妹がネット小説書き始めた話、聞く?   作:【ユーザー名】

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千里の道って、東京ドーム何個分くらい?(1)

翌朝。

カナは初期設定をしてもらったばかりのパソコンを、自室の机の上にそっと置いた。

 

真っ黒で、少し無骨なデザイン。

けれど、お兄ちゃんのパソコンとも、学校のパソコンとも違う、自分だけのパソコンというだけで、胸の奥がふわっと温かくなる。

 

昨夜、おまけのようにお兄ちゃんにもらったクロスを取り出し、そっと画面を拭く。

特に汚れているわけではないのに、それがなぜか楽しい。

 

(新品やから、余計に大事にしたくなるんかな……)

 

そんなふうに思いながら、カナは画面をきゅっ、きゅっと磨いた。

 

ひとしきり満足してから、電源を入れる。

ファンの小さな音が部屋の静けさに混じった。

 

ハーメルンを開くと、通知欄にはスマホでも確認していた《剣聖ペンギン》と《闇のミルクティー》からの感想が並んでいる。

それを見て、胸がすとんと軽くなった。

 

(でも……ヤミティさん、壊れてしもたんかな……? あれはあれでちょっとおもろかったんに。)

 

苦笑しながら小説情報ページを見ると、昨日まではなかったものが目に入った。

 

(あ……お気に入り、ついとる……え、投票してくれた人もおるやん!!)

 

胸の奥がじわっと熱くなる。

感想をもらえるのも嬉しいけど、こうして数字になって見えると、また違った嬉しさがあった。

 

(なんか……ほんまに、読んでくれとるんや……)

 

自分が「おもしろい」と思って書いたものが、ちゃんと誰かに届いている。

その事実がむずむずするほど嬉しくて、自然と頬がゆるんでしまう。

 

カナはさっそく感想への返信を考え、お気に入りと投票の数字をもう一度眺めて、にんまりしてしまった。

 

その時——

 

廊下の奥から、アラタの声が響いた。

 

「おいカナー、ユウマが『俺もどっか連れてけ』ってうるさいから車出すわ! カナも来るかー?」

 

(……どうしよ。いや、今日は小説の続き書きたいし……)

 

カナは椅子を回して、ドアの方を向く。

 

「今日はうちおるから大丈夫! 夜には帰ってくるんやろ?」

「おう。晩ごはん何がええ? 昨日買った鶏肉で油淋鶏でも作ろか?」

「それでええよ!」

「ほな、行ってくるわ」

「行ってらっしゃい!」

 

玄関の扉が閉まる音が、遠くでコトンと響いた。

途端に家の中がしん、と静かになる。

 

(……よし。集中できるやん。今日、書けるだけ書いてまお)

 

カナは深呼吸をひとつして、背筋を伸ばした。

そして、意を決してキーボードに指をそっと落とす。

 

カタ……カタタ……。

静かな部屋に、打鍵の音だけが心地よく響き始めた。

 

 

***

 

 

「なあ、兄貴」

「ん?」

 

アラタはコーヒーをひと口すすり、目だけで続きを促した。

 

「いやな、確かに『どこ行きたい?』って聞かれて、『どこでもええ』って答えたんは俺やで? でもなんでドトールなん? いや嫌いやないで? ドトール普通に好きやけどさ」

「ええやろ別に。落ち着いて話せるし」

 

アラタは淡々としている。ユウマは納得いかんという顔で、さらに身を乗り出した。

 

「兄貴、昨日はカナちゃんと昼飯食べたんやろ? 何食べたん?」

「パスタ」

「なんで今日ドトールなん!? 」

「いや……もったいないかな思うて」

「なにがや!? もったいないの意味はなんや!」

 

ユウマは「ひどいわ」「差別や」「男女雇用均等法やで」などと意味不明な文句を垂れ流していたが、アラタはその全てをきれいに無視し、本題に入った。

 

「長いこと座れて話せるならどこでもええやろ。それより、これ見てみ」

 

アラタがスマホを突き出す。

画面には、カナの小説の情報ページが開かれていた。

ユウマは首をひねって画面を覗き込む。

 

「……これがどうしたん?」

「よく見ぃ!」

「いや、わからんって……あっ! お気に入りしてくれとる人おる! 投票してくれた人もおる!!」

 

アラタは誇らしげにうなずいた。

 

