妹がネット小説書き始めた話、聞く?   作:【ユーザー名】

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身内の恥は、蜜の味(4)

翌朝。

 

目を覚ましたカナは、まだ半分眠たげな頭のまま、枕元のスマホに手を伸ばした。

スワイプしてロックを外し、指が自然と、ハーメルンのマイページを探す。

 

(……さすがに、誰も読んでへんよな)

 

そう思いながらも、確認せずにはいられなかった。

 

マイページを開いた瞬間、カナの指先がぴたりと止まる。

 

(……えっ)

 

「新着感想 2件」

 

その表示を見た途端、胸の奥がきゅっと掴まれるような感覚になった。

 

(すご……感想、ついとる……!!)

 

自分の書いたものを、誰かが読んでくれた。

それだけの事実が、カナには、眩暈がするくらい大きかった。

 

(でも……すごいボロクソ書かれてたら、どうしよ……)

 

そこまで考えたところで、親指が「感想」ボタンの上で止まる。

タップするだけなのに、その一回がやけに重い。

 

カナはベッドから起き上がり、代わりにカーテンを引いた。

夏の日差しが一気に流れ込んで、狭い部屋を容赦なく照らし出す。

 

「……まぶし……」

 

目を細めながら窓の外を見る。

アスファルトから立ち上る白い熱気が、今日が本気の夏であることを告げていた。

 

(日、強っ……。でも……)

 

じんじんする光の中にいると、さっきまで固まっていた心が、少しずつ溶けていく。

 

(批判でもええ。ちゃんと言ってもらえたら、そのぶん成長できる、はず)

 

自分にそう言い聞かせて、もう一度ベッドに腰を下ろした。

深く息を吸う。

 

(……よし。行こか)

 

覚悟を決めて、指で画面を軽く叩いた。

 

——そこに並んでいた文章は、カナが想像していたよりも、ずっと優しかった。

 

(おお……めっちゃ褒めてくれとる……。伝わっとる……おおお……)

 

思わず頬がゆるむ。

スマホを胸にぎゅっと押し当ててから、勢いよくベッドに倒れ込み、バタバタと足を蹴った。

 

「うわぁぁぁぁぁ……」

 

声にならない声が口から漏れる。

初めて書いた小説に、初めてついた感想。

それは、カナが予想していたより、ずっと重くて、あたたかいものだった。

 

だが、二つの感想を何度も読み返しているうちに、あることが、どうしても引っかかりはじめる。

 

(……あれ? でも、これ……気づいてへんのかな?)

 

そこまで考えて、カナはスマホを顔の上に持ち上げ、天井をじっと見つめた。

 

(……まあええか。うちの文章、ちゃんと読んでくれたんは確かやし)

 

それでも、胸のどこかに、小さなもやもやが残るのだった。

 

 

***

 

 

昼前。

洗濯機の「終わりました」と言わんばかりの電子音が、のんびりとした家の空気を揺らした。

 

カナは洗面所から洗い上がった洗濯物を抱え、ベランダに出る。

真上から照りつける太陽に、思わず顔をしかめた。

 

「……あっつ」

 

物干し竿にハンガーをかけていると、背後でガラガラと窓が開く音がする。

 

「……あ〜……」

 

寝起き特有の気の抜けた声とともに、ユウマがベランダに出てきた。

Tシャツはよれよれ、髪は爆発、目は半分しか開いてない。ついでに目やにまで付いている。

 

(……キモ)

 

カナは心の中だけで毒を吐いた。

 

「ユウマも起きたんやったら、手伝ってや」

「……あ〜い……」

 

ユウマはスリッパを引きずりながら近づいてきて、洗濯かごからTシャツを無造作に引っ張り出す。

しばらく、ふたりの間には、洗濯物がはためく音と、遠くの車の走る音だけが続いた。

 

唐突に、カナが口を開く。

 

「なあ、ユウマってさ。ネットでしか知らん人とか、おる?」

「……おるで」

 

即答だった。

そのくせ声は妙に重く、さっきまで寝てた人間とは思えないくらい真面目なトーン。

 

「ふーん。……ほなさ、そういう人に、思ってること、ちゃんと言える?」

「……は? どういう話の入り方やねん」

 

