ロトの血を引くあなたなら世界を救える? 知らん……何それ……怖……   作:初音の歌

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第4話・リムルダール

 

 

 久々のリムルダールに着いたら、そりゃあもう大騒ぎだった。

 

「おい見ろよ、あの美人……とんでもねぇぜ」

「ああ。あの羽って……オイオイ、マジか。妖精族? 初めて見たよ俺」

「しかも抱き上げてるのって……うげぇ、アイツかよ。手出しできねぇ……」

 

 俺が抱き抱えている妖精さんを見て、街の連中――特に男共が騒いでいる。

 無理もあるまい。この妖精さんは、ちょっと見られないレベルの超絶美人。

 抜けるような白い肌。淡い木漏れ日のような髪。

 伸びる四肢は細くしなやかで、身体のラインは見る者を惹き付けてやまない魅惑的な曲線。

 そして羽根。透き通ったガラス細工のような羽根。

 もうね、すごいの。今、抱き抱えてるけど、羽根は慎重に触れてるんだから!

 

 そう。俺は今は、この妖精さんを支えるのに、全神経を集中させている。

 野郎どもの相手をしている暇は無い。下種な視線を向けるなんて以ての外だ。

 大体、見りゃ解るだろ? 妖精さんの顔色悪いだろ?

 休ませなきゃいけないの! ほら、どいてどいて!

 

「そ、そうだな。まずは美人さんを休ませてあげないとな」

「そうそう! 何か疲れてるみたいだし……何かメシ持って行こうか?」

 

 だからてめぇら! 寄ってくんなって言ってんだよ! 女に飢え過ぎだ! 下心が下じゃなくて、上になってるだろうが! 見え見えなんだよ!!

 あと、メシはこっちで用意するからいい。

 てめぇらなんぞが用意するメシは、危なくて食えたもんじゃねぇ!

 

「じゃ、邪推するなよなぁ……俺たちは、ただ、その何て言うか」

「おう、その美人さんが心配で言ってるだけで……」

 

 その心配の上にルビ振ってみろ。

 絶対に、心配(夜のプロレス)だろうが。俺には解る。

 

 まったく。リムルダールの男共は、俺を見習った方がいい。

 この品行方正な、街一番の紳士を。手本にしてもいいのだよ?

 

「…………」

 

 おい、てめぇら、目ぇ逸らすんじゃねぇ!! あっち行けとは言ったけど、目は逸らすな!

 くそ。皆、蜘蛛の子散らすように消えていきやがった。

 もういい。あいつらなんて知らん。

 

 それに……あんな男共に関わってる暇は無い。

 はやく妖精さんを休ませてあげなければ。

 となると、行先は一つ。男共が居なくて、守りが完璧で、安心できるところ。

 ……もう、あそこしかない。女性に親身になってくれるという観点からしても、行先は一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、着きましたよ、俺の部屋がある建物。

 え? 何でそんな回りくどい言い方なのかって?

 だってさぁ、別に『実家』って訳でもないし……『職場』とも微妙に違うし。

 ただ、寝て起きて着替える場所がある建物、ってだけだから……説明が難しい。

 

「あの、勇者……この建物は……?」

 

 ほら、妖精さんもこの通り。

 まあ、驚くよね。全体的にピンク色だし、この建物。

 何と言うか、男の獣欲を掻き立てると言うか。奈落の底まで落とす色気があるというか。

 ようするにあれですよ妖精さん。

 娼館ってやつです。ここ。

 

「しょ、娼館!? な、ななななな何をする気なのですか勇者ぁ!?」

 

 いやいや、そんな慌てなくても。

 大丈夫ですって妖精さん。なにも貴女をここで働かせる気とか無いですから。

 

 ……もっとも、貴女を働かせたら、リムルダールは大騒ぎになると思うけど。

 多分、指名率ナンバーワン。人気絶頂の嬢になることは間違い無し。

 ホントに綺麗ですもん、貴女。

 だから絶対に客引きとかさせませんから安心して。

 貴方は俺が、必ず護る。

 

「ゆ、勇者……そんなに見つめられては……」

 

 俺が見てたら何か妖精さんが、顔背け始めた。

 ん? どした? ……ああ、そうか疲れてるんだったな。

 いや、失敬失敬。美人だからってあんまり見つめたら失礼ってもんだよな。

 安心してくれ。この中に居るのは、皆『女の味方』ばっかりだから。

 妖精族とか、そういうの関係ない。腕と客引きの競い合いはあるけど……皆、優しい人ばっかだから。

 

 俺も随分、ここの世話になった。本当に色んな意味で。

 ……ホントさ。一人になった俺に、居場所をくれた場所でもある。

 実家じゃない。生まれ育った場所でも無い。

 

 でも、そうだな。

 確かにここは――、

 

 

「――勇者の、家」

 

 

 ああ。

 そう言っても、間違いじゃないよ。

 

 

 

 

 

 

 

