西住姉妹のお兄ちゃん   作:ジャーマンポテトin納豆

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6話 練習試合です!

 

 

 

 

 

練習が始まってから四週間。

相変わらず過酷ではあるが、四週間もすれば慣れて来るのが人間というもの。その適応力には本人達も驚くばかりだ。

最初の一~二週間は兎に角大変だったが、だいたいそのぐらいの頃から慣れ始める者が出てきた。段々皆慣れ始めて、キツイ事には変わりないが、慣れがあるのと無いのとでは大違いというわけだ。

 

 

常明としても、彼女達の技量向上の著しさに舌を巻いていた。

四週間前に比べるとその技量は想像出来ないほどになっており、正直な話、ここまでとは思っていなかったというぐらいである。

 

特に顕著なのは、砲手である華、操縦手である麻子の二人。

砲手としての才能が高い華は、何百発と撃ったお陰で停止状態であれば七割程度は命中させられるというレベルにまで至っていたし、麻子もその操縦技量は他校のレギュラーメンバーと比べても見劣りしない。

それ以外の面々も、初心者ならでは、というものなのか、技術の吸収スピードが見たことが無いぐらいに早い。多分、常明の母が見ても初心者がこれだけやれるのか、と思うぐらいであると常明は思っていた。

 

 

 

 

「気を付け、礼!」

 

「「「「「「お願いします!」」」」」」

 

「そんじゃ、今日はちょっと君らに体験をしてもらおうかな」

 

「体験、ですか?」

 

「そう。皆は的に向かって撃った経験はあるけど、自分達の乗る戦車が撃たれた経験って、最初の模擬戦以外無いでしょ。それを今からやります」

 

「ってことは模擬戦をやるんですか?」

 

「いや?模擬戦じゃ撃たれる経験が出来ないかもしれないし、それぞれの戦車に乗り込んで、一輌が標的に、残り五輌が標的役に向かってバカスカ撃つ、ってこと」

 

うわー、嫌な予感。

みほはまたしても思った。

 

まぁでも必要な練習、経験ではあるな、とみほは思う。

 

戦車に乗っている状態で撃たれるというのは結構心理的圧迫感が強い。

機関銃に撃たれるだけでも、初心者は中々精神に来るのに、いきなり50mm、75mmとかの砲に撃たれたら多分、メンタルが保たない。それぐらい撃たれると言うのは怖いことなのだ。

 

「ですがそれではその後の練習が出来なくなってしまうのでは?」

 

「大丈夫。今日は最初から戦車に乗ってざーっと練習をやった後に体験してもらう。で、それが終わったら座学をやってトレーニングね。じゃ、始めよう」

 

 

 

 

 

「よし、一通りの練習が終わったな。じゃ、やろうか」

 

なんだか、凄く陰鬱な気分だ。

五輌の戦車に抵抗も無く、撃たれまくると言うのは、中々、うん、はっきり言えば嫌だ。

 

「どこのチームから行く?」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

「決めないならくじ引きで決めるけど」

 

と言う事でくじ引き。

 

一番最初に的になるのは三突チーム。

 

「うぉぉぉぉ!?」

 

「多数の戦車に撃たれるとは、こういう事なのか!!」

 

「あいたぁ!?」

 

「演習弾とはいえ効くぅ~!!」

 

 

次はバレー部チーム。

 

「根性ォ!!」

 

「はい!!」

 

「これは根性じゃどうにもなりません!」

 

「ひぇぇぇ!!」

 

 

次、船舶科チーム。

 

「うぉぅうぉぅうぉぅ!?!?」

 

「ひぎゃっ!?」

 

「キャプテンキッド並みにやるじゃない!キャプテンキッドには会ったこと無いけどね!」

 

「揺れすぎて吐きそう~!」

 

「頭ぶつけた!」

 

 

次、生徒会チーム。

 

「こりゃ凄いねぇ~!」

 

「もう終わりだよ柚子ちゃぁん!」

 

「演習弾だから大丈夫だよ桃ちゃん!!」

 

 

次、四号チーム。

 

「流石西住殿。動じませんね」

 

「優花里さんこそ余裕そうだけど、平気?」

 