ユウマはTシャツを一枚かけ終えてから、ようやくカナのほうを見た。

 

「たとえば、やけどな」

 

カナは、バスタオルをパンパンと振りながら続ける。

 

「なんか、その人がええことしてくれてるんやけど、ちょっとズレてる、みたいな時。本人、たぶん気づいてへん。でも、直したほうが絶対その人のためになるやろなーって思ったらさ……それって、言ったほうがええんかなって話」

「えぇぇ……何その具体的なんか抽象的なんかわからん相談……。お兄ちゃん、ちょっとついていかれへんかもしれんわ」

 

言いながらも、ユウマは手を止めない。

Tシャツをハンガーに通しながら、眉だけが少し寄っていた。

 

「やから、そのネットの相手が、こうなんかしてくれるんやけど、ちょっと間違ってる時に、ちゃんと言うかどうかっていう」

「……あー……」

 

ユウマは少し考えてから、ぽつりと言った。

 

「あんましゃべったことない知り合いの、ズボンのチャック開いとるん見つけたとき、言うか言わんか、みたいな?」

「……全然ちゃうけど、まあ、そう言えんこともないかも」

「ネット上の相手でも、それと一緒やろ」

 

ユウマは、ハンガーを竿にかけながら、ゆっくりと言葉を続ける。

 

「その助言が、どんくらい相手にとって大事か、やない? ほんまに大事なことやと思うんやったら、言うたほうがええと思うし。別に言わんでもええレベルのことやったら、黙っといてもええんちゃう」

「……ふーん」

 

カナは、少しだけ悩むように目を細めたあと、

 

「まあ、そんなもんよな」

 

と、あっさりした調子で言った。

それから、ぱたぱたと干すスピードを上げていく。

 

「よし、終わり。ありがと」

「お、おう」

 

カナは洗濯かごを抱え直し、そのまま部屋の中へと戻っていく。

窓ガラス越しに見えた横顔は、どこか上機嫌で、どこか考えごとをしているようにも見えた。

 

ベランダには、取り残されたユウマだけが残る。

 

「……なんやったんや、今の」

 

ぽつりと呟いてから、ハッとしてポケットを探った。

スマホを取り出し、ロックを解除する。

 

「……まさか、バレてへんよな……?」

 

自分でつけた「闇のミルクティー」というふざけたユーザー名が、今になって背筋を冷たくする。

(いや、でもさすがに気づかんやろ……気づかん、はずや……たぶん……)

 

不安をごまかすように、ユウマはトークアプリを開き、兄貴の名前をタップした。

 

アラタ

あかんで

既読

アラタ

仕事中や

ヤミティーちゃん、ネカマばれてるかもしれん

既読

アラタ

なんでや。あんなん書く男おったら正気ちゃうやろ

カナちゃんがな、相手を傷つけんように注意すべきかとか悩んどるっぽいねん

既読

おーい、生きとる?

てか、なんでそんなネカマ構文に自信あんねん

大丈夫やって、元気出しや

 

 

「……やばいな。おもろなってきたな、これ」

 

そう呟いた声は、どこか嬉しそうでもあり、どこか本気でビビっているようでもあった。

 

 

***

 

 

深夜。

玄関のドアがきぃ、と控えめに軋む音を立てた。

 

帰宅したアラタを出迎えたのは、アラタの部屋で腕を組み、

妙に神妙な顔をして立ちつくすユウマだった。

 

「……おかえり、兄貴」

 

声のトーンだけはやたら落ち着いている。

その落ち着きが逆に腹立つ。

 

アラタは返事もせず、カバンをそのへんに放り投げ、ベッドに直行した。

枕を抱え込み、うつ伏せのまま顔を埋める。

 

「……殺せや」

 

布団の中から、くぐもった声が漏れた。

 

「いっそ殺せやぁァァ……!」

 

声に力がない。

魂の半分くらい脱げ落ちてしまったような叫びだった。

 

次の瞬間。

 

「ぶふぉッ!!? あっははははは!!」

 

耐えきれず吹き出したのは、当然ユウマである。

 

「いや無理やって! 兄貴、その裏声……! 情緒どこ置いてきたん!?」

 

