今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。 作:一宮 千歳
リース領の最前線への旅路4日目、
「そういえば、イグナスさんはなんで騎士になったんですか?」
「そうだね、道中の多少の暇つぶしにはなるか……」
私は来歴をだいたい知ってるんだけど、
「僕はもともと平民の出でね。でも、昔から剣の才能はあったんだ」
「へええ」
イグナスは、元はとある村の一番の美男美女夫婦の間に生まれた、農家の三男坊だと語る。
「三男だったからね、よっぽどのことがないと一家の長にはなれない。女の子を期待していた親からはガッカリされていたものだよ」
農家では、次男が長男の万一のためのスペアとして大事にされる一方、三男以降は労働力以上の存在ではない。
親の庇護下でしか生きられず、将来もずっと同じ生活が続くであろうことにうっすらとした不満を抱きつつ、家業の空き時間に木の棒を振って周りの同じような境遇の子供達と遊んでいたという。
「木の棒で冒険譚のように剣振りごっこするのは楽しくてね。いちばんつよいのは誰だ、と本気の喧嘩になった時は無我夢中になった。 僕以外の村の子供十数人が擦り傷だらけになって、村の大人たちにまとめて叱られたよ」
「イグナスさん以外、ですか」
「ああ、僕は怪我ひとつしなかった」
「こともなげにいいますが、異常ですよ」
ヴィサーラの指摘は正しい。
十数人が木の棒を持って襲いかかったにもかかわらず、無傷。それは「誰もイグナスに触れることができなかった」ということである。これを異常と言わずしてなんと言うのか。
「ああ、異常だった。当時の僕はそれに気づかず勝ち誇ってたけど、そこから周りが僕を見る目は変わったよね」
「それは」
「ちょうど冒険者の人たちが村に来ててね。そのうちの一人に『この子には恐ろしい才能があるみたいだが、それなら冒険者か、騎士が向いてるんじゃないか』って言われなきゃ、大人に殺されてたんじゃないかな」
「何も殺されるなんてことは……」
「子供同士とはいえ、多対一で完封だよ。将来の万が一がないように、僕なら殺すことは検討に入れる」
「そんな」
イグナスが実戦で振るう剣を見たことがある私からすれば、イグナスの剣はとにかく「敵に手を出させない」、先の先を取る剣術であり、そして当時からその極みに辿り着いていたんだろうな、と推測している。子供の棒振りで敵うわけもなく、というやつ。
「ということで、答えは『向いていたと同時に、それしかなかった』になるね」
「……すみません、辛い過去を話させてしまいました」
「いいや、僕はこの過去があるから今の僕なんだ。過去を否定することはないよ」
イグナスのその言葉は、
過去の否定なあ。そりゃそうなんだけど、告白されたらキモいとは思うでしょ。
「さて、話は戻るが、冒険者たちに連れられて僕は村を出た。まだ魔族の脅威はほとんどなく、野生動物や少々いた野盗が冒険者の飯の種だった頃だね。……もう20年になるかな?」
「ファーロン副団長はたしか、今年29歳でしたわよね」
「そうだね。10歳になる前に村を出た、と記憶してるから」
イグナスはそう言って、御者台から空を見上げた。
「冒険者についていって、借りた剣で野生動物を狩った。
最初は兎だったかな。だんだんと獲物が大きくなり、熊すらも難なく狩れた。……ただ、最初から退屈だな、とは思ってしまっていた」
「退屈?」
わからない、と言った顔で
「冒険者は生きるために動物を狩る。でも、村で猟師をするのと変わらないんだよ、それだと」
「……てことは」
「うん。野盗……人を殺したのは、
私が口を挟む。
「前に聞いた話ですけど、難なく切ったんですわよね」
「ああ。二人殺したよ。……そして、高揚した。してしまった」
「そこだけ切り取れば変態ですね」
ヴィサーラ、なんてことを言うんだ。
「ヴィサーラ?」
「思わず口に出ました。本当は『守れた』からですよね? 人を傷つける剣で、別の人を守ることができた、と実感した」
「言いたかったところを取られてしまったな」
イグナスが苦笑する。ヴィサーラ、言いたいこと言っちゃうからなあ。
「そう、その通り。無目的に振るえば人々に恐れられるだけの僕の剣技は、悪を討つためなら肯定される。共に剣を振るう冒険者や、村人を助けることができる。そりゃあもう、驚きで頭が変になったよ」
イグナスは息を吐くと、少し遠い目をした。
「同時に思った。ああ、冒険者じゃダメだな。騎士になろう。騎士になって、人々を守ろう、ってね」
「そこで騎士になるんですか?」
「冒険者は極論、自分のために生きる存在だ。だからその立場で振るう剣は、『私欲で、善なる人を斬るかも』と思われる場合だってある。しかし騎士なら? 騎士の誓いを交わした人間は、そう簡単に『善なる人を切るかも』と思われないんだ」
「わかるような、わからないような……」
「わからなくていいんだよ。『人殺しの才能がある』苦しみだからね」
私の魔法の才能もそうなんだよな。大人しく国に飼われることで、存在を許容してもらっている。そういうところが似てると思ったから、イグナスはあのとき私に「守る」なんて言ったんだろうか。
「あとはまあ、騎士見習いから始まって、『騎士らしさ』を求めていったね。この辺りの話は、あんまり面白くないから割愛だ」
「ええっ」
「ちなみに僕がヘーゼル嬢と出会ったのは23で、その時にはもう副団長だった。6年出世してないの、なんでだと思う?」
「えっと……わかりません」
イグナスがまた笑う。こいつ今日機嫌いいな。話好きとはいえ、ここまで自分のことを話すの、そうそうないぞ。
「まあ、わからないよね。答えは書類仕事をしたくないからさ! 団長になるとどうしても前線には出れなくなる。言ってなかったけど、この『殺しの才能』を活かさずに生きる、ってのもなかなかに耐え難くてね。わがままを言って副団長に留任してもらってるってわけさ!」
「え、意図的に出世してないんですか!?」
「僕くらい強いとそういうこともできる!」
「いばっていうことではありませんわよ」
はははと笑うイグナスだが、私は「そういうとこが団長に"なれない"理由なんじゃないかなあ」と思うのだ。まあ、言わぬが花、ということで黙っておくが。