マスコミの起こした騒動から数日後。
「今日のヒーロー基礎学だが……急遽、俺とオールマイト、それに加えてもう1人の三人体制で行うことになった」
開口一番に相澤先生はそう告げる。おそらくこの前のマスコミ騒動が影響しているのだろう。過去一度も侵入を許したことのない雄英の警備システムが、何者かによって隔壁が破壊されマスコミに侵入されてしまったあの騒動。幸いにも、怪我人とかは出なかったようだが。
「はーい。何するんですか?」
瀬呂が授業内容を訪ねた。
「災害水難なんでもござれ。
相澤先生は『RESCUE』の文字が描かれたプラカードを掲げる。
その言葉に反応してか、再びざわつき始めた教室を相澤先生が睨みをきかせることで静める。そして、戦闘服コスチュームの着用は各々の判断に任せることと移動用のバスの前に集合することが伝えられると、皆して各々の準備を始めた。
広大な敷地を持つ雄英高校では、学校内の移動にもバスが使われることがある。
「バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に2列で並ぼう!」
数日前に決まった委員長、飯田は実に張り切っていたのだが。
「こういうタイプだったか、くそう!」
『意味なかったね天哉君』
バスは前半分が対面式の座席になっており、あっさりと飯田の予想は覆された。結局、適当に座ることになってしまう。
「私、思ったことは何でも言っちゃうの。緑谷ちゃん、あなたの"個性"、なんだかオールマイトに似てる」
横並びに座るミカ、緑谷、蛙吹、切島の中で紅一点?(ミカを女性判定していいのか?)が、唐突に切り出す。その言葉に、緑谷は目に見えて狼狽えた。
「そそそそ、そうかな、いやでも僕はその……」
「まあ待てよ、梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねえぜ?似て非なるアレだって」
『でも、制御がきくようになればそれこそオールマイトのような動きも出来そうだよね。』
「確かになー。その辺、シンプルな増強系は羨ましいぜ。やれることが多くて派手だしよ。俺の"硬化"は対人にゃあ強えんだが、いかんせん地味でなー」
「そんなことないよ、切島くん! 僕は凄くカッコイイと思う。プロにも十分通用する"個性"だよ!」
「プロなあ、しかしやっぱ、ヒーローも人気商売みたいなトコあるぜ?」
そんな切島の言葉に反応したのは、対面に座る"ネビルレーザー"を持つ青山だ。「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並☆」と笑みをみせるが、「でもお腹壊しちゃうのは良くないね!」と、隣の芦戸によってあっさりと撃沈させられてしまう。
「派手で強いっつったら、聖園と轟、それに爆豪だな!」
「でも爆豪ちゃん、キレてばっかで人気出なさそ」
「んだとコラ! 出すわ!」
「ホラ」
『子供に見せれないほどに苛烈だしね』
「ぁんだとコラ! ブッ殺すぞ聖園っ!」
『ホラ、そういうとこだよかっちゃん。』
蛙吹とミカに指さされる爆豪は、2人の言葉通りにブチギレて口汚く罵る。
「この付き合いの浅さで、既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげえよ」
「てめえのボキャブラリーは何だコラ! 殺すぞ!」
「……低俗な会話ですこと」
「でもこういうの好きだ、私!」
「爆豪くん、本当に口悪いな!」
そんなやりとりを見た緑谷は心中で(かっちゃんがいじられてる!流石は雄英……!)と慄いていた。
「……そろそろ着くぞ。いい加減にしとけよ」
「「『はいっ!』」」
着実に信頼関係が出来ているようで、相澤の一言にすぐさま静まり返る。
大きなドーム状の建物の前でバスが止まる。相澤に引率されて中に入ると、そこには某アトラクションテーマパークに似た光景が広がっていた。
その光景はまさにUSJに似ていた。
そして巨大なアーチのそばには、宇宙服を身につけたが立っていた。
「よく来てくれましたね、皆さん。お待ちしていましたよ」
その人物が私達を出迎えると、緑谷と麗日が、声を上げる。
「スペースヒーロー『13号』だ!災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わーーー!私好きなの13号!」
13号がこの施設の名前を言う。
「水難事故、土砂災害、火災、暴風などなど……。あらゆる事故や災害を想定して、僕が作った演習場です。名付けて、ウソの災害や事故ルーム!略して……USJ!!!」
「「「本当にUSJだった!!?」」」
そのいろいろと問題がありそうな名前に呆れていると、何やら相澤先生と13号が真剣な面持ちでこそこそと話していた。
「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが」
「先輩、それが……通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで。仮眠室で休んでいます」
「不合理の極みだなオイ」
そんな、普通なら聞き取れない音声で行われている会話を私はしっかりと聞き取っていた。
『(制限?)』
ミカは13号と相澤の会話の内容について思考していると
「えー始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」
どうやらこのまま授業を始めることにしたらしく、13号が声を上げる。
それと同時に私は思考を止めて、先生の話を聞くことにする。
先生の個性は『ブラックホール』あらゆるものを吸い込んでチリに出来てしまう反則的な能力である。
その個性を使ってどんな災害からも人を救い上げることが出来るのが先生の持ち味と言える。
お茶子ちゃんが頷くなかで、先生は「しかし」と言葉を繋げる。
「これは簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう」
まあ、それはそうだろう。私なんて、常人相手に全力で殴れば木っ端微塵に出来てしまう。
これまでの授業で自身の個性に秘められた可能性と、人に向けることの危うさを学んでもらったと言う先生。
「この授業では心機一転!人命のために個性をどう活用するかを学んでいきましょう。人を傷つけるのではなく、救ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな。以上!ご静聴ありがとうございました!」
一通りの話を終えて胸に手を添えてお辞儀をする13号。すると、クラスの皆は拍手を送り、お茶子ちゃんと天哉君が歓声をあげる。
その瞬間……
『………!?何この嫌な感じ!?』
悪寒が全身を駆け巡る。そして……
USJの中央広場に設置された噴水の前に黒い歪みが生じた。その歪みが広がると、中から人間が現れた。
「一固まりになって動くな!!13号、生徒を守れ!!」
その光景を前に、相澤先生は切羽詰まった様子で大声をだす。
ただ皆は状況が良く読めていないようで、先生の言葉を受けても呆然と立っている者ばかり。
そうこうしている内に、人はどんどん増えていく。
「何だありゃ?!また入試ん時みたいな、もう始まってるぞパターン?」
未だに状況が飲み込めないらしく、切島君が声を上げる。すると……
「動くな!あれは、ヴィランだ!!」
そんな切島くんの疑問に答えるかのように、相澤先生は声を上げる。その瞬間、ようやく事態を察したのか、クラスの皆が冷や汗を流した………
「なんでヒーローの学校にヴィランが来るんだよぉぉぉ!!」
「どっちみち馬鹿だろ!? ここはヒーロー学校だぞ!」
峰田と上鳴が叫ぶが、それよりも相澤が思い浮かべるのは先日のマスコミの不法侵入。
「やはりあのマスコミ共はクソ共の仕業だったか……!」
あの一件には違和感がありすぎた。マスコミを煽った者がいるのは明白であり、その正体は目の前のヴィラン達。
そんな中の顔面と全身に手を付けた異質な存在――リーダー格のヴィランは何かを探すように周囲を見渡した後、首を傾げた。
「おい……オールマイトがいないぞ。“子供を殺せば”……来るのか?」
――途方もない悪意が動き出す。