「せやろ。カナちゃんの小説に、ついに俺ら以外の読者がついたんや」

 

ユウマは「おお〜……」と、分かっているような、分かっていないような声を漏らす。

 

「せやけど兄貴、このUAとかお気に入りとか投票ってなんなん? やっぱ多いほうがええん? あとこの総合評価ってやつ、投票の合計ちゃうん? 足しても数あわへんねんけど」

 

アラタはゆっくりコーヒーを置き、落ち着いて説明を始めた。

 

「……まあ、そらそう思うわな。初見やとだいぶわかりにくい。まずUAはユニークアクセスの略で、その小説に何人アクセスしたかって数字やな」

「YouTubeの再生回数みたいなもん?」

「まあ近いな。ただハーメルンは1アカウントにつき1日1回しかカウントされへん」

 

ユウマは眉を寄せる。

 

「なんでそんなめんどい制限つけるん?」

 

アラタは身を乗り出し、手振りを交えて説明する。

 

「そうせんと、同じ人がページ更新ボタン連打したらカウント跳ね上がるやろ。YouTubeでもズル防止のために制限あるはずや」

「なるほど……ほんならUA多いほうがええん?」

 

アラタは少し考えてから、首を横に振った。

 

「……いや、ハーメルンはUAよりお気に入りと投票のほうが重要やと思う。UAはどっちかいうと作者の心の健康メーターみたいなもんやな。誰か見とるてのが分からんと、続けるのしんどいやん。誰も読んでへんかったら、そら心折れるしな」

 

ユウマは「ふむ……」と腕を組み、しかしやっぱりよくわかってない顔をしていた。

アラタはそんな弟を横目に、ため息混じりにコーヒーをすするのだった。

 

「ほんならこのお気に入りとか投票ってなんなん? どっちも多いほうがええん?」

 

ユウマが画面をつつきながら尋ねると、アラタは「よし、ここから本題やな」という顔で背筋を伸ばす。

 

「お気に入りはな、ざっくり言うたらXのフォローみたいなもんや。入れとけば、その小説が更新されたときに通知が来て気づきやすなる」

「なるほどな……。けど俺ら、カナの小説ページをそのままブラウザの方でブックマークしとるやん?」

「それは俺らが身内やからや。普通の人は、いちいちURLブックマークしてまで追うような熱量やないやろ。せやからお気に入りいう仕組みがあるんや」

 

ユウマはスマホを見たまま、あからさまにため息をついた。

 

「……兄貴に言われてブックマークしとるけど、正直めんどいねんけど?」

「しゃあないんや。後で言うけど、お気に入りは評価値に直結する。俺らはカナの小説って知っとる立場やし、贔屓目が絶対入るやろ? そんな状態でお気に入りつけてもフェアちゃうし、カナも嬉しない」

 

アラタは淡々と言い切る。

 

「せやから俺らは読む側の支援として感想を書いとるんや。そっちのほうが健全や」

 

ユウマは唸りながらストローを噛んだ。

 

「……まあ確かに。身内補正で順位あがっても、カナちゃん困るか。ほな、この投票ってやつは? お気に入りとはまた別物なん?」

 

アラタはコーヒーをひと口飲み、静かに机に置く。

 

「せや。ここからが本当の勝負どころや。投票っちゅうのはな、小説に1点〜10点で点数をつける制度や。ほんで、その平均値(調整平均)と投票数、お気に入り数をいろいろ計算して、総合評価が出る」

「なんやそれ……数学の授業か……」

「仕組み自体はちょっとややこしいけど、要するに投票の重みが一番でかいってことやな。お気に入りも大事やけど、投票ほどの影響力はない」

 

ユウマは眉を寄せたまま、急に気づいたように声を上げた。

 

「……でも兄貴、小説に点数つけるって普通むずない? カナちゃんの小説、まだ2話しかないんやで? この段階で何点とか決められへんやろ!」

 

アラタは、まるでそこを突かれるのを予想していたかのように大きく息を吐いた。

 

「……せやねん。それがハーメルンの難所や」

 

アラタは椅子にもたれ、天井を見上げるようにぼそりと続けた。

「完結したら評価つけよって思っとる読者、多分多いねん。でもな……それやっとると、ほぼ絶対、完結まで行かんのや」

 

ユウマはぽかんと口を開いた。

 

「……は? なんでや?」

 

