今異世界転生TSつよつよ美少女魔法使いなんだけど、若い頃の自分に告白されて困ってる。   作:一宮 千歳

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第7話

騎士三人が構え、ゴリマッチョ団長が「合図をしたら始める。いいな」という。うなずく(おれ)くん。

 

ゴリマッチョ団長が小さく手を振る。

私に飛びかかってくる三人の騎士は、ほうけた顔の勇者くんの横をすり抜ける。

 

「え」

「私、死にましたわね」

 

騎士三人による得物の寸止め。

目の前に剣、喉元に槍、脳天にメイス。うーん、直撃コースなら普通の魔法使いは3回死ねるね。

 

「え?」

 

困惑顔が隠せない勇者(おれ)くん。訓練が始まりすらしないな、これ。

 

「ばかもん。合図をしただろうが」

「いや、合図って『はじめ』とかじゃ」

 

あー。やっぱり勘違いしてる。

 

「ばかもん。敵を見つけた瞬間にまず自分に注目させる、それの訓練だ。合図をどんな形で出すかは教えん。合図らしきものを確認したらそれが敵発見のタイミングと思え。見つけたらすぐ【挑発】、すり抜けられそうな相手は【威嚇】で足止めをせよ。……なるほど、訓練になってないとはこういうことか」

「ええ……」

 

ええ……っていう気持ちはわかるけどタンクがヘイト取らないとダメージディーラーは絡まれてすぐ死ぬのよ。わかる? いや、ロールがゲームシステムレベルで明確に分かれてるオンラインゲーム、勇者(おれ)くん時代にはやってねえわ。じゃあ減点は勘弁しといてやるか。

あと勇者じゃなかったらタンクの耐え切れる量ってのは決まってる。キャパオーバーになってもいけないから、自分の力量はきちんと把握してその上で一瞬で敵戦力を見定め、引き受けるか、その敵は足止めに留めるかを決めないといけない。それを複数体の敵に同時にやる。リアルタンク、ハードなんすよ。勇者はギフトのおかげで無限に引き付けていいだけイージーよ?

 

……という内容をわかりやすーく、ゴリマッチョ団長が伝えてくれた。

 

「では次ですわね」

「え?」

 

私に対する騎士による寸止め。腹にメイス、脚に槍、脳天に剣。

 

「また死にましたわ」

「合図って、リリアナちゃんも出すの!?」

「「当然ですわ」だろ」

 

この訓練、合図役が一人だと簡単なんだよ。そっちだけ見てればかなりの割合防げるからな。

外からの監督役以外に、守られる役なりタンク役なりも合図役をやることでより「いつ敵を発見するかわからない」実戦に近くなる。

 

「この鍛錬、私もしたことがありますの。前衛が敵を一瞬止める間に魔法を完成させ、全てを一網打尽にするという形でしたけれど」

「はええ……」

「はええじゃないばかもん。役割は違うとは言えヘーゼル殿は立派にこなしてみせたのだ、マエミチも出来ねばならん」

「……人間業かなあ……」

 

ふむ、なるほど。

 

「人間の業ですわ。……では盾役をバロウズ団長。守られる役は私。敵役の騎士は…とりあえず10人でよろしくて?」

 

敵役候補の騎士を見繕い、むにゃっと【伝令】の魔法で合図。

 

「なるほど、【挑発】と【威嚇】の手本か。やってみせようではないか」

 

心得たと言わんばかりのゴリマッチョ団長。

 

「ええ。何人か抜ける想定でお願いしますわ……勇者様、こちらに来て合図を」

 

「え、ああ、うん」

 

勇者(おれ)くんがなにか言うが早いか、四方八方から動き出そうとする騎士。

 

「むん!」

 

動き出した数に対して【挑発】で止まる数は7、3人はまだ動く。

 

「ぬん!」

 

しかし【威嚇】で動きが止まる3人。

一安心、と思いきやゴリマッチョ団長の背中側から切り掛かる伏兵一人!

 

「でぇい!」

 

それを見事に身を捩って剣で受け止めてみせる!この間体感一秒!

 

「えい」

 

と、そこで私が敵役騎士全員の胸元に氷の華を生成して撃破完了の合図を出す。

 

「素晴らしいですわ、バロウズ団長。 どうですの? 団長ともあれば十人と伏兵一人は対処できますの」

「……人間業かなあ?」

 

まだ疑っとるか。私は優雅にため息を吐いた。

 

「……しょうがありませんわ。勇者様はまだ鑑定能力値でいう運動性と集中力が低いご様子。鍛えに鍛えて成長限界が近いらしい団長と、まだまだ伸び代のある勇者様ではできることに差があるのも当然。今は『できる』と言うことに気づいてくださればそれで良しとしましょう」

 

あと家名呼びから役職呼びでさらに心の距離が遠くなったことにも気づいてね。

 

「鍛錬、怠らないでくださいましね?」

「わかった!俺、頑張る!」

 

気づいてなさそー。

まあ、訓練はやってもらうんだが。騎士三人への【挑発】が安定してできるようになったら、次はランダムで動くどれか一人、あるいは二人を【威嚇】で止めてもらおう。

 

訓練は夕飯まで続いた。

流石に実戦形式と好きな相手から「お前のせいで死にました」は効いたのか、真面目に取り組み3人相手の足止め【挑発】はできるようになった。が、【威嚇】の判断が少し遅く、合計2秒を切れない。

2秒稼いでくれればその間に魔法は完成するのだが、やはり集中力と運動性の能力の不足が足を引っ張るらしく、これは今後の課題となった。まあ一日でそこまでできるみたいなのは誰も期待してないからね。そんなんおったら逆に恐怖だわ。

 

あとはー。基礎訓練のアイデアだな。集中力と運動性は上げてやって反応速度を確保しておきたい。集中力はこの訓練でなかなか上がるんじゃないかと思うけど、運動性はなー。走り込みでもさせるか。

 

それと。

 

「5人分ができるまで私をリリアナと呼ぶのは禁止です。ヘーゼル、とお呼びください。これを破ったら、暫くしゃべってあげませんよ?」

「そんな!?」

 

これでよし。あんまり上手い方法ではないが、そこまで高くないハードルを提示することでハードルに挑むこと自体に慣らさせる。習慣化しないと絶対やらないからな勇者(おれ)くん……

 

なんか騎士団モブから「あれ……リリアナちゃんもしかして男転がしが上手い……?」「やめろ……口に出すと現実になる……」「そんな事実はない……ないんだ……」とか囁かれてる気がするが、しゃーない。経費だ。

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