今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。   作:一宮 千歳

40 / 40
第40話

くちゃいの謎は棚上げにして、ご飯を食べよう。

光り鶏は一匹丸焼きなので、でかい。それが二つオーダーされたものだから、テーブルの上は存在感を放つ鶏二つが支配していた。

 

「すっごーい!」

 

ヴェンちゃんはきらきらと目を輝かせている。なんだよかわいいかよ。

光り鶏の胸の部分を四苦八苦しながら切り分けてヴェンちゃんの前に差し出すが、ヴェンちゃんはお行儀良く待っている。

 

「先に食べていいのよ?」

「ママと一緒に食べ始めるの!」

 

なんだよかわいいかよ(一分ぶり二度目)

私が自分の分を取り分けると、ママ、はやく食べよ!とそわそわしながら言う。あーかわいい。無限にかわいい。

 

隣ではヴィサーラが勇者(おれ)くん用に光り鶏を切り分けている。勇者(おれ)くんさあ、自分で切り分けるぐらいできないわけ?と思うが、ヴィサーラがむしろ楽しそうなのでいいのかなと思う。

 

「ママ、あーんして! 食べさせてあげる!」

「あらあらまあまあ。いただこうかしら」

 

天使めいた(夢魔だけど)少女に手ずからあーんしてもらえるなんて! 前世で何かいいことしたっけ?

ふと見れば勇者くんが「自分もあーんしたい」みたいな顔でこっちを見ている。無視だ無視。

 

ヴェンちゃんが切り分けたお肉を口に運んでくれる。あーん。

 

「まあおいしい! ヴェンちゃんもどうぞ、あーん」

「あーん。えへへ、美味しいよママ!」

 

天国(ヘヴン)はここにあった。

 

「即物的な報酬! ください! リリアナさん!」

 

それ言われると弱い。しゃーねーなー。

 

はい、あーん。勇者(おれ)くん、めっちゃ幸せそうな顔であーんしよる。げろげろ。

 

「これが……天国(ヘヴン)……」

「この程度で死なないでくださいませ」

 

て言うか、感想かぶりしてる。猛烈に死にたくなってきた。

 

「ヴィサーラさんも、どうです?」

「あーん」

 

「どう」のあたりで既に口開けて待つのははしたないぞヴィサーラ。いいけどさ。

 

「好きな方相手にあーんされると、妙に美味しく感じますね」

「ぼ、僕もそれ思いました!」

「ねー!」

 

ここにいる全員こっちに矢印が向いている。一個いらんけど。

一通りあーん大会が終わったところで、各自取り分けた光り鶏をもちょもちょ食べる。ささみも胸も脂たっぷりでちょっともたれ…たりはしない。なんたって若いからね。

昔、独身限界男性だった頃は食べ過ぎでもたれるなんてしょっちゅうだったが、今では胃もたれとは縁遠い。まあ、胃の容積は相応に小さくなったが。

 

ところでヴィサーラ、平民って割にはナイフ遣いが丁寧だ。

 

「ヴィサーラさん、ナイフの使い方がお上手ですわね」

 

ふと気になって口に出すと、ヴィサーラは鶏の皮を丁寧にはがしながら、事もなげに答えた。

 

「騎士団では礼法も叩き込まれますから。それに、綺麗な方が合理的でしょう? 食べカスを撒き散らして歩く騎士に、民は信頼を寄せません」

「なるほど、一理ありますわ」

 

その隣で、勇者くんが必死に光り鶏と格闘している。

ヴィサーラに取り分けてもらったのを食べ終わったせいか自分で取ろうとしているが、中身だけをほじくろうとしている。うーん、民の信頼、得られなさそう。

 

勇者(おれ)くんの無惨な食べっぷりを見かねて、私はそっと手を差し伸べた。ナイフを添え、関節の隙間に刃を滑らせる。スッと軽い手応えと共に、肉が綺麗に骨から離れた。この世界で母たちのもとでのサバイバル生活を強行していた時期に解体技術が上がってしまったので、調理済みの鳥の解体なんて容易い。

 

「ほら、こうやるんですのよ」

「リリアナさん……すごいですね!」

 

すごいかあ? まあ高校生までの時期にターキー丸ごと食べたりはなかったからな。やったことがないことができないのはしょうがないこと。これからやっていけばいい。

 

「これから、ですか……僕、いつまでこの世界にいなきゃいけないんでしょう?」

「そういえばそうですね。リリアナ様、勇者様がもしも魔王を撃ち倒した後の話、聞いてますか?」

「んー、何も聞いてませんわね。だってほら、私たち、捨て駒扱いでしょう? その筆頭の勇者様も、元の世界に返すとか、こっちの世界の居住権を認めるとか、全然考えてないんじゃないかしら」

「そんなあ……」

「送還の魔法は探すか、作りますからご安心くださいませ」

「それなら安心です! リリアナさんならきっとなんとかしてくれる!」

 

勇者(おれ)くんはにぱーっと笑った。まあでも、送還の魔法が完成しようとも、まず魔王を相手に生き残らなきゃいけないんだけどな。今の所ほとんどの魔族は私のいる戦場ではどうでもいいレベルの雑魚だが、魔王と呼ばれる存在までもがその程度のわけがない。幻術使いの女みたいな舐めてかかれない相手もいるわけだし、おそらく死闘は必至だろう。

 

そんなことをかんがえていると、やにわに店内が騒がしくなってきた。

 

「ん!くちゃいおじちゃん一号の匂い!」

 

