西住姉妹のお兄ちゃん   作:ジャーマンポテトin納豆

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皆のガルパンの推しは誰ですか?




5話 練習開始です!

 

 

 

戦車道は授業の一環として行われる。

これは大洗女子学園に限らず、他校も同様だった。違うのはどれだけの授業時間を戦車道に割くか、という点である。

例えば黒森峰女学園は週に三日間、丸一日の戦車道の授業があり、それ以外の日は午前中は通常の国数英社理と言った教科をやる。

これはとにかく戦車道に力を入れている黒森峰特有の授業日数、コマ数であり他校はこれより少ないが、丸一日の戦車道の授業が一〜二日あるのが普通である。

 

では大洗女子学園戦車道はどうなのか、というと中々そうも行かない。

元が選択科目としてのものである上、必修科目との兼ね合いもあって杏も流石にどうにも出来なかった。

それでも毎日、午後の授業を戦車道に割り当てるという交渉に成功し、それに加えて放課後と土日も練習時間に加えられる事が出来る。

ただ、やはり練習時間は少ないと言わざるを得ず、常明はいちいち回り道をしている余裕は無い、と判断していた。

 

これから太陽が出ている時間が増える事を加味しても、正規の授業時間で一週間当たりざっくり8.5時間。

放課後の練習時間が午後七時までやるとしても一日当たり3時間ぐらい。

一週間で15時間。

合わせて25時間。

朝練をやるとして、七時から八時の一時間を毎日入れても30時間。

土日を丸一日練習に割いたとして、昼休憩や合間合間の休憩を引いてざっくり20時間。

合わせて一週間当たり、50時間という計算になる。

勿論、ここまで上手く行く保証は無いので余裕を見ても実際に一週間当たりの練習時間は45時間と仮定する。

一ヶ月で計算しても、180時間の練習時間。

七月半ばから夏休みに入ることを考慮し、一週間当たり二日間の休養日を設けるとすると、1日10時間の練習で1カ月としても1カ月半で稼げるのは300時間。

大会までの四ヶ月半でだいたい850時間も練習出来れば上々、という具合の計算になる。

 

対して順当に、大番狂せでもない限り決勝戦でぶつかると予想される黒森峰女学院の練習時間はざっくり1150時間程度になる。それ以上の練習時間を確保していてもなんら不思議ではない。

これは大洗女子学園の練習時間は黒森峰より290〜300時間は少ない計算になる。丸々一か月半もの練習量の差ということだ。

だが実際にはこの差はもっと開いている。なんせ黒森峰女学園で戦車道をやっている生徒の殆どは中学生の頃からずっと戦車道をやっている子ばかり。

中学校3年間の総練習時間は最大約9000時間。

休日がある事をさっ引いても8000時間は下らないだろう。この時点で9.5倍の練習時間の差があり、高校三年生に至っては十数倍の差となる。

今までの積み重ねを考慮すればこの差は二倍、三倍どころではないぐらいの差というのが分かっただろうか。

そんな相手に全国大会で勝ち進み、優勝しようと言うのだから並大抵では成し得ない。

 

しかも大洗女子学園はこの最大850時間という時間の中から実際に戦車を動かす時間と、座学をやる時間の両方を捻出しなければならない。

座学を可能な限り削ったとしても20~30時間ぐらいの座学はしないと必要最低限の基礎知識を教えることすら出来ない。座学はどれだけ削ったとしても最低20時間、多少余裕を見ても24時間ぐらいは必要だ、というのが常明の出した結論だった。

 

ただ、常明の想定とは明確に違っていた点が一つある。

それは大洗女子学園戦車道受講者のポテンシャルの高さである。実際、亜美のいきなりの模擬戦の際に、本当の意味での初心者であったと言うのに、全車がスタート地点まで行って、そして戦闘までやってのけたのだ。

しかも至近距離からの射撃とは言えども三突と八九式に至っては命中弾まで出している。

これは常明にとっても良い意味で想定外だった。

 