「――で? 突然「そうだ、ラダトーム行こう」とか言って出て行ったロクデナシが、なんで妖精引き連れて帰ってくるのかねぇ?」

 

 そして早速、娼館の中で、ババアに詰め寄られている訳ですよ。

 白髪、しわくちゃ、鋭い眼光。

 うん。久々のババアだ。そこら辺のモンスターより恐ろしい、娼館のオーナー様である。

 実際、本気でヤバい人だし。俺の魔法の師匠、このババアだから。

 

 まあ、今はそんなことより……俺を詰めるより前にですね。

 あの妖精さんの容体は? 娼館の裏口から入るなり、すぐ妖精さん姉ちゃん達に連れ去られたんだけど。あの、大丈夫だよね。まさか、娼婦教育とかしてないよね?

 

「安心おし。ウチのもんが、若い娘に無体な真似する訳ないだろう?」

 

 そこはまあ、心配してない。姉さん方、みんな優しいから。

 でもさあ、ほらー、やっぱり心配な訳ですよ。これから俺は、あの妖精さんの好感度をきっちり上げて、夜のプロレスに挑みたい訳ですから。

 姉さん方の教育はちゃんと守ってますよー。

 女子供には優しく。無理矢理プロレス誘わない。『犯す』と『抱く』は別物。女を『抱ける』男になりなさいと――だからそんな汚物を見るような眼で見ないでも。

 

「それより、事情を早く説明しな。一体、何があったんだい?」

 

 あ、俺の信条とかどうでもいいですか、そうですか。

 まあ事情ってほど複雑じゃないですよ。ただ旅の途中で助けたってだけで。

 え? そこをもっと詳しく話せ?

 しょうがないなぁ。面倒だけど、詳しく話すか。

 かくかくしかじか。

 

「妖精が囚われる程の魔物、ねぇ……」

 

 で、一通り聞き終えた婆さんは、顎に手を掛けて何やら考え出す。

 確かに、妖精族と言えば魔法や秘術に長けた種族と聞く。

 その辺の魔物に負ける種族でもないし、そんな妖精を捉える術なんて考えた事も無い。

 気になるのは、その通り。

 

「で? アンタは、その妖精の頼みを聞く気かい? 碌な報酬は無いと思うがね」

 

 何を仰るか。

 あの美人妖精の好感度稼げるんなら、十分報酬として破格でしょうに。

 魔物の王を倒す? 世界を救う?

 大丈夫大丈夫。美女の前には全てが些事。竜王だろうが何だろうが、捻り潰す。

 そして、妖精さんと甘い夜の一時を過ごすのだ。これはもう確定事項である。

 だって言うのに婆さんは……呆れた顔で見てる。なんでぇ?

 

「……怖いもん知らずだねぇ、アンタは……まあ、話は分かった。あの子の面倒は見てあげるよ」

 

 それは助かる。本当に助かる。

 やっぱり同じ女性の方が安心するだろうし……俺は、元気になった後で妖精さんとプロレス出来れば、それでいいから。

 とは言え、好感度を稼ぐ為、俺も何かするべきなのは解ってる。

 まずは食事。次は装飾品。妖精なら花束とかも良いのだろうか?

 ふむ。魔法使いのジジイに聞いてみるか。あの爺さん、ドワーフとも親交あるから妖精の事についても、何か知ってるだろうし。

 いやいや、中々忙しくなりそうだぜ――

 

「……勿論、出すもん出すんだろうね? ウチは慈善事業じゃないんだよ?」

 

 ……えーと、代金は幾らほどになります?

 え? そんなに?

 ……はぁ、まぁ、確かに。情報規制とか必要ですもんね。ご迷惑お掛けします。

 はぁ。魔物退治が最近滞っていると。それをやれと。

 そして夜は、前と同じように用心棒しろと。

 へぇ。わかりやした。務めさせていただきます。へぇ。

 

 

 

 

◇◇◇妖精族の長side◇◇◇

 

 

 

 

 勇者に支えられて入った建物の中。

 そこで私は――複数の女性達に、身体の『手入れ』をされていた。

 

「――凄い凄い! ねえ、この子の髪、凄いわよ! 手櫛だけでこんな艶が……!」

「羽根も綺麗……! 透き通ってて水晶みたいよ!」

 

 何と言うか、すごい。

 女性達は皆、見目が整った者達ばかり。

 髪は丁寧に香油が塗られ。手足は染みも無く。装いは村人とはかけ離れた『美』を強調する服装。言葉を選ばずに言うならば……何と言うか、その……男性を誘惑するような、恰好。

 

 うう。勇者よ。何故私をここに。

 いえ、女性たちの手付きが皆丁寧なのは分かります。

 私の体調を気にしているのか、暖かな湯で絞った布で、優しく体を拭いてくれる。

 魔物に囚われて弱っていた身体に、染み渡る様に効いてくる温もり。

 

