西住姉妹のお兄ちゃん   作:ジャーマンポテトin納豆

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4話 お兄ちゃんと再会です!

 

 

 

みほの中の、兄との思い出はどれも大切なものだった。

 

「おにいちゃん!」

 

いまよりずっとやんちゃだったみほは、兄に飛び付くのが大好きで。

兄も危ないから止めろと言いつつ笑って受け止めてくれる。

 

「えへへ」

 

兄はあの母からどうやったらこんなやんちゃ娘が生まれてくるのか不思議だ。上の妹も結構やんちゃだし。

夏休みの登校日ということで、学校から帰って来た兄と遊びに行く約束をしていたみほは、それはもう楽しみで仕方が無かった。

 

「今日は虫取りと、釣りに行くんだから!はやくはやく!」

 

「着替えぐらいさせろって。制服のままじゃ行けないだろ」

 

飛び付いたまま、ぐりんぐりんと暴れるみほを支えて常明は部屋に向かう。

こんな小さな身体なのにこれだけのパワーが、と将来を考えると恐ろしい。いや、母も自分を捕まえてぶん投げるぐらいのパワーがあるし不思議ではないかと勝手に納得。

 

木造の廊下をみほを抱えながら歩いて。

途中で上の妹まで突っ込んできて、二人を抱き上げる。

 

すれ違った母は、お疲れ様、と一言言ってさっさと何処かへ行ってしまった。何という裏切りか。

まぁ疲れた様子だったので午前中いっぱい、二人の相手をしていたのかもしれない。仕事もあると言うのに妹達はお構いなしだから。

 

部屋に着くと、それはもう散らかっている。

 

「お兄ちゃん、また散らかしてるー!」

 

「おい、母さんに聞かれたら怒られるだろ」

 

「普段から綺麗にしておけば良いんだよ」

 

みほに言われ、上の妹からもチクチクされる。

 

「着替え着替え……。あれ、どこいった?」

 

「兄さん、これ」

 

上の妹がすぐに資料や本の山からジャージを引っ張り出してきて常明に渡す。

 

「よく見付けられたな」

 

「なんで兄さんは見付けられないんだ?」

 

「うるせぃ」

 

常明の部屋は、戦車関連の資料や本で散らかっている。

辛うじて生活スペースがあるのはベッドの上と、勉強机の上と足元ぐらい。

母に見つかると叱られるが懲りない男だ。

 

着替えを終えて、鞄を椅子の上に置いて、両手をそれぞれ凄い力で引っ張る妹達に車庫に連れ出される。

 

「バケツとー、釣り竿とー、虫網とー」

 

ガサゴソと道具を漁るみほ。

三人分の麦わら帽子を持ってくる上の妹。

 

そして愛車である三号に乗り込み、兄は操縦席、みほは車長席、上の妹は機銃手席に。

 

エンジンを掛けて車庫を出る。

みほがボコられぐまのボコの歌を元気良く歌いながら、田んぼの道を通っていく。

 

「お兄ちゃん!」

 

「んー?」

 

「明日からは毎日お休みなんだよね!?」

 

「そうだぞ」

 

「それじゃたくさん遊べるね!明日はね、ゲームをやって、明後日はまた釣りにいくの!」

 

「えぇ……」

 

面倒さそうに言う兄に、みほは文句を言い、上の妹はくすくす笑う。

 

「お兄ちゃん、ほっとくとずーっと寝たりサボったりするから見張らないと駄目なんだよ!」

 

「サボってねーわ。ちゃんと勉強してるし」

 

「戦車道の?」

 

「戦車道の」

 

三号のエンジン音や履帯の音に負けないぐらい、三人でワーワー言いながら。

 

みほはそんな時間が大好きだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「はいっ!彼女はいますか!?」

 

新任教師の宿命のような質問から。

 

「好きな食べ物はなんですかー!」

 

ありふれた質問。

 

「バレーは好きですか!?出来ますか!?」

 

「好きな歴史は!?軍人は!?戦術は!?」

 

なんだかズレた質問まで。

 

凄まじい勢いで質疑応答が始まった。

常明は女子高生の勢いと活力、質問攻めを何とか捌いて凌ぎつつ、ようやく解放されたのは陽が沈んでからだった。

 

「疲れた……」

 

「人気者ですねぇ」

 

「助けろや」

 

杏と柚子、桃は常明からの目線による救援要請をすべからく無視した。

亜美はさっさと帰ったし、常明を助けてくれる人は誰もいなかった。

 

 

皆が帰ったあと、精神的な疲労でげっそりしながら、自動車部と一緒に戦車倉庫に戦車を運び込んで整備を始める。

 

「整備が一段落したら、飯でも食いに行くか」

 

「「「「やった!!」」」」

 

これから先、世話になる自動車部に晩御飯でも奢ってやろうと思って声を掛ける。

 

にしても、と常明は思う。

 

(何と言うか、物凄い個性的だったな)

 

なんせコスプレしている奴はいるし、バレーユニフォームの連中はいるし。

常明の中での戦車に乗る恰好と言うのは、タンクジャケットに可能ならズボンを履いて、そしてブーツを履くというものだ。

それと比べればとんでもないぐらいみょうちきりんな格好で、戦車道をやっていたのが今日は八人もいると言う史上稀に見る経験だった。これから先、こんなことはあっても八人と言う人数にはならないだろう。

印象に残るとかいう次元じゃない。

 

だが常明が最も印象に残ったのは、彼女達では無かった。

見覚えのある髪色に、幼い時の面影を少し残した少女。

 