全員のポテンシャルがここまで高いとは予想しておらず、この様子ならわりかしポンポン、と練習のレベルを上げていけそうだと思っていた。

因みにどれぐらいポテンシャルが高いかと言うと、稀に見るレベルの才能を持ったやつがゴロゴロいるのが大洗女子学園戦車道、というぐらい。

特に頭抜けて優秀な麻子に関してはどこの戦車道強豪校に行っても、装填手以外のポジションで主力選手を張れるだけの能力がある。装填手に向いていないのは、身長が低いのとパワー不足の二点からが主な理由だ。

優花里もその豊富な知識量から来る適性の高さが伺える。どうやら全戦車の操縦方法とかも覚えているようであるのは流石に常明も驚いた。

 

多分、生徒会チームの杏も本気を出していないだけで頭が良いので頭脳系を任せても活躍しそうだし、なんとなく砲手辺りを任せれば相当なものになると思われる。

柚子も操縦手としての能力が高いし、興味本位で砲手とかもちょっとやらせてみたい、と常明は思う。

 

バレー部チームは全員が異常なぐらいのポテンシャルの高さだ。

本当に初心者なのか、戦車に乗ったことが本当にないのか、と聞いたが本人達曰く『根性です!』とのことらしいが、根性はそんなに万能では無い。

 

三突チームもなんだかんだで平均レベルがかなり高い。

砲手である左衛門佐も、初めての砲撃で初弾命中を叩き出せるぐらいの技量を持っているし、そもそも歴女チームは全員が歴史や戦史、戦術に詳しいとあって作戦立案などでも活躍が出来そうである。こう言った人材は貴重で隊長の作戦立案の補佐とか、戦術理解度に反映されるのでそれだけ本番で活躍することが可能だ。

 

一年生の梓は車長と隊長の適正が高いと思ったし、同じく一年の桂里奈もマニュアルを見ながらでもあれだけ操縦出来れば大したもの。

 

船舶科チームも操縦手のラムを筆頭に、装填手のムラカミはそのパワーを生かした素早い装填をしていた。多分、装填速度だけだったら全チームの中でムラカミが一番早い。

砲手のカトラスは四号の反撃を受けながらも、あの状況で撃つだけの度胸がある。

 

とまぁ、それ以外の面々も相当高いポテンシャルを発揮しており、他校でも重点強化選手に指定されて早ければ一年生の後半から、遅くても二年生に上がった瞬間に主力選手に抜擢されるぐらいの能力がある。

これは先に言った通り、常明にとっても完全に想定外だった。

 

それを考慮した上で練習メニューを考えると、割と感覚頼りな面々なので取り合えずやらせて、分からないところがあれば教える、という方法が有効だな、と常明は思っていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

「気を付け!礼!」

 

「「「「お願いします!!」」」」

 

「楽にしていいよ」

 

いよいよ本格的な練習が始まる一日目。

皆どんな練習をするのだろう、と内心ウキウキしていたしそれが場の雰囲気にも表れていた。特に優花里なんかはもう楽しみで仕方が無いというのを、全く隠せていなかった。

 

「今日やる練習だけど、まぁ取り合えず当面の目標を示しておく」

 

みほは常明の言葉にまぁ当然か、と思った。

流石に亜美のようなやり方はしないらしい。まぁあんなやり方で行く、と言われたら流石に暴動が起きていたかもしれない。

 

「取り合えず、基礎体力、筋力を皆には身に着けてもらう。昨日の模擬戦で実感したと思うけど、特に操縦手と装填手は筋力が必要になるし、それ以外も体力が無いと戦車道なんてやってられないからな」

 

何と言うか、余りにも常識的な発現に昨日の亜美を見ていただけに全員、何と言うか拍子抜けしてしまう。

 

「体力、って具体的にはどんなことをするんですか?」

 

「そんな難しいことはしない。一応言っておくが戦車道は激しいし厳しい競技だ。後々座学で詳しく教えるが、戦車道にはフラッグ戦と殲滅戦という二つのルールがあって、そのどちらかの下で戦う」

「フラッグ戦には制限時間が設けられているが殲滅戦には設けられていない。要は何時間でも、何日でも戦っていいってことだ」

 

その言葉に皆ざわつく。

まぁ初めて聞いたらそう思うよね、とみほは苦笑い。

 