「私は楽しいです!」

 

「これが楽しい訳ないでしょぉ!!」

 

「これっ、は、凄いですねぇ」

 

「あ”~”……」

 

 

最後、一年生チーム。

 

「うわぁぁぁん!」

 

「怖いよぉ!!」

 

「助けてママー!!」

 

「めが、眼鏡がわれるぅっ!?!?」

 

「助けてぇぇぇ!!」

 

「……」

 

 

 

「はい、体験してみてどうでしたか?」

 

「「「「「「二度と体験したくありません」」」」」」

 

「はははははっ!」

 

笑っとる場合ちゃうぞ。ド突き回したろか。

 

なんだか嬉しそうに笑う常明に、初めて全員が殺意を覚えた。

まぁ、でも、初めての試合とかで撃たれて恐怖に駆られて変な行動をされるよりはずっとマシだろう。今こうやって五輌の戦車にボッコボコに撃ちまくられる経験をしたのは間違いないと思う。

 

「まぁ、これで撃たれるってどういうことなのか分かったと思う。全国大会に出れば、一回戦でも相手は十輌。最悪の状況として、今の倍の数の敵に撃たれる可能性があるってことだ。五輌ならまだ少ない方だな」

 

「うへぇ、想像したくないぜよ……」

 

「はい、じゃあ、そうならないようにはどうすれば良いと思う?」

 

「そうならない作戦を立てる、ってことですか?」

 

「そう。逆に言えば敵に対してそう言う状況を作り出して、ぶつかることが出来たら?」

 

「勝てる、ってことですね!」

 

「そうそう。その為にはこれから先学ぶことで実際に作戦として運用出来るようになって貰えると有難いね」

 

あ、良かった。

なんの意味も無くただ撃たれる体験をする為に、って訳じゃないらしい。

 

 

その日の戦車を使っての練習はこれで終わった。

後の練習は座学とトレーニング。トレーニングは物凄く辛かった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「あ、そうだ。言い忘れてたけど三日後。練習試合するから」

 

練習終わりに常明はサラッととんでもない爆弾発言を落として言った。

みほは激怒した。いつか必ずかの邪知暴虐なる兄を一発殴らねばならぬ、と。

 

 

「それで、練習試合の相手ってどこなんですか?」

 

「聖グロリアーナ女学院」

 

このクソ兄。

 

「西住殿?なんか黒いものが……」

 

「あ、うん大丈夫大丈夫」

 

「そ、そうですか」

 

「いやぁ、あちこち電話掛けたんだけどやってくれるって言ってくれたの聖グロだけだったんだよな」

 

にしたって聖グロは無いだろう。

 

「あの、聖グロリアーナってどんなところなんでしょうか?」

 

「四強と言われる全国大会で準優勝したこともある強豪校です」

 

「「「「えぇ!?」」」」

 

「先生、そんなところと試合なんかやっても勝負になりませんよ!」

 

「一方的にやられちゃいます!」

 

「良いんだよ。まぁ、やるなら勝ちたいって気持ちは分かるが皆に足りないのは今自分達がどれだけやれるか、自分達がどれだけの位置にいるのかっていう客観的な経験だ。だから一旦勝ち負けは兎も角、試合をやることに意味があるんだよ」

「まぁ、一番は皆がどれだけ戦車道を楽しむことが出来るか、ってことだから」

 

その説明の後、早めに練習を切り上げると車長が集められて作戦会議を開くことになった。

 

 

 

 

 

「聖グロの戦車のスペックは今配った資料の通り。正直に言って四号、三突ならまだしもそれ以外の戦車では100m以内の砲撃じゃないと有効打を与えられないと思っていい」

「だがこの話はマチルダⅡなら、という前提条件が付く。チャーチルは正面からだと四号でも厳しい」

 

大洗女子学園の保有する戦車の中で、最も攻撃力のある戦車は三突だ。次点で四号と三号になる。

M3リーも75mm砲を有してはいるが、旋回砲塔では無いので正面にしか撃てない欠点がある。そこを加味すると、三突>四号>三号>M3リー、と言う順番になる。

その火力トップ4の攻撃が大抵効果が無いと言うのがどれぐらいのものであるのかは想像し易い話だ。

 

