夢を見ている。
懐かしい、昔の夢。私の原初の憧憬。
夢現の中で流れる記憶がついこの間だのことのように感じられる。
『立ちなさい、フェリア・アーディライト』
『フェリア!うどん食べましょ!』
『私は、獣を狩ることにあらず。私の至るところ剣の神髄なり!』
いつも、笑顔で優しい師匠。
剣の腕だけはしっかりと認めていた。確かに俗っぼくてお酒に弱くて褒めるとすぐ照れてお世辞にすごく弱かった師匠。
どこかポンコツでそれでいていざ戦いになればその横顔は英雄そのものだった。
私に剣を教えてくれた。
私に、抗う術を知らなかった私にみんなの隣に並ぶ資格を与えてくれた。
私の、、私だけの英雄。
『今こそ至ろう!至高の先!!』
大いなる獣を漆黒の竜巻を正面から断ち切った神をも超える奇跡の一振。
『今!私が神時代の先を行く!』
綺麗で。
そして、何よりも気高い一筋の光。
『ここに!奴を破りて、真に!至高の先に私は至る!』
絶対の剣。
目に映る全てを、この世ことごとくを断ち切る絶技。
神をも滅する。
人が到達しえないであろう至高の先に至る。
『刮目しろ!オラリオ!これが私の!!』
その光景を私は目に焼き付けた。
英雄の、、
真なる英雄の背中を。
*
「はい、これ請求書ね」
「、、、」
オラリオが賑わう昼下がり、ワイワイ、ガヤガヤと活気に溢れた街の声が聞こえる中フェリアはというと膨大な0が書かれた請求書を渡されていた。
壁に立てかけられた槌の数々が彼女の鍛冶師としての軌跡が見て取れる。
大窓から差し込む日差しが執務室の机に置かれているフェリアの獲物を照らす。
その光も飲み込み目の前に座っているヘファイストスでさえ目が奪われてしまうほどの大業物。
夜刀
『ツクヨミ』
特殊個体から取れたドロップアイテムを使用している関係上、(しかも今は誰も到達出来ない深層域)のモンスターであるため事実上世界に一本しか存在しない刀だ。
(しかも、、この刀)
私に届きうる。
そう思わせるほどに精巧に作られた刀は固く、重く、そうして脆い。
そのメンテナンスにはヘファイストスでさえ精神をすり潰すほどの集中力を必要とする。
今ヘファイストスファミリアやオラリオ全土にいる鍛冶師を名乗る眷属達ではこの構造を理解することすら出来ないだろう。
それは椿で会っても例外ではない。
神の言葉を使うなら明らかなオーバーテクノロジーでありオーパーツだ。
(これだから、あの二人のファミリアは嫌なのよね)
と、ヘファイストスが思考にふけっているといつまで経っても反応がない専属冒険者の顔を見る。
「あ、、大丈夫?」
「、、、」
請求書を片手に白く燃え尽きた灰のようになっているフェリア。
それもそのはず彼女の請求書に書かれた金額。
2億ヴァリス
「諦めなさい、あなたの刀。私でもメンテナンスには相当神経を使うのよ」
「うん、、うん、、貯金、、あります、、」
ここ数年はリヴェリアによって無謀なダンジョンアタックを禁止されていたせいでお金の溜まり具合はすこぶる悪いが、今までの貯金でどうにでもなる。
それでも、痛い出費だ。
いや、痛すぎる。
(また、ダンジョン籠らなきゃ……)
そんなことを考えながらヘファイストスファミリアを後にした。
*
アイズ・ヴァレンシュタインの朝は早い。
まだ日も昇っていない時間帯。
常日頃から行われている日課をこなす為に中庭に降りる。
そんな彼女よりも早く中庭にいる彼女。
ロキファミリア古参の一人。
名をフェリア・アーディライト。
彼女はフィン達の次に古い。
そんな白銀の少女は今、一点を見つめ構えを取っている。まるでその空間にもう一人いるかのように何も無いはずの場所を見つめている。
(誰か、、いる?)
