お題81:魔王の弱点が「褒められると照れる」だけだった話
完全無欠な魔王の攻撃に、勇者パーティーは歯が立たなかった。剣士が思わず愚痴をこぼす。
「くそっ、このままじゃ全滅だぞ!」
「ええ、これほどだとは思いませんでした。回復の力もそろそろ限界です」
賢者も膝をつき、息を乱している。
「もうなんなのよ! 私の魔法が全部倍返しされるなんて!」
「ああ、強すぎる……」
魔法使いと勇者も、希望を失いかけていた。怪しい笑みを浮かべた魔王に、絶望という言葉が脳裏に浮かぶ。
「クックック……。いやあそれほどでも、デュフフフ……」
「……ん?」
なんだか、魔王の笑い方がおかしかったような。
「な、なぁ勇者。その、今のもっかい言って」
「え? 強すぎるっていったやつか?」
「うんそうそれ! 照れますなぁ~」
さっきまでの威圧感はどこへやら、魔王はすっかり悦に至っていた。なんならちょっとかわいいまである。賢者は、この隙を突こうと企んだ。
「あの、魔王様。それだけの力がお有りなら……この国よりも宇宙を支配できるんじゃないでしょうか?」
「え、そ、そんなに……いいねぇ、全軍、目標を宇宙の星々にへんこーじゃ!」
こうしてお調子者の魔王による侵攻は、国から宇宙に逸らされた。王国の平和は、賢者の機転によって守られたのである。
お題82:伝説の剣が、どうしても早口言葉を言いたがる話
冒険の旅を始めた勇者は、伝説の剣が眠っていると言われている祠へたどり着いた。
「なあ……」
「どうした? 顔が青いぞ、具合悪いのか?」
「いや、そうじゃなくてさ。……なんかぶつぶつ聞こえてこないか?」
「いえ、私たちには何も……」
近くにいる戦士と賢者には、何も聞こえていない。しかし勇者には謎の念仏のような言葉をつぶやく声が、祠の奥から聞こえてくるのである。
不安ながらも奥にたどり着くと、一筋の光が指す台座に、一振りの剣があった。
「おお、伝説は本当だったんだな!」
「……」
しかし、勇者の気分は上がらない。何故なら。
「生麦生米生卵……、赤つるぎ青つるぎ黄つるぎ……」
勇者にだけ聞こえる聖剣の声。それも何故か早口言葉で、さっきからずっと勇者の耳に届いていたのである。
「なあ、あれ抜かないとだめ?」
「何を言っているんですか! あれがなければ勇者様の伝説は始まりません!」
「あれがなきゃ、お前ただのちょっと強いだけのボンクラだぞ」
「おい、聞き捨てならないこと言ったなお前」
ボンクラ疑いの勇者と、早口言葉が止まらない剣の、奇妙な冒険が今始まろうとしていた。
お題83:街中の標識が突然しゃべり出して大討論会を始める話
町中に立てられている標識、それらには必ず意味がある。しかし、みんながみんな、それらを正確に捉えられているかというと、そうとも限らない。
「なあ、俺等ずっと昔から立ってるけどさ……」
「ああ。正直俺等要らなくねー?」
「そのとおりだ! 俺の駐車禁止なんか、だーれも守っちゃいない
! もっと目立つデザインにすべきだ!」
そう、理解出来ていないのは標識自身も例外では無かったらしい。今、自分たちの存在意義について、交差点を跨いでの大討論会が開かれていた。車の行き交う音よりもやかましい。
「なにやってんだ、ありゃ」
「標識たちが議論に白熱してるな」
「なんでお前そんな冷静に見てるんだよ。喋ってる時点でおかしいだろうよ」
標識が話すときは柱がグネグネ曲がっていて、とてもコミカルである。
翌日、うるさくした標識たちの近くに「騒音注意」の標識が追加されたらしい。
お題84:毎日姿を変える家に住む家族の、引っ越し不要ライフ
とある一風変わった古風な家。そこの住民は家を眺めながら、こう言った。
「おお、今日はこういうテイストなのね」
なんとこの家は、毎日姿を変えてしまうのだ。昨日は3階建ての鉄筋ハウスだったのに、今日は茅葺き屋根の古民家に変わっているのである。
人間は、慣れる生き物である。ここに住んでいる家族たちは、もはや驚かない。むしろ、引っ越しがいらないな、なんて笑っていた。
「よー、遊びに来たぞ……は?」
しかし、最近友達になった彼は初耳である。先日来た時と全く違う家に変わっていることに、驚きを禁じ得ない。
「え、お前んちってこんなだったっけ」
「やっほー。うん、今日はちょっと昔に戻ったみたいな感じだね」
「は……? お前んちって、超大金持ちなのか?」
「ううん、普通だけど」
「お前の普通は信用ならねーわ」
後日、ありのまま起こったことを学校で話した友人は、誰にも信じてもらえず、あだ名がホラ吹き男に変わってしまった。理不尽である。
お題85:巨大ロボの電池が単三電池2本だったため予定が大混乱する話
怪しい研究室にて、手入れが行き届いていない白ひげを揺らしながら、彼は今日も巨大ロボの作成に勤しんでいた。
「ふふふ、これでようやく完成するぞ……。あとは動力を入れれば、これまで儂の研究をバカにしてきた連中を見返すことが……」
そううわ言のようにつぶやく彼のもとに、ヨレヨレの白衣を来た助手がだるそうにやってきた。
「はーかせー、言われた通り電力買ってきたっすよー」
「おお! 待ちわびたぞ……」
博士が目を輝かせた目線の先、助手はコンビニ袋を片手で差し出した。
「おい助手よ。なぜ巨大ロボの動力が、コンビニで手に入ったんだ?」
「え? だって単三電池ぐらいならそこのコンビニで……」
「は、なんだと!?」
博士は慌てて設計図を見返す。すると、確かに単三電池で全長三メートルはある巨大ロボを動かす想定になっていたのだ。
「馬鹿な! 儂はなぜ電池で動かそうなどという大ミスを犯しているんだ!?」
「だから言ったじゃないっすかー、酔っ払いながら設計図書いちゃまずいって。僕ちんは知らないっすよー」
「いや見ていたなら止めろよ!」
博士も助手も、研究者としては失格なのだった。