女子らしく、肌のお手入れとかどうするの?とか聞こえてくる。

優花里は戦車の中で何日も過ごせるなんて夢のようです!とか言っているけどそう思えるのは多分、相当珍しい。

 

「フラッグ戦でも二十四時間っていう長い制限時間が設けられている。高校戦車道大会はフラッグ戦でやるのが基本だから、殲滅戦のように何日間ってのは想像しなくていい」

「皆にはこのフラッグ戦を戦い抜けるだけの体力と気力を付けてもらう必要がある。特に砲手はな」

 

戦車道は戦術とかそう言うのを一切抜きにした場合、結局のところ弾を当てたら勝ち、という大前提のルールがある。

そのため、砲手は特に長時間高い精度の砲撃を行える体力と気力を要求される。ましてや走行や相手からの砲撃で揺れる戦車の中で、スタビライザーも何も無い戦車で砲撃するのだから余計に。

一応シャーマンなんかにはスタビライザーが装備されている車輛もあるが、大洗女子の保有戦車にそんな豪華な装備を備えている戦車は無い。

と言う事は砲手の技量頼り、ということになる。

 

装填手も素早く、適切なタイミングでの装填を維持出来るだけの筋力持久力が必要になる。自動装填装置なんてものはない。

操縦手は戦車の運転という重労働を長時間の行える体力、持久力が必要。

通信手も同様。自動操縦とか自動通信なんてものはない。

車長は戦車全体を動かす頭脳である為、それが真っ先に疲れる訳には行かないし、素早い判断を下すには相応の体力と気力が求められる。

 

「それを目指して、毎日ランニングと筋トレ、各種トレーニングをやってもらうからそのつもりで。あとはやってる内に必要な場所に必要な筋肉と体力が付いてくるから心配はいらない」

 

そう言いながら、段ボールの中をガサゴソ漁る。

 

「それで、今日の練習だけど……」

 

「おぉっ!」

 

優花里が嬉しそうだ。

まぁ待ちに待った戦車道なのだから当然か。

 

「とりあえず、最初の一週間は基礎的なことをやる。で、最初はこれ。はい後ろに回してって」

 

そう言いながら配ったのは、みほと優花里にはとても見覚えがあって馴染み深いものだった。

 

「咽頭マイク?」

 

「うん。昨日の模擬戦じゃこれ使わなかっただろ」

 

あ、確かに。

言われて思った。

昨日は咽頭マイクとか、ヘッドセットも無しにやっていたから大声を張り上げていたし、華に至っては車長役の沙織に方向指示の際に肩を思いっ切り蹴られていたんだった。

 

「そう言えば華さん、肩大丈夫?」

 

「あ、はい。昨日寝る時に湿布も貼りましたし平気です」

 

「良かった」

 

大丈夫そうで良かった。

結構な勢いの蹴りだったから。

 

「皆にはこれの使い方を取り合えず今日の内に覚えてもらうからそのつもりで」

 

「「「「えっ」」」」

 

「大丈夫大丈夫、実戦で使いながらなら一瞬で覚えられる」

 

いや、皆が声をあげたのはそう言う理由じゃないと思うんだけど……。

 

 

 

 

一旦、それぞれのチームで咽頭マイクと無線の使い方をそれぞれ学ぶ。

この辺は考慮しているのか、載せられている無線はどれも同じもの。戦車の国別で無線機が違うというのは当たり前の話で、各校が可能な限り特定の国の戦車で揃えようとしているのは無線機とか、内装系、外装系のパーツなどの流用が割かし利きやすかったりというのも大きな理由だ。

試合における無線は、それぞれのチームに指定された周波数が運営から割り当てられる。こうして混線したりするのを防いでいる。

 

「あー……」

 

「なんか、今日の練習凄く頭使ったね……」

 

何人か伸びている。

まぁ、無線機の使い方とか普通に生きていたら分からないし、当然と言えば当然か。

咽頭マイクの使い方は全員が学んで、無線機は通信手のみが学ぶことになった。

 

「あの、先生」

 

「ん?どうした」

 