「それって、どれぐらい難しいんですか?」

 

「お前達が普段砲撃訓練で狙ってる距離はどれぐらいだ?」

 

「えっと、最低でも500mぐらいです」

 

「最長1500mとかだな。場合によっては2000mぐらいも狙う」

 

「それと比べればどう考えても超至近距離ってことだ。特に八九式、38tはマチルダⅡでも側面や背面を取っても撃破は難しいだろうな」

 

「うぅ、聞けば聞くほど厳しい相手ですね……」

 

「まぁ、そのための作戦会議だ。ルールは殲滅戦、場所は大洗。皆の地元でやって良いって事だから。はい、じゃあとは皆で頑張って作戦考えてね」

 

何と言う投げ槍。

まぁ、でも全員に共有するべき意識はちゃんと話してくれたので、最低限の仕事はしてくれたと言う事だろう。あとの事は全部任せてくれるというわけだ。

 

「西住ちゃん、どう?」

 

「え?私ですか?」

 

「マトモな作戦を立てられそうなの西住ちゃんぐらいだしねぇ」

 

杏に言われて考えるみほ。

出て来る戦車は多分2種。可能性としてはもう1車種ぐらい出てきてもおかしくはないが……。

 

「えっと、聖グロが出してくる戦車はチャーチルにマチルダⅡで間違いないと思います」

 

「いやぁ、硬いねぇ」

 

杏の言う通り、側面からの攻撃が基本になるぐらいの防御の硬さだ。

0距離でも38tやM3リー、八九式の砲では何度も言うように側面に回り込んでも撃破不可能。エンジングリルとか、上手いことその辺を抜けることが出来れば、というかなり厳しい条件だ。

 

「私達が聖グロに勝っているのは機動力だけです。はっきり言ってどの戦車も、1000mぐらいの距離からチャーチルの砲撃で撃破されてしまいます。なので機動力を生かして側面攻撃を行い続けるか……」

 

「あとは有利な場所に誘い込んでの待ち伏せぐらいしか採れる戦術は無いな」

 

「はい。採れる戦術の幅があんまり無いです……」

 

見れば見るほど厳しい相手だ。

 

「こちらの攻撃の主力は三突を主軸に、四号と三号を添える形で行きます」

 

「どういう作戦で行く?」

 

「開けた場所での戦いは私達が圧倒的に不利です。なので、四号を囮にここに敵を誘き寄せます。ですがそう上手く行くとは思えないし、向こうもこちらが当然それぐらいのことをやって来るぐらいは想定している筈。なので撃破出来たか否かに関係無く、ある程度戦ったら大洗市街地まで一気に撤退。ここで本格的に戦います」

 

「なるほど、大洗市街地なら我々の庭だ」

 

「ゲリラ戦術だな」

 

「裏道も知ってます!」

 

「はい。なのでその有利を活かして側面、背後を取りながら一撃離脱での撃破を狙いましょう」

 

「妥当だな」

 

これが初心者でなければもっと色々な戦術を採れた。

だがそう言った戦術は基本的に練度と連携が十分に取れないと、実行しても逆にやられるようなものばかり。

だから大洗女子が採れる戦術は単純で初心者でも実行可能な、囮を用いた誘導を組み合わせての待ち伏せ戦術ぐらい。ゲリラ戦術はホームグラウンドである大洗での試合だから実行出来るのであって、大洗市街地でなければ絶対にやろうとは思わなかっただろう。

 

「先生、相手の数は何輌ですか?」

 

「こっちと同じ六輌。多いとこっちが不利過ぎるし、少なくても意味無いからな。程良くキツイ同数での試合だ」

 

なんと嫌な条件だ。

こっちの練度や戦車の性能を考えたら聖グロの車輛数が一輌か二輌少なくて漸くどっこいと言ったところ。

兄はその辺の力量差をちゃんと把握して考えているらしい。

 

「向こうがこっちより少ない数で相手しましょうか、って言ってくれたけどそれじゃお前達の為にならないから丁重にお断りしておいたぞ」

 