 ……私の、妖精の目でみれば解る。

 端的に言って、この女性達の身体には『穢れ』がある。

 複数の異性に肌を触れられた証拠とも言える『跡』が、ここに居る全ての女性に在るのだ。

 本当なら、忌避する類の『跡』。

 

 それなのに……彼女達の心に『邪気』が無い。

 魔物や、邪まな欲望を抱いている人間が放つ、邪悪な気配が殆ど無いのだ。

 

 ……これは勇者も一緒だった。あの勇者は非情に荒々しい気質を含んでいた。

 ともすれば、他者から誤解される類の、強大な覇気。

 けれど、その心は『無邪気』で――だからこそ、私の声が届いたのだろう。

 温かな布で、素肌を拭われながら、そう思う。

 

「で、貴女大丈夫だった? あの男に変な事されなかった?」

 

 その最中、突然、そんな事を訊かれた。

 変な事……とは、何だろうか?

 勇者は、懸命に私を助けてくれた人。

 森で私を解き放ってくれた後は、真摯に支えてくれた男性。

 何も、不審がるところは無い筈だが――。

 

「アイツ、女に目が無いわよ。貴女みたいな美人、絶対見逃さないんだから」

 

 え……ええっと、それはつまり……私が、勇者に……『そういう目』で見られていると?

 ……それは、少し、困る。

 何が困るかと言われても、何に困るのか分からないが。

 非常に、困る。

 だって、そんな想像をするだけで――胸の脈動が止まらないのだから。

 

 ……そ、それにしてもです。

 あなた達がそう言うならば、つまり……今までもそんな事があったと?

 

 視線を巡らすと、彼女達は筆舌に尽くしがたい顔で腕を組んでいる。

 うう、勇者よ。あなたは実は、恋多き男性だったのですか。

 確かに、英雄色を好むとは言いますが……もう少し節操をですね。

 

 ……でも、その割には皆さん。

 勇者のことを、あまり『危険視』はされていないのですね。

 その、『警戒』されているのは解るのですが。

 

「――長い付き合いよ。弟みたいなもん」

 

 女性の一人は、そう言った。

 懐かしいモノを見るような。後ろを付いてくる子供を見守るような。

 まるで『姉』のような顔で。

 

「何だかんだ言って、護られてるのよ。ほら、こういう職業だと、私達を下に見る奴って多いから……店でも何度か暴力振るわれたし」

 

 ……少し、耳が痛い。

 私も、先程まで彼女達を『そういう眼』で見ていた。

 体を売って金を稼ぐ、下賤な職だと。

 彼女達の心に触れもせずに。忌避感の信じるままに。

 

「そんな時、そういった厄介な客を〆てくれるのがアイツ。実力だけは凄いからね」

 

 けれど勇者は、そんな彼女達を護り続けていたのだろう。

 色眼鏡で見ようとせず。ただ、己の心に従って。

 

 ……魔物を倒す力も、彼女達を護る力も、彼の中では同一なのだ。

 彼女達を、彼女達の職を、見下していた自分が恥ずかしい。

 

 

「ホラ、お前達。その子が休めないじゃないか。部屋にお戻り」

 

 

 そこへ、年配の老婆が、声をかける

 建物に入った時、勇者を呼んでいた老婆が、部屋の入口に立っていた。

 

 女性達は「はーい」と、明るい声で返事をして、湯や手拭いの片付けにはいる。

 テキパキと後片付けを終えて――私もそのままテキパキと手早く、ベッドに寝かし付けられた。

 何と言うか、幼子になった気分だ。うう、私は人間達より遥かに年長なのに。

 

 気が付けば、部屋に居るのは私と老婆だけ。

 そこでようやく、羞恥の感情が。

 随分と、世話になってしまっている。

 

「あの……すみません。ご迷惑を掛けて」

「妖精族が、簡単に人に頭下げるもんじゃないよ。アンタらは『ルビス様』に仕える種族だろ?」

 

 老婆の唐突な言葉。

 それは、事実。

 けれど、普通の人間達は知らぬ筈の、事実。

 

 何故、知っているのか。

 精霊ルビス様の名を知っているだけならば、まだ納得できるが……。

 

「多少知ってるだけさ。今じゃ、娼館のオーナー。単なる婆だよ」

 

 肩を竦めて、こちらに苦笑を投げかけてくる。

 どうやら、明確な返答をする気は無いらしい。

 ……思えば、この老婆の『心』も妙だ。

 既に傷だらけ。それなのに、少しも陰っていない。

 まるで強固な鋼のよう。

 

「それにしても、妖精のお告げを聞いた、か」

 

 そして、ぽつりと呟く。

 僅かな笑みすら消え失せて、その視線は深く、鋭く、沈んでいく。

 目の前に居るのは、一介の老婆ではない。

 

 おそらくは――練達の魔法使い――。

 

 

「やっぱりそうなんだね。あの坊やは――『ロトの血族』で間違いないんだね?」

 

 

 その声には確信に似た響き。

 そして――若干の憎しみが混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 つづく

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