ロトの血を引くあなたなら世界を救える? 知らん……何それ……怖……   作:初音の歌

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第3話・迷いの森

 

 

 

 メダル王の城で一泊した俺は、メルキドに向かって歩いていた。

 

 残念ながらカンダタ共は居なかった。一体全体、どこに逃げたのやら。正直、地図にも載っていないような集落に逃げられたら、どうにもならん。あのゴミ共をむざむざ逃がしてしまうのか。

 いや、ここは気持ちを切り替えよう。とりあえず行く先々で、カンダタ共の悪評を流しておけばいい。さすれば自然に、奴らの行き場は無くなり、いずれ野垂れ死ぬだろうて。

 そうだそうだ。わざわざ俺が手を下すまでも無い。俺は野郎に関わっている暇は無い。

 俺の手は、金と女にしか向かない。それ以外は些事だ些事。ゴミ箱にでも捨てておけ。

 

 で、結構歩いたのだが、中々に遠い。出てくる魔物も、どんどん強くなるし……治安が悪い! 大丈夫? この辺の魔物、ラダトームの兵隊さんなら勝ち目無いよ? まああの近辺は、スライムとドラキーとか、可愛い雑魚しか出てこないから問題は無いだろうけど。

 

 そういえば……蒼髪の、近衛のかわいこちゃんは今頃どうしているだろうか。

 他に何か二人ほど近衛が居た気がするが……誰だっけ? ジジイと後……うん、忘れた。でもキツイ態度のかわいこちゃんの事は覚えてる。ああいう子はリムルダールの娼館でも人気が出る。俺もよくお世話になったのだ。間違いない。

 

 剣の腕とかは、別に大した事無かったけど、妙に思い詰めていたからなぁ……無理しなけりゃいいけど。

 え? ジジイ? そっちは思う存分無理しろ。若者に頼るな。爺さんこそ前に出ろ。

 はぁ、もう一度会いたいものだ。そして是非とも夜のプロレスを――。

 

「……ん?」

 

 メルキドに向かう途中、変な気配の森が見えた。

 丁度、道なりに進むと、あの森にぶつかる。あの森の中を、突っ切っていくことになる。

 

 んあー……何だ、あの森? 妙な魔力が籠っているというか、常時メダパニ状態の雑木林というか……あんなのがメルキドに向かうまでにあるの? 聞いた事無いんだけど。

 

 しかし、地図は間違ってない。あの森の向こうにメルキドの町がある筈。

 ……行くしかないのかー……えー、絶対面倒くさい森だってあれはー。俺わかるもん。

 あれは娼館の主であるババアが、旅の男どもを店に案内する時の雰囲気だもん。行ったら最後、限界まで絞り尽くされる邪悪な気配が漂ってるもん。

 

 迂回する道は……えー、無いのー? 嘘ー? この森通るのー?

 とは言え、一回入ってみるか。目的のメルキドはこの先なんだし。

 それに危なかったら出ればいいしね!

 

 

 

 

 

 

 

 ……やっぱりおかしいよ、この森。ゴーゴンヘッドとかこんな場所に出てくるなんて、聞いた事無いんだけど? まあ、雑魚だから倒せるけどさぁ。

 歩いても歩いても、一向に森から出れそうにないし……まあ、途中の宝箱にあったターバンは、中々良い品なので、頂戴しておくけど。身元隠しとかに、丁度良いじゃんこれ。このターバン巻いて暴れて、全部カンダタとかの所為にすればいいしね。

 

 それにしても、どんだけ歩いても変わらんなぁ。同じところぐるぐる回ってる気もするし、違うところ歩いてる気もする。多分、何か魔法掛けられてあるんだろうな。娼館のババアがよく幻術使って客騙してるし、あの系統だろう。知らないと抵抗できないんだよね、アレ。

 

 ……というか、結構ヤバいんじゃね、これ?

 いや、危なくなったら出てくつもりだったんだよ? けど思ったより、強い魔法掛けられてるみたいで……帰り道もよく解らん。あれー?

 

 問題は誰が、何の目的で、こんな魔法掛けてるのかってとこだな。

 最近は魔物の活動が活発だから、メルキド側が防衛の為――無いな。この森に迷いの幻術使ったら、行き来が出来なくなる。自分から陸の孤島になる必要は無いだろう。

 

 なら自然発生? いやいや有り得ない。明らかに魔力籠ってるし。それは無い。

 こう見えてもベギラゴン使える、凄腕なのよ俺は。魔法の扱い方なら任せておきなさい。

 

 となると……魔物の仕業かー。

 よし。ならば悩む必要はない。力押ししても問題無し。

 

 

 そうと決まれば――火だ。

 

 

 早速、たいまつ持ち出す。洞窟探索用に、常に持ってる冒険者及び傭兵の必需品。

 魔法で着火。そしてその辺の藪に放り込む。

 じきに……おー、よく燃えるわい。めらめらぼうぼうと、森が焼けてゆくのう。

 

 火は良い。人の心を穏やかにしてくれる。焚火見る時、人は落ち着いた気持ちになれる。

 森の中の魔物どもが、ぎゃあぎゃあ騒いでるが気にしない。なんか動物の鳴き声も聴こえる気がするが、無視。森が燃えるのを、じっと待つ。

 

 迷いの森から抜け出せません。どうすればいいですか?