「その、戦車道に限らず戦車乗りってあらゆるポジションを兼任出来るようにするものだと思うんですけど、通信手は通信だけに専念すると仰ってましたよね」

 

「そうだな」

 

「平気なんですか?」

 

優花里の質問に良いこと聞くじゃん、という顔をしている常明。

みほもこの点に関しては不思議に思っていた。古巣である黒森峰でも、何処のポジションについても問題無い様に訓練していたからだ。

なのでみほは操縦手は得意では無いが、それでも車長以外のポジションも問題無く勤められる。

 

「えーっとだな。俺達が目指しているのはどこだ?」

 

「えっと、夏の全国大会優勝、と仰っていました」

 

「そう。じゃぁそれまでにどれぐらいの期間がある?」

 

「えっと、四カ月半と言ったところでしょうか」

 

「そう。四カ月半で全てのポジションを勤められる人間を育てられると思うか?」

 

「あ、なるほど。そういうことですか」

 

「そ。俺達には時間が無いから特化させる方向で訓練するしか無いんだよな」

 

「なるほど、承知しました!」

 

答えを聞けて優花里は満足そうに敬礼をする。

常明としても本来なら自分のポジション以外の場所も交代して勤められるようにした方がいいと思っているが、残念ながらそんな時間は無い。

こう言うのは本来なら一年ぐらいかけて行うものなのだが、知っての通り四ヶ月半と言う短い期間しか用意されていない。その期間で彼女達を十分に戦えるようにするにはそれぞれのポジションに特化させる必要がある。

 

その説明を最後に初日の練習は終わった。

 

 

 

 

 

 

翌日。

二日目の練習である。

 

「今日から本格的な練習をやっていく。予め言っておくが、時間という制約がある以上キツイ練習になることは覚悟しておいてくれ」

 

その言葉に誰かが唾を飲み込んだ。

 

「取り合えず、通信手はこれ」

 

「これ、なんですか?」

 

「アマチュア無線の資格勉強用の本」

 

「「「「「「えっ?」」」」」」

 

「最低限、三級は取って貰うから頑張ってな」

 

体力も付けて、尚且つ他の練習にも参加しながらアマチュア無線三級の取得を義務付けられる。なんという事だ。

 

「通信ってのは各車や部隊ごとの連絡、つまりは連携の要になる。それがポンコツなら連携も戦術も何も出来なくなる。だから通信手には資格を取ってもらうと同時に必要な情報の取捨選択が出来るようになって貰う。まぁこれは実戦あるのみだからこれから体で覚えて出来るようになってもらうしかない」

 

「あ、あの、期限とかは?」

 

「できる限り早く。最低でも一回戦の前ぐらいまでには全員三級ぐらいは合格してもらう」

 

通信手、地獄確定。

 

 

 

「はい、次は砲手と装填手」

 

「わ、私達は何をやらされるんでしょう……」

 

華の不安そうな声に、皆がうんうんと同意する。

それはそうだ、今目の前で通信手に死刑宣告にも等しいノルマが課されたのだから自分達にも同じ運命が待ち受けていると思って当然である。

 

「通信手ほど難しくない。砲手はひたすら撃って、装填手はひたすら装填するだけ」

 

その一言に皆が安堵する。

しかしみほだけは違った。あの重い砲弾を、ひたすら装填し続ける装填手は勿論キツイし、それに合わせて撃ち続ける砲手は気力的な意味で物凄くキツイ。皆が思っているほど絶対に楽じゃない。

まぁ88mmとか、128mmに比べれば楽、と捉えるべきか。

 

砲手と装填手、地獄確定。

 

 

「次、操縦手」

 

「はい!」

 

桂里奈が元気よく返事をする。

それに常明は笑顔でうんうん、と頷いて満足そうだ。

 

「操縦手も簡単だ、ひたすら操縦訓練をする、だな」

 

「具体的にはどういう……」

 

「戦車を手足のように動かせるようになるぐらい」

 

あぁ、操縦手も多分滅茶苦茶キツイんだろうな。

 

「なぁに、大丈夫大丈夫。二週間もやってりゃそのうち無意識に出来るようになってるって」

 