肩を震わせて笑い転げる弟を無視して、アラタは枕をさらに強く抱きしめた。

 

(……ほんまに終わりや……)

 

アラタがここまで憔悴している理由は——カナにネカマがバレたから、ではない。

その程度の恥で、アラタがここまで打ちのめされるはずがない。多分。

 

アラタの精神を根こそぎへし折ったのは——

 

「……兄貴、カナちゃんの感想返信、読んだんやろ……」

 

ユウマの声が、少しだけ優しかった。

 

「めっちゃ……めっちゃ気い遣っとったな……」

 

その言葉を聞いた瞬間、アラタは枕に顔をぎゅううっと押しつけ、声にならない声を漏らした。

 

そう——アラタを追い詰めた犯人は、カナのやさしさだったのだ。

 

 

  闇のミルクティー  20XX年XX月XX日(X) 03:37

ぎゃーーーッ!!めっちゃキュンでした……!!。゚(゚´///`゚)゚。

 

最初の朝の描写から、空気が透明でふわっとしてて、一瞬で文音ちゃんの世界に入り込める感じが本当に素敵でした。

廊下を抜けてく風とか、光が跳ねる感じとか、「あっこれ絶対好きなやつ…!」ってなる雰囲気の良さで、読みながら静かにテンション上がりました。

 

そしてそして、瀬戸くんの登場シーン!!!

あれはもう反則級の少女漫画でした……ッ!!

手首が綺麗とか春の光みたいな笑顔とか、そういう一瞬のきらめきを切り取る描写がめちゃくちゃ上手で、読んでるこっちまで顔が熱くなるやつです。

文音ちゃんと一緒にときめいてしまいました……(震)

 

文章も読みやすくて、感情が自然に流れてくから、気づいたら一気読みしてました。

かわいさ全開で読んでて楽しいし、文音ちゃんの恋がどうなっていくのか続きが気になりまくりです。

 

最後に、ヤミティーからの今日の一言♡

 

☆*:.。.木を隠すなら森の中.。.:*☆

 

次のお話、楽しみにしてます〜!!

 

 


Good:0/Bad:0) 1話 報告

  どんぐり饅頭  20XX年XX月XX日(X) 18:47

感想ありがとうございます……!!

めっちゃ丁寧に読んでもらえてて、朝から心臓ぎゅーってなりました……!

 

朝の描写、実は一番悩んだところやったので、そこ褒めてもらえてすごく嬉しいです。

文音の視界にどうやって読者さんを入れるか迷ってたので、「入っていける」って言ってもらえたのほんま救われました。

 

瀬戸くんの登場シーンも、読んでくださった方がキュンってしてくれたらええな……と思いながら書いたので、そんなふうに感じてもらえて幸せです。

(手首の描写、変じゃなかったならよかった……!)

 

読みやすいって言ってもらえたのもほんまに励みになります。

まだまだ文章ぎこちないところもあると思うんですけど、文音の恋の流れは大切に書きたいので、これからも見守ってもらえたらうれしいです。

 

そして……最後の一言……!

占いコーナーでしょうか?

ちょっと笑っちゃいました(笑)

 

また次も読んでもらえるように頑張ります!

本当にありがとうございました!

 

 

  剣聖ペンギン  20XX年XX月XX日(X) 02:34

とても丁寧に書かれた第1話で、最初の数行を読んだ時点で一気に物語の空気に引き込まれました。朝の光や風の描写が鮮やかで、場面の情景が自然と立ち上がってくるところに、作者さんの文体の安定感を感じます。

 

主人公・文音のキャラクターが短い導入部分でしっかり伝わってくるのも良かったです。地味で、背が低くて、「ふわっとしてる」と言われるタイプ──その小さな自己描写の重ね方がさりげなく、読者が彼女の視点にすぐ入り込める作りになっていると思いました。

 

瀬戸くんの登場シーンも魅力的でした。

手首の描写や、微笑んだ瞬間に春の光のような印象を添える描写など、少女漫画的なきらめきが上手く整理されていて、読みながら自然と心臓が忙しくなる感覚を覚えます。こういう感覚を文章で表現するのは難しいと思うのですが、作者さんは感情の揺れをとても丁寧に書ける方なんだろうな、と思わず微笑んでしまいました。