 森を焼いちゃえばいいじゃない。これに限る。

 

 すると――どこからともなく、黒い霧が。

 

 その霧は、俺が火を放った地点に集まり、瞬時に消火してしまった。

 おいこら、ふざけんな。なにすんだよ! 今、燃やしてんだかんな!!

 

「よもや、森ごと燃やそうとしようとはな……ヤハリ、効かぬ……か……」

 

 何か、変な霧の魔物が出て来た。

 効かぬかって何だ、効かぬかって。

 アレか? この森に巡らされてる幻術のことか? 甘いんだよてめぇは! 娼館のババアの方がすげぇぞ! 店の前で幻惑系呪文(マヌーサとメダパニ)使って、男共惑わして、店の中に引き込むんだからな! ケツの毛まで毟り取られるえげつなさに比べれば、こんなもん大した事ねぇよ!

 

 俺を騙すんだったら、かわいこちゃんの姿でも用意して――。

 ……いや、もしかして、俺が森に火かけなかったら、こいつらそうしたかも?

 

 ……あっぶねぇなぁ!? さてはてめぇら、男の純情踏み躙る気だったな!?

 ゆるせねぇ。俺の悪を憎む心が、激しく燃え盛っている。まず、初手ベギラゴンの刑だ。

 覚悟しやがれ!

 

「キサマは、キケン……だ……! ココで……消す……!」

 

 そして霧の魔物は――三体に数を増やす。

 あっ、ずりぃ!? 増えるな、卑怯者!!

 

「我が主……アノ方のタメに……!」

 

 んで、何かほざきつつ、何やら紫色の霧が――うわらばっ!?

 も、猛毒の霧だとぉ!? げほごほ、くぬはぁ! ぬはぐはぁ!!

 て、てめぇ! もう許さねぇぞ!!

 

 

 

 

◇ ◇ ◇???side◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 深い闇の中に囚われて、どれだけの時間が経っただろうか。

 私は、変わらず暗闇の中にいた。

 

 底なしの闇だった。落ちているのか、浮いているのかさえ分からない。

 腕を持ち上げようとしても、指先の感覚がない。そういえば――自分に、腕があっただろうか。

 羽は。髪は。顔は。

 記憶はあるのに、輪郭が掴めない。

 

(……私は、誰……)

 

 問いかけた声さえ、闇に呑まれて音にならない。

 思考だけが、薄い水面の泡のように浮かんでは弾け、消えていく。

 

 どれほど前だったか。まだ「自分」という形が残っていた頃、彼女は祈りを放った。

 妖精の森から遠く離れたこの魔の森で、囚われたその刹那に。

 

 ――恐ろしい闇が、世界を、覆い尽くそうとしています。

 ――でも、ロトの血を引く、貴方なら。

 

 魔力を削り、魂を削って、声を飛ばした。何度も飛ばし続けた。

 届く確証は何ひとつ無い。ただ、そう信じるしかなかった。

 

(……届いたのかどうか、確かめる術もないまま……)

 

 今や己の存在すら曖昧になりつつある。

 身体の輪郭は霧散し、霧と闇とひとつに混ざってしまいそうだ。

 

 この森は、もう魔物の支配下だ。

 大樹に宿っていた精霊たちは沈黙し、清らかな泉は淀んでいく。

 このまま私が滅び、妖精族を統べる者が消えれば……全てが終わってしまう。

 そして村へ、街へ、このアレフガルド全てへ。

 世界は少しずつ、確実に闇に呑まれてゆく。

 

(私が、早く気付いていれば……)

 

 悔恨も、すでに熱を失っていた。

 泣くための眼がない。叫ぶための喉がない。

 あるのは、空虚な意識と、じわりと広がる恐怖だけ。

 

(誰か……誰か、気付いて……)

 

 声にならない声が、闇の中に溶けていく。

 それすらも、やがては溶け切ってしまうのだろう。

 そう思った時だった。

 

 ――何かが、裂けた。

 

 最初は、遠くの方で。

 耳の奥で、細い紙を破るような微かな音がした。

 続いて、濁った咆哮。

 それは、この森を支配する魔物のものだと、朧げな本能が告げていた。

 