それが今日一番印象に残った子である。

 

……いや、亜美の登場の仕方が一番印象的ではあったんだけどもそれはそれ。

 

 

常明にとって最も印象深い少女は、倉庫の扉の暗い影から常明を窺っていた。

 

(そんなに気になるなら、話掛けてくればいいのに)

 

内心そう思いながら、ふと驚かしてやろうと立ち上がる。

裏側の扉からこっそり出て行って、抜き足差し足、みほの背後に忍び寄る。

 

「さっきからこっちを見ているが、何か用か?西住」

 

「ふぇぇっ!?」

 

身体を大きく跳ねさせ、尻もちをついて後退る。

 

数秒の沈黙と硬直の後。

 

「そ、その、あの……」

 

もそもそと立ち上がって、俯き気味に顔を少し伏せてそして胸の前で両手をもじもじさせている。

 

「その……、あなたは、私のお兄ちゃん、ですか……?」

 

ようやく絞り出した言葉は、何とも纏まりがないもののように感じられた。

それに常明は何となく笑みを浮かべながら。

 

「久しぶり、みほ」

 

みほの記憶の中にある兄と、目の前にいる兄は、随分と違っているように見えた。

まず身長が20cmぐらい違う。記憶の中の兄は、それでも170cmほどの身長であり大きい方ではあったが、いまは18cm以上、多分目測185cm以上はあるんじゃないだろうか。母も長身だし、父もガタイの良い長身だから、その遺伝子が思いっ切り仕事をしたのかも、とみほは思った。

まぁ、姉は160cmを超えているが、みほは158cmと普通ぐらい。身長に関して、自分と兄と何が違うのか。

 

それに顔付きも随分と精悍なものになったと感じた。

昔の兄は確かにかっこよかったが、それでもまだ子供だったな、という面影と顔立ちをしていたのに、今やそれは全く無くなって大人のものに、そしていろんな経験を積んできたのであろうものになっている。

 

「なんだ、他人行儀にして」

 

「だって何年も会ってなかったし、連絡も取ってないのに、こんないきなり再会してどんなふうに接すれば良いのか分からないんだもん……」

 

「お兄ちゃんは悲しいよ。久しぶりに会った妹がよそよそしくて」

 

「だって、他人の空似の可能性もあるし……。凄く変わってたから……」

 

「まぁ、そりゃそうか。家を出たときは、みほはまだ小学生でランドセル背負ってたんだもんなぁ」

 

常明は赤色のランドセルを背負ってやんちゃしていた妹の姿を思い出した。

髪型こそボブカットであんまり変わっていないが、背丈は随分と大きくなっている。たしか120cmとか130cmぐらいだったはずで、それより20cm、30cmも伸びている。

すらっとした足も、昔は藪の中に突っ込んで行ったりして、擦り傷切り傷の跡が多く、絆創膏だらけだったのに今は傷一つ無い真っ白なもの。

 

「いや、本当に大きくなったな」

 

「本当に、本当にお兄ちゃんなんだね……」

 

会えて嬉しいと言う感情以外に、今の私は兄の前に立っていて良いのか、という感情、他にも色々な感情がぐちゃぐちゃになった一言だった。

 

「本当に、お前はみほか?」

 

「……っ」

 

兄からのその質問は、みほにとって色々な意味を含んでいるということは明らかだった。

どう答えれば良いのか分からなくて、俯いてしまう。

 

常明は、これはやってしまったか、と思う。

多分、今の質問はみほにとって触れられたくないところに触れてしまったらしい。

 

「みほ」

 

「……」

 

「大丈夫だ。ほら、顔上げろ」

 

温かい大きい、ごつごつとした手がみほの顔を包んで上を向かせる。

 

「まぁ、色々あったのは知ってるし、だからってそれを聞き出そうとは思わない。話したい、聞いてほしいなら聞くけど」

 

常明の記憶の中のみほは、それはもうやんちゃで、そして明るい笑顔を良く浮かべる子だった。

 

「お、おにいひゃん……?」

 

みほの柔らかい頬をむにょむにょと揉んで。

そのなんとも間抜けな顔に少し吹き出しながら言った。

 

「ただいま」

 

「……うん。おかえり、お兄ちゃん」

 

それが嬉しくて、みほは常明に抱き着く。

感動の再会、と言うのはそれはそうなのだが、みほの力が強くて骨が軋んでいるのが分かる。

 

声にならない声で泣いているみほの様子を見て、まぁ少しぐらいは我慢してやろう、と常明はみほを抱き締め返す。

小さい頃にしてあげたように、頭を撫でて背中を撫でてあやす。

 

そんな時間が二十分ほど続いた。

 

 

そして、常明が登場した時からみほの様子がおかしかったことを気にした沙織達は、こっそりと影から見守っていた。

必要であれば常明に飛び掛かる決意を固めて。

苗字が同じであの様子だと色々あったんだろうなぁ、とそっとしておくことに。

 

自動車部も陰で見ていたが、まぁそっとしておいた。

それはそうと今日の晩御飯を奢ってくれるという話はどうなるんだろう、と思った。

 

 

 

その日は自動車部に断って、明日また、昼飯と晩飯を奢ることで許してもらった。

みほと並んで帰って、常明の借家で一緒に晩御飯を食べて、色々と積もる話をして。その日は昔のように少し甘えたがりが出たみほのお願いによりお泊りすることに。

数年ぶりの隙間を埋めるように、みほは兄にくっ付いて寝ることにした。

 

その夜は人生で一番の安眠になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 







だいたい半分ぐらいの文字数。


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