アラタはコーヒー片手に、ゆっくりと説明を始めるのだった。

 

「理由はいろいろある。順番に説明するな。まず、お前が普通の読者やとして——ハーメルンで新しい小説読むとき、どっから探す?」

「まあ……ランキング?」

「せや。まずランキング見るやろ。で、ランキング見終わって、『ほな次なに読もかな』ってなったら?」

「検索で探す、とか?」

「それもあるな。他には?」

「トップページにある新着投稿作品とかピックアップ作品とか?」

「そうそう。そこ見るようになったら相当読み尽くしとるタイプやけどな」

 

ユウマは「なるほどなあ」と頷く。

しかし、まだ「話の核心」が見えてない顔だ。

 

「で? それの何が関係あるん?」

 

アラタは指でスマホの画面をトントンしながら、簡単な例を出すように話した。

 

「こう、作品一覧を見ると、小説名がズラーッと並んどるやろ?」

「せやな」

「その横にな、赤とか黄色とか白とか……色のバーがついとるん知っとるやろ?」

「……青もあったで」

「お、よー見つけたな。青は逆にレアやぞ。はぐれメタルみたいなもんや。まあええ、とにかくこれは評価バーっていうやつで、簡単に言うと——投票された点数の平均が高いと赤くなる。そこそこやとオレンジとか黄色。低いと黄緑とか青になってく」

 

ユウマは画面を想像しながら口を尖らせた。

 

「へぇ〜……信号みたいやな」

「まあ意味は逆やけどな。評価バーのおかげで、ぱっと見ただけで、あ、これ人気なんかなとか、これ地雷っぽいな……って判断できるようになっとる。ある程度慣れた読者は、まずここを見るんや」

 

ユウマは画面のバーの色を思い出すように目を細めた。

 

「でも兄貴、カナちゃんの小説、投票されとんのに真っ白やで。なんで色つかんの?」

 

アラタはコーヒーを置き、少しだけ真面目な声になった。

 

「そこなんよ! この評価バーはな、5人以上に評価されんと、そもそも色がつかへんのや。せやから新規投稿の小説は、だいたい真っ白スタートや。これが読者へのハードルになる」

 

アラタは指を立て、例え話を始める。

 

「自分が読者やと思ってみ? 飯食いに行こかって時に、Googleマップで星ついとらん店入るかって話や」

 

ユウマは「うーん?」と眉を寄せ——

その直後、ぱっと顔を明るくした。

 

「いやでも、それオープンしたての店なんやろ? 俺むしろ行くで! 新しい味ってワクワクするやん」

 

アラタは「ほぉ」と目を細めた。

 

「……その店の周りに、星4以上の名店がずらっと並んどっても?」

「なら、どっちも行く」

「……ええ心がけやな。ネット小説界隈にも、そういう強者がおんねん」

「なんか、気が合いそう」

「失礼やから二度と言うな」

 

アラタは呆れたように吐きつつ、続けた。

 

「まあ、そういう人らんことをスコッパーって呼ぶんや。埋もれた作品を掘り起こすからスコッパーやな。新規作品をどんどん読んでくれて、ちょっとでもおもろかったら投票してくれる」

 

ユウマは目を輝かせた。

 

「まだ1話とか2話の小説でも?」

「始まったばっかりやからこそや。新規小説は評価バーが真っ白やろ。にわかには手ぇ出しにくい。そこでスコッパーの人らが先陣切ってくれんねん。ほんで、ちょっとでもええと思ってくれたら投票してくれる。オープンしたての店に祝・開店ってデカい花贈るみたいなもんやろ、知らんけど」

 

ユウマは腕を組んでうなる。

 

「なるほどなぁ……。でもさ、1話の段階で高評価つけて、後でクソつまらんくなったらどうすんの?」

「そん時は評価下げればええやろ」

「え、変えられるん?」

「そりゃそうや。点数の見直しも取り下げもできる。せやから、続けてほしい思うたら、とりあえず投票するんが大事。5人以上が投票したらバーに色がつく。そしたら、真っ白は怖いけど、ちょっと色ついとるなら読んでみよかなって層が入ってくるわけや」

 

ユウマは天井を見上げて感心を口にする。

 

「へぇ〜……そういう仕組みなんや……」

 

アラタはその隙に、冷めかけたコーヒーをもう一口飲んだ。

説明はまだ半ば。けれど、弟の目にはすでに新しい世界が開けているようだった。

 

