今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。   作:一宮 千歳

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第25話

気がつくと、見知らぬ陣幕の中にいた。

ヴィサーラが顔を覗き込んでくる。他に誰もいない。

 

「敵は、どう?」

「退きました。勇者様の【挑発】を無視して退いたので、相当高位からの命令が出たと見た、とイグナスさんが」

「そう……ここはレベリアの?」

「はい。レベリア王国の前線基地です。……あれから、丸1日が経ちました」

 

どおりで体が痛いわけだよ。寝床の中で背伸びする。あー、つっかれた……。

 

「目覚めたら、すぐにでも会いたいと、レベリアの指揮官が」

「悪いけど、面会拒否。何かあるならイグナスに話させて」

「承知しました、一度席を外します」

「ん」

「それと」

 

何じゃい。

 

「弱ったリリアナ様、眼福でした」

 

お前ほんとなんなんだよ。

 

……さて、ヴィサーラが去った陣幕で、考える。

あの幻術使いの女、私の過去を知っている風だった。

 

『6年前。不幸な事件やったねえ? お悔やみ申し上げます』

 

あの言葉。明らかに、私の母たちが殺されたことを指している。……問題になるのは、あの言葉が煽りなのか、それとも真実お悔やみを言っているのか、確定できないところだ。

あの語り口。聞いた瞬間は煽りにしか思えなかったが、こうして落ち着いて考えてみれば僅かながらも哀悼の意はあった気がするのだ。それがどうにも気持ち悪い。

 

魔族が、人間に哀悼の意を払う。あるいは、魔族が人間の不幸を悼む。そんなことがあり得るのだろうか。

 

もし、本当に哀悼の意があるとしたら。母たちが殺されたのは単なる魔族に取り入りたかった人間の早とちりで、魔族は関与していない?

 

思い返せば、その可能性もある。「これで魔族に認めてもらえる」みたいな発言をしたゴミはいたが、私が消し飛ばした街に魔族そのものはいなかったように思う。

 

……この仮定を確定するには、あの女ともう一度話す必要があるか。……どうやって?

 

ぼすぼす、と陣幕の叩かれる音がする。ヴィサーラだろう。

 

「どなた?」

「イグナスさんが、調子はどうだ、と」

「二人とも、入ってよいですよ」

 

私が促すと、ヴィサーラとイグナスが入ってきた。

 

「いきなり目の前で倒れて心配したぞ」

「私にも限界はありますから。……動くなら、動けますが」

「タカアキ君がまだダメそうだ。精神的な疲労が来ている」

「具体的には?」

「動きたくない、そうだ」

 

あら。

 

「……うーん、私の考えだと、単なる甘え、ではあるのですが」

「……君が言うなら、その可能性はあるが、何故そう思う?」

「……リリアナ様は、勇者様の精神状態に詳しい?」

 

……んー。この辺ちょっと説明が難しいんだよな、異世界転生とか転移で常識がどのくらい違うか、だから。

 

「彼が動けない理由、私は説明することができます。私が異世界転生者であること、二人は知っていますね」

「……まあな」

「……むう。イグナスさんが知ってるのは知りませんでした」

「ごめんなさいね。そこを言う機会がなかったものですから」

 

ヴィサーラがちょっとおこだよ、みたいな顔してる。

 

「さておき、私の住んでいた世界と、勇者様が住んでいた世界、そして国。これはほぼ同一だと思われます。それによって問題になる、この世界の常識とは決定的に異なる点」

「それは?」

「圧倒的に平和なのです。60年、直接の戦争とは縁がありません。また、生き物の殺傷は完全に禁忌です。……あ、小さな虫とかは例外だったりするんですけどね」

 

ヴィサーラが息を呑む。

 

「そんな国、あるんですか?」

「ありますのよ、幸か不幸か。そして、勇者召喚は、あえてその国、日本から勇者を呼び出します」

「……何でですか?」

「そこは僕も気になる」

「そこは知らないんです」

「「ええ……」」

 

イグナスとヴィサーラが揃って呆れた顔をする。しょーがないじゃんよー、私すら研究に関わらせてもらってないんだから。ダイスロ王家にとって大事なものなのは判るので、おとなしく引き下がってはいるけど、リン殿下経由でなんか噛めないものかな。

まあ、理由のうちの一つは概ね計算ついてるんだが。それを今から話す。

 

「さて、日本では、人同士剣を向け合わない、生き物の殺傷が法で厳しく禁じられている、というだけではありません。武器そのものが、ほとんど禁忌のように扱われています」

「武器が……禁忌?」

 

イグナスが眉をひそめる。

 

「ええ。イグナスさんやヴィサーラさんは、自分の剣を『生きるための道具』、あるいは『誇り』として扱いますね? 私たちの国では、武器は『殺すためだけの道具』という認識が極めて強い。そしてその『殺す』という行為が絶対に許されないため、現実の武器は軍人のみが持つものとされています。……ああ、一応持っている人も居るのですが、それには面倒な手続きと国の許可が必要です」

「異世界じゃないですか」

「異世界ですよ、ヴィサーラさん」

 

ヴィサーラが、そうでした、と言う顔をする。

 

「ここからが本題です。勇者様が今動けないのは、《勇者》のギフトが、日本人ととても相性が良く、逆に良くないためです」

「……相性が良くて、良くない……?」

「こちらは死なないが、一方的に相手を殺せる、としたら、人はどのように変貌すると思いますか?」

 

イグナスとヴィサーラが考え、答えを出す。

 

「……気に入らない相手をすぐに殺す、殺人鬼になる?」

「それに加えて、裁きようがない。ですね」

「問題しかないじゃないか」

「ですが、本人の意識では殺傷というのは禁忌です。そうなると?」

 

私の再びの問いに、ヴィサーラが即答する。

 

「この世界では、最優の盾役になります」

「……なるほど、勇者召喚がニホンジンしか対象にしない理由も、そこか?」

「ええ。それが相性がいい側面。相性が悪いと言うのは、《勇者》のギフトを持つ人間は、単独で戦況を変えられるという点です。……さて、戦場の戦士は、単独のとき、何が出来ますか?」

「敵を殺すことです」

「……そう、その通り。戦士にとって、殺しは絶対に避けられない手段です」

「……もう分かった。『殺す』という行為そのものが禁忌、と言ったな? ならば、タカアキは昨日の自らの行いを悪と断じてしまい、動けなくなった、ということだろう」

 

イグナスが答えに辿り着く。ヴィサーラは顔を青くした。

 

「そんな、勇者様は正しく剣を振りました。悪なんて」

「本人の心持ちだ。他者が何を言っても意味がない」

 

そう。私が甘えと言ったのは、そこだ。

 

「しかし結局、自分でやると決めてしまえれば、動けます。常識に沿わない事をした。それだけの話ですから、常識を改めれば、彼は動けるのです」

「そこまで言い切るのは……」

「先ほど言いましたが、私も日本人ですからね。……彼にも、それを明かそうかと」

「勇者様は、それで動きますか?」

「……彼、私の復讐を手伝う、と言ったんですよ。このぐらい、乗り越えてもらわないと」

 

本当はめっちゃ言いたくないけどな〜。

それに、動いてくれるかな〜?!

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