ロトの血を引くあなたなら世界を救える? 知らん……何それ……怖……   作:初音の歌

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第6話・カンダタクエスト①

 

 森は、人の足音を拒むように深いと言われる。

 

 幾層にも重なる梢が昼の光をふるい落とし、地表に届くのは薄い緑の陰影だけ。

 苔は古い絨毯のように湿り、倒木は眠り続ける獣の背骨のように横たわる。その奥に、ふいに「そこだけ」季節が違う場所がある。空気が甘く、香りが柔らかく、葉擦れの音が鈴のように澄む――そこが妖精たちの集落だ。

 

 小さな湖のそばに、木と花と光で編まれた家々が浮かぶように連なっている。

 壁は樹皮ではなく薄い蔦と透明な樹液でできていて、屋根には夜露を受ける花弁が重なる。

 そこを行き交うのは羽根の生えた女性たち。整った顔立ちに、光を含む髪。背の羽根は薄い膜のように透き、羽ばたくたび微細な粉が舞って、周囲の空気まで少しだけ明るく見せた。

 

 彼女たちは魔法に長けていた。とくに、癒やしと、隠し、整える力。

 

 花を咲かせる。水を清める。眠りを誘う。傷をふさぎ、熱を鎮め、恐怖で速くなった鼓動をゆっくり戻す。言葉より先に手が動き、指先から溢れた光が編み物の糸みたいに空間を縫い合わせる。彼女たちにとって魔法は、誰かを壊すためのものではなく、生活そのものだった。

 

 

 ――と、それが俺様が昔聞いたお伽噺。

 アレフガルドに伝わる妖精の話だ。

 

 

 それこそガキの頃に聞いた話なんで、眉唾もの。全然信じていなかった訳だが……まさかなぁ。本当に御伽噺通りの里があるなんて、夢にも思わなかったぜ。

 子分たちも似たようなものだろう。初めて見た妖精の隠れ里で、おのぼりさんみたいにキョロキョロしてやがった。ちったぁ落ち着け。俺様達は泣く子も黙るカンダタ盗賊団。妖精さん見て喜ぶお子様じゃねえんだぞ。

 

 大体、今はそれどころじゃねぇ。

 

 俺たちの目の前で――妖精の里が、魔物に襲われてるんだからよ。

 

 

 

 

 

 

 緑豊かな森の里に、場違いなモンが暴れてやがる。

 影の騎士に、鎧の騎士か。中々、上等な魔物じゃねぇか。

 そこいらの兵士なら太刀打ち出来ねぇだろうな。

 

「だ、駄目だ……! ボクたちの魔法じゃ、やっつけられないよ~!」

 

 実際、妖精たちも似たようなもの。真空の呪文で応戦してるが……ありゃ駄目だ。焼け石に水。あんなそよ風じゃ、あの魔物は倒せねぇ。

 

「諦めないで。私が、こいつらを引き付ける。その隙に、あなたたちは逃げて!」

 

 だが、妖精の中にも気骨な奴が居るらしい。

 他の妖精より年長者か? 少し大人びた女が、怯える妖精の前に立って指示を出す。

 あの声は……さっき俺様達に「立ち去れ」とか言ってた奴だな!

 ったく、俺様達は、もくりんだかもげりんだかの妖精に連れられて此処に来たってのに……問答無用に追い返そうとしやがった。何で案内された先で、追い出されなくちゃならんのだと。

 

 全くもって腹立たしい。

 腹立たしいが……気の強い女は嫌いじゃねぇ。

 しかも部下を守る度胸があるなら尚の事だ。

 

「でも、でも、それじゃあ里長様が……!」

 

 そんな里長妖精の姿に、部下の妖精が涙交じりに訴えてやがる。

 かーっ! 俺様も子分を持つ身。あんたの気持ちはよく解るぜ。

 ここで会ったのも何かの縁だ。このカンダタ盗賊団が力になってやる――。

 

「安心しな――俺様が来た!!」

 

 俺様はすぐさま、前線に躍り出る。

 まずは全力で一撃。この一発で倒す事なんて考えちゃいねぇ。妖精と魔物との距離を離すことが先決だ。

 俺様の斧は鎧の騎士に当たり――奴の意識を向けさせることに成功した。

 そうだそうだ。こっちを見ろ。

 

「お前ら! 鎧の騎士は後回しだ! 影の騎士からやれ! 面倒なのは取り巻きよ!!」

「うっす!」

 

 影の騎士は呪文を使う。単純な強さなら鎧の騎士が一強だが、厄介なのは周りの影。

 こっちを先に潰せばいい。そうなりゃ後は、近接攻撃しかできない木偶の坊だけって寸法よ!