その言葉は、裏を返せば最低二週間は地獄が続くということである。

 

「先生」

 

「ん?」

 

「操縦手と砲手、装填手は同じ戦車に乗って訓練をやるのか?」

 

「砲手と装填手だけは別にやる。というより、射撃練習は取り合えず砲弾がどんな風に飛翔して、落下するのか、とかその辺を掴んで貰うことが主眼にある。だから停止した状態でやる」

 

「あの、射撃する弾数ってどれぐらいなのでしょうか?」

 

「取り合えず買えるだけの砲弾を買って来たから……、小山、各車どれぐらいの砲弾がある?」

 

「え?えーっと、四号1400発、三突1300発、M3が75mm3000発、37mm3000発。38t4300発。八九式3200発。三号1300発、となっています」

 

柚子かメモ帳を見ながら答える。

 

かなりの数であるが、これには理由がある。

大洗女子学園の使っている戦車はマイナーと言うか、他校ではあまり使われていない戦車ばかり。

三号や四号は現役で使用されているが、それ以外の戦車はぶっちゃけどこの高校も使っていない。本当にどこの高校でも見ないと言うレベルで使われていないレア戦車だ。

なのでそれらの部品や砲弾が、端的に言えば業者の倉庫に大量にあぶれていたのである。

なので業者も処分するには金が掛かり過ぎるし、かと言ってこのまま在庫を抱えていても管理費用ばかりが嵩む、と言う時に大洗女子学園の戦車道復活である。

 

用いられる戦車のパーツや修理用部品、砲弾と言った在庫を抱えている業者に片っ端から連絡して、常明はそれを格安で大量に揃えていた。

業者側も廃棄するのに金が掛かると頭を抱えていたところに、安くても購入してくれるという相手が見つかれば飛び付いてそれはもう普通ではありえない価格で譲ってくれたのである。

これは運が良かったと言える。

 

そして浮いた予算を四号と三号の砲弾や修理用部品、パーツ、燃料の購入費に充てるということが出来たのだ。

そうでなければこれだけの砲弾やパーツを揃えるのは難しく、碌な練習も出来ないまま終わっていたかもしれない。その点に関しては旧式戦車ばかりで良かったな、というところである。

 

 

「ま、まさかそれを全部と言う訳じゃ……」

 

「流石にそんなことは言わないよ。ただまぁ、砲手それぞれが自分の扱う砲の感覚を確実に掴めたって言えるぐらいまでには撃って貰う。そうだな、停止中の目標への命中率がざっと7割超えたら、ってのが一つの指標かな」

 

「「「「「   」」」」」

 

あぁ、砲手陣が白目を剥いちゃった。

 

 

 

「で、装填手だけど、装填手はこのマシンを使ってもらう」

 

「これって……」

 

「うん、装填訓練用のマシン。全部自動車部とあちこちから部品とか搔き集めてきて組み上げた。あとで自動車部に感謝しとけよ」

 

自動車部って本当に何者なんだ?

 

そんな疑問が全員の頭の中に浮かぶ。

常明も何故か高校レベルでは絶対に持ってないだろ、と言う工作機械を多数持っていた自動車部が本格的に何者なのか、と思っていたが役に立つなら何でも良いか、と納得した。

 

自動車部はそれら機材を使って、あちこちから搔き集めてきた廃パーツを組み上げて、時には新造して装填訓練用の装置、それも本物と全く同じ閉鎖機機構を持ったものを数日で拵えてきたのである。幾らパーツ集めを常明が担当していたとは言え、それでもこんなもんを数日で用意するとかどうなっているんだ自動車部。

彼女達には本当に頭が上がらないというぐらいお世話になりっ放しだ。

 

「これを使って装填手はひたすら装填練習ね」

 

「え、でもそしたら砲手はどうやって……」

 

「自分で装填して自分で撃てばいいだろ。何を当たり前の事を聞いてんだ」

 

「「「「「「   」」」」」」

 

砲手がまた白目を剥いてしまった。

 

砲弾の装填はキツイ。

本職の男性自衛官ですらキツイ作業を、具体的には自動装填装置が組み込まれるぐらいキツイ作業を乙女たちに容赦無くやらせようとしているのかこの兄は。

みほは思った。

 

装填手と砲手がゴリラみたいになったら、それは絶対に兄のせいである、そうなったら刺されても仕方が無いだろう、と。

 

……華さんがボディビルダー並みにムッキムキになったら嫌だな。

 

 

 

「あとは、そうだな」

 

まだあるの!?

