アリウスの象徴は今日も死んだ顔で仕事をしている 作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。
はぁ……酷い目に遭った。もうアビドスには行かない。今決めた。直接ラーメン屋の大将に挨拶できないのは心苦しいが、あのメモと多めに置いておいた金で勘弁してほしい。
あんなタイ◯ントみたいに永遠に追いかけてくるバーサーカーとか二度とごめんだね。スクワッドは生き埋めにしたら放置してくれたのに。
そのしつこさ、自分より優秀な部下がミスしたことを聞いたときのクソ上司かよ。だから嫌われんだよ。どーせ部下に色々と尻拭いさせてんだろ。
「よっ、また会っ……って、なんだその怪我、ボロボロじゃねえか」
「……先輩」
あー、見知った顔だぁ。謎の安心感。別にボロボロなのは見た目だけなんだけど、まあいいか。訂正すんのも面倒くさいし、疲れた。
「お前がそんなになるなんて、いったい何があったんだ?」
「……話の通じない癇癪持ちに襲われた……?」
「ンだそりゃ、お前がそんな怪我負うくらいのヤベェ奴とか会いたくねぇな」
俺ももう会いたくない。もはや災害だろあんなの。
「……運が無かった」
「ハハッ、違い無ぇ。ま、その感じだとまだまだ動けんだろ?こっから一仕事どうよ」
な、なに……!?これがOJT……!?初心者の俺に仕事を取ってきて一緒に取り組んでくれる!!さっすが先輩!!先輩に着いていきます!!こんな頼れる先輩が欲しかったんすよねぇ!!落ち込んでいた気分なんて一気に吹き飛んでいったわ!!
「……行く」
「よし来た!アイツらも待ってるから早く行こうぜ!」
アイツら……ということは、先輩達と一緒に仕事できるってことですか!?しかも迎え入れてくれてる感じの雰囲気……!!これは新しい職場で俺という存在が認められてきた証拠!!俺、先輩達と仕事できて幸せっす!!
「てか、アイツらもお前がそんなボロボロなの見たらビビるんじゃね?」
「……面白そう」
「なんだ、やっぱお前分かるヤツだな!」
へ、へへ、背中バシバシ叩かないでくださいよ先輩!ニヤけちゃうんで!ま、ニヤける程の表情筋はしてないけどな!
前の一人で黙々と仕事に取り組む感じのプロフェッショナル感も良かったけど、年の近い先輩達と仕事するってのも良いもんだ!こういう空気感も楽しい!くっ、仕事って奥が深いッ……!
たまには転職もアリだな。
違ってた。
私の思っていた反応と違ってた。
私の思っていた子と違ってた。
私のしたことは間違っていた。
先生に注意をしておこうとか、一応伝えておくべきだとか、そんな考えは甘かったんだ。
謎の生徒を逃がしてしまった後、私が謎の生徒の存在を伝えるために先生に電話をかけると、逆に先生の方から色々と捲し立てられることになった。
"とある生徒を探しているんだけど、ホシノが見てないか聞きたくてね。その子はかなり特徴的な……というか、その、聞こえは悪いんだけど死んだような瞳をしてて……それに表情もあまり変化しない。あととても強くて……持ってる武器はアサルトライフルだと思うんだ。ホシノ、君は知らないかい?"
先生の話す生徒の情報が私の記憶の中のアイツと一致する。先生は既にアイツを追っていた。その事実に少しだけホッとする。あんなヤツが野放しになってていいわけがない。
黒服と組んでるヤツだ。ほっといたらロクなことにならない。
「ソイツを先生も探してるの?」
"ああ、どうやっても見つからなくてね。……ん?私も?"
「うん、早く見つけた方が良いと思う。次は、絶対に……」
"まさか、出会ったのかい!?"
「アイツ、黒服と一緒にいたよ」
思い出すだけで苛立ちが収まらない。してやられた、反撃をしてこないアイツに油断した。結局何も分からないまま、黒服もアイツも逃がしてしまった。
いつの間にかスマホを持っていない左手は痛いくらいに握りしめていて、何度も脳裏にフラッシュバックする。黒服とアイツがこちらに振り返る瞬間が、何も映していないような瞳と動かない表情が、異様なまでの身のこなしが。
胸の奥でフツフツと沸き立つ負の感情が私の脳を支配する直前、なぜか先生の焦ったような声が聞こえてきた。
"な、なんだって!?マズい!なんとしてもその子を見つけ出さないと!このままじゃあの子はまた……!"
