妹がネット小説書き始めた話、聞く?   作:【ユーザー名】

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『妹がネット小説書き始めた話、聞く?』について

アラタはスマホをスクロールしていた指を止め、ふいに顔を上げた。

その表情は、天気予報で「大型台風が直撃します」と言われた時のように深刻だった。

 

「……あかん。最近フォローしとった小説、更新止まるらしい」

 

向かいのユウマがゆるく眉を上げる。

 

「え、そうなん? なんて小説?」

「『妹がネット小説書き始めた話、聞く?』ってやつや」

「なんやそれ、飲み会のネタで絶対スベるやつやん。タイトルの時点で地雷臭すごいんやけど」

「ああ、終始そんな感じのノリやったで……」

 

アラタはため息をひとつ落とし、スマホの画面をもう一度見おろす。

 

「せやって、一旦更新止まったからって、また再開するんちゃうん?」

 

ユウマは気楽な調子で言う。

 

「確かに作者も『年末は仕事やばいねん』『年明けには書くから』とか言うとったけどな……」

「やろ? なら再開するやん」

「いや……わからんねん」

 

アラタの声は妙に低く、妙にリアルだった。

 

「こういうやつに限ってな、音沙汰ゼロのままドロンしたり、急にぜんぜんちゃう新作書き始めたりするんや。俺は騙されへん。俺はもう騙されへんで!!」

「穿ちすぎやって。作者のこともうちょい信じたれや」

「いや、信じたいねんけどな……!」

「で? どんな小説やったん?」

 

ユウマが訊くと、アラタは気まずそうに頭をかいた。

 

「なんか……家族が書いとる小説を、その兄弟が勝手に覗き見するって話でな」

「ストーカーの話やん。それおもろいん?」

 

アラタはしばらく黙り、遠い目をした。

 

「…………」

 

アラタはぼけっとした顔のユウマを見て、また話を切り出した。

 

「この小説な、投稿場所がハーメルンって時点で余計に気になっとってん」

「おお〜、カナちゃんみたいやな。どんな感じの話やったん?」

「ちょうどこの前、赤バーの仕様の話したやろ? あの5人評価せんと色つかんってやつ。あれと同じ話題が作中でも出てきてな——」

 

アラタは、わざとらしいほどゆっくり間をとった。

 

「めっちゃ通ぶって仕様の説明までしてたんやけどな……そん時のこの小説のバー、真っ新やってん」

「……うわ、それ想像しただけで胸えぐられるやつ」

「やろ!? こいつ、どんな顔でその文書いとるんやろって思ったら……逆におもろなってもうてん。感想書いとってくれた人とかはおってん、それで耐えられたんやろうけど」

「で、今はどうなったん? 跳ねたん?」

「おう。最終的には赤バーいったで。最後の最後で、グッと来たわ」

「すごいやん! 内容がウケたん?」

「いやぁ……どうやろなぁ」

 

アラタは、微妙な顔でスマホをくるくる回す。

 

「もちろん面白さもあるかもしれんけど……何よりめっちゃ推してくれた人がひとりおったんよ」

「ファンってこと?」

「いや、わからん。ファンなんか、ただの奇跡的に優しい人なんか……とにかく、ガチ勢の読者が一人おってな。数日前なんか、その人が推薦まで書いてくれたんや。真っ白バーの作品に、やで。信じられんやろ」

「推薦ってなんなん?」

「食べログのレビューみたいなもんや。感想は作者へのメッセージで、推薦は他の読者へのメッセージやねん。『お前らこの店知らんやろ? でも行ってみ? 絶対うまいから』って背中押すやつ」

「はえ〜……そんな効くん?」

「効く。めっちゃ効くんやって。おもろいのはな、この小説、しばらくお気に入り20件くらい入っても、投票者が4人で止まっとってん。ず〜っと色つかんまま」

 

ユウマの顔が曇る。

 

「うわ……それ、だいぶキツいやつやん」

「せやろ? でな、遂に作者が物語中で赤バーの仕様を解説し始めたんよ」

「……ん?」

「いや、話の流れとしては自然やったんやけどな……俺、一瞬こう思ってもうたんや」

 

アラタは小声で、でも力強く言った。

 

「こいつ……隠れクレクレタイプなんか……?って」

「やめたれや!! 本人は必死に書いとんねん!!」

「わかっとる! でもな、見てて辛くて辛くて……!」

「で、兄貴は投票したん? 救ってあげたん?」

 

アラタは目をそらした。

 

「いや……お気に入りには入れとったけど……その時はまだ、投票せんかった」

「なんでや!! したれや!!!」

「いや、『逆にこのままどこまで耐えんねやろ……』って、気になってきてしもうてな……」

 

ユウマは机を叩いた。

 

「邪悪や! 邪悪やで兄貴!! そういうやつが作者を追い詰めるんや!!」

「いやでも結果跳ねたからええやん!」

「跳ねたの作者の努力と推薦の人の愛やろ!! 兄貴は何もしてへんやん!!」

 

アラタは耳を赤くしながら机に指を滑らせた。

 

「……まあけどな、その小説をめっちゃ推してくれた読者がおってさ。あちこちで推薦してくれたみたいやねん。ほな、ず〜っと動かんかった最後の一人が、ついに投票したんよ。俺、感動してスクショまで撮ってもうたわ」

 

ユウマが目を丸くする。

 

「おお、ついにか」

「せや。で、その推薦と、バーにやっと色ついたんのおかげで、急にいろんな人に読んでもらえるようになってな。あとはもう、とんとん拍子や」

「よかったやん。それはさすがに作者救われたやろ」

 

