今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。 作:一宮 千歳
「その部下さん、私たちで勝てる相手ですか?」
「ヴィサーラ!」
おっ、ヴィサーラも幻術使いの女から情報を絞ろうとしてるね。いいぞ。
「そやねえ、みたとこ十回やり合ったら十回、そっちが勝つんやない?」
「あら、だいぶ弱いのでは」
「けど、いかんせん上の言うことやからねえ」
上、かあ。
「上の言うことに文句はないの?」
「ぜーんぜん。これっぽっちも。負けるけど、負ける以上の価値があるんやと、わちきは信じておりますえ」
そう言って、女はころころと笑う。そして、そのまま姿を消した。
「……なんなんだ、あいつは」
「敵のはずですけどねえ」
イグナスが顔をしかめた。
「十回やり合って十回勝てる相手を、わざわざこちらに差し向ける、か。しかも、あの女はそれを『負ける以上の価値がある』と評した」
「つまり、僕たちが勝ったところで、こちらに不利になる要素が潜んでいる、ということですか」
「ええ、その可能性が極めて高いですわ」
「考えても無駄ですよ」
ヴィサーラがバッサリと断じる。
まあ、「こちらが勝っても不利になる」というのはあくまで想像。実際に不利になるかはわからない。
「目の前の敵を倒して、それから考えるしかないと?」
「斥候役としては失格の発想ですが、そうです」
「ヘーゼル嬢、敵の傾向の予測はつくか?」
「アレの下、ですわよね……正直、どのような敵もあり得るかと」
「ほう?」
イグナスが続けろ、と言う顔をする。
「第一に、あの女と同系統の幻術使い、あるいは魔法使いである可能性。第二に、全く正反対の力技でくる可能性。第三、本人は計略や策略を弄する、裏方。どのような敵でも、ありえますわ」
「なぜそうも言い切れる?」
「『上のやることに文句がないから』ですわ。あの手の輩は、上から言われたことをなんでも柔軟にこなす。故に、なんでもありえる、と推定できます」
「なるほど、理屈だ」
納得いただけたようで何より。
このうち最もありえるのは、力技の相手。他の類は十回中十回、と言い切れるほどの戦いをしない。魔法は対応を誤れば致死なわけだし、策略はさまざまな要素が不確定に襲いかかり、その全てを私たちが跳ね除けられるとは限らない。しかし力技の相手なら、実力差がそのまま結果になる。十回中十回とは、そういうことだ。
「ただ、ワーウルフ以外の獣人種、が一番ありえますわね」
「おい、そんなものがいるのか?」
「想像力、ですわ」
私は自分のこめかみをとんとん、と叩きながら、イグナスに笑顔を向ける。
「私たちの知る限り、魔族がこちらに送り込んでいるのはゴブリン、ワーウルフ、そして
「虎や熊か……」
イグナスが唸った。
「確かに、ワーウルフの延長線上の魔族なら、個人の戦闘能力がそのまま結果に結びつくだろう。ヤツが十回中十回勝てる、と言い切ったのも納得だ」
そして、ヴィサーラが話を変える。
「上の言うこと、が気になりますね」
「本来魔族というのは、我々の領土、肥沃な土地を求めて宣戦布告してきた存在だが、いまいちその実態がわかっていなかったからな」
「領土以外に、何か目的がある?」
「と、見るのが妥当だろう」
「……ですが、それ以上は推定できかねますね」
「ああ。結局、やってくる敵を倒す。それしかない」
防戦かー。数が互角なら、有利なんですけど。
「いかんせんレベリアの騎士団、兵たちは消耗しすぎている。さっき話を聞いたら、今の正確な数は1593人だそうだ」
「対して相手方は、相変わらず一万五千ほどの数を投入できるでしょう」
「勇者様が多少削ったとはいえ、一人で倒せた数には限度もありますからね」
「一万五千の兵に、あの女の部下か……だが、負けることはない、か」
「兵は私が魔法でどうにかします。女の部下をまかせたいのですが、ファーロン副団長と勇者様、ヴィサーラさんはよろしくて?」
「任せろ」
「大丈夫です!」
「不安ですけど……」
ヴィサーラが不安そう。うんまあ、イグナスとバカ防御力の
「大丈夫だと思いますわよ。あの【隠密】があるんですもの。撹乱してやればいいのです」
「……通用しますかね?」
「大丈夫ですよ」
あの時のゴリマッチョ団長と騎士の皆さん、『あれ急にどこいった?』みたいな顔してたもん。よほど格上でなければ通じると思うよ。
「あとは、相手の指揮の引き継ぎがどのくらいかかるか、ですわね」
「それがそんなに大事なんですか?」
「ええ、単純に指揮の引き継ぎが遅れれば、攻めてくる時期が遅れる。そうすれば、我々が準備に使える期間も増える。【罠魔法】の大量設置で、雑兵を削れるかもしれません」
「【罠魔法】なんてあるんですね!」
ゴブリンとワーウルフ相手に有効な魔法を、『生物の接近』を起動トリガーにして設置するのが今回の【罠魔法】だろう。
設置場所、どうしようかな。
「相手の進軍経路を見定める必要がありますね」
「それなのですが、このあたりはなだらかな丘になっています。そこを取られており、もはやどこから攻めてきてもおかしくありませんので、まず
「そんなことができるのか?」
「できますとも。私はリリアナ=ヘーゼルですのよ」
心の底から疑問だという顔をする三人。
なんだよう。信じろよう。