イグナスかあ。なんかあったのかしらね。

 

店の入り口の方にひょいと顔を向ければ、イグナスがテーブルを一つ一つ確認しながらこっちに向かってくる。

あー、これこっちを探してるな。

 

「ファーロン副団長、お探しなのは私? こちらですわ、こちら」

 

声を張り上げるのはあまり上品ではないが、まあイグナスが楽しくお食事している皆様の邪魔になっても良くない。こちらに呼ぶことにした。

呼ばれたイグナスが、肩で息をしながらこちらに向かってくる。「とんでもないことになったぞ」と言わんばかり。なんだなんだ、どうした。

 

「ヘーゼル嬢によるヴェンの養育は認められた、だが条件付きだ」

「……表情が硬いですわね。厄介な条件ですの?」

 

イグナスが重苦しく口を開く。

 

「……結婚だ」

「はい?」

 

けっこん。まりっじ? ほわい?

 

「魔族を王都に置く、というのが問題だ。何かあった時に、監督責任を問えるよう、公的に『養子』とすることになった。これはいいな?」

「なんとなくよくありませんけど、いいですわ」

「しかしな、我が国の法では未婚の人間は養子を取れない。責任能力、同格ないしは庇護対象の他の家族と暮らす能力がないとみなされるんだ」

 

前世日本でも未婚じゃ養子ダメなのはそうだっけ。

 

「はあ、私という完璧に完成された人格の持ち主であっても?」

「その主張には強く異議を唱えさせてもらうがね、とにかく未婚ではダメだ、ということになった。法は曲げられない」

 

すると勇者(おれ)くんが立ち上がった。

 

「リリアナさん、僕と結婚してください!」

「お付き合いするレベルにすら達していません。ごめんなさい」

「秒殺ッ!」

 

勇者(おれ)くんはたおれた。

 

しかし結婚かあ。

いまここにいるイグナスと、倒れている勇者(おれ)くんを見比べる。

どっちもないな。

知ってる範囲の男性だと、ゴリマッチョ団長も、ない。

マギータおじいちゃんもおじいちゃんだし。

 

というか。男という選択肢が、そもそもあり得ない。

 

じゃあ、一つしかないじゃん、答え。

 

「ヴィサーラさんと結婚いたしますわ!」

 

勇者(おれ)くんが絶叫した。えーじゃありません、うるさい。




単行本一冊ぐらい連続更新したろ、で書き進めてきましたが、一旦ここで一区切りです。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
お気に入りやしおりに追加していただけると、
あるいはここまでの感想をいただけると、大変はっぴーです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

最強の黒騎士の中身がTS少女だと気づかれてはいけない理由 (作者:でかそう)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

辺境の地で現れる最強の黒騎士。▼街行く人々から畏怖される黒騎士の正体は、異世界から転生してしまった俺であった。▼更にひょんなことで女体化してしまった俺は、周りの目を盗んでは黒騎士に変身して日夜人々を守っているのだが、どうやっても黒騎士の評価が良くなる事は無い。▼それ所か益々周りの人間から嫌われてしまう黒騎士。▼何故ここまで嫌われているのか!?▼このままじゃ黒…


総合評価:1940/評価:7.11/連載:179話/更新日時:2026年07月30日(木) 07:44 小説情報

【TS】潰れそうで潰れない訳ありの喫茶店でバイトしたい!(作者:ひぶうさぎ)(オリジナル現代/冒険・バトル)

本当は潰れそうで潰れない謎の喫茶店店主をやりたかったけど、TSしちゃったから店主に「このままじゃお店潰れちゃいますって!」って言う可愛いバイトの女の子やる▼


総合評価:3707/評価:8.07/連載:8話/更新日時:2026年03月20日(金) 12:12 小説情報

エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい(作者:超とんでもなくムッチリしたインコ)(オリジナルファンタジー/コメディ)

目覚めたら、俺が書いた黒歴史小説の世界だった。▼しかも転生先は、世界を滅ぼすラスボス「邪神アルテ・イリヤ」▼目の前には、俺の書いた痛い設定を崇める狂信者たち。▼手には、不滅属性を付けた『聖典(黒歴史ノート)』▼そして待ち受けるのは、当時の俺が書いた容赦ない鬱展開の数々。▼「冗談じゃねえ。そんなクソシナリオ、作者の俺が全部書き直す」▼武器は、没ネタ・裏設定・隠…


総合評価:612/評価:8.09/連載:35話/更新日時:2026年07月28日(火) 22:00 小説情報

壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい(作者:あまぐりムリーパー)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

聖女ちゃんが、心を閉ざして動かなくなっちゃった、どうしよう!?▼せや、適当にそこら辺の魂突っ込んどけばええやろ!▼それで、俺が選ばれたってわけ▼んで、死なない体で化け物退治とかさせられてたんだけど、なんか聖女も狂信者も神官くんも、様子がおかしくない?▼※不定期更新▼カクヨム、小説家になろうにもマルチで投稿始めました


総合評価:3521/評価:8.15/完結:92話/更新日時:2026年07月30日(木) 23:52 小説情報

TS転生美少女が男友達ムーブして幼馴染の情緒を破壊する話(作者:寿司鮓)(オリジナル現代/恋愛)

男友達だと思ってた幼馴染が実は女の子で再開したら美少女になってたムーブを自然にしてたTS転生者ちゃんさぁ。


総合評価:2403/評価:8.45/連載:6話/更新日時:2026年03月13日(金) 07:16 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>