 

全体として、王道の少女漫画風の「始まり方」がしっかり掴めていて、読みやすさと甘酸っぱさのバランスがとても良い、第1話だと思います。

 

ここからは、一読者としての小さな提案になります。

この作品が投稿されているサイトの特性上、読者には男性も多いので、少女漫画路線に加えてもう一つだけひねりがあると、より幅広い読者が惹きつけられやすくなるかもしれません。

 

例えば、

 

・瀬戸くんにほんの少しだけ秘密があるような描写を入れて、軽くミステリーの匂いを出す

・文音の新聞部という設定を活かし、「転校生の裏にある何か」を追いかける展開を匂わせる

・ファンタジーやホラー、ほんのりSFの要素を少し混ぜる

・あるいは、恋愛ジャンルの中で、文音の視点や性格に特有のズレた面白さやクセを強めることで、一味違う物語にしていく

 

など、方向性はたくさんあると思います。

 

もちろん、王道を突き抜けるのも素敵な選択です。

 

ただ、読者層の幅を広げたい場合には、こうした小さな仕掛けがあると、さらに続きを読みたいと思わせる力が増すのではないかと感じました。

 

続きを楽しみにしております。

 


Good:0/Bad:0) 1話 報告

  どんぐり饅頭  20XX年XX月XX日(X) 20:41

感想ありがとうございます……!!

最初の数行から読んでもらえて、しかも「空気に引き込まれた」って言っていただけて、めちゃくちゃ嬉しかったです。

 

文音のキャラクターも、細かいところを丁寧に見てくださってありがとうございます。

あんまり派手じゃない子の心の動きを、少しずつ書いていきたいなと思っていたので、「視点に入り込める」と言ってもらえてホッとしました。

 

瀬戸くんの登場シーンも、読んでいる方がちょっとドキッとするように……と思いながら書いたので、そう感じてもらえたなら嬉しすぎます。

(手首の描写、これ大丈夫なんかなって内心ドキドキしてたので安心しました……!)

 

そして、とても丁寧な読み方をしてくださった上で、いろんな提案まで本当にありがとうございます。

読んでくれて、しかも作品のことを一緒に考えてくれるなんて、すごく幸せです。

 

そのうえで……ひとつだけ小さくすみません。

 

設定のご提案については、このサイトのFAQ(よくある質問)に書いてあったのですが、ちょっと控えたほうがいいらしくて……!

私のほうは全然気になりませんし、むしろ嬉しいくらいやったんですけど、

もし他の作品とかでされると運営さんに怒られちゃうかも、ってだけ一応お伝えしました……!

(ほんまにお気持ちだけで十分嬉しかったです!)

 

私も王道が大好きで、でもちょっとだけ違う味を入れられたら楽しいなとも思ってます。

いただいたアイデアも、自分の中で噛み砕きつつ、作品の雰囲気を大事にしながら取り入れられそうなところは考えてみたいです。

 

せっかく女性の方からも感想いただけているので、男性の方にも女性の方にも分け隔てなく楽しんでもらえるお話にできたらいいなって思ってます。

 

本当に、読んでくださってありがとうございました。

続きを楽しみにしてもらえるように、ゆっくりではありますが頑張ります!

 

 

ユウマの笑い声は、深夜の静けさをまるで無視するように響き続けていた。

アラタはベッドにうつ伏せ、枕に顔を押しつけたまま微動だにしない。

 

「兄貴、これはほんま恥ずいやつやで。あんな『俺、ハーメルン使いこなしてますけど?』みたいな顔しとったくせに……これはアカンて……っぷ、あはははは!!」

 

ユウマは完全にツボに入っていた。

普段から鬱陶しい弟だが、今日はその三倍はうざい。

人をバカにできるとわかった瞬間、こいつは遠慮という言葉を忘れる。

 

「こんな、こんなカナちゃんに気ぃ遣われちゃってさぁ……うわぁ~~ええなぁ、兄貴~~羨ましぃわぁ~~」

 

アラタは何も返さない。ただ、枕に顔を埋めたまま動かない。

死んだふりのようでもあり、魂が抜けた人のようでもある。

 