「反対にな、もっと書き溜まってから評価つけよって思う読者が多すぎると、作者さんはむしろ全然評価されへんって思って心折れてまうんや。まあ、そうならんためのUAなんやろうけど、更新止まったり、最悪作品ごと消えてまう。わりとようある話や」

「ほえ〜……そんな仕組みになっとんやなぁ」

 

ユウマは素直に感心しつつ、ふと疑問をもったように顔を上げた。

 

「でも兄貴、それって……スコッパーって人らがおらんかったら、このサイト回らんのちゃう? 新規作品、誰も読まへんやん。スコッパーって、そんなにぎょーさんおるもんなん?」

 

アラタは腕を組み、少し考えてから答える。

 

「難しい質問やな。新規作品ならジャンル問わず片っ端から読む——ってタイプは、相当極まったスコッパーや。数は多くないと思う」

「極まったってなんや」

「剛の者や(偏見)」

 

アラタは真顔で言う。

 

「でもな。特定ジャンルだけ新規作品も読むってタイプはもうちょいおると思う。たとえば呪術廻戦の二次だけ読み漁るとか、貞操観念逆転もの専門とか、VRMMOだけ追いかけるタイプとか……。そのジャンルを読み尽くしてもうて、それでも新しいん欲しがる欲張りさんタイプやな(偏見)。実際、こういう人らはスコッパーの自覚ないことの方が多いと思う」

 

ユウマは感心したようにうなずく。

 

「へぇ〜、読むジャンル絞れば、新規作品漁る人おるもんなんやな……てことは、カナの小説も、その欲張りさんの目に止まったってことなん?」

 

アラタは一瞬で否定した。

 

「いや、それは絶対ちゃうわ」

「なんでやねん?」

「こういう特定ジャンルのスコッパーはタグ見て動くねん。で、カナのタグ、見てみい。『青春』と『恋』やぞ。ハーメルンで青春・恋ジャンルだけスコップするって人おったら逆に見てみたいわ。天然記念物やぞ」

 

ユウマは苦笑しながらも、納得したように息を吐いた。

だが次の瞬間、ぽつりと疑問がこぼれる。

 

「……てか兄貴。なんでそんなハーメルンの仕組みに詳しいん?」

 

アラタは、コーヒーを口に運びかけ——

ほんの一瞬だけ視線をそらした。

 

その仕草は、ここから先はちょっとややこしい話になるという前触れのようだった。

 

「……お前、ヒロやんって覚えとるか? 高山ヒロキ。俺の大学の友達や。左耳だけやたらピアスつけとったやつ」

 

ユウマは指をぽきぽき鳴らしながら、記憶を手繰るように天井を見上げた。

 

「……あ〜、なんか覚えとるわ。あのちょいイカつい兄ちゃんやろ? で、その人がどしたん?」

 

アラタは腕を組み、少しだけ言葉を選ぶ。

 

「ヒロやんがな……ちょっと、まあ……変わったタイプのスコッパーやってん。俺がハーメルン詳しいんは、ヒロやんの影響がでかいな」

 

ユウマの目が、まん丸になる。

 

「嘘やん!? あんなピアス開けて、指輪ぎっちぎちにつけとって、『兄ちゃんタバコ切れてんねん、一本ちょうだい』とか言いそうな見た目してて!? あの人がスコッパー!?」

「せやで」

 

アラタは淡々とうなずいた。

 

「まあヒロやんも、隠してるわけやないけどな。イメージとちゃうって言われんのがめんどいらしくて。……せやから、お前ヒロやんに会うことあっても、絶対言うなよ」

「言わん言わん! てか言えへんわ! 俺、ヒロやんのことずっと『夜露死苦』系の人や思っとったもん」

「……いや、それは……まあ……言いそうなとこもあるけどな」

「言うんかい!」

 

ユウマがテーブルをドン、と叩く。

アラタは苦笑いして、肩をすくめた。

 

「で、その人がスコッパーやったん?」

「まあせやな。ちょっと拗らせたタイプのスコッパーやったわ」

 

アラタはカップをソーサーに戻し、少し懐かしそうな顔になる。

 