 さあ、行くぜ子分ども! 俺様達の力を見せつけてやる!

 

 

「おらぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「あ~ん、助かった! ありがとねカンダタ!」

 

 ――で、どうにか魔物を倒した俺様達は、妖精たちに介抱してもらっていた。

 

 ふふふ……魔物風情が中々やるじゃねぇか。つか、ルカナン重ね掛けは反則だろ? 体が痛ぇの何のって。旦那との戦いを経験してなかったら、多分負けてたなありゃ。鎧の騎士のチョッピングライトで、視界に星が見えたし。死ぬかと思った。

 

 子分たちも、ぜーぜー息切らしながら大の字で寝転んでる。

 あいつらも影の騎士にタコ殴りにされてたからなぁ……でもお前らはいいじゃねぇか。甲冑着込んでるから、そんなに痛くなかったろ?

 俺様は、由緒正しき覆面マントだからよ。常にダイレクトアタックだ。

 筋肉が無ければ死んでいた。やはり信じられるのは己の肉体のみ……。

 

「い……一応、お礼は言っておくわ。助けてくれてありがとう」

 

 そこに、年長者の里長妖精が声を掛けてくる。

 どうやら里に大きな被害は無かったらしい。周囲からも安堵の声が。

 へっ、中々照れくさいぜ。

 

「さっきのあなたは、ちょっとだけ……」

 

 そう言って、里長妖精は俺様の顔を見る。

 おいおい、俺様に惚れるなよ? 確かに俺様は男前で、素晴らしい肉体美を持ち、超絶な力を持ったスーパーな盗賊だが……妖精が惚れると火傷するぜ?

 それに美人なアンタに見つめられると、流石の俺様も照れる……つか、本当に美人だなオイ。とんでもねぇぞ妖精。よく見れば、全員が全員、娼館の人気嬢並みの容姿じゃねぇか。

 ふははははは! そんな美女に見つめられるとは、このカンダタ様も罪な男――

 っておい。何だその半眼は。塩対応の娼婦みたいな冷めた顔は。

 

「……いや、ごめんなさい。やっぱりないわ」

「なんだとぉ!? このカンダタ様の何が「ない」ってんだ!!」

「パンイチ覆面マント男は流石に……」

「これは、俺様の家に代々伝わる戦闘服だ!!」

 

 失礼な事をのたまう里長妖精に、俺様は筋肉をアピールする。

 我が肉体こそが鎧。甲冑で身を守るなんて女々しいことは、カンダタ一族の御法度よ!

 

「そもそも、なんで子分が鎧姿で、親分であるあなたがパンイチなのよ。普通逆じゃない?」

「何を言ってやがる! 俺様は肉体こそが鎧なんだ! おれは筋肉という鎧を身に着けている!! 故にこれ以上は不要!! 鉄で身を守るのは、弱い子分たちだけの装備よ!!」

 

 弱者には鎧が必要。だが強者には鎧など必要無い!

 それが掟。それが誇り。それが漢の生き様ってもんよ……。

 え? 旦那? あれはほら、人間の枠に当てはめちゃ駄目だから。うん。

 

「気にしないでいいっすよ。親分はずっとこの調子なんで」

「俺たちも、もう諦めてますから。……それに親分の装備に金使わないでいいし」

「そ、そう……あなた達がそれで良いのなら、私は何も言わないけど……」

 

 小声なんでよく聴こえないけど、子分共が里長妖精に何か言ってる。

 きっと俺様を褒めたたえているのだろう。健気な子分たちだぜ。妖精にも、俺様の名声と活躍を伝えてくれるとは……泣かせてくれるじゃねぇか。

 

「兎に角、ありがとうカンダタ。最初は、あなた達の見た目に誤解して、ごめんなさい」

「良いってことよ。俺たちは確かに泣く子も黙る盗賊団だからな! ビビられてなんぼなのは間違ってねぇ!」

 

 お宝盗んだり、強盗したり……俺たちはアウトロー中のアウトローよ。誤解も何も、世の中の爪弾き者ってのは本当の事だ。ラダトームでは立派なお尋ね者だしな。

 

 

「――だが、そんな盗賊にだって面子はある。女子供には手を出さねぇ」

 

 

