俺は神の駒らしい ―平和のためにコーディネーターを滅ぼすまで― 作:やわらぎ
ユニウスセブンが砕け散ったその瞬間――コズミックイラの歴史は、確実に転がりだした。
連合とプラントの緊張は、一気に断裂。ザフトは“黒衣の独立宣言”をし、地球圏へ向け徹底抗戦の構えを見せた。
そして、世界は揺れた。
◆大西洋連合(アズラエルの視点)
「……やれやれ、血のバレンタイン、か」
ムルタ・アズラエルは、薄曇りの光の差す執務室で、報告書を片手に肩をすくめた。
OC――オルビタル・コモンウェルスとの接触以来、彼の思考は以前より冷静だ。
OCの存在は、自分の支配欲を満たす手段であり、同時に巨大な“安全装置”にもなっていた。
「核を使わずにユニウスを破壊した……連合軍も、少しは成長したじゃないか。これなら国際世論の反発も最小限で済む」
アズラエルは唇の端に笑みを乗せた。
ザフトは激昂し、戦争は避けがたい。しかし、OCという“第三極”が存在する今なら、連合は敗北しない。
「さて――彼等には、こちらも手の内を見せ過ぎないようにしないとね」
OCとの裏同盟。
それは連合の未来を左右する、大きな賭けだった。
◆ユーラシア連合
「……ちっ。ユニウスが落ちたか」
ユーラシア軍参謀たちは、全員が渋い顔を並べた。
彼らにとって、この事件は利益でもあり損失でもあった。
「ザフトは独立を宣言。徹底抗戦の姿勢を示したとのことです」
「となれば、ユーラシアの宇宙航路は壊滅的だ。対策が必要だな」
だがその一方で――
「OCから輸入した“ザニー”……あれは良い。部隊配備を急げ」
「工作機械として完成度が高い。それに――バッテリー式のこのMSは、いざという時に軍用転用が容易だ」
そう、OCの“限定技術供与”が、ユーラシア軍の焦りをわずかに和らげていた。
彼らはまだ知らない。OCが意図的に“一年戦争クラス”の技術しか渡していないことを。
◆アジア連合
「……世界が傾きはじめたな」
アジア連合の主席補佐官は、冷たい茶をすすりながら、重苦しい空気の中でつぶやいた。
「OCからの“ザクⅠ”導入は幸いだった。あれがなければ国土防衛が成り立たなかった」
ザクⅠ(バッテリー式)は、あくまで民生用の“工業労働機械”である。
だが、アジア連合は密かに軍事転用の可能性を探っていた。
「ザフトとの全面戦争は避けられまい。OCとの関係強化が急務だな」
アジア連合は、早くも“連合側の勝ち馬に乗る”覚悟を固めつつあった。
◆プラント(評議会側)
「なんという暴挙だ!! ユニウスを……我々の故郷を砕くとは!」
パトリック・ザラは、怒りに声を震わせた。
涙を浮かべる議員もいる。家族を失ったものも少なくなかった。
「大西洋連合は必ず後悔するだろう。徹底抗戦だ! プラントは屈しない!!」
ザラの声に多くの議員が呼応した。
怒りと悲しみは、簡単に戦意に変わる。
しかし――
「……ザフトの全力投入は、危険です。敵を知らねば戦は勝てません」
その中で、シーゲル・クラインだけが穏やかな声を張った。
「OC――彼らは未知です。無為に敵を増やすべきではありません」
「クライン議長! 今さら融和など――」
「戦うのであればこそ、敵を理解すべきでしょう」
議場には微妙な空気が流れた。
ユニウスを失った悲しみは、理性と感情の境界を曖昧にしてゆく。
◆オーブ(国防省)
「……世界がまた、戦争へ向かうのか」
まだ16歳のカガリ・ユラ・アスハは、軍施設のモニターでニュースを見て拳を握った。
「父さんは、今度も“中立”を選ぶのかよ……!」
彼女の叫びに、側にいた軍人が苦笑する。
「カガリ様、あなたはまだ学生でしょう。政治は大人に任せなさい」
「関係ない! 誰も戦いたくなんて――!」
だが、その叫びは世界には届かない。
政治の舞台に立つ日が彼女にも訪れるが、それはまだ先の話だ。
◆OC(オルビタル・コモンウェルス)
「……ユニウスが、落ちた」
主人公――久世ユウヤは、管制室の大型スクリーンを見つめていた。
視界に映るのは静かに漂う残骸と、崩壊したプラント居住区。
言葉を失うほどの惨劇。
「ユウヤ殿……お気持ちは分かりますが、行動を急ぐべきです」
シーマ・ガラハウ中佐が、静かに声をかける。
護衛アンドロイドである彼女ですら、どこか沈んだ表情をしていた。
「ザフトが“黒衣の独立”を宣言しました。地球連合との戦争は避けられません」
「分かってる……でも、これは――」
ユウヤは息を吐いた。
「神様の……予定通りってわけか」
そのときだった。
《──よく見ておけ、人間。これが“システムの揺り戻し”だ》
脳内スピーカーのように、あの“クルーゼの声に似た神”が語りかけてくる。
《歴史は決まっている。だが、お前の役割は“修正”ではなく“誘導”だ。誤作動を防ぎ、より正しい結末へ導け》
ユウヤの手が震えた。
「……正しい結末、ね。ナチュラルが救われる未来……」
《そのための駒が、お前だ》
冷たい声だった。
慈悲でも優しさでもない。
ただ“使命”を告げる機械のような声音。
◆ユウヤの決意
「……やるよ。やるしかないんだろ」
ユウヤは顔を上げた。
「OCは動く。ザフトの暴走も、連合の暴走も止める。
……世界が平和になるように。俺の手で」
シーマが微かに微笑む。
「ユウヤ殿。その覚悟があれば、我らはどこへでもお供します」
レビル大将の声が通信機から響く。
『準備は整っています。第十三独立戦隊も、戦力確認を終えました』
ワッケイン少将が続く。
『ユウヤ殿の判断を、我々はただ待つだけです』
世界は混沌へ向かう。
だが、OCはすでに次の一手を動かす準備を整えていた。
ユウヤは静かに拳を握る。
「……すでに戦争の火蓋が切られた。
ここからは、俺がこの世界を“導く”番だ」