「フェリア、斬れると思いなさい」
「師匠。斬れると思い込んで丘が斬れるなら、、苦労ない」
目の前で実施された化け物の所業に齢10代のフェリアは何が起こっているのか分からなかった。
確かに目の前に丘があった。それを剣を一振するだけで、フェリアの目の前から消失してしまった。
真ん中から裂けるように大地を蹂躙して頂上部分を根こそぎ吹き飛ばした。
「いい?フェリア剣の延長線上に敵がいるの。なら斬れるでしょ?」
「斬れない!」
*
何よりも鋭く、鋭利な一撃が『飛んだ』
瞬間、黒閃が大地を、空間を疾走する。
個人に備わっては行けない過剰火力(オーバーパワー)それは空間を断絶してまるで見ている景色がその黒閃からずれてしまったかのような錯覚さえする。
ツクヨミを再度納刀し、イメージを高める。
「今なら分かるよ師匠。見えてるなら斬れる」
遥か彼方で巨大な女型のモンスターが灰に戻っていく。
「さぁ、お掃除の時間」
体の熱がどんどん上がっていく。心臓から巡る血液が沸騰したように熱く今もフェリアの体からは膨大な湯気が立ち上っている。
持続型の自己強化魔法。『運命踏破』は全能力値超補正という頂上的な力を発揮する。
Lv5になった時に発現したレアスキル。ロキが喜びのあまり転げ回っていたのを今でも覚えている。
今のフェリアのステイタスはオッタルを凌ぐがLvを逸脱した強化を与える反面。獣化やレオンの魔法とは違い時間制限付きの魔法だ。膨大な熱はフェリアから体力と精神力を大幅に削っていく。
諸刃の剣でもある。
ツクヨミに手を掛ける。思考を落す、水底に沈むように私の視野は狭まる反面、目に映る全てを手に入れる。
イメージを叩き込み、それを追随するように私の体が動き始める。
「『残光』」
ツクヨミを振るうこと三度、同じく極黒が空を埋め尽くすこと三度。
たったそれだけでリヴェラを襲っていた食人花の大半を殲滅する。
一人で魔法職の長文詠唱に匹敵する威力の斬撃を放つ彼女はツクヨミを納刀すると同時に魔法も解除する。
「ふぅーふぅー、、はぁ」
体から立ち上っていた湯気も収まり全身を焼き焦がそうとしていた熱が引いていく。
深く深呼吸して上がっていた息を整える。
「アイズは、、フィン達の方が近いか」
今はとりあえず合流を急ごう。
それに、あの黒ローブ。
ここでひとつ、フェリアの心に一つの決心が生まれる。
「昇ろう」
師匠と同じ頂きに。
*
時は少し遡り。
「なにあれ、蛸!?」
「あいつ、50階層の……!?」
フェリアが向かってから少して爆音と振動を感じ取ったフィン達は目の前のモンスターをあらかた片付け、フェリア達の元へ向かおうとした矢先の出現だ。
「アイズの風に引き寄せられている?」
アイズの周りにいた食人花モンスターが一斉に群がる。
それを見て、全員が己の武器を提げモンスターに接近する。
「アイズー!今行くよぉ!」
直後、フィンの親指が警報を鳴らす。
「ーーー止まれ!」
「わわ!」
「なんだ?」
「団長!急がないとアイズが!」
「いや、それは大丈夫」
「なに?」
フィンが少し視線を逸らした時だ。
重量のような圧力がリヴェリア達。いや、18階層にいる全てに降りかかる。
「フェリアだ。全員伏せろ」
全員が頭を低く下げる。
直後、極黒が空を駆ける。
それと同時に強烈なイメージが全員を襲う。黒い波紋に切り裂かれるイメージが。
「「「ーーー!」」」
波紋のように美しく空を斡旋するそれに捕まったもの全てを両断した。拮抗などない。まるで吸い込まれるように通過した全てが尽く生命を停止させる
空も、水晶もモンスターさえもその直線上にある全てを切り裂いて駆け抜ける。
「まるで彼等の再来だね」
「なに、あれ」
「フェリアの技だ」
「【ナイト・オブ・ナイト】を超える実力ってほんとなのね」
フェリアはレオン程逸話はない。城を斬る機会なんてここオラリオにないからだ。だが、彼女なら同じことができる。そう、リヴェリア達は確信している。
レオン、そうしてオッタルはこうも語っている。
「悔しいが彼女の方が剣では俺の一歩先にいる」
「奴の剣は防ぐ防がないの領域にない」
万物を斬り裂く、絶対の剣。
景色や空間さえもその剣の前に切断される。文字通り神技。人の身で到達できる最高地点。
かつてオラリオに存在した剣神レオナ・フェリディスの弟子であり。フェリア・アーディライトは剣神の再来として神々の中では英雄に最も近いと評されている。
その絶技を彼等の『残光』に乗せることで生み出す。長射程の斬撃。
斬撃により、アイズを包囲していたモンスターが一瞬にして灰にもどる。
「これ、フェリア?」
「この技!まさか、奴等か?」
驚く赤髪の女は目の前の光景に顔を歪めながらもアイズへ攻めの手を緩めない。
手駒であったモンスターを失いながらも肉薄する女の前に【エアリアル】を展開するアイズの風の付与魔法が彼女の階層主じみた強撃を弾き返す。
「『アリア』が手に入りさえすればいい」
「『アリア』──その名前をどこで!?」
「教えると思うか?」
滅多にない感情の発露をするアイズ。
振るわれる剣が愛剣と交互に残光を描きながら闇の中に銀の舞を残す。
強すぎる!
今も風を使用してもなお防戦一方。攻めに移れない。フェリアを圧倒していたことからも分かっていたことだが、いざ剣を構えて分かる。
(勝てない!)