皆もうなんだか煤けているような雰囲気だ。

今でさえキツイ練習を課されているというのに、これ以上私達に何をしろというのか。

 

「そしてこれからの練習で全員が常に意識してやって欲しい事を言う。本当なら自分達で気付いてほしところなんだけど、生憎とそんな悠長にやっている余裕は無くてね」

 

「意識してやって欲しい事?」

 

「なんだろ」

 

「がんばるとか?

 

「それは当たり前のことでしょ」

 

「それはコミュニケーション」

 

「「「「「????」」」」」

 

まぁそうだよね。

みほだって分からない。

 

「そうだなぁ……。戦車って、どうやって動かしてる?」

 

「それは、エンジンで……」

 

「動力的な話じゃなくて」

 

「あ」

 

「ん?言ってみ」

 

「えっと、皆で動かしてます」

 

「そう。戦車は一人で動かせない。まぁ当然の話ではあるよな」

 

戦車を一人で動かせるなら、それはもう人ではない。

操縦して、装填して、撃って、とそれぞれ別々にやるというのなら動かせるかもしれないが、常明が言っているのはそれらすべてを同時にやれるか、という話だ。

 

「自分の身体で考えてみろ。手足は頭でこう動かしたい、と思って、動かしている。人間に限らず生き物としては当然の動きと反応だ」

 

常明の言葉に、手足を動かしながら納得する何人か。

 

「じゃぁ、戦車は?」

 

戦車は複数人で動かすものである。

これを人体に当て嵌めた場合、車長が頭脳や視覚担当で、砲手が右手、装填手が左手、操縦手が足、通信手が耳の役割となる。

 

「こうして考えた時、他の場所に自分が居ないんだから、自分だけ、というよりも動きは鈍くなる」

「これは、何といえば良いかな、変えようのない話で、どうしようもない。皆が普段生活するとき、様々な動作を一々考えながら動いているか?」

 

その問いに、皆が首を横に振る。

基本的に無意識下で行動するのが生き物というものだ。

 

物を持つ時に、一々腕を伸ばして、手を開いて、指に力を入れて、掴んで、腕に力を入れて、持ち上げる、という動作を考えながらやる人間はいない。

だが戦車はその動きを、全く違う人間が同時に行う事で運用することが出来る。

 

「動くときの動作が難しければ難しいほど、伝達するときの難しさは上がっていく。当然の話だ。それを行う為には、全員が正しい言葉で、より簡潔に伝えることが出来なければならない。それが戦車に乗るってことだ」

 

みほはその話を聞いていて、はっ、と気付いた。

今まではそれを無意識にやっていたが、それはあくまでも今までの経験値があってこそ。だがみほ以外はそんな経験値は丸でない。

 

「皆には、今言ったことを当たり前のように出来るようになって貰う。最初に行ったが、本来ならこういうのは時間を掛けて、それこそ一年とか掛け出来るようになることだ。だがそんな時間はない。だから皆には何が何でも出来るようになって貰うし、それに伴って練習は厳しく行く。いいな?」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

「今言った事を出来るようにするために、何が必要で何をするべきなのか、よく考えながら練習してくれ」

 

そうして全員にとって、地獄が始まった。

 

 

 

 

 

「うぐぅっ……」

 

「   」

 

「優花里さん、華さん、大丈夫……?」

 

「大丈夫、じゃないで……、あります……。腕、腕が上がらない……」

 

「   」

 

練習開始から五日。

ひたすら装填動作を繰り返し続けていた優花里は全身筋肉痛で変な歩き方をしている。手袋をしていたとは言え、掌の皮と、装填時に押し込む時の拳の皮が剝けて絆創膏とガーゼを貼っている。

