今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。   作:一宮 千歳

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第22話

大きく回り込んで戦場側方とも言える場所に陣取った私たち。めがねヴィサーラがローブ集団を見つめる。

 

「……100ほどの集団です。姿勢がワーウルフほど前傾ではないため、種族偽装という線はないです。前線に出てくる連中としては、本当に新種です」

「魔法を使っている様子はあるか?」

「流石にわかりません。ローブがなければわかったかもしれませんが」

「武器の類は?」

「……目視できる限りでは、なさそうです」

「魔法使い系っぽいか?」

 

イグナスが矢継ぎ早に尋ね、ヴィサーラがその全てに迅速に答える。こいつらいいコンビだな。元々上司と部下だからか。

 

「……断定しかねます。ローブの中に、何か隠し持てるかと」

「……なるほど、そりゃそうか」

 

勇者(おれ)くんが口を出す。

 

「たとえば、剣を持ってるとかでしょうか?」

「投入しない理由がない」

「じゃあ、メイスみたいな」

「剣と同じ理由が通じる。これも多分、ない」

 

「みなさま。議論もいいですが、魔法の効果時間をお忘れなく」

「……そうだな、一当てしてみるか」

「どうせ殺すんです、武装は問題ではありません」

「そうだな」

「物騒……」

 

そろりそろりと近づく私たち。

二百m、百m、五十m、近づいても敵は気づかない。気付けない。

 

私もショートソードを抜く。魔法が使えない時に備えての訓練をしていたから、多少剣は扱える。

四十m、二十m、五m。

 

「そろそろ魔法が切れます。その前に仕掛けて、混乱しているところを刈り取りますわよ」

「「了解」です」

 

イグナスとヴィサーラは返事をしてくれたが、勇者(おれ)くんの返事がない。

 

「勇者様、どうされました?」

「緊張で……これからこの相手を殺すんだって思うと、震えて……」

「えい」

 

ヴィサーラが敵の喉を刺す。フードが剥がれ、顔があらわになる。あらまあ、普通のこっち人顔。だが、黒い粒子になって消え去る。これは魔族の死んだ時の特徴。ふむ?

 

「なっ」

「やらなきゃやられますよう」

 

ヴィサーラの言う通りではあるのだが、合理的すぎるだろ。人が横で葛藤してるんだぞ。

 

まあいいか、私も刺す。同じようにフードが剥がれ、同じように粒子になって消え去る。

 

◾️()!? ◾️◾️(敵襲)! ◾️◾️(敵襲)ーッ!」

「騒いだ奴から殺す」

 

イグナスが駆け寄り、何事か叫んだローブを斬り倒す。

そのまま回転するかのように敵をバッサバッサと斬り伏せ、黒い粒子が舞い散る。

 

「勇者様、【挑発】と【威嚇】を!」

「あ、あ、ああ!」

 

何もできない(殺せない)なら指示出してやるか。

まったく、しょうがない奴だ。

 

【挑発】が効き、使用した勇者(おれ)くんを狙おうとするローブども。しかし、【姿隠し】【音消し】【匂い紛れ】がかかったこちらを発見できない。するとどうなるかというと、永久に見えない勇者(おれ)くんを探し続け、混乱に陥る。

その間に、安全に狩れるってわけ。これはイグナスと二人で隠密した時に発見したハメ手だ。

体重を乗せてもう一突き。粒子になるローブ。

 

ああ、一人拘束して、殺しの童貞卒業させてやるか。

 

「魔法が切れます! あと三十秒! 一人だけ逃げられないようにして、生かして残してください!」

「承知!」

 

複数体をまとめて風のように斬り裂くイグナスと、着実に一体ずつ始末していくヴィサーラ。敵の残りはまだまだいるが、混乱し切っているし、ほどなく始末できるだろう。

 

「勇者様、魔法が切れたら敵は襲いかかってきますから、心の準備を。大丈夫、あなたは滅多なことでは傷を負わないギフトがあります。死にはしません。逃げなければ、それでいいのです」

「は、はい」

 

これでよし。【威嚇】の試験の時、騎士たちは本気で勇者(おれ)くんを殺しにかかったらしい。つまり、本気の殺気を受けたことがあるし、それに耐えられるのは証明できている。受動的に守ることができるなら、能動的に殺すのだって、できるはずだ。

 

----

 

……そうして残った一人は、見た目女だった。うーん、男の方が良かったが、まあいいだろ。

 

◾️◾️(くっ)◾️◾️(殺せ)!」

「人型だったもんで、両手両足の腱を切ってある。まともな抵抗はできないだろう」

「ありがとうございます」

 

無力化した敵への興味を失ったヴィサーラが、味方のいる方を眺め、報告してくる。

 

「さっきまで互角だったんですが、今は味方が押してますね」

「何? ……もしやこいつら、ゴブリンやワーウルフの支援担当だったか?」

 

あー。バフ役ね。そら戦闘参加させられませんわ。一つ謎が消えた。

 

「その可能性は高いですわね。……と言うわけで、こいつは生かしておくと有害な敵ですわ。勇者様、覚悟を決めてやってください」

「ぼ、僕が殺すの? この女の人を?」

 

勇者(おれ)くん、おどおどしてる。うーん、《勇者》ギフトが強力な上、私たちも強いもんで死の危険から遠すぎるせいか? 緊張感が足りてない気がする。こりゃ、敵将相手に使い物になるか怪しいぞ。

 

「敵ですわ。男、女はないものとして考えてください」

「英雄譚みたいに、女は斬らない、とかはなしだぞ」

「そんなあ」

 

そんなあじゃなくて……。

 

「殺しの童貞を卒業できたら、童貞も卒業させてあげましょうか?」

「ヴィサーラさん、何言ってるんですか!?

「ヴィサーラ……」

 

おまっ。私にガチ恋させて操る上の計画がダメになるだろ! 童貞は初めての女に執着するんだぞ!

 

「リリアナ様に恋してるのは知ってますが、動機になる即物的な報酬は必要かと思いました。どうですか?」

 

勇者(おれ)くんがかぶりを振る。

 

「いや、きもちは嬉しいけど、それはいいです」

 

あら意外。断った。……私で童貞卒業したいとか考えてないだろうな? うわやば、鳥肌立つ。

 

「じゃあ、やれますか」

「……やります」

「首を突いて殺すのは、慣れて正確に突けないと難しいです。草を払うように、首を斬り落とすといいです」

「はい」

 

ヴィサーラのアドバイスで、勇者(おれ)くんが剣を振る。あっけなく首は落ち、女の姿の魔族は黒い粒子になって、溶けた。

 

「よく頑張ったな」

「……人を殺す手ごたえって、あるんですね」

「人ではありません。魔族です」

 

イグナスの励ましと、ヴィサーラの断言。まあ、死ぬと黒い粒子になる生き物は、人と同じものとは考えづらいからなあ。そういう言い方にもなる。

 

「では、味方の救援に移りましょう。勇者様、こんどは斬れますね? 一体も二体も同じです」

「……できる、と思う。やります」

 

私たちは、乱戦になっている集団に向かって駆けた。

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