦那との激闘……正確には一方的なリンチを経て、俺様達の
何が相手でも怖かねぇぜ!
さあ、出てきやがれ! 矢でも魔法でも持ってこいやぁ!!
「ホッホッホ……こんなところに、まさか人間がいるとは……」
うわ。何かホントに出て来た。杖持ってローブ纏った……んー? 何だあれ?
見た事ないタイプの魔物だな。まほうつかい系……か?
そんな、俺様も初めて見る魔物は、此方の様子をジロジロと伺っている。
「まさかとは思いますが……いえ、違いますね。お前達が『勇者』であるはずがない」
勇者? 勇者ってロトの勇者か?
そりゃまあ違うわな。俺様はカンダタ。伝説の盗賊、カンダタの末裔。
勇者ロトは――ご先祖様の子分の名前さ! 間違えるんじゃないぜ!
「ホ~ッホッホッホ!! 私の魔法で、消し炭に成りなさい!」
そして魔物は、俺たちに呪文を――
赤き熱線が、俺様達を襲う……だが甘いぜ。俺様達はベギラマなんて、もう怖くねぇ! さっきまでベギラゴン使う危険ブツに追いかけられてたんだぞ。こんなもん、そよ風よ!
瞬時に散開し、高熱の光線を避ける我等盗賊団。
俺様達の機敏さを考えてなかったのか……ローブ羽織った魔物は、こっち見て驚愕してやがる。
馬鹿が! 敵を前に驚いてんじゃねぇ! そんなんじゃ旦那相手に生き残れねぇぞ!!
「行くぜ、お前ら!! 旦那に比べたら、こんな奴、どうってことねぇ!!」
「おう!!」
そして、武器を振り上げ、一斉に襲い掛かる俺様達。
戦いの基本は多対一よ! そうでもしなけりゃ生き残れねぇと、俺様達は知っている!
ベギラマ程度で悦に入りやがって。てめぇみたいな甘ちゃん相手に勿体ないが……特別だ! 戦い方をレクチャーしてやるよ! 代金はてめぇの命な!!
「うぐっ!? ま、まさか、こいつらこそが……ぐおぉっ!?」
何かゴチャゴチャ言ってるが、知ったことか。
そうして俺様達は、取り囲んで、敵の息の根が止まるまで、ひたすら武器を突き立てていた。
そりゃもう夢中で、一心不乱に、グッサグッサにしていた。
「ね、ねぇ、もくりん。あの人達、すっごく強いけど……何者なのかなぁ?」
「さ、さぁ……?」
だから、そんな声がしていた事に気付かなかった。
俺様達が、妖精に出会うのは、その後の話――。