 

華は疲れすぎていて反応が無い。

自分で装填して、そして砲撃をするのは思っている以上に重労働であったらしい。まぁ、常に気を張って砲撃して命中させなければならないというのは誰がどう考えてもつらい。

華の場合は精神的なものと肉体的なものの二つからの疲労だ。それでもご飯は食べているから平気なんだろう。多分、あの様子だと無意識に口に食事を運んでいる。

当然他チームの砲手もコレである。流石のバレー部もちょっと辛そうだった。

 

沙織は机に突っ伏して動かない。

脳みそを普段以上に、経験したことが無いぐらい頭を使って尚且つ肉体的にも経験したことが無いぐらい追い込まれたため、バレー部チーム以外の通信手全員が沙織と同じ状態である。

 

 

麻子も一応学校に来てはいるが、目の前で死んでいる。

と言うか辛うじて学校には朝練もある為来ているらしいが授業は出席はしつつ気絶状態。掌と足の裏の皮は剝けているし、兎に角肉体的にキツイのが操縦手である。

他の操縦手も同じ状態(バレー部チームを除く)

 

常明からの説明が終わった後、すぐに練習に取り掛かった。

具体的な砲撃の際のやり方を教え、それをノートに取らせる。

装填手は装置の前で気を付けるべきことを教えられ、どのように装填するのかを叩き込まれた。

 

通信手は早速無線機の扱い方に熟達出来るように離れた位置にそれぞれ無線機を運んで、ひたすら交信を続け、そしてアマチュア無線の勉強。

 

操縦手は筋トレをして、最後に皆で戦車に乗り込んで一連の動作をやる。

 

車長は全員とのコミュニケーションを取ることだけを言われ、特にどんな練習をするように、とは言われなかった。

 

 

言葉では簡単に聞こえるが、これがまたキツイ。

砲手、装填手は当たり前にキツイし、操縦手はあの重たいギアや操縦桿を思いのままに動かせるように筋トレと、停車状態で色々操作するように言われて。

通信手は筋トレとランニング、そして頭に知識を叩き込んで試験に合格しなければならないという。

 

車長は車長で最初は何をすればいいのか、と悩んだが常明の言った通りコミュニケーションを十分に取れるように、お互いの事を良く知る為に兎に角会話を沢山した。

車長同士の会話は勿論のこと、それぞれの練習をしている仲間の下に行って色々と話をして、ちょっと練習に混ざったりもした。

昨日一昨日は土日であり、丸一日の練習を二日間も行った翌日ともあって、皆死んでいた。

 

しかも練習前にランニング10km、腕立て、腹筋、背筋、スクワット、ダンベルやベンチプレスと言った器具を使ったトレーニングも行ってからの練習である。ぶっちゃけ身体が壊れるんじゃないか、と思うぐらいだった。

余裕があるのはみほと、バレー部チームぐらいなもの。

 

昨日一昨日は、家に帰ることが出来たのが不思議だし、シャワー浴びてご飯食べてベットで寝たが、自分でもどうやったのか覚えていないのが怖い。

多分、乙女として譲れない部分があったというのと、しっかり食べないとやってられないぐらいの練習だったので意地でも食べたんだろう。あとあれだけ疲れているのに床で寝たくないという意識もあったのかもしれない。

特に優花里や華、麻子は朝起きるのが大変辛かった。なんせ全身筋肉痛で物理的な意味でも、眠気という点でもきつかった。

麻子はこれ以上遅刻日数が増えたら戦車道受講者の特典である遅刻二〇〇日見逃し、と言う者があっても本格的に不味いという無意識の内のものでなんとか起きて、時々地面を這い蹲りながらの登校であった。

 

 

とは言え事前通達で今日明日の練習は休み、しっかり身体を休めてメンテナンスするように、とされていたので皆自分の身体を休めてメンテナンスすることに注力する気だった。

家に帰ったらすぐにお風呂に入って寝てやる、という共通の思いを皆が抱えていた。

 

それはそうと、これだけの戦車道の練習を多少は辛そうにしながらも、終わった後にバレーの練習までして翌日にはケロッ、としているバレー部はどうなってんだ、と皆が思うことである。

