今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。 作:一宮 千歳
「心を鍛える訓練〜! 罵倒に耐える!」
「勇者様のカス、クズ、ゴミ」
「単に心が辛いだけなんですけど!」
だめか。表立って
「レベリアの騎士が『なんだなんだ』って顔で見てますよ」
「人目につく場所でやる訓練じゃなかったですわね……」
「僕の心に効くポーションをください……」
そんなものはない。
「さておき、不都合な真実と、極度の理想が夢魔の手口ですわ。……そうですわね、たとえば私に性的に誘惑されるとか、勇者様は耐えられます?」
「むりです」
「そこを耐えないといけませんわ」
「地獄かな?」
「あるいは、不都合な真実。……そうですわね、実は私のこれは幻術で、本体はムキムキマッチョマンの変態だったら?」
「いやです」
「ですから、そういう幻を見せられることが考えられる、という話ですの」
ヴィサーラが悩ましい、と言った顔で口を挟んでくる。
「難敵ですね。勝てるんですか?」
「勝つんですのよ、なんとかして」
といっても、実は話は簡単で。
幻術も魔法だとするなら、本質的には魔法の掛け合い。
幻術で来るのが分かってるなら、幻術を解く魔法をかけてから動けばいい。それだけの話。
ただ、それは相手が必ず幻術を使う場合。
相手が幻術を使ってこなかったら? あるいは使っていなかったら? ありもしない幻術を解く魔法を使っても、不発するだけ。その間に、あの女はなんらかの攻撃魔法を使うだろう。その辺のやり取りになると面倒くさく、アレはそのぐらいはやるだろう、というのが私の読みだ。
「でも、めんどうくさーい……」
「面倒くさがるリリアナさんもキュート……」
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心を鍛える訓練がうまく思いつかないまま、イグナスが戻ってきた。四人で陣幕に入り、相談だ。
「独立行動権は確保してきたが……いやにぐったりしているな? まあ、こちらも似たようなものだが」
「何か押し付けられましたか?」
「『我が軍は壊滅状態だ、誠に遺憾かつ恐縮だが、戦線を任せたい』だと」
「ま、まるなげ」
「それ、独立行動じゃなくて、単独行動って言いません?」
「『一万五千を見事に止めてみせた勇者殿がいるではないか』とも言われたな」
「あれは、無我夢中で、もう一度できるかというと……」
「まあ、だろうね。……ヘーゼル嬢、策かなにか、あるかい?」
んーーー。まあ、分かってて聞いてるんだよな、イグナスの場合。もちろんなくはない。ただ今の手札はそのままの【街を吹っ飛ばす魔法】ぐらいだから、被害規模がちょっとな。スケールダウン改変の時間が欲しい。
「明日ならいいのですが」
「昨日の今日で奴らはこないだろうよ」
「じゃあ、雑兵は問題ないでしょう。問題は例の女です」
「ああ、あいつか」
「それの使う幻術で悩んでいたところですよ」
イグナスが腕を組む。
「あいつ、多分僕は斬れる」
「本当に?」
「幻術だろ。こっちは曲がりなりにも剣を修めてるんだ、負けないさ」
自信ありげだけど、いまいちフラグくせえんだよな。私が普段イグナスのことを面白イケメンとしてしか見てないせいもあるが。
「ファーロン副団長、その根拠は?」
「剣は目で振るものではないんだ。心、技、体が揃ってはじめて『振れる』といっていい。そういう意味ではタカアキ、ヴィサーラはまだ未熟で、その域に達してない。だからあの女に勝てるのは僕しかいない」
「その心を砕きにきますわよ、夢魔という存在は」
「夢魔?」
かくかくしかじか。
「なるほどね。……その程度の敵に僕が負けると思っているのかい?」
やめろフラグを積み重ねるな。やめろ
「あの女があなたと一対一で戦うなら、きっとあなたの自信を砕きに来ます。あなたにとって最も大切なもの、例えば騎士としての誇り、あるいは団員からの信頼、そういったものを粉々に砕くような幻を見せるでしょう、たとえば、私が性的な目であなたを誘惑する。それを見たヘーゼルファンクラブの騎士団員が『副団長、年下趣味にも程があります。失望しました』と言って騎士団を去っていく、とか」
「うわっ。やめてくれ、ありそうだ」
「本来ならありえないことですからそこは安心してくださいよ」
「(こそこそ)ヘーゼルファンクラブってなに?」
「(ひそひそ)会員証、見ます?」
ヴィサーラと
「冗談はさておき、夢魔は、あなたに剣を振らせないでしょう。あるいは、振ることをためらわせる。例えば幻術のかかった敵が、ファーロン副団長が最も信頼する騎士の姿をしていたら? 愛する家族の姿をしていたら? 斬れますか?」
愛する家族、のところで表情が硬くなった。なるほど、イグナスの弱点も親、家族か。
「ほら、表情が硬くなりましたね。夢魔は必ずそこを突きます」
「……なぜそんなに手口に詳しい?」
「そうですね、元の世界では比較的普遍的な概念の敵であるというのと」
魔法使いに必要なのは意志の力と想像力ですから。
そう言って笑うと、イグナスも苦笑いした。
「まあ、例の女がやってこない可能性だってある」
だからそれフラグだって。
「おばんどす」
ほら来た。いや、来るのかよ。
「さっきから聞いとったら、なんや偉丈夫のあんさん、家族が大事やて? えらいわあ」
「貴様、何をしに来た!」
「あそびに」
イグナスが、その真横にいた女に向けて剣を振るう。
だが、ゆらりと像がゆらめくだけで、手応えはなさそうだった。
「卑怯者が……!」
「褒めてもろてありがとなあ。最高の気分やわ」
女はころころと笑う。……前の時もそうだが、こいつ、声はどこから飛ばしてる?
「からかいに来たのなら、まあ確かにイグナスは面白イケメンですからね」
「ヘーゼル嬢!?」
イグナスが驚きの表情を見せる。
いや、そもそも前に「やり合うなら本体で」って言ってるでしょう、この女。嘘つきかもしれないけれど、斬れないってことは本体ではない。なら、やり合う気はない可能性は高いんじゃなくて?
「あら、やっぱり嬢ちゃん物分かりええわあ。嬉しくなってまう。……ほんとは遊びに来たんとちゃう。一個お知らせにきたんよ」
「なんですの?」
それはもう嬉しそうに、女が言う。
「わちきの部下に、ここいら任すことになったわ。なんで、倒せもしないわちきの対策なんてせんでようなります。よかったなあ?」
舐められてる、なあ。