今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。   作:一宮 千歳

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第20話

領主の館。メルムの街の緊迫した雰囲気は、ある意味この館から発せられている、と言っても過言ではない。

衛兵の開けた門を潜れば、見事な庭園が広がっている。

 

「わあ、すごいですね」

 

勇者(おれ)くんの呑気な言葉に、ヴィサーラが即座に低い声で返した。

 

「庭の景観に気を配り、かつ、維持できているというのは、統制の表れです。最前線にほど近いメルムにおいてそれができるのは、統治者の力が並外れている証拠。……緊張します」

「そ、そうなの?」

「……まあ、マエミチ君はちょっと気を引き締めたほうがいいな」

 

……私はこの庭園の完璧さが、気が重い。前に居た時と何ら変わりない姿であるということは、変わらず主の意思によって整えられているということ。おばあちゃんの一見優しいけど、その芯、つまり忠義から外れるものを拒絶する意志は、今も健在なんだと悟る。

 

「5年で柔らかくなっていらっしゃらないかしら」

「リース辺境伯は十分物腰穏やかな方だから、期待するだけ無駄だな」

 

何とも言えない表情で、イグナスが私を見る。

お前も6年前、私をここにつれてきたからなあ。

 

「二人は、ここに来たことが?」

「ヘーゼル嬢がさっき話した内容を含むんだが、ヘーゼル嬢は10歳の時に親を亡くしている。その時、住んでいた場所の近くの街が魔族の奸計で消し飛ばされ、一人でいたヘーゼル嬢を発見したのが僕で、リース辺境伯に保護を願い出たのさ」

 

先を行く衛兵に案内されて館の中に入りつつ、勇者(おれ)くんの質問にイグナスが答えた。

そう、街ごと親の仇を吹っ飛ばした後イグナスに見つかって、イグナスとガチ戦闘(殺し合い)して、誤解を解いて(でもないけど和解して)、リース辺境伯のところに連れてこられたんだよな。

 

「一年ほどこの館、おばあさま……リース辺境伯の元にいましたの。礼儀作法を叩き込まれましたわ」

「あ、もしかして、お嬢様口調なのもそれで?」

「ええ、淑女たるもの優雅たれと。……『私はいいの』といって、おばあさま自身はあまりこう言った口調は使いませんけれど」

「へえ……言葉遣い、綺麗でかわいいですよ」

「ありがとうございます」

 

急に褒めてきたなこいつ(勇者くん)。脈絡をよこせ。

 

「皆様、そろそろお館様の居室でございます。おおらかな方でいらっしゃいますが、ご無礼のないようお願い申し上げます」

「承知している」

「心得ておりますわ」

 

私とイグナスが頷けば、あんたらはそうだろうよみたいな顔で衛兵も頷く。

 

「……では。

 お館様! 勇者一行、参りましてございます!」

 

中から侍従の声がする。

 

「通して良いと仰せだ」

 

ドアが開く。

 

「失礼いたします」

「ようこそ。名を名乗りなさい。」

 

おばあちゃんの声。

 

「おばあさま、お変わりないようで何よりでございます。勇者一行、タカアキ=マエミチ、イグナス=ファーロン、騎士ヴィサーラ、私リリアナ=ヘーゼル、罷り越しました」

 

儀礼上のやり取り、こっちが目下なので丁寧にやらんといかん。

 

「……イグナスちゃん、リリアナちゃん、久しぶりねえ。そちらこそ変わりない? ヴィサーラちゃんとタカアキちゃんは初めましてね。サルガ=リースです。気軽におばあちゃんって呼んで?」

 

これだよ。

 

「お戯れを。辺境伯にそのような言葉遣い、恐れ多く」

「……楽にしていいわよ。……引っかからないの、タカアキちゃんも、ヴィサーラちゃんも偉いわね。飴たべる?」

「いただきます」

「ヴィサーラ!」

 

イグナスが引き止めるが、もう遅い。ヴィサーラはぱたぱたとおばあちゃんの元へ小走りに近寄り、飴をもらってしまった。

 

「自由すぎる……!」

「わたしが許したからいいの。ヴィサーラちゃん、おいしい?」

ほっへほほいひいへふ(とってもおいしいです)!」

「即食べるな、食べながら喋るなーッ!」

「あ、あはは……なんだこれ」

「おばあさま、私たちに気を遣ってくださっているのです。辺境伯という立場に肩肘張って緊張してやり取りが進まないより、自由に言葉を発することを望む。そういう方ですわ」

 

おばあちゃんがにっこりとこちらを見る。

 

「リリアナちゃんには、褒めても何も出さないわよ」

 

さよけ。きたいしてないけど。

 

「王都のお仕事で、過分なる報酬をいただいておりますから」

「過分なら、ちょっと分けて? 戦費がね……」

「融通しましょう。金で500分でいかがです?」

「助かるわあ。持つべきものは稼ぎのいい孫ね」

「配分はおばあさまが決めて、ヘーゼルに請求だけを回して下さい。あと、これ以上はしばらく出ませんからね」

「ちぇっ」

 

ちぇっじゃないのよ。こっちはいきなり500万円飛んだんだぞ。

 

「それでイグナスちゃん、あなたたちは戦線にはどのように加わってくれるの?」

「指揮下には入らず、敵指揮官を狙う遊撃を。一撃で討ち取ることを目的とし、成否に関わらず即離脱。どちらにせよ混乱が生まれ、我が方有利の流れを作る一助になるかと」

「そうね、あなた方は個の武勇が強すぎ、編制に含めると指揮が乱れるか。その動きが一番良いわね、任せます」

「はっ」

 

「それじゃあ、お話し終わり。早速で悪いけど、前線に移動して」

「承知いたしました」

「え、終わり、ですか?」

 

5分と経ってないが、既に退室準備を進めるヴィサーラとイグナス、私をよそに、勇者(おれ)くんが質問する。

おばあちゃんがふむ、という顔をした。

 

「タカアキちゃん、速さは強さよ」

「はやさはつよさ……」

 

何となくピンときてない顔だな。まあいいや、後で説明してやろ。

 

「勇者様への説明は私からしましょう。……おばあさま、ありがとうございました」

「こちらこそ助かったわ。ひと段落したら、また会いましょう」

 

納得しきれてない顔の勇者(おれ)くんを残し、そうしてリース辺境伯との面会は終わった。

……街を吹っ飛ばしたの、つつかれなかったな。ヴィサーラと勇者(おれ)くんが知らないって判断したのかな?

全く、おそろしいおばあちゃんですこと。

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