今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。 作:一宮 千歳
魔族の勢力圏と面した、リース辺境伯の治める土地は、もちろんそのままリース領という。
そのリース領の最前線にむけて、私たち勇者パーティは馬車で出発した。その初日、1時間も経たないぐらい。
「あの」
「なんですか?」
「おしりが痛いです」
御者をやっているイグナスから声が飛ぶ。
「立てばいいぞ」
「それはちょっと……」
ヴィサーラとイグナスは騎士だからまあまあ慣れてる。
私はというと、魔法でちょっと浮いてるから痛くない。
しかし、こういった痛みは《勇者》のダメージ軽減は効かないのか。なんか、例外がいろいろありそうだな。
「私の胸でも見て気を逸らしてください」
「いや……それもちょっと……」
ヴィサーラは、なんというか何も隠さない。なんだ、これが彼女の素か?
「おや。それでは膝の上にどうぞ」
「だ、だだいじょうぶ、です」
あと君、私のこと好きですって言っといて
「リリアナ様はどうですか」
「私はまあ、魔法使いなので」
「しょんぼり」
痛がるのも見てられないしなんならヴィサーラが強制膝の上乗せをやらかしそうなので、
「……街道で敵に遭遇とか、あると思ってました」
「王国はそんなに治安悪くないですよ」
タカアキの言葉に、ヴィサーラが返す。まあファンタジー世界ではありがちな展開だよね、街道での敵襲。
「そうなんですね」
「良くも悪くも魔族という共通の敵がいるので、人間同士はそこそこ仲良しです。平民の意識としては、前線以外はそこそこ平和ですよ。上の方は分かりませんが」
ヴィサーラの言葉に、補足する。
「力を持て余したような人は冒険者となって、好き好んで魔族討伐や未開拓地の開拓に勤しんでいますね」
「そうなんですね。冒険者か……
お前やったことあるのTRPGじゃなくて
「てーぶるとーくあーるぴーじー、とは?」
「ああ、ようはごっこ遊びです。別人になりきって、楽しく遊ぶ。……まあ、僕は友達とやったことはないんですけどね」
「では私と恋人ごっこ、しますか?」
「ヴィサーラ!」
イグナスがおこった。流石に私もたしなめる。
「はしたないですよ」
「ごっこなのに……」
「ごっこでも、です。そもそも私たちは死地に向かっているのですから、そういった余裕はないかと」
「……とてもしょんぼり」
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日が暮れる前に、街道沿いの宿場町で宿泊を取る宿を決めた。
この世界、街道に街灯・篝火などはなく、陽の落ちた夜間の通行は想定されていないので、泊まる所は早い段階で決まる。
まあ、強行軍というのも本来なくはない選択肢なんだけど、そもそも
「女二人、男二人の二部屋でいいな?」
イグナスの提案。
まあ普通に考えたらそうなんだけどさ。私とヴィサーラを一緒にしたらどうなるかって話よ。
「……獰猛な目で見ないでくださいませ、ヴィサーラさん」
「わたしは平静です」
じゃあそのわきわきしてる手はなんなんだよ。
「リリアナ様。恋人ごっこしましょう」
「あの。身の危険を感じるのですが」
男どもに助けを求める私。
「……女同士なら子はできない。被害を最小化するためなんだ。納得してくれ」
「百合だ……」
男二人が薄情で味方がいない。詰んだ。
大人しく首根っこ掴まれて二人で部屋に向かうことにする。まあ、男女で大きく部屋の位置が違うわけでもないので、ぞろぞろと歩くわけだが。
ヴィサーラがドアを開け、一緒に部屋の中に入る。
ベッドが二つと間にテーブルが一つ。ベッドを椅子がわりにしろってか。ずいぶん適当な宿だ。
「さておき、リリアナ様は魔法使いなわけですから、長旅に欠かせないアレをお願いします。あと猫も脱いでください」
「はいはい。【
ヴィサーラのリクエストに応え、【清払】の魔法を使う。
【清払】の魔法は、衣服や体についた土埃や汗、垢を消す魔法だ。これがあればお風呂がいらない。変な匂いにもならずいつでもフローラル。
欠点もあって、「汚れていない」という姿をイメージしてその形に変える、といった感じの魔法なので(あくまで私の場合)、付き合いが浅い相手には効果が薄い。
「おお。効果がすごい。これは恋人関係なみと言っても過言ではありません」
「過言だよ」
……付き合いが浅い相手には効果が薄いはずなんだけどなあ? 疑問に思いながらも、部屋にも【清払】をかける。
この世界、ルームサービスとしての部屋の清掃を期待できないから、これは当然の行為だ。
部屋全体とベッドが綺麗になって、ようやく落ち着ける。
「はー」
ベッドにごろり。あー、絶妙に硬いけど逆にそれが悪くないぞ。よく寝れそう。
「本日はお疲れ様でした」
「心労の原因はヴィサーラが大半だけどね?」
本当になんだよ恋人ごっこって。……うーんでもコミュ障なりに旅の緊張をほぐそうとしてくれたのかな。じゃあ無罪か? でもこれ、いいように考えすぎてるか。じゃあ有罪か。
「それは、すみません。でも」
ヴィサーラが意味深に言葉を切る。私は続きを促した。
「猫をかぶるの、疲れてませんか?」
「……うーん、どっちも私、って感じかな。ありがとね」
「……私は、単に秘密を暴いただけにはなりたくなくて」
「うん」
「私の前でリリアナ様が笑ってくれると、嬉しいなって思います」
ヴィサーラ、いい子じゃん。
そのあと、私か横になっているベッドに潜り込んできたヴィサーラを拒否せず、抱き合って眠った。
なぜそうしたかって、……なぜだろう。お互い、性欲ではなかった、と思う。
……ただ、私がまだ嘘をついてるのは、心にちくりと刺さっている引け目ではある。
どれもこれも、話したら、ヴィサーラは受け入れてくれるだろうか、それとも。