今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。   作:一宮 千歳

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第6話

黒パンの最後のひと欠片を口に放り込み、私は重い気持ちを足取りで誤魔化しながら訓練場へ向かう。

 

訓練に干渉しなけりゃならなくなったのも、マギータおじいちゃんがあんなこと言わなきゃなー、とも思うが、多分単純に私とアレを案じてるんだよな。

ていうかあれか? 一目惚れです! のせいで上はカップル売りを大いに狙ってるか? あり得るな。

 

私は別に勇者が男だったら使い潰す気満々でこれまで勇者召喚に関わってきたけど、アレが私の方に惚れてるならそれを恋愛譚にもできるから、ちょいと印象操作してこちらからも「少しは気が合った」ぐらいの絵が描ければ、勇者没後に悲劇のヒロイン私が誕生する。美少女プロパガンダ作戦だ。まあ有効だよね。

 

私が男に絆されて国を裏切るとは微塵も思ってないの、なんていうかすげえ。まあ男に絆されることはないですは自己申告で、ほぼあってるけど。

マギータおじいちゃんも多分ここまでは読んでるでしょ、年齢39+約10で思いつける発想ならおじいちゃんもきっとわかってる。多分私の過去環境が良くないから、そのへんも加味してくっつけようと画策してもおかしくない。根無し草同士くっついて生きる理由や国への愛着や魔族への怨念をマシマシにさせれば……ってところかあ? あーやだやだ、この応援に行くのが王命なのマジで、マジでさあ。ゲーでそう。出さないけど。

 

食堂から歩くこと体感十数分。王宮から少し離れたところに位置する騎士詰め所、そこの訓練場にようやく到着した。

おーおーやっとるやっとる、汗と土埃臭い匂いがするわ。この時点でもうげんなりだよ。私インドア派なんですってば。

 

そしてインドア派は奴も一緒であり、へーへーと全身で息をしながら四つん這いになっている勇者(おれ)くんがそこにいた。あ、もちろんこいつが一人で鍛錬するわけもなく、第一騎士団の皆さんも一緒です。お疲れ様ですわ。

 

「やあ、リリアナ嬢ではないか。……貴女も大変だな」

 

第一騎士団団長のくびがふといゴリマッチョさん。名前はえーと、ガスト=バロウス? あれ、バロウズだっけ?

まあこの方、家名になってるバロウズ領を持つ伯爵位持ちのお貴族様(なのでバロウズで間違いないはずだ)なのだが、なんでか第一騎士団で近衛騎士もやってる。王に忠誠を尽くす! って感じだ。とてもまねできない。美少女にしか尽くせないよあたしゃ。

 

「バロウズ団長、お出迎えまでしていただきどうもありがとうございます」

 

ありがとうございますとはいうけど、私この人外見がガチ苦手なんだよな。なんかこう、前世から男の筋肉というのが苦手。性を殊更に感じさせるからかも。内面は非常に紳士なんだけど、好き嫌い言っていいなら全然関わりたくない。

 

「リリアナ嬢。今日は授かり名で呼んでくださらんのか?」

「あら、そのように呼ぶのは親しい相手だけと教えてくださったのはバロウズ団長ですのよ」

「はっはっは、しかし私からはリリアナ嬢と呼ばせていただくぞ」

「あらまあ、私の間違いをずっと引きずるのですね。お戯れを」

 

授かり名とは親から(あるいは洗礼などで)授かった名、すなわち名前(ファーストネーム)を指す。

名前を呼ぶのは家族と、親しい相手になりたい時、なってる時だ。ゴリマッチョ団長が私を名前で呼ぶのは、最初に私が間違えた時のを引っ張っている、完全にイタズラ。まあ、私と同じくらいの娘さんいるし、その気(・・・)で言ってるはずもなく。娘のように可愛がってるんだぞ、という、むしろ周りへの牽制が主だ。そこはありがたい。

 

しかしそのへんの機微が全くわかってない奴がいる。勇者(おれ)くんだ。

 

「リリアナちゃん……俺を……名前で……呼んでください……!」

マエミチ(・・・・)様、いけませんわ。ゆっくりお休みになって」

「家名を持つ親しくない婦人への授かり名の強要は無礼だぞ、マエミチ(・・・・)。さらに本来お前の立場なら、ヘーゼル殿と呼ぶべきだ」

 

私の冷静な苗字呼びと、ゴリマッチョ団長の冷静なお言葉に、四つん這いからべしゃりと崩れ落ちる勇者(おれ)くん。ゴリマッチョ団長はもっと言ってやって。勇者に異世界常識インストールみたいなギフトはついてないから、その辺の齟齬を解消する必要も結構あるんだよな。この辺浮世離れと見るか世間知らずと見るかでまた勇者の評価は変わる。私からすれば世間知らず一択なのだが、騎士団メンツからは浮世離れともみられてるぽい、か?

 

「勇者様がここまでになるとは……午前の訓練は何を?」

「ん、軽く俺と一対一をな。対魔王を想定した近接戦をやった」

「わあ」

 

わあ。ゴリマッチョ団長、多分私のアイススパイクが通用しない系の人なんだよな。それとパソコン部もやしが一対一? そんなんくちゃくちゃになるに決まっとるわ。

でも心配とかはしない。なぜってギフトがあるからね。対人で相手が気遣わなくても怪我の一つもしないのが分かりきってるから、心配するだけ無駄なのだ。

 

だが、訓練がうまくいってないだろうと評したマギータおじいちゃんの言が正しいことは懸念材料だ。

タンクはできる限り相手の注目を集めて長く耐えることを目的にすればよく、近接戦で本人が致命打を入れる必要はない。ギフトと他の手(私やイグナス)があるのだからその二点は訓練がいらないので、魔王戦なんかを想定した一対一訓練は無意味とはでは言わないが、効果が高いとも言えない。うーん、勇者(おれ)くんがへなちょこすぎて気合を入れてないといけないという思いが空回りしてるか?

じゃあ、早めに切り出すか? マギータ様がおっしゃっておりました。騎士団での訓練は、うまくいかないのではないかと。ってな感じで。

 

「ふむ、マギータ翁が……?」

「あのやさしそうなおじいちゃんが……?」

「ええ。騎士は集団で戦うもの。それは勇者の戦い方とは一致しないのではないか、と」

「ふーむ……」

「辛くない訓練ならなんでもいい……」

 

聞こえとるぞ。辛くない訓練なんかあるわけなかろ。

 

「実戦形式で、私を守りながら戦う必要があるのではないか、と」

「……となると、騎士数名を相手取って、後ろに騎士を通さない訓練になるか?」

「絶対辛そうなんですけど……?」

 

わかってたけど、応援(観戦)だけのはずが応援(加勢)になってる件についてー。やだーかえるー。

 

「王命により授かった"応援"ですから、喜んで協力させていただきますとも。その形式で進めましょうか。注目を集めるスキルは会得できておりまして?」

「【挑発】【威嚇】はまあ、それらしいのができている。力量差があるから我々訓練相手には実際には効いてないのだが、ゴブリンやワーウルフには効くだろう」

「……なんか迫り来る実戦って気がするなあ……え、ほんとに?」

 

ほんとに。頷きを返すと、なんか顔が赤くなる。ヤメローヤメロー発情するなー。

 

「まずは騎士様たちと3対2ですわ。私を守ってくださいませ?」

「え、リリアナちゃんが味方側? めっちゃ頑張る」

 

こいつ現金だな。……まあやる気なのはいいことだし、やってもらおうか。

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