アイズもフェリアの気迫と圧力に同調してその奥深くまで集中力を高めていく。
すると不思議なことに何も無いはずの中庭に半透明の人影が浮かび上がってくる。
(、、、女の人?)
それは着物をきた女性だ。
(もっと奥に、、)
更に集中力を高めるアイズに対してその人影は輪郭を確かなものにしていく。
それはロキの話にあった極東の侍に酷似していた。短めの丈の着物はところどころアレンジが加えられた和服に帯にはデフォルメされた猫の刺繍が施されている。
フェリアに対して刀を構えるその女性を見た時だ。
その女性がアイズに目を向けた気がした。
それはほんの一瞬だった。
道端ですれ違う、そんな時に少し目をやるそんな程度。興味は一瞬、その次には女性の視線はフェリアに戻っていた。
それだけのほんの一欠片だけの視線の交差。
「ーーー!!!」
アイズを襲ったのは強烈な恐怖だ。
全身の毛が逆立ち、今まで味わった事のない得体の知れない感覚にLv5の全神経が危険信号を発している。
強い。
そんな生易しい言葉では決して言い表せないほどの実力差がアイズとその女性の間にあることをあの視線の一瞥で感じてしまった。
フィンや、ガレス、リヴェリアとも違う。
次元が、強さのレベルが違う。
きっとアイズはあの侍の前に立ったなら一秒と生きていられない。
そんな存在とフェリアは何食わぬ顔で刀を向けている。
(、、、来る!)
フッ!
肺から吐き出された空気と彼女の姿が掻き消えるのは同時。
神速の一歩で距離をゼロにした。Lv5の彼女の動体視力を持ってしてもほぼ瞬間移動といっても遜色のないスピードで人影の女性に接近する。
流れる水のように柔らかく、そして流動的にフェリアの振るうツクヨミが人影の女性の首元に吸い込まれる。
それを少しニヤリと笑った人影が体を少し後退させるだけで即死の一撃を回避する。
それを分かっていたかのように振り抜かれた刀を翻し強引にフェリアの『腕力』で引き戻し追撃に繋げる。
そしてまた人影の女性は体を少し捻るだけで追撃を避ける。
そして、光が舞った。
「あ、、、」
アイズから漏れ出た声にフェリアが振り向く。
「はぁ、、アイズ、来てたなら声掛けてくれれば良かったのに」
「ごめん、、集中力してるみたいだったから」
そういうフェリアは滝のように汗を流していた。
あの一瞬、一秒にも満たない刹那の時間に費やされた集中力は莫大なものだったのだろう。
少し息の乱れたフェリアはベンチにかけていたタオルを取って汗を拭く。
「フェリア、今の、、」
「ん?見えてたの?」
「うん、、」
聞かずにはいられなかった。
同じ剣士として、都市最強のオッタルと同様に最強と呼ばれるフェリアとそれを真っ向からねじふせるあの怪物の事を。
「今の人は?」
「あぁ、あの人は私の師匠」
「師匠?」
「そう、私に初めて剣を教えてくれた人」
確かにフェリアに剣を教えた人ならあの異次元の強さもうなずける。
何度も深層でフェリアの剣を見てきていたアイズはそのフェリアをもってしても手も足も出ないならどれほどの強さだったのだろうか。
アイズは同時にその師匠に興味が出た。自らの悲願である隻眼の黒竜を討つための糧に。
「フェリア、、師匠は今どこに?」
「死んだよ」
「え、、」
唐突な答えだった。いや、少し考えれば分かる事だったのかもしれない。
このオラリオでフェリアを凌ぐ剣士ならばその名声はアイズの耳に入ってこなければおかしい。
選択肢を間違えてしまったとアイズの顔から血の気が引き、フェリアを傷つけてしまったのではないかとオロオロと訳の分からない動作を始め、アイズの頭の中でミニアイズが「バカー」と講義の声を上げている。
そんなアイズを見てフェリアは微笑む。
「ベビーモスとの戦いでね、、、まぁ、昔のことだから気にしないで」
「、、、あの人はフェリアにとってどんな人?」
「ふふ、どんな人か、、、、私の英雄だよ」
英雄。
アイズが求めてやまないもの。
でも、それはアイズが本当に求めているものとは少し違った英雄だ。
「そっか、、」
「アイズ、私は黒竜を討つよ」
「、、!うん、私も」
「だから、アイズも走り続けて。それに剣を知りたいなら今度教えてあげる」
「、、、うん!」
そう言い残してフェリアはホームに戻っていった。
*
レフィーヤ・ウィリディスは早朝からリヴェリアと共に魔道士の戦い方やダンジョンに対しての勉強に励んでいた。
そんな彼女は今日はどことなく上の空だった。
(フェリアさんの腕、、、)
「おい」
怪物祭で見てしまったフェリアの腕。
毒々しいほどに変色した腕を黒い竜巻の痣が締め上げているように蠢いていた光景がレフィーヤの頭から離れない。
(リヴェリア様なら、、でも迷惑かも……)
「おい」
(ラウルとアナキティさんも知らなかったし)
「レフィーヤ」
(それだけ、秘密にしてるってことは知られたくない、、)
「レフィーヤ!!!」
「は、はい!」
ガタッ!と椅子を倒しながらリヴェリア声に答える。
とうのリヴェリアは少し心配そうな顔つきでレフィーヤを見る。
「どうした、今日はやけに上の空だぞ」
「いえ、、その」
聞くべきか。レフィーヤの中で今も悶々とする答えをフェリアにではなくリヴェリアに聞くのもどうかと思うが、でも三人の中でもフェリアに一番詳しいのはリヴェリアで間違いは無い。
つい最近も何度か朝リヴェリアの寝室から出てくるフェリアをレフィーヤも目撃している。
勇気を出せレフィーヤ・ウィリディス。
「あの、リヴェリア様」
「ん?どうした。具合でも悪いのか」
「いえ、、そういうわけでは」
「ならどうした?」
「あの、、フェリアさんの腕のことで」
「、、、見たのか」
「はい、その怪物祭の時に」
沈黙。
リヴェリアは何かを考えた後ため息をついて教科書を閉じる。
「フェリアの腕のことは、、」
「、、、」
「別になんの秘密でもないぞ」
「え?」
ほんの軽いノリで話すリヴェリアに、凄く重たい話だと思っていたレフィーヤはそのギャップに困惑する。
困惑したままのレフィーヤを置いてリヴェリアは淡々と話を進めていく。
「フェリアの腕は、、、」
「やっぱり、いつ見てもどぎつい呪いやな」
「そう?最近かっこよく見えてきたよ」
ロキの部屋。上半身の袴を脱ぎうる若き肌を出して背中をロキに見せている。
どこまでも白い肌にツヤと潤いが行き届いた若々しい肌をロキは指で撫でるとフェリアが少擽ったそうに身をよじる。
アイズにこんなことをしようものなら今頃ズタズタに切り刻まれていることだろう。
まぁ、今のロキの触り方にいやらしさがないことはフェリアも分かっているので好きにさせている。
そんなロキの視線は右腕の肘より先に向かっていく。
腕も見せてと懇願したロキによって今は包帯も取られその痛々しい右腕が顕になっている。
いつもは薄く閉じられた瞳も開かれている。前を向いているフェリアはその顔を見ることはないが、ロキの表情は娘の傷をみて心を痛める父親の顔をしている。
肘から指先に至るまで変色した肌、彼女の右腕を締め付けるように今も竜巻のような痣がとぐろを巻いている。
「で、どしたん。急に更新なんて。なんかあったん?」
「いや、、その刀のメンテナンスでお金無くなったから……ダンジョンに行こうと思って」
「あー、フェリアの刀ごっつう希少やんな」
「貯金はあるけど、、減っちゃうし」
「せやな〜ほな、サクッとやってまお」
そう言ってロキは針を取り出し自身の指の先に刺す。
フェリアの首筋から慣れた手つきでサインを描くように指を走らせ、何も書かれていないはずのフェリアの背中に朱色の文字が浮かび上がる。
それを何度か操作するとロキ。
「ほい、完成。紙書くし待っとってな」
「はーい」
羊皮紙につらつらと文字を書いたロキを待つために袴の上部分を気直して包帯を巻き直す。
「でけたで〜」
ロキから羊皮紙を受け取る。
フェリア・アーディライト
Lv6
【ステイタス】
力 : SS1045→SS1095
耐久 : B712→B735
器用 : S999→SS1003
俊敏 : SS1084→SS1091
魔力 : B711→B722
狩人:E 覇撃 :l 聖剣:I 万力 :D
毒耐性:EX 心眼:I
【スキル】
極限まで鍛えられたアビリティにおいて限界数値突破を約束する。
解放アビリティ
力
器用
new俊敏
『猛毒王の呪い』
常時、眠気、倦怠感、吐き気、麻痺、毒あらゆる『状態異常』を併発する。耐異常スキルの影響を受けない。
『陸の王の烙印』
ありとあらゆる毒に対しての耐性の獲得。
毒状態時『体力及び精神力の自動回復』
精神操作、及び外部からの状態変化に対しての絶対防御。
戦闘時『威圧』の一時発現
『英雄発起』
自分より強大な敵に対してのステイタス補正。
【魔法】
『神の御業、奇跡の一振、神をも超えし我が身の絶技』
『神々の喝采、精霊の祝福、残光の軌跡、すなわち英雄の
『肉を断ち、骨を断ち、獣を斬り、空を斬り、その先へ』
『至れ我が剣、あまねく全てを断ち斬る零の剣』
インターバル24時間
使用後、一時的なステイタスダウン。
『運命の歯車。壊れゆく
『
全能力超補正
体温の上昇、継続的な体力、精神力の激減。
「うん、ありがと」
「なぁなぁ〜フェリアたんそろそろレベルアップせえへん?」
そういえば、私はレベルアップを保留にしていた。
まだ、ステイタスの上がり幅も悪くない。前の更新が数ヶ月前だったがそれでも伸びている。
欲を言えば全ステイタスオールSまで粘りたいがそれだと何年先になるか分からない。
それだとロキが我慢出来なそうなので次の遠征を最後のレベリングにしよう。
「次の遠征が終わったらLvを上げようロキ」
「うぉ!やっと決心してくれたか!これでフレイヤのアホにマウント取られんで済むわ」
それでいいのかウチの神は。眷属は神同士の代理戦争じゃないんだぞとここは少し講義の顔をしておこう。
「じゃあロキ。ダンジョン行くからまた今度ね」
「気ぃつけてな〜」
ヒラヒラと手を振りながらフェリアが部屋をあとにする。
誰もいなくなった部屋でロキは閉じられた扉を見ながら瞳を開く。
「喜んだええんか、悲しんだええんか。分からんな」
我が子の成長は親であるロキからしたら願ってもないことだ。
ラウルやアナキティ達がLvを上げ成長していくことは隻眼の竜討伐に一歩近ずづく。
英雄としての階段を登り続ける眷属達。
それはフェリアなら尚更嬉しいことだ。
ファミリア結成から孤児のフェリアを道中で迎え入れ今ではフィン達と肩を並べるにまで至っている。
それと同時に親としてフェリアが心配であるのも事実だ。
「世界は英雄を欲している、、か。ウチも親バカなってもうたんかなぁ」
駄作ですがまた続きます。
感想聞かせてくださーい