……
まさか――
思考が有り得ない答えに辿り着いた瞬間、ブワッと全身が総毛立った。いや、違う。違うはず。違わないと、だって、私は……
「な、何を言って……アイツは黒服と……」
いつの間にか私の声は震えていて、何かを期待するように、懇願するように両手でスマホを握りしめていた。でも、現実はどこまでも残酷で、画面の向こうにいる先生は私の変化に気付かずその現実を突きつける。
"ああ、時間がないから端的に説明するけど、あの子は――
そうして先生から告げられたのは、私が間違えたという事実だった。
「……え?」
アリウスの惨状、反吐が出るほど最低な大人の所業、あの子の現状と、かつての扱い。人を人と思わないような大人に搾取され続けた少女に、存在が
"ようやくベアトリーチェの支配から解放されたというのに、今度は黒服だって!?これ以上あの子を危険に晒すわけにはいかないんだよ!なんとしてでも助け出さないと!"
「っ……」
先生のあまりの剣幕に思わず息が詰まる。スマホを持っている手は震え、足に力が入らない。平衡感覚はまともに機能しなくて、頭をガツンと殴られたかのように視界がグワンと揺れる。今にも倒れてしまいそうな、今どうやって立っているのかさえも分からない。
先生の怒りが、悪い大人へ向けた矛先が、私にも向いているような気がして。
私が、私の嫌いな大人と同じようなことをしてしまったかもしれなくて。
……違う。
違う、違う、違う!私は黒服と一緒にいた怪しい生徒を問い詰めただけ!あの子は黒服から何かを手渡されていた!黒服に利用されているのかもしれないけど、その何かでアビドスに危害を加えてくるかもしれなかった!
だから、私のしたことはアビドスを守るためで――
『……私は敵じゃない』
「ヒュッ」
ちっ、ちがっ、私は、私はそんなつもりじゃ……ただ、私は……
"ホシノが会ったってことはアビドスかな?今もまだ近くにいるかもしれないし、アビドスを中心に探そう。ホシノ、その子と出会ったのはどこ?……ホシノ?"
「っ、ど、どうしたの?」
脳内で蘇るあの子とのやり取りが、一切攻撃をしてこなかったあの子の逃げる背中が、あの子の何も映さない瞳が、今の私を責め立てる。重りのように強くのしかかっている。本当に、すべてを諦めたようなあの顔が。
後悔と罪悪感が頭の中をぐるぐると駆け巡り、先生の言葉も入ってこない。何も考えることなんてできない。私に残ったのは今にも張り裂けそうな胸の痛みと後悔、そして愚かな私への失望だけ。
"いや、あの子とどこで出会ったのかを教えてくれるかい?"
「う、うん。あれは――」
思い出したくもない記憶を遡り、黒服とあの子がいた場所を正確に伝える。言葉は震えていなかっただろうか。先生に何かを感づかれていないだろうか。あの子の過去と現状に怒りを覚えている先生に、私の罪を察せられてはいないだろうか。
"よし、ありがとう。アリウスの子たちを連れて今から向かうよ"
ただ、先生から返ってきたのは感謝の言葉だった。それにひと時の安心を覚えてしまう私の心の汚さにひどい嫌悪感を覚えるとともに、より深くなる罪悪感は私の胸と首を締め付ける。
このままでは先生が電話を切ってしまう。
そう理解した私は、カラカラになった喉でなんとか言葉を絞り出した。
「……私も、探すのに協力するよ」
"本当かい?それは助かるよ。すぐに向かうから待っててね"
そうでもしないと耐えられない。
ジッと待ってなんかいたら罪の意識に心が潰れてしまうから。あの子を探すことに協力して自分の罪から目を逸らそうとしているから。勝手に罪滅ぼしをした気になりたいから。
――私が追い詰めたクセに。
こんな私があの子の無事を願うだなんて、少しでも早く先生に見つけて欲しいと思うだなんて、なんて都合のいい人間なんだろう。なんて愚かで、なんて救いようの無い人間なんだろう。
――全部私が悪いのに。
先生との電話が切れた後、私は覚束ない足取りであの子に会った場所へと戻って行った。傍から見たらそれはきっと、絞首台に上る死刑囚のように見えるのかもしれない。
やほやほ、すぐカッとなって動いちゃうその癖、直さないのかな。
あの時からなんにも変わってないね。なーんにも成長してないね。
あーあ、二年間も何してたのかな。あの人も浮かばれないね、こんな後輩でさ。