アラタは、ほんの少し遠い目になって言う。

 

「せやな。そりゃ救われたやろな。作中で赤バーの仕様語っとんのに、自分の小説は真っ白やったんやで? これで作中の小説が跳ねましたみたいな展開になっても、読者も『ほんまか?』ってなるやん。せやけど、最後にバーがパッと色ついて……なんかこう……」

 

アラタは胸に手を当てた。

 

「ずっと起き上がる練習しとった赤ちゃんが、初めてたっちした瞬間見たみたいな……そんな気持ちやったわ」

「例えはキモいけど、言いたいことはわかったわ」

 

ユウマは苦笑しつつも、ふと思い出したように顔を上げた。

 

「……でも兄貴、さっき推薦ついたんは数日前って言うてたよな?」

「ん?」

「なのに連載止まるん?? え、そこからが本番ちゃうん??」

 

アラタは両手で顔を覆った。

 

「やろ!? 思うやろ!? なんでやお前、ここから全力疾走ちゃうんか!?って!」

「ほんまやで」

「でも作者な……『年末は……年末だけは堪忍してや……』ってゆうててな。まあ気持ちはわかる。業種によっちゃ、年末って地獄やし。ネット小説って専業やないし、生活あると思たら……」

 

アラタは机に突っ伏した。

 

ユウマは苦い顔でうなずく。

 

「……色々あるんやな、作者も読者も」

「せや。……まあ、全部はほんまに帰ってきたらの話やけどな」

「めっちゃこするやん」

 

アラタは急に真剣な顔になってスマホを握りしめる。

 

「いやな……俺は忘れんで。全4話予定ですって後書きに書いとったのに、1話だけ更新して……そのままエタった小説のことを……」

「めっちゃ恨んどるやん! 執念深すぎるやろ!!」

「やって……めっちゃ盛り上げるとこで止まっとんねん……そこで止める!?って……」

 

ユウマは苦笑しつつ、話を変えるように身を乗り出す。

 

「で、その『妹がネット小説書き始めた話、聞く?』って小説、どんなんやったん? どこがおもろかったん?」

「作中でな、女子中学生が小説書くんよ。それがもう……たまらんのやって」

「なんかカナみたいやな。でも、ほんまに女子中学生が書いとるわけやないやろ? 兄貴前に言うとったやん。ハーメルンって男性読者が多いって。なら、その小説書いとるのも男ちゃうん? 普通におっさんやったりせんの?」

 

アラタはニヤッと笑った。

 

「いや、お前は全然わかっとらん。逆に考えるんや。もし作者がおっさんやとして、女子中学生のふりして小説書くんやで。それがもう……たまらんのやって」

「いや、そうはならんやろ!!」

「いや、なるって。お前知らんのか? こういうんをバ美肉って言うんや。VTuberとかで流行っとったんで」

「嘘やん!?」

「いや、これはほんまや」

「え、マジで!?」

「嘘や」

「どっちなん??」

 

アラタは肩をすくめて続ける。

 

「バ美肉がVtuberで流行っとったんはほんま。でもバ美肉の定義は……正直ようわからん。てかそれで言うたら俺は、いまだにTSジャンルの楽しみ方がようわからん。あれはちょっと変わった女の子として見たらええんか? それともバ美肉おじさんのふれあい物語として読むんが正解なんか?」

「いや知らんて。……で、その小説の作者も、やっぱりおっさんなん?」

 

アラタは腕を組んで遠い目になる。

 

「……いや、ここがミソでな。この作者、今時SNSやっとらんみたいで、正体わからんねん」

「でも、感想の返事とかで予想つかへんの?」

「なんか、いつも作中のキャラになりきって感想返してくるから、微妙やねん。まあ、俺はおっさんやと思っとるけどな」

 

ユウマは妙に真剣な顔になった。

 

「いや、実は女子中学生やったりせんの?」

 

アラタは即答した。

 

「……正気?」

「いや、だってさ。小説内で女子中学生が小説書いとるんやろ? やったらあるかもしれへんやん」

「さっき言うたやん。『年末は仕事がやばいねん』とか書いとったんやって。せやったら百歩譲ってOLとかやろ」

「ブラフかもしれんやん!!」

 

アラタは思わず前のめりになる。

 

「え……何の?」

 

「ほんまは女子中学生で、年末は付き合っとる子とデートとかするんかもしれんやん!!」

「……ひと月も?」

「いや、女子中学生にも色々あるんやからな!!」

「……いや、お前は女子中学生のなんなん? カリスマ女子中学生気取りなん?」

 

ユウマは胸を張って言った。

 

「やって、もしほんまに女子中学生が書いとるかもしれんって思ったら、ちょっとキュンキュンするやん!!」

 

アラタは沈黙したまま、ゆっくりと顔を起こした。

 

「……いや、まあ……確かに……そう思ったら作者にやさしぃせなって気にもなるな。なんや、逆に楽しそうやな」

「せやろ? どんな小説読んどっても、『でも実はこれ書いとるん、女子中学生かもしれん』って思ったら、なんかおもろくなりそうやん」

 

アラタはスマホを見つめながらつぶやいた。

 

「……確かに……!」

 

 




「てか兄貴、なんで作者、これを活動報告んとこ書かへんかったん?」
「FAQを詠め」
「…………まあせやな……これは迷うか……確かにな。ほな運営に聞けばえんちゃう?」
「お前、FAQの読み方知っとるか? 説明しとるんやから聞いてくんな、カス(Fuck You)やで……ちょっと怖いやん」

「……確かに……!」
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