 それだけは守り続けてる。

 勇者ロトが先祖カンダタの子分だってなら、俺様はそれに相応しい振る舞いをする義務がある。

 女子供は奪うモンじゃねぇ。護るモンだ。

 

「――まあ、以前リムルダールの娼館で熟女出た時暴れましたけど親分」

「うるせぇ! あれは仕方ねぇだろうが! ドア開けたら「きめんどうし」が居たんだぞ!? 誰だって戦闘態勢に入るわ!!」

 

 こっちは期待に胸をドキドキワクワクさせて、娼館の部屋で全裸待機してたんだぞ。

 そんな俺様のところに「きましたー」って女の声がしたから「はーい」って言って、扉をスキップしながら開けに行ったんだ。

 そしてドアを開けたら「きめんどうし」だ。俺様じゃなくても暴れるだろ?

 

「大体、お前らだって問題起こしたから、旦那にぶん殴られたんだろ!」

「……そりゃあまあ、リカント系メンヘラ相手に一晩500ゴールドとか言われたら、俺たちだって黙ってねぇっすよ。命と尊厳のためっす」

「それと同じだよ! 俺だって我が身の危機に立ち上がっただけだ!」

 

 あれは男の尊厳がかかっていた。命懸けだった。

 不運な行き違いで生まれた悲劇だ。ちなみに子分は「フリーで」と言って娼館のチョイスに任せたら、リカントがやって来たんだ。酷くね?

 

「……昨今の人間は、魔物相手に、その……そういった行為を?」

 

 なんか里長妖精がすごい誤解をしてる。

 めっさドン引きの目。

 

「違う! 断じて違う! 変な誤解すんじゃねぇ! 俺たちは至ってノーマルだ!!」

 

 これだけは、俺様達の名誉の為に、声を大にして言う。

 あれはリムルダールの娼館が悪い! 番号札は同ジャンルで纏めておけ! フリー客にリカントをつけるな! 俺様達のような犠牲者がこれ以上出る前に、店のシステムの改善を!

 子分たちも立ち上がり、里長妖精に詰め寄る。なんか怯えてるが知った事か!

 

「ま、まあそれは兎も角……大した持て成しは出来ないけれど、好きに寝泊まりしていっていいわ。この里の恩人だもの」

 

 そして、俺様達の熱弁に、ようやく誤解は取れたのか……里内の、一軒の家に案内された。

 ふぅ。危ないところだった。俺様達が、マニアックな玄人向け愛好家だと思われる危機は去った。胸を撫でおろしたぜ。

 ……でも、微妙に距離置かれてる気がする。

 気のせいだよね?

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「――で、どうするんですか親分。なし崩しに妖精の世話になってますけど?」

「俺ら、妖精と楽しくおしゃべりなんて出来ないっすよ? 娼館の譲じゃないんですから。あっちと違って、こっちは金払えば愛想振り撒いてくれる訳じゃないんですよ?」

「知ってるよ。お前らは、妖精相手にナニをする気だ?」

 

 案内された家の前で、たわけた事を抜かす子分たち。

 そんな子分たちに呆れた視線を向けるが……何か照れた様子の子分共。

 そんな「ワンチャンあるかな?」みたいな顔してんじゃねぇ。お前らが自分で言ったんだろうが。相手は妖精。娼館の譲じゃねぇ。金払ったって相手してくれねぇぞ。

 

「いいか。よく聞け。俺たちは今、旦那に追われている」

「うっす。命の危機っす」

 

 子分たちも、流石にそこは分かってる。

 ものすごーく神妙に頷く。全員が、かの鬼の恐ろしさを知っているが故に。

 

「で、だ。おそらくあの旦那のことだ。主要な町で、俺らの聞き込みをしているだろう。下手すれば、あることないこと悪評を流されてる恐れすらある」

「あることないことと言うか、あることばかりっすけどね。盗賊だし」

「うっすうっす」

 

 まあ、それはその通り。

 俺様達を叩いて出るのは埃だけだ。基本、盗み働いた記憶しかねぇし。

 だからこそ。

 

「つまり、ほとぼり冷めるまで、俺たちは他の町に行かねぇってことだ。身を隠す必要がある」

 

 これが大前提。

 俺様達は、今まで以上に身を隠す必要がある。

 でかい町には行けない。王都ラダトームなんて以ての外。

 マイラとかの温泉も危ない。リムルダールなんて絶対に無理。自ら死刑台に登るようなもの。

 ようするに、行く場所がない。隠れる場所もない。

 普通に考えれば、だが。

 

