今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。   作:一宮 千歳

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第31話

「ただいま戻りましたわ」

 

雷雨が吹き荒ぶなか、三キロにわたって広大な泥の沼を仕掛け続けるのはかなり大変だった。主に飽きそうだった、という意味で。

陣幕の中を見れば、勇者くんとイグナスだけで、ヴィサーラがいない。あれ、どこ行った?

 

「斥候ですから、と。【隠密】を使って敵方を探ると言ってましたよ」

「あら。私も敵のいる方面から来ましたのに。【隠密】、気付きませんでした」

 

ヴィサーラの【隠密】、私の三点セットと同じぐらい仕事してるのかな? ちょっと洒落ならんくらい強いな。なんかに使えないかな。

 

「……あと、やたら静かですわよね。一応聴きますけど、レベリアの部隊は?」

「もう出ていった。ここにはもう我々しかいない」

「……早くありません?」

「騎士はともかく、兵の士気が限界だったんでしょう。移動……いや、逃走は迅速そのものでした」

 

あれまあ。逃走って言いなおすとか、相当だぞ。

 

「うーん、ちょっと目算が狂いましたわね。レベリアの後方にギリギリ敵が追いつかない、その程度の逃げ方が一番"釣れた"のですが」

「まあそう言うな。彼らを囮にするとは一言も伝えていない。そんな集団に囮の役割を期待してもしょうがないだろう」

「確かにそうですわね」

 

まあ、居ないなら居ないでいい。正直事ここに至っては彼らの中にいる少数の魔法使いしか意味がない。

 

「じゃあ、そろそろレベリアの仕掛けた【罠魔法】を避けて移動しましょうか」

「ちなみに、どんなのを教えたんだ?」

「【石弾】が起動するだけの簡単なヤツです」

「……それで5000を半分に削れるわけがないだろ」

「だから、そのどうでもいい【石弾】の中に、私の【罠魔法】を混ぜ込みます」

「……あー。それは、いかにも敵の進軍が遅れるな?」

 

私はにっこり笑った。

 

「そう。相手が罠にまごまごしてるところを奇襲、撤退、を繰り返してください。追撃の5000体を倒すのは、なにも一度に限らなくてもいいのです」

「……おっそろし……」

「……いい機会だから言っておく。マエミチ、ヘーゼル嬢はこと戦闘においてはこういう女だ」

「惚れ直しました」

「……なんでだ?」

 

賢い女が好きだからだよ、と私は心の中で呟いた。

 

「さておき、移動いたしますか。私の【罠魔法】を仕掛けないと、そもそも計画が破綻しますわ」

「そうだな」

「あれ、ヴィサーラさんは?」

「多分、どこからでも私のことを見つけると思いますよ」

「なんで確信してるんですか?

「ヴィサーラですから」

「「ああ……」」

 

男からのヴィサーラへの信頼が厚い。いいこと(ツッコミ不在)だ。

 

----

 

【石弾】は弱い魔法だ。と言っても、ゴブリンくらいなら当たりどころが悪いと死ぬ。逆にいうと当たりどころ次第ではゴブリンも倒せない。

 

「なので、敵は最初、罠を舐めます」

「そりゃそうですね」

「ところが私の必殺魔法である【氷の槍】を起動する【罠魔法】を一個設置すると?」

「とたんに罠全てを警戒しないといけなくなる。なるほど……」

「まあ、罠を仕掛ける基本だな」

 

三人でそんな話をしながら、降りしきる雷雨の中、【罠魔法】で【氷の槍】などを仕掛けていく。密度は濃いめでマシマシだ。

 

「疲れませんか?」

「いえ、全然。このぐらいなら呼吸と同じですわ」

 

勇者(おれ)くんの微妙な気遣いが本当に微妙。

 

「ヘーゼル嬢は本当に魔法を上手く使うんだ。【氷の槍】もそもそもが一本出すだけで高等な魔法の筈なんだが、複数本束ねて使用する、となると出来るものは片手で数えるほどになる。罠魔法にするとなると……ヘーゼル嬢しか出来ないんじゃないか?」

「へええ……」

「マギータ翁も多分【罠魔法】にできますわよ。あと、リン殿下も使い手に加わりそうですから、【氷の槍】の複数本運用については、数えるのに両手が必要になる日も遠くありませんわ」

「それでも実用できるものが少ないことは変わりない」

 

ま、そうだけどね。

 

「時にヘーゼル嬢、この【氷の槍】の罠だが、起動条件はどう設定している?」

「『ゴブリンもしくはワーウルフの接近』ですわね」

「……レベリアにも教えたのか?」

「致し方なく。ただ、30名ほどしか高度な条件付き罠魔法は使えず、他はシンプルな『重量感知』ですわね」

「レベリアの魔法使いは何人いたんだ?」

「……100ほどでしたわね。それがどうかしまして?」

「いや、なんでもない。ありがとう」

 

なんだぁ? レベリアの裏切りの可能性でも考えてんのか?

 

「隠し事はあんまり感心しませんわよ」

「……すまない。魔法使いの数が気になってな」

 

なんだ、そういう方向か。気にしなくていいと思う。

 

「というより、私クラスの魔法使いがいるかどうか、でしょう? レベリアには絶対居ませんから、安心なさいませ」

「言い切れるのか?」

「発想力が乏しいのです。私に言われないと『ゴブリンもしくはワーウルフの接近』の条件付けを思いつかない時点で、実力は推して知るべき、ですわね」

「なるほど……『魔法使いは想像力が強さ』だったか?」

 

そうそう。魔法はむにゃむにゃ念じるだけで発動するが、魔法を使って実際に起こる現象をしっかり想像できないと、中途半端になる。中途半端の例は、まあリン殿下のちょっとしょぼい【氷の矢】や【氷の槍】のなりそこないの棒だ。

 

「そう、想像力の限界を超えた魔法は使えません。魔法は『見られれば真似される』というものですが、『見ても真似できない』境地に達してしまえばいいのです。ふふふ」

「……優れた魔法使いというのは恐ろしいな」

「同意です……でも、リリアナさんは、魅力的でもあります」

 

ええい、ガチ恋をしまえ。と思っていると、ヴィサーラが音もなく現れた。

 

「敵本隊が移動を開始しました。数は一万五千で変わりありません。また、ローブ姿の魔族と、見慣れない、顔全体に(たてがみ)をたなびかせた、猫の獣人の魔族が中心のようです」

「……あの女の部下は、ライオンの獣人なのかしら」

「その、ライオンというのは?」

 

勇者(おれ)くんが説明する。

 

「百獣の王とも呼ばれる、肉食の大型の獣です。猫を数倍大きくしたような生き物ですね」

「……猫というと、猫か? ……随分と可愛らしい印象だが」

「そんなに可愛くなかったです。なんかこう、つり目で怖い感じが。あと、鬣が無いことを除けば似たような顔つきの獣人が複数いました」

「ああ、それはメスのライオンですわね。一般にオスのライオンはメスのライオンを複数従えるものです」

「……となると、それが倒すべき敵であり、『十回中十回倒せる』ヤツなのか……」

「……問題は『十回中十回倒せる』が『オスのライオンのみを指す』場合ですわね。一般的にライオンは、メスの方が狩りを担当する場合が多いので……」

「……敵の言ったことを鵜呑みにしても仕方ないが、予想外の強敵の予感がするな……」

 

予想、当たってほしくないなあ。

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