「ヒロやん、元々ハーメルンは好きやったんよ。ただな、もう一つ、めっちゃ好きなもんがあってな……それが競馬やってん」

「……ぽいぽい!! めっちゃ似合う!」

「やろ。せやけど、あいつ彼女できてから、競馬やめるって話になってな」

「ええやつやん」

「本人も納得しとったみたいやけどな。ただ、その……レース熱みたいなんだけは、どうにも抜けんかったらしくて」

「いや、競馬ゲームとかやればええやん?」

「現実の方がおもろいタイプやってん。パチンコとかより、人間ドラマが絡んどる方が好きやったんやろな」

「……わからんでもない、かも?」

 

アラタは、ちょっと遠くを見る目になった。

 

「でも、お馬さんはもうアカンやろ。てか、金賭ける系全般アウトや。せやから、ヒロやん言い出したんよ。『金はかからんけど、おもろいレースが見たい』ってな」

「あるかいそんなもん! 陸上とか?」

「いや、そんな理由で学生の陸上ずっと眺めとるやつおったら普通に怖いやろ。しかも大会なんてそうそう開催されへんし」

「……まあ、確かに。ヒロやんの見た目で競技場おったら通報案件やな」

 

アラタは「せやろ」と軽く笑ってから、指を一本立てる。

 

「ほんでヒロやんが見つけ出した、金かからん定期レースってのが、ハーメルンやったんよ」

「いや、そうはならんて!!」

「いや、そうなんやって」

 

アラタは、空中に何かコース図のようなものを描きながら、少しテンションを上げる。

 

「まずな、レースのスタート日を決める。その日に『新規連載』として投稿された小説を、片っ端からピックアップするんよ」

「もうそこから狂気やん」

「で、そこから一週間。どの小説が一番伸びるか当てるんや。投票数の伸びと、お気に入りの増加を別々にカウントして、1着〜3着までを予想する。もちろん、二次創作とオリジナルは階級別やで」

「なんかガチガチのルールあるんやな……」

「そらそうやろ。でな、もちろん自分のアカウントでその作品をお気に入りに入れたり、投票したりするのは禁止。不正行為で即失格や」

 

ユウマは思わず笑ってしまう。

 

「そりゃそうやな。そんなんされたらレースにならんか」

「公平を期すためにな、参加者同士、マイページで自分がどの作品に評価つけとるかって一覧も見せ合うんや。ドーピング検査って呼ばれとった」

「……兄貴ら、なにしとん……?」

 

アラタはどこか誇らしげに笑った。

 

「いや、あれは熱かったで。1着2着はわりとすんなり予想できることも多いんやけどな……問題は3着や。3着枠だけは、毎回熾烈やねん」

「……なあ、その言い方やとさ」

 

 ユウマはじっと兄の顔を見つめる。

 

「兄貴も参加しとったん?」

「おう。めっちゃ楽しかったで」

「絶対やっとると思ったわ……。で、勝ったらなにがあるん? お金は賭けてへんのやろ?」

「そらもちろん、感想戦や」

 

アラタは指を一本立てた。

 

「飲み会でな、『お前はどの作品のどこに目ぇつけてたんか』『最近の流行りどこまで読んでたんか』『あの騎手は』『馬体が』とかを、延々語り合うんよ。で、そのあと、気に入った作品にはちゃんと投票したり、感想書いたりする」

「……なんか想像以上に青春してない?」

「おう。みんな1着確実やと思っとった作品が、期限ギリギリで削除された時とかは鳥肌立ったで。うおおおおお!!って店中で叫びかけたわ」

「レースやないかそれもう……」

 

アラタは、懐かしそうにコーヒーをすすった。

 

「せやから、最初に言うたやろ。あいつはちょっと拗らせたタイプのスコッパーやったって」

「……いや、だいぶひねくれとるやろそれ!!」

 

ユウマがそっとまとめると、ふたりの間に、コーヒーと笑い声まじりの、ゆるい空気が流れた。

 




「ちなみにやな、ヒロやんは作者のこと騎手って呼んどったで。
 ほんで、作品が削除されるんは落馬や。完全に競馬用語やろ?」

アラタは指で机をとんとん叩きながら続ける。

「でな、だんだん慣れてくると、お気に入りの騎手ができてくるんよ。
 その騎手の新作が出たら、まず馬体(あらすじ)をチェックするんや。
 『この馬、ほんまに走れるんか』『途中で落馬せんか』ってな」

ユウマはポカンと口を開けたまま固まる。

「……兄貴ら、ほんまに何の世界で遊んどったん……?」
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