しかし、ここを乗り越えてこそ成長できるというもの。
お題66:武士がタイムスリップした先が「ペットショーの会場」だった場合。
とある武士が死ぬ直前、なぜか彼は現代へとタイムスリップをした。
「む、ここは一体……?」
人が数百年も時を飛んだら、周囲に見えるものはまるで違う世界だ。
「某は死んだのか……? いやしかし、この獣臭はまるで本物の……」
「ワンッ!」
「ひぃっ!? 何奴っ!?」
武士に吠えたのは、リードに繋がれたコーギー犬だった。ただ、武士にとっては見慣れない犬種のため、未知の生物との邂逅に震え上がった。
「あ、もしかしてそちらの方もドッグパフォーマンスショーへの参加者ですか?」
「ど、どっぐ? 貴様、一体何を言って……」
「侍のコスプレとは、かなり気合が入ってますね! ところで、参加するワンちゃんはどちらに?」
「こす……さっきからお主、何語を喋っているのだ?」
武士の困惑は、ドッグパフォーマンスショーが終わってからもしばらく続く事を、彼はまだ知る由もない。
お題67:毎回別の姿に変わる影を持つ少女と、その影の暴走。
彼女はいたって普通の女の子である。けれど、その娘の影は特殊だった。
「おー、今日は蛙の形だー」
彼女の影は、日によって形を変える。昨日はラクダ、一昨日は黒板消し。なぜ変わるのかは、彼女にもわからない。
「あー、またつまみ食いした! 知らない人の影を食べちゃダメっていつも言ってるでしょー!」
「……」
「知らんぷりしてもダメ! 食べた分だけ大きくなるんだから、バレバレだよー!」
影は、すれ違った人やモノの影を食べることができる。食べた影は大きくなり、食べられた影は小さくなる。
そんな影と過ごしていたある日、異変が訪れた。
「ねえ、君。なんだかどんどん大きくなってない?」
「……!」
「食べてるつもりはないって? でも……」
すれ違う人々の、影が食い尽くされている。誰も気づいていないが、地面を見渡す限り、影が一つも落ちていない。逆に彼女の影は、どんどん大きくなり、次第に街を覆うほどになってしまった。
どうしてこうなっちゃったの。彼女の問いに、影はやっぱり、答えてくれない。
お題68:願いを一つだけ叶えると言い張るが、どう見てもただの石ころ。
「ネガイヲイエ」
少年が川で拾った小石が、砂場をころころと転がり、文字を作り出した。少年は、その様子を冬の川の水より冷たい目で見ていた。
「いや、石ころに何ができんだよ」
彼のいう事も最もである。小学生の手でも包み込めてしまう程度の石に、願いを言ったところでどうなるというのか。
「カナラズ、カナエテヤル」
「言い方が上からなのもむかつくんだよなー」
さっきから頑張って転がり続ける石に、周囲の大人は不気味がって立ち去っていく。少年も離れようとしたのだけれど、ついてこられても困る。
「そろそろ帰りたいな……お腹空いちゃったし」
「ワカッタ」
「え?」
少年の呟きを願いだととらえた石は、仲間の石をたくさん呼び集めた。次第に何かの形になっていく。
「……これ、もしかしてご飯のつもり?」
「ソウダ」
出来上がったのは、一汁一菜の見た目をした石の集まり。少年は余計にお腹が空いたので、無視して帰った。
お題69:コーヒーの香りにだけ反応してしゃべり出す机の秘密。
昼下がりのコーヒーは、在宅勤務中の彼女の楽しみである。先月に奮発して購入したコーヒーメーカーが、今日も元気に稼働している。
「ふむ……やはり良い香りだ」
コーヒーの香ばしい香りに反応したのは、なんと彼女ではない。
「やっぱり、コーヒーを入れるとこの机から声が出てくるのね……」
「だからそう言っているじゃないか。何度説明しても、君は全然納得してくれないんだもの」
「納得できるわけないでしょ……」
彼女が会社のノートパソコンを置いている机が、声の主だった。
「そもそもどうしてコーヒーの香りがある時だけなのよ?」
「君が、休憩時の話し相手が欲しいと願っていたからさ」
「ちょっと、私が原因だっていうの?」
人と会わなくてさみしい、と呟いたことが原因なのだとしたら、ちょっと忍びないかもしれない。彼女は申し訳なさを感じた。
「いや? ただ僕がコーヒー好きなだけだよ?」
「えーと、近くのリサイクルショップはどこにあったかしら……」
「冗談だよやめてくれ! あと仕事用のパソコンで調べるのはどうかと思うよ!?」
机をからかうのが最近ちょっと楽しくなってきた、とは言えないなと彼女は内心思った。
お題70:パンダとして転生したが、竹アレルギーだった主人公の苦悩。
転生したら、パンダだった。
まあそれは良い。かわいいし、大人になったら強いし。誰にもかわいがられなかった前世だったから、待遇は天と地ほどの差だ。
けど、どうしてもおかしいと思える不満があった。
「なんで、竹アレルギーなんだよおおぉぉ!?!?」
男は、パンダにとって住処に欠かせないものであり、食料でもある竹が、アレルギーだったのだ。それも近づいただけで蕁麻疹が出るほどだ。
「なんだあいつ? 竹くえねえのか?」
「おいおい、新パンはどうも気が触れてんな」
「くそっ、なんだよ新パンって……新人みたいに言いやがって」
彼より先にいた住民は、彼を冷めた目で遠巻きに見ている。
「これじゃあ転生したってのにすぐに餓死コースじゃねえか……」
彼の言葉をまともに聞く者はいない。今もしゃべってはいるものの、声に出ているのは人が理解できない鳴き声になっている。
「あらあら、今日も食べないのかしら」
「ああ、美人の飼育員さん……助けてくれ……」
今の彼にとっては、こんなはぐれものにも優しく接してくれる彼女こそが、唯一の助け舟となっていた。ただし、彼女が後ろ手にこっそり竹の葉を持っていることに、彼はまだ気づいていない。
俺武士の事なんにも知らないじゃん、って書いた後に思いました。