感情の機微に剣が大振りになる。それを躱した女が風を押しのけながら肉薄する。
「くっ!」
「遅い」
腹部に強い衝撃と共にアイズの体は後方にぶっ飛んでいく。
崩された体制を空中で整えたながら前を見る
そんなアイズよりも早く赤髪の女が長剣を振りかぶり、眼前に踏み込んだ。
(やられる!)
アイズはあらん限りに目を見開き、風を最高出力、そして驚異的な速度で《デスペレート》を体の前に構えた。
そんな彼女の横を3つの影が追い抜き赤髪の女の前に飛び出していく。
「なにっ?」
振り下ろされた長剣を交差する槍と杖そして刀が敵の長剣を受け止める。
今も風の鎧を纏う少女の眼前、槍と杖の先端を地面に埋め込み、なお止まらぬ衝撃を刀が受け止める。
「フィン、リヴェリア、フェリア……」
「ごめん、アイズ。飛ばされた」
「めずらしいね。フェリアが遅れを取るなんて」
「レフィーヤ、アイズを治療しろ」
「は、はい!」
杖と槍、刀を力任せに振り払い赤髪の女を後方に弾き飛ばす。
「君がモンスターを統率していた調教師か?」
「お喋りとは随分余裕だな」
「なに君ほどじゃないさ」
Lv6が3枚。
走り出す、勇者と剣士。左右に展開しながら女を挟撃する。
フェリアが懐に飛び込み長剣の注意を引けばその死角から容赦のない槍の雨が降り注ぐ。
煩わしくそのステイタスでフェリアごと振り払う長剣をその射程と間合いを瞬時に見極め、その切っ先は既のところで勇者を捕えない。
凄まじい速度で入れ替わる両者の位置とフィンを捕らえる斬撃は全てフェリアが間に入ることで相殺する。
怪力には怪力を持って撃ち落とす。
苛立ちを隠さない女は長剣を防がれた直後に、体を捻りフェリアの懐に入ってくる。
腰を捻り、裏拳の如く薙ぎ払う。
「ーー!」
直撃すれば致命傷になるほどの怪力に対してそれを正面からフェリアの右手が受け止める。
受け止められるとは思っていなかった女に驚きが生まれる。
フェリア発展アビリティ万力。
効果は、腕力の超補正。
ツクヨミというウルガに匹敵する重量を他の冒険者と同レベルの速度で振るう事ができるのは一重にこのアビリティの恩恵が大きい。
実際、武器無しなら【ロキ・ファミリア】で一番強い。
「ッ!」
引き込まれる。掴まれた腕が離れない。
引き寄せられた女はそのまま顔を掴まれ
恐ろしいほどの握力で頭がメキメキと音を立てとる同時に地面に叩きつけられる。
そこからは荒れ狂う濁流の如く叩きつけられる。それを見ていたアイズ達がドン引きするほどの
地面に叩きつけた女をその
その間も幾度となく拳や蹴りがフェリアを襲うがその足は止まらない所かその速度を上げていく。
そのまま、目指す先はフィン。
槍を構えるフィンに正面から突っ込んでいく。
「これで、、終わり」
突き出された神速の槍に合わせる形で女の頭部を突き出した。
黒雷が鳴った。
この場にいる全ての冒険者が怖気を感じさせるそれにフェリアとフィンは全力の回避を余儀なくされる。
放たれたのは破滅の極雷。
赤髪の女ごと消滅させるような閃光が放たれる。
雷の本流が先程までフィンとフェリアが立っていた地面を蹂躙して余りある威力はそのまま階層を貫き甚だしい轟音と衝撃を生み出しながらぽっかりと迷宮に大穴を築き上げる。
轟音によって塞がれた聴覚が回復し始める頃、そこにはいた、黒のローブに身を包みフードから覗く禍々しい仮面。
「お前、あの時の」
あぁ、やはり分かってしまう。面と向かって対峙した今も感じるこの威圧感。
(Lv7、それも上位)
Lv8届いているかもしれない。今も頭に鈍痛のように鳴り響く右腕の痛みがそれをより確実な物に変えてくれる。少し視線をフィン達に向けると、リヴェリアとアイズがレフィーヤ達を守るように前に出る。ティオネとティオナが武器を持って私の隣まで上がってくる。フィンも目を細め黒ローブの出方を伺っている。
ツクヨミを持つ手に力が入る。
次は遅れは取らない、動く前に斬る。
一挙手一投足に気を張って集中力を高めるフェリアに対して、黒ローブは自然体のままその身を翻した。
「な、」
逃げるように闇に消える。黒ローブに毒気を抜かれたフェリア達。
「今回は分が悪い」
私達が黒ローブに気を取られていた隙に雷砲から逃れていた赤髪の女がぽつり、と呟き、女は脇目も振らず速やかに逃走した。
「待て!」
「アイズ!」
魔法を発動していたアイズとそれに迫るスピードでフェリアが前に出る。リヴェリアの制止の声を振り切って走り出す。
逃がす訳には行かない。あの女はここで仕留める。嫌な予感がする。
右腕といい、頭の中に引っかかる言葉にならない歪な靄が、女を逃がしては行けないとフェリアの体を動かしていた。確実に喉元に切っ先を向けられる、今確実に殺しておかないと行けない。
素早く木々を抜けちらりとこちらを左眼だけで見やった彼女は、躊躇なく踏み切り、崖下へ。
「な、!」
「……っ!」
見事に壁走を決めながら女はそのまま湖に消えていった。
フェリアは唇を引き結んだ。表情は抑えられていたが、その右手がぎゅっとを作る。
そして、その嫌な予感はこの先、最悪の場所で的中することになる。
*
今回も楽しんでいただけましたか?私は仕事が忙しいです;;
感想待ってます。