それでもユウマは追撃の手を止めない。

 

「なあ兄貴……このノリで、他の作品にも感想つけとったん? あかん子や、あかん子やで~~それは。たまらんなぁ~~~……ぷふぅ……!」

 

——ボフッ。

 

アラタがノールックで投げつけた枕が、きれいにユウマの顔面へ命中した。

流石に効いたのか、ユウマの笑いは一瞬だけ止まる。

 

「なあ、ユウマ」

「……お、おう。何や」

 

笑いをこらえながら、ユウマが顔を上げる。

アラタはようやく枕から顔を離し、真っ直ぐ天井を見つめたまま静かに言った。

 

「……アカウント、交換せん?」

「いややわ!!!!」

 

ユウマは食い気味に叫んだ。

 

「ヤミティーちゃんは俺のや!! 兄貴はそのままペンギンごっこしとき!!」

「……せやな」

「いや急にマジトーンやめて!? 怖い怖い! え、そんなにヤミティーちゃんやりたいん?」

「いや……よく考えたらな。妹の小説にネカマ構文で感想書くんは……俺にはちょっと耐えられへんわ」

「それ言い出したらもう戦争もんやろ……」

 

一瞬だけ静寂が落ちた。

アラタはゆっくり息を吐き、ぽつりとつぶやく。

 

「……なあ、話変わるけどな」

「おん」

「カナ……めっちゃ穏便に返したよな、あの返信」

「あー、わかるわ。俺も読んで思った。なんか……『ウザいから黙っとれ』を超尊敬語に変換したみたいな」

「それは穿っとるわ……まあ、言いたいことはわかる。すげえよな、あいつ」

「うん。俺には絶対書けへん。あんな返事」

「だろうな。カナ……立派になったな」

「せやな……」

 

ユウマの声が少しだけ静かになる。

さっきまで笑いすぎて涙を浮かべていたはずなのに、今はどこか遠くを見ていた。

 

しんみりとした空気が部屋に満ちていく。

 

エアコンの弱い風が、カーテンの裾をかすかに揺らす。

時計の秒針だけが、やけに大きく耳についた。

 

「……なあ、兄貴」

 

先に口を開いたのは、ユウマのほうだった。

 

「昔さ、あいつ、国語の授業で自分の意見言えへんくて泣いとったやろ」

「あー……あったな。間違ったこと言うの怖いってやつ」

「せや。あのとき先生に、意見に正解不正解はありませんとか言われたゆうて、余計泣いとったもんな」

「正解ないんやったら、なおさら何言うたらええかわからんやん、って言うてな」

 

ふたりとも、同じ光景を思い出していた。

リビングの隅で半泣きになって、ノートの端っこにぐしゃぐしゃと落書きしていた、小さなカナの横顔。

 

「……そんな子がさ」

 

アラタは、指の隙間から、ぼんやりと自分の部屋の天井を眺める。

 

「知らん誰かからの感想に、あんだけ丁寧に返事書いとるんやで。私はこう思いましたって、ちゃんと自分の言葉で返しとるんやで」

「……」

 

ユウマは返事をしなかった。

ただ、ベッドに腰を下ろし、前かがみになって自分の手のひらを眺めていた。

 

「俺、あの返信見たときさ」

 

アラタは、少しだけ笑った。

 

「あ、もうこいつ、俺らのいらんところまで行けるようになっとるなって思ったわ」

「いらんところって何やねん」

「過保護になるライン、みたいなやつ」

「自覚あったんやな、それ」

 

ユウマが、ようやくくすりと笑う。

しんみりした空気が、少しだけほぐれた。

 

「……で、兄貴」

 

ユウマは視線を上げた。

 

「どうすんの? 感想。これからも書くん?」

「書くに決まっとるやろ」

 

アラタは即答した。

 

「俺のメンタルがどうなろうが、あいつが小説続けとるあいだは、剣聖ペンギンは仕事する」

 

ユウマの目も、いたずらっぽく細められる。

 

「ほな、ヤミティーもがんばらなあかんな」

 




「ちなみに、FAQはこの作者も知らんかったらしいで。『FAQなんて誰が読むんや』ってボヤいとったわ」
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