「グウウ……! オノレ……勇者……め!」

 

 怒号とも断末魔ともつかない叫びが、闇そのものを震わせる。

 同時に、足元……と呼べるのかも怪しい虚空が、ふいに揺らいだ。

 

 響きが、変わっていく。

 沈んでいた世界に、何かが切り裂く音が加わった。

 そして、何かが燃え、弾け、霧が焼かれる匂い。

 

(なに……これは……)

 

 闇が、ほどけていく。

 

 最初は一筋の裂け目だった。

 黒に塗り潰された世界の中心が、細く白く割れる。

 そこから滲む光が、じんわりと広がりはじめる。

 

 眩しい。

 闇に慣れ切った意識には、たまらない白さだった。

 私は反射的に「目を閉じた」、つもりになった。

 

 ――その瞬間、まぶたの感覚が戻ってきた。

 

 まぶた。頬。唇。

 自分の顔が、重力を持った「身体」として、ゆっくりと思い出されていく。

 指先が震え、かすかに握りしめる感覚が生まれた。

 背中――そこにある、はずの羽が、冷たい空気を撫でた。

 

(戻って……きている?)

 

 光が、ひときわ強くなる。

 闇は後退し、霧が蒸発していくように薄れていく。

 耳に、はっきりと「音」が満ち始めた。

 

 がさり、と草を踏む音。

 金属の擦れる、澄んだ響き。

 そして――

 

「……騒がしい魔霧だと思ったが。まさか、その中に美女が囚われているとはな」

 

 低く、よく通る声がした。

 聞き慣れぬ声だった。だがその響きには、確かな意志と、静かな怒りが宿っている。

 彼女はおそるおそる、閉じていた瞼を持ち上げた。

 

 世界が、形を取り戻していた。

 

 そこは、森の中だった。

 ねじれた樹木。青々とした苔。地を這うように漂っていた魔霧は、すでに晴れている。

 私を捉えていた霧の魔物、ダークドリーマーの姿は何処にも無い。

 

 居たのは――剣を手にした、蒼き鎧の戦士。

 

 陽光を反射する、深い蒼の鎧。

 肩当てから腰にかけて流れる外套は、淡い赤。

 森の中で、彼の色だけが清らかな空の断片のように浮かび上がっている。

 

 視線が合った。

 その瞳は、ただ真っ直ぐに私を見ていた。

 どこか懐かしさを覚える色に、思わず息を呑む。

 

「あ……」

 

 声が、出た。

 掠れた、小さな音。それでも、確かに空気を震わせている。

 誰かに届く声を、自分はまだ持っていたのだと、遅れて理解する。

 

「私は、妖精族の長です」

 

 向き合って、彼の者に、言葉を届ける。

 伝えなくてはならない。今の世界の危機を。この危機を脱する方法を。

 

「魔物の幻術に囚われていましたが、自由になることが、できました」

 

 けれど今は……その前に、届けるべき言葉がある。

 この者に。私を、暗き闇の底から救ってくれた戦士に。

 

 

「ありがとう、勇者よ」

 

 

 そう――彼の者こそは勇者。

 まだ、その証たる「聖なる守り」は手にしていないだろう。

 けど、私には解る。あの暗黒の中からでも感じられた、熱き力。

 まるで身を焦がすような炎にも似た熱。

 あれこそが勇者の力。あの力を持って、霧の魔物を打ち払ったのだろう。

 

「……貴女の声は、何処かで聞いた事がある」

 

 ふと、勇者はそのような声を発した。

 ああ、もう確定だ。間違いない。

 

「ふふ……声に聞き覚えがあるのは、当然です」

 

 私の声が届いた。それこそが、証。

 かの勇者の血族にだけ届くよう、私は声に祈りを込めた。

 身が亡びる危険性すら無視して。

 そして、そんな私の必死の問いかけに……貴方は応えてくれた。

 

「私は、夢の中で幾度も、あなたに語り掛けてきたのですから」

「確かに聞こえた。“助けてくれ”とは言わなかったがな」

 

 彼は、口元だけで少し笑った。

 それは、この場に似つかわしくないほど、あっさりとした笑みだったが――不思議と胸の緊張がほどける。

 

「私達にはどうしても、勇者の協力が必要なのです」

 

 そう。これだけは、貴方の力がなければ成り立たない。

 雨と太陽を一つにし、虹の橋を生み出さなければ……闇の元へは辿り着けない。

 

「竜王の力は、どんどん強くなっています。急がねば、なりま……せん……」

 

 そこで――ぐらりと、私の足元が揺れる。

 立って、いられない。力が、入らない。

 倒れそうになって……倒れる前に、勇者に支えられた。

 