「そこで、この妖精の里だ。ここなら、あの旦那が来ることは絶対にねぇ。あの悪鬼羅刹みたいな旦那を妖精が気に入る可能性も、まず無いだろうしな」

「あの旦那を気に入る妖精が居たら、世界の終わりっす」

「世も末っす」

 

 子分たちも良く解ってる。

 大体、あの女好きの旦那がこの里に来たら、全員毒牙にかかるぞ。一人残らず全滅だ。

 そして旦那の所為で、人間の悪名が妖精たちに広まると。

 ……最悪すぎる。盗賊の俺様だって引く未来予想図だ。

 

 だが、そんな目に合わせない為にも。

 俺様達が「動く」必要がある。

 これは、この里に来てすぐに気づいた事だ。

 

「……よーく、妖精たちを見ろ。何か困ってる、あるいは怯えている目をしてるじゃねぇか」

 

 どうもこの里の妖精……明確に「怯えている」。

 魔物は俺様達が里に来てから現れた。立ち去れだの消えろだの、色々言われてる最中に出現した。妖精たちの怯えや不安は、魔物の出現前からあったのだ。

 ……「何か」あるんだろう。隠れ潜む妖精が、不安を覚えるような「何か」が。

 

「そりゃ単純に親分の格好に引いてるだけっす」

「パンイチ覆面マントを気に入る妖精が、居る訳ねぇっす。着替えろっす」

「うるせぇ黙れ! この服装は俺様のアイデンティティだ! 絶対に変えねぇ!!」

 

 誰に何と言われようと、俺様はこのスタイルを変えない。我が肉体こそ至高! 我が体に恥など存在せんのだ! ムキィ!!

 

 ……って、そうじゃない。大事なのはそこじゃない。

 問題は「妖精に何か問題が起きている」ってとこだ。

 その「問題」があるから、最初は俺様達を追い出そうとしたんだろう。

 

「つまりよ。俺たちは、しばらくここでほとぼりが冷めるのを待つ。その間、妖精の悩みを聞く。協力関係を築き上げて、俺たちの悪評を消す」

「え、なんで妖精を助けると悪評が消えるって?」

「ばーか。よく考えてみろ。妖精に感謝される俺様。修羅上等の旦那。どっちの言う事を町の連中は信じると思う?」

「あー……成程」

 

 ようやく気付いたのか、子分たちから納得の声。

 妖精の「信頼」を得られれば、あんな旦那の魔の手なんて恐れるに足らず。

 あの旦那、娼館の用心棒やってた所為か、表向きの評判はすごく大事にする。まさか妖精にまで腕力で押し通す気はないだろう。そんなことすれば、アレフガルド中の民から総スカンだ。

 

 ふはははは! ようやく、あの旦那に一泡吹かせられるぜ!

 あんたがどれだけ悪評ばら撒こうが、御伽噺の妖精の信頼に勝てる筈が――。

 

「……でも、親分。妖精って隠れ潜んでるじゃないすか。どうやって町の連中に「感謝されてる姿」を見せるつもりっすか?」

 

 ……それは、ほら、あれだ。

 うまい具合に……良い感じに……吟遊詩人とかに目撃者になってもらって……。

 …………。

 

「う、うるさいやい!! じゃあお前らが良い案だせばいいじゃねぇか!! あの旦那から逃げられる良い案をよぉ!!」

「いや、それを言われると……」

「うっすうっす……」

 

 ほれみろ! お前らだって案は浮かばねぇんじゃねぇか!

 どうしようもないから、とりあえず隠れておくんだよ!

 そうすりゃきっと……多分……その内、良い案が……。

 

 ……黙る俺様達。何かお先真っ暗っぽい?

 で、少しの間、世の無情に儚んでいたら……さっきの里長妖精が近寄って来た。

 

「ねぇカンダタ。あなた達で、このアレフガルド中に名を轟かせてる盗賊団、なのよね?」

 

 そうだけど? 俺様達は大陸最強の盗賊団だけど?

 何か用事かい? 言っておくが、チンケな盗みはやらねぇぜ。俺様達は、常にビッグドリームを求めてるんだ。小銭稼ぎの窃盗はしねぇ。やるならデカい強盗よ!

 え? 違う? そんな野蛮な事は頼まない?

 ……野蛮って言うなよぅ。アンタみたいな美人に言われると、俺様もちょっと傷つく。

 

 ……それで、何さ?

 

 

「――なら少し、聞きたいことがあるのだけれど……『光るタネ』って知ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つづく

 

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