クソみたいな世界で、俺は   作:月山 白影

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自由になったあと、何も残らなかった。

 

 

 

 

1ヶ月は経っただろうか。

俺とサオリの関係は以前から変わっていない。

しかし、そんな事どうでもいい。

今夜、俺は逃げる。

もう、サオリも信用できない…

俺から自由を奪う奴は敵だ。

クソが…

俺は今日、人殺しになる。

いや、元からそうなるつもりだ。

ただ、違う奴が死ぬってたけだ。

あぁ、でも、サオリに感謝しないとな…

此処まで俺を強く成長させてくれてってな。

俺は長包丁を鞘から出し、持つ。

俺は知っている。

キヴォトス人は銃弾にはめっぽう強いが、包丁などの鋭利な物にはかなり弱い。

ミサキのおかげでよく知っている。

さて…行くか。

とっくの昔に殺す覚悟はできている。

なのに…なんで、手が震えるんだ?

落ち着け。

マダムの言っていたことを思い出せ……

……

………

 

 「ふぅ……」

 

……殺るか。

俺はサオリの居る部屋へと向かう。

丁度いい、サオリの背中がガラ空きだ。

 

 「Die in pain(苦しんで死ね)

 

その言葉に続くようにサシュッと音が鳴る。

 

 『がっはぁ……!?』

 「サオリ、俺、決めたんだ。俺から自由を奪う奴は誰であろうと殺すってさ。」

 「だから、これはサオリが悪いんだ。うん、そうだな。サオリ、お前が悪い。」

 

俺はサオリの背中に跨り、追い打ちをかけるように何度も何度も刺す。

今の俺は何も感じない。

ただ、昔に戻ったみたいだ。

……

死んだか。

俺は立ち上がる。

脈は……いいか。これだけは刺したんだ。死んでて当たり前か。

俺は長包丁を鞘に戻し、懐にしまう。

さて…これからどうするか……

とりあえずはあの大人を殺しに行くか。

俺は玄関から家を出た。

そもそも、あの大人はどこに居やがるんだ…?

とりあえず、見つけ次第必ず殺す…!

俺の中には殺意しかない。

俺にまだ自由はない。

あの大人の鎖に繋がれたままだ。

だから…あの大人を殺す…!

俺は居場所として3箇所に絞った。

1つはシャーレ。あの大人の職場。

2つは山海經。明日、あの大人が仕事で訪れる場所だ。

3つはゲヘナのスイーツ店、「アマゴショート」。俺が普通に行って食べてみたいたからだ。だから今、サオリのスマホであの大人にメッセージを送った。

なぜか知らないが、俺の口からはよだれが垂れていた。

そんな事どうでもいい。

とりあえずはシャーレだ。

今夜中に付けるとは思っていない。

俺はサオリのスマホを投げ捨てる。

多分、明日の昼ぐらいに着くだろう。

そういえば…前に俺の愛銃「自由の喪失(Loss of freedom)」を探したが、どこにも無かった。

だから、俺は銃ではなくこの長包丁で戦うことにした。

もう、銃は要らない。

愛刃「奪う者(テイカー)」だけでいい。

さて…シャーレへと向かうか。

俺は歩き始める。

ただ、歩く。

夜風がやけに生ぬるい。

どこをどう通ったかは覚えていない。

気づいたら、シャーレへ向かう道に足が乗っていた。

 

 「……」

 

街灯が一定の間隔で並んでいる。

その下を通るたび、影が伸びて、また縮む。

まるで俺自身が、何度も切り刻まれているみたいだった。

……おかしいな。

逃げるって決めたはずだ。

自由になるって、決めたはずだ。

なのに――

 

 「――……なんで、こんなに静かなんだ。」

 

胸の奥が、騒がない。

怒りも、達成感もない。

あるのは、空腹みたいな感覚だけ。

満たされない。

何かが、決定的に足りない。

 

 「……あぁ。」

 

分かってる。

分かってるから、考えないようにしてた。

サオリは“鎖”だった。

でも、鎖の端を持っていたのは、あの大人だ。

俺は自由を奪われた。

選択肢を奪われた。

「守る」なんて言葉で、縛られた。

 

 「……ふざけるなよ。」

 

足取りが自然と早くなる。

視界の端で、シャーレの建物が見え始める。

心臓が、少しだけ強く脈を打つ。

怖い?

違う。

これは……確認だ。

俺は本当に、自由を欲しているのか。

それとも――ただ、誰かを憎み続けないと立っていられないだけなのか。

 

 「……どっちでもいいか。」

 

答えなんて、後でいい。

今は、目の前の“原因”を消すだけだ。

思いの外早くシャーレに着いた。

多分、誰も知らない裏ルートのような、隠し通路のようなところを通ったのだろう。

シャーレの入口が近づく。

中は、明かりが点いている。

……居るな。

俺は一度、足を止める。

深呼吸をしようとして、やめた。

落ち着いたら、戻れなくなる気がした。

懐にある重みを、もう一度確かめる。

 

 「……奪うだけだ。昔…昔を思い出せ……」

 

それだけでいい。

理由も、正しさも、もうどうでもいい。

俺は再び歩き出す。

今度は、迷わない。

シャーレの扉が、すぐそこにあった。

 

 「……近づくな。」

 

俺は低く言った。

声に隠す気のない棘が混じる。

チッ…なんで、こいつ…俺が来ることをわかっていたかのように……!

 

 『うん。』

 『ここから動かないよ。』

 

大人は、ほんの少し首を傾けるだけ。

 

 「……」

 

なんだその余裕は…?

これから殺されるというのに…

まぁ、いい。

 

 「クソみたいに余裕だな…憎い…」

 『そう思うよ。』

 『今の君なら、特に。』

 「分かった風な口を……やめろ…!!」

 

俺は一歩、踏み出す。

距離は縮むが、大人は下がらない。

でも――構えない。

 

 「俺はお前を殺しに来た…!」

 

言い切る。

脅しじゃない。

事実として、吐き出す。

 

 『うん。』

 『そういう顔だ。』

 

あぁ…?

もうダメだ。絶対に殺す…