「ごめんな……さい……。長い間、幻術に、囚われていたものですから……」

 

 私が勇者に謝罪の声をかけると……彼の掌から、やわらかな光が溢れた。

 暖かな回復呪文の光。ああ、誰かを癒す力まで持っている。

 流石は勇者。安堵の息が漏れる。

 思わず彼の方に顔を向けて――そこで、ようやく気付いた。

 

 彼は、傷だらけだった。

 顔にも、腕にも、裂傷がある。

 それに……魔物の毒に苦しんだ痕跡も。血は拭っているが、血痕が。

 

「ああ、勇者よ……すみません……あなたの方こそ……傷だらけなのに……」

 

 何を、やっているのだ私は。

 そうだ。仮にも妖精族の長である私を、今まで捕らえ続けていた魔物。

 そんな魔物との戦いが、楽に終わった訳が無い。きっと苦しい戦いの果てに、私は助けられたのだ。

 

 自分の不甲斐なさに、情けなくなる。彼に支えられている場合ではない。

 私は力を込めて立ち上がろうとする。

 けど。

 

「問題無い。今は、貴女の治療の方が先決だ」

「え? いえ、それよりも……きゃ!?」

 

 そして――抱き抱えられた。

 強く、逞しい腕に抱えられて。

 まるで、一国の姫を抱くように。

 

「ゆ、勇者……?」

 

 胸が、高鳴る。顔が、熱い。

 ……何だろう、この感情は。ずっと暗闇に囚われていた所為だろうか。

 勇者から伝わってくる「光」が、私の身体を包み込んでいる所為だろうか。

 彼の顔が、よく、見えない。 

 

 

「まずは休め。ずっと辛かったのだろう。

 世界は、俺が闇に食わせない。貴女は、身を休めてもいいんだ」

 

 

 その声を聴いた瞬間、胸の奥まで、温もりが流れ込んでくる。

 それは炎でも、雷でもない。

 春の朝日に似た、温かな光。

 

 

 ああ、これが勇者なのだ。

 血族だからでもなく。称号だからでもなく。

 

 彼のような生き様を――勇者と呼ぶのだ。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇勇者side◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 いやっほう!! 何か霧の魔物倒したら、すげー美女出て来たんだけど!?

 これはあれかな? ドロップアイテムと思っていいのかな? 俺のモンにしていいのかな?

 

 すげぇすげぇ。しかも羽生えた……妖精族ぅ!? オイオイ、レア過ぎんだろ……流石に妖精族と夜のプロレスしたことは、今までの人生で一度も無い。勿論、リムルダールの娼館にだっていない。あそこに居る人外枠は、鬼面系熟女と、リカント系メンヘラの二種類だけだ。どっちもかなりの玄人向け。素人には到底乗りこなせない。

 

 だが目の前に居る妖精さんは……むはぁ! 胸も尻も太腿も、全部パーペキ! 最高ランクの超優良物件ですよ皆さん! こいつはたまんねぇ! 思わずじっと見つめちゃうぜ。

 

 ……しかしあれだな。この声、どっかで聞いた覚えが……え? アンタが夢の中でごちゃごちゃ言ってた本人?

 ……なーんだ! それならそうと早く言ってよねー!

 こーんな美女の呼びかけだって解ってたら、光の速さで助け出したのに! ……何で言わないのよ? ん? 世界の危機だったから? 勇者の力が必要だったから? 自分の身は後回し?

 

 おいおい、何言ってんのさ。美女が捨て身になりなさんな。その竜王だかラオウだか知らんが、俺が何とかしてやんよ。男の言葉は聞かないが、美女の囁きは必ず聞くぜ俺は?

 

 ってほら、言わんこっちゃない。倒れそうじゃないかアンタ。

 え? 俺の方が酷い傷?

 ……うんまあ、あの霧の魔物、結構強くてさぁ……俺ももう少し鍛え直さないといけんかな。どうやらアイツ、部下の一人だったみたいだし……今のままじゃ、親玉には勝てそうにない。

 

 となると……この妖精美女の介抱と、俺の鍛え直しも兼ねて……仕方ない。リムルダールに一回帰るか。部屋に寝かせて、飯食わせて、回復呪文唱え続けてれば多分治るだろ。

 それにリムルダールには優れた魔法使いのジジイが居るし。どうにかなんべ。

 

 だからさ。まあ、休めって。流石の俺も、そんな辛そうな妖精さんに、いきなり夜のプロレス誘ったりしないから。

 闇だか、世界だが、色んな悩みあるみたいだけど……俺が解決してやるから。

 貴女は、身を休めてもいいんだ。

 

 

 

 よし、それじゃ一旦、里帰り。

 さあ行くぜ、移動呪文(ルーラ)

 

 

 

 

 

 

 

 つづく

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