常明もバレー部チームに関してはあいつらどうなってんだ?と思っているぐらいである。

幾ら運動部としての下地があったとはいえ、それだけで説明が通用するほどのレベルを遥かに超えている。本人達は「根性です!」と言う事らしいがそれで全部解決するなら世の中ここまで複雑ではない。

 

 

 

 

 

戦車道の練習を休みにした理由は、戦車の重点整備を行う為と、想定よりも技量の上がる速さが凄まじい皆に合わせたチューンアップを施す為というのが実のところだった。

 

「にしても、先生がやるんですね」

 

「まぁ、あいつらの意見を一番聞いてるのが俺だからな。ここだけはお前達にも任せられないんだよ」

 

「へぇ~」

 

「それ、私達も出来るようになります?」

 

「まぁ、個々の意見をしっかり聞いて、それに合わせる必要があるから、それが出来るなら出来ると思う。元の整備技量が高いから多分出来るだろ」

 

自動車部が横で見ているのを後目に、それぞれの技量に合わせたチューンアップを施していく。

本来ならこんなことは一か月ぐらい先の話であった筈なのだが、急遽3週間ほど予定を繰り上げてのことである。

常明は確かにポテンシャルが異常に高い、とは思っていたがそれでも甘く見ていたということである。

練習を見ていて、戦車側が乗員側に付いて行くことが出来なくなると言うのを見るのは常明としても初めての経験だった。

 

元々丸一日の休養を与えるつもりではあったが、二日間にしたのは常明が全員分の意見を聞いて、それを元にチューンアップする為の時間を欲したからだった。

多分、自動車部がこの作業を出来るようになったら一日も掛からずに終わるのだろうが、どちらにしても身体を一旦休める必要があった。

 

自動車部には本来の整備に注力してもらいたいという考えから、チューンアップに関しては自分が担当するつもりだったのと、練習量から考えて週二日程度の休みをどこかしらで設ける必要から、常明がチューンアップをやれば丁度良い、という計算である。

 

常明は皆にそれだけの練習をやらせたつもりだし、まぁ週に平日丸二日休むぐらいならギリギリ問題無い。

夏休みに入ったら毎日朝から晩まで練習出来るし、許可さえもらえれば合宿棟も使えるから合宿も出来る。今のところ合宿棟の使用申請をしているのは運動部が幾つかであり、それも期間としては一週間程度。戦車道受講者が合宿をやるのも問題ない。

 

「先生、整備も出来るんでしたっけ?」

 

「父親が現役の戦車整備士だからな。興味があって教えて貰ったことがある。だからだな」

 

「へぇー」

 

「そうだ、先生って車とか乗らないんですか?」

 

「車はあんまり乗らないけどバイクなら乗るぞ。一人で移動したりするのに凄い便利だからな」

 

「「「「おぉ!」」」」

 

「言っとくが弄らせないぞ」

 

「「「「えー」」」」

 

「どんな改造されるか分かったもんじゃない」

 

「信用してくれないんですか~?」

 

「整備とか機械弄りの技量に関しては信用も信頼もしてるが、何をされるか分からんという恐怖がある」

 

そう言うと四人はブーブー文句を言う。

常明の言う通り、整備の腕は間違いないのだが、バイクを見せたらどんな改造をされるか全く想像が付かないのが自動車部である。

最悪、見た目もエンジンもそのままなのに異常なほど出力が上がってたりとか、そういうことがあり得そうなのだ。

 

 

なにはともあれ、自動車部四人と一緒に整備を終えると常明は早々に今日は練習も無いから、ということで家に帰ってしまった。

 

 

 





戦車道受講者リスト

西住みほ
武部沙織
五十鈴華
秋山優花里
冷泉麻子

角谷杏
小山柚子
河嶋桃

磯部典子
近藤妙子
河西忍
佐々木あけび

カエサル
エルヴィン
左衛門佐
おりょう

澤梓
山郷あゆみ
丸山紗季
阪口桂里奈
宇津木優希
大野あや

お銀
ラム
ムラカミ
フリント
カトラス

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