何と言う要らない気遣い。

どう考えても向こうの方が戦車もメンバーも格上なのに、なんで断ったんだこの兄は。

 

「何でですか!」

 

「それじゃ意味無いだろ。この試合はお前達に経験を積ませるって目的と、現状自分達の力量がどれぐらいの位置に居て、全国でどこまで通用するのか、って言うのを正確に見極めて直視させるためのものだからな。これから先の全国大会は常に数的不利、性能不利、練度不利の中で戦わなきゃならないんだ。これぐらいでどうこう言ってたら優勝なんて夢のまた夢だよ」

 

確かに兄の言う事に一理ある。

いや、今後の自分達のことを考えれば今、その経験を積めるというのは代え難いものになるかもしれない。

 

「確かにその通りですが……」

 

「まぁ、気楽にやればいいよ。あくまでも練習試合。だけどその経験は大切にしろ。今後全国大会に向けての練習がどこの高校も加速するから、練習試合を組めなくなるだろうからな」

 

戦車道を始めてからたった一か月で、全国四強と練習試合を行う。

これはとんでもない事だ。多分、聖グロでも無ければ受けてすらくれなかっただろう。

 

「先生、他の学校との練習試合って組めなかったんですか?」

 

「一応四強には全部連絡したんだけど聖グロ以外はにべも無くぜーんぶ断られたし、アンツィオ高校と継続高校は財政難が理由で無理って断られた。他の高校もまぁ良い返事は貰えなかったね」

 

なんというか想定通りだ。

黒森峰は去年の挽回を狙って一段と気合が入っているだろうし、プラウダ高校は二連覇狙い。サンダースも当然優勝を狙って猛練習に励んでいるだろう。

アンツィオと継続は貧乏で有名だし、今車輛が練習試合で修理が必要な状態になったら最悪その車両は全国大会に出れない可能性がある。燃料にも苦労するような学校だと記憶しているから断られた理由を聞かされても納得出来る。

寧ろなんで聖グロは練習試合を受けてくれたのだろうか、それが不思議で仕方が無い。

 

「ま、作戦も決まったし明日明後日は調整日で軽めの練習にする予定だから。流石に何時も通りの練習やったら多分、練習試合どころじゃなくなるし」

「じゃ、あとは皆で頑張ってな」

 

そう言うと兄は早々に生徒会室から出て行ってしまった。

多分戦車の整備とかがあるのだろう。

 

兄の居なくなった生徒会室で、より細々としたことを決めていく。

市街地での動き方や、気を付けるべきこと、などなどを周知していくのも忘れない。

 

「隊長は、西住ちゃんでいっか」

 

「はぇっ?」

 

「西住ちゃんがウチの指揮執って」

 

「へぇっ!?」

 

声にならない変な声で驚くみほ。

対して提案した杏は満面の笑みで拍手をしているし、他の皆もそれに賛成するように拍手をしている。

 

「頑張ってよ~、勝ったら素晴らしい商品あげるから」

 

「なんですか、それ?」

 

柚子がそんなの聞いてない、という風に聞くと、

 

「干し芋三日分!」

 

少し溜めてからそれはもう、とんでもない商品かのように言う。

だが干し芋三日分で喜ぶのは多分杏だけである。

 

「あの、もし負けたらどうなるんですか?」

 

バレー部キャプテン、磯部典子が一応の確認、と言った風に聞く。

 

「まぁ、最初で最後の練習試合になるかもしれないし、色々と頑張って貰いたいし、そうだね~……」

 

んー、と少し考えて。

 

「大納涼祭りであんこう踊り踊って貰おうかな~」

 

「うぇっ!?」

 

「えぇっ……」

 

「あのあんこう踊りですか!?」

 

みほはどんな踊りか知らなかったが、その後の沙織達の反応から察するにとんでもないものだという事だけは分かった。

沙織、華、優花里の三人が恥ずかしそうに頬を赤らめて、負けたらみほ一人に辱めを受けさせるわけには行かないと覚悟を決めた顔で一緒に踊ってくれると言ってくれたのは嬉しかった。

 

 

 

 

そして三日後。

いよいよ初めての他校との練習試合。

 

 

 







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