憧憬の彼方にて 作:お前はトリコ?
──時は跳び、一週間後。
「──さて、準備の方はよろしいですか?」
モチのロン。
マエストロさんの方も調整は済ませたらしいし、これ以上ないくらいにバッチリだと思いますよ。まさか、こんな形で原作に介入することになろうとは夢にも思わなかったけど。
というか良いんスか?
そもそもゲマトリアは仲間内で不可侵を結んでいる筈。なのに、俺がベアトリーチェをどうしようが構わないなんて。どういう風の吹き回しで?
「ククッ、確かに私達は協定で不可侵を結んではいます。……ですが貴方から聞いた未来の話では、彼女はこの世界に『色彩』を呼び寄せようとしている。これは結んだ協定を抜きにしても、極めて重大な契約違反に当たります。それに彼女の凶行は『ゲマトリア』としても、決して見逃せるものではありませんゆえ──」
なるほどねぇ。
でも、まだ彼女はアレを呼び寄せるつもりは無さそうだけど……本当に良いのですかな?
「火のないところに煙は立たぬ、というやつですよ。元より、マダムと我々の間には相容れない部分が多々見受けられましたから」
ゲマトリアとしてはもう完全に彼女を切り捨てるつもり、と。まあ俺という『崇高』──もとい『太極』が手に入ったんだから、もはや彼女の『領地』なんざ必要ないわな。確かに彼女の為した
研究としては確かに有意義だったけど、彼女の性質を鑑みれば後々のリスクの方が大きいと判断したのか……真偽の程は分からんが、つまりはそういうことらしい。ご愁傷さまやで(暗黒微笑)
「そういうことだ。そなたは自身の思うがままに事を為すといい」
おや、マエストロさん。
『教義』の調整はもう済んだのです?
「ああ。そなたの助力がなければ、これほど完全に近しい『教義』──ヒエロニムスも生まれることはなかっただろう。嗚呼、古聖堂の深部に眠りし『太古の教義』よ。人工の天使にして神性の怪物よ……『
はいはい。
では黒服さん、俺はマエストロさんと一緒にアリウスの方へ行くんで後のことは頼みますよ。
また戻ってくると思うので、俺達が帰れるように
「ええ、承りましたよ」
では早速、先生達の顔を見に行きますか!
あと、ベアトリーチェは必ずしばき倒してやる。待っていろ、お前を太極拳(ガチ)で沈めてやる。
◇
「私たちの負けだよ、アズサ」
「だ、ダメだ、姫!喋ると彼女が──」
「大丈夫、もう全部終わりだから。それにどちらにせよ、彼女は私を生かしておくつもりは無かったはず。だから、良いの。……もうやめよう、サオリ」
トリニティ、地下古聖堂にて。
辺りには硝煙が漂い、傷に塗れた少女達が片手を抱えるようにして地にへたり込んでいる。彼女達は今の今まで、一対一での決闘をしていたのだ。
「……やめる?アリウスに帰るということか……?帰ったところで、私達は殺されるだけ……」
その少女の名は──錠前サオリ。
アリウス分校、アリウススクワッドのリーダー。
彼女はキヴォトス三大校の一角「トリニティ」への憎しみとともに生きてきた。そして己が憎悪をもって、その場にへたり込む片方の少女を倒さんとした者。エデン条約を破壊した、憎しみの子。
それが彼女だった。
「…………」
それを、かろうじて立ちながら見る一人の少女。
彼女の名は──白洲アズサ。
キヴォトス三大校「トリニティ」の二年生にして──元アリウス分校所属の生徒。彼女もまた、トリニティへの憎しみとともに生まれ、育っていった生徒の一人。しかし、やがてその憎悪が間違いであることに気づき、アリウスを離れた少女。
それが彼女だった。
そして──
「………………」
──あ、あのーマエストロさん……?
その様子を遠くから眺める一柱と異形が居た。
「……素晴らしい」
あ、喋った。
「あの者の知性と品格、礼儀と信念、そして培ってきた経験と知恵……見事と言わざるを得ない」
……ホンマか???
品格、えー品格……?
褐色生徒の足であれば、嬉々として舐めるような人間に……品格。えぇ……?(ドン引き)
「見事、実に見事だ。先生よ、我らとは異なる道を歩み続ける『大人』よ。やはり、そなたならば……」
うーん、やっぱりこうなるのね。
「さあ。先生の元へ、いざ往かん──」
◇
──コツ、コツ、コツ、コツッ。
”…………!”
「……先生、どうしたの?」
アズサが不思議そうな顔で先生に問う。
”皆、疲弊しきってるところ申し訳ないんだけど──”
先生は目を鋭く細め、前方から来たる影に注視する。それはギギィという軋んだ音に加え、聞き覚えのない足音だった。生徒のものではない。
それが
やがて、それは光に照らされて姿を見せる。
「あれは、人形と……誰?」
アリウススクワッドのメンバー、戒野ミサキは言葉を口にする。それに思い当たる節があるように、現れたもの──マネキン人形へ視線を注ぐ。
しかし、彼女はもう一人いる青年の方には心当たりがないようだった。あれは──
”……貴方達は、誰?”
先生は鋭く目を細めたまま、目の前の青年と双頭のマネキン人形に声を掛ける。それらに対する警戒心を解かぬまま、声も自然と低くなった。
もし、それが生徒を脅かすものならば──
「お初にお目にかかる、先生。こんなみっともない格好で悪いが、出会えて嬉しい。幸甚の至りだ」
双頭のマネキン人形が声を上げる。
口がないのに言葉を語るその姿は、いっそ不気味さを通り越して不快感さえ感じる。先生はその不快さ、似たような異形の姿に心当たりがあった。
”……貴方は、ゲマトリアだね?”
先生は確信めいた口調でそれを口にする。
「その通りだ、先生よ。私は『マエストロ』。ゲマトリアの中ではそう呼ばれている」
やはり──。
先生は心の内から不快感が滲み出るのを感じた。だが、それを何とか表には出さず、眼前のマエストロと名乗る「ゲマトリア」を鋭く見つめる。
「私はそなたの友人ではないが、敵でもない。そしてそなたを助けることもないが、邪魔をしようというわけでもない。つまり、私が言いたいことは……失礼。退屈な話をしてしまったかもしれないな、すまない。先生」
マエストロは謝罪し、続けて語る。
「つまり……つまりだ。私はそなたらに、この大いなる成功を紹介したかったのだ。私の横に坐す同胞、体現者とともに為した我が偉業を──」
ギギィという音を身体から軋ませる。
そうして先生と生徒達は一瞬、横に胡座をかいて座っている青年に視線を向ける。
一見すると普通の青年だが、彼には生徒達のような
「来て早々、着いて早々のお披露目となるが……それもいいだろう。さて、そなたらに紹介しよう。こちらが『
「まさか……」
言葉を発したのは、アリウススクワッドの一人。
そしてアリウスで唯一、「姫」と呼ばれる存在──秤アツコだった。彼女は顔面を蒼白に染め、この場を覆わんとしている影の正体を見上げる。
そんな彼女に
「──ヒエロニムス。私たちはそう呼んでいる」
【ヒエロニムス(■■)】
トリニティの地下に封印されていた太古の教義を元に、ゲマトリアのマエストロが創り上げた人工の天使にして神性の怪物。『