今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。   作:一宮 千歳

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第34話

黙々と奇襲を仕掛ける。鬨の声は不要。ただ殺し、ただ逃げる。今のところはそれを黙々と繰り返す。

 

ゴブリンは足が遅く、今相手にしているのはもっぱらワーウルフ。イグナスが風のように切り込めば複数体が紙のように切り裂かれ黒い粒子と化す。ヴィサーラも首刈りで効率的に一体ずつ殺している。あとはまあ、勇者(おれ)くんも胴を真っ二つに切り裂いている。やるじゃん。

 

が、しかしだ。この一撃離脱戦法、一度に殺せる数が少ない。これでは数を減らし切るまでに魔族連中が撤退中のレベリア勢に追いついてしまう。

 

「まずいな、時間が足りん……!」

 

イグナスも呻く。ちょーっと計算ちがいだったな、これは。5000を想定してた時にはもう少し進軍速度を遅く見積もってたが、ここまで速いとは思ってなかった。罠で減る数も、まあ想定通りだが遅滞効果が望めない。速さは強さ、相手にも適用されるなあ。

 

「多数を殲滅できる魔法は何かないですか!?」

 

勇者(おれ)くんが叫ぶ。

なくはないんだが、イグナスとヴィサーラを巻き込む。あと秘匿性がな……!

苦々しく思いながら、作戦変更を叫ぶ。

 

「みなさん! 一撃離脱では間に合わない! ここで踏みとどまり、来る敵を全て討ち取ります!」

「そんな無茶な!?」

「【挑発】があればできるはず……!」

「リリアナさん!【挑発(・・)はもうやってる(・・・・・・・)! 効いてないんだ!」

「はあっ!?」

 

ちょっと待て、【挑発】が効かない? どういうことだ。まさか、ライオン獣人の指揮能力、カリスマが、【挑発】を無効にしている? あり得ていいのか、そんなこと?

いや、どちらにせよ効いていないのは事実。それなら切り札を切るしかない。

 

「ヴィサーラさん、ファーロン副団長、勇者様、私の後ろへ! 奥の手を使います!」

「はい!」

「わかった!」

「何をする気です!?」

 

私の呼びかけに三人が応え、後ろに下がる。これで巻き込まない。理論はできてたけど初めて使うから、巻き込まない確証がなかった。でも、これなら全力でやれる。

 

「【絶氷(タチゴオリ)】ッ!」

 

私が叫ぶと同時、前方の地面が凍結し、雨が結晶となり、ワーウルフが氷像となった。そしてワーウルフの氷像たちは次々にがしゃり、ぐしゃりと崩れ落ち、黒い粒子に変わる。

ぶっつけ本番だったが、「周囲の温度を絶対零度に下げ、空間ごと凍結させる」という魔法は、なんとかうまくいった。

 

実用した初めての【絶氷】は、私自身が驚くほどの光景を生み出した。

 

前方にいた数十体のワーウルフだけでなく、周囲の空間そのものが、一瞬にして時を止められたかのように静止している。空から降る雨粒は、そのままの形で氷の結晶へと変貌し、地面に到達することなく、空に漂う無数のダイヤモンドダストとなった。ワーウルフたちが巻き上げようとしていた泥水すら、そのまま凍り付き、灰色と白の混じった不気味な彫刻となる。

【絶氷】が敵を襲ったその瞬間、突撃してくる魔族たちの縦陣に、おそらく幅数百メートルほどの完全な空白が生まれた。

 

まあ、雷雨が止まるわけではない。降り続く雨により、いっとき現れた幻想的な環境はすぐに押し流された。

 

◾️◾️◾️◾️(進軍停止)ーッ!」

 

響き渡る、獣の声。なんだ? その声は、広大な空白地帯の先、縦陣の崩壊した魔族の群れの中から、雷雨の音を突き破って明瞭に届いた。

 

「ヘーゼル嬢、今のは……」

「奥の手のことですか、それとも獣の声?」

「どちらもだ。……なんだ今の、タチゴオリ、とやらは」

「奥の手、と言いましたわよね。他の魔法使いが真似できない、とっておき、ですわ」

「獣の声の方については、敵のなんらかの指示かと。また、足音が小さくなっています」

 

ヴィサーラが報告する。足音が、小さく、ねえ。

 

「止まる、のか?」

「なぜかは分かりませんが」

 

◾️◾️◾️◾️◾️(ダイアナと夢魔は下がれ)◾️◾️◾️◾️(これは報告をあげねばならん)!」

 

何を言ってるかわからんが、すごい剣幕だ。

 

「最後方の集団が反転してます……逃げるんでしょうか?」

「リリアナさんの魔法に恐れをなしたんですよ、きっと」

「そんな単純な話で済めばいいがね……」

 

……逃げられる、ということは情報(【罠魔法】や【絶氷】について)を持ち帰られる、ということだ。よくないな。よくないが、最後方だけが下がった、というのは前衛連中を全部薙ぎ倒さないと下がる連中を追えないということ。【脚力強化】で迂回して追う、という手もなくはないが、今度は【挑発】の効かない集団をどう押し留めるか、という問題になる。……面倒くさい手を取ってくれた!

 

「ここ、任せられますか?」

「無茶言うな、【挑発】が効かないんだぞ」

「……そうですわね、では逃げる集団は諦めましょう」

「目の前の停止した連中はどうする?」

「突っ込んで刈りますわ。援護をお願いします」

「リリアナさん!?」

 

【氷剣・絢爛】。五本の氷の剣が宙を舞う。踊るように、舞うように、きらきらと氷片を撒き散らしながら。

自分の体でイメージを形にする(・・・・・・・・・・・・・・)

イメージするのは、舞うように戦う自分。

 

走る、幅跳び、斬る。返し刃、防御、しゃがみ、回避。

防御行動をとる間にも氷剣は敵を攻撃してくれるし、

自ら剣を振るって攻撃する時には不意の攻撃を防いでくれる。

 

殺す、殺す。舞うように殺す。

殺す、殺す。機械のように精密に。

殺す、殺す。ゲームのように、圧倒的に!

 

私は敵の群れの中心を駆ける。踏み出した地面がわずかに凍り、歩みを加速させる。狙うはワーウルフの首、ゴブリンの心臓。

 

「ヘーゼル嬢! 無茶をするな!」

「敵が止まった今は押しどき! ならば、少々の無茶も必要でしてよ!」

「絶対少々じゃないぞこれは!」

 

イグナスがおいついてくる。討ち漏らしを処理してくれてるみたいだ、ありがたいね。

 

「剣ではできないことを魔法でやっているのです! 褒めてくれてもよろしいのではなくて!?」

 

見ればイグナスがワーウルフを鮮やかに切り払っていた。

 

「この状況で褒めてもらいたがる女性は、君以外に知らないな!」

 

それ褒めてねえだろ。と思うと、ライオンがまた吠えた。

 

◾️◾️◾️(全軍構えろ)◾◾️◾️◾️◾️◾️(ダイアナたちの撤退の時間を稼げ)◾️◾️◾️◾️(此処は死地である)!」

 

この叫び、おそらく叱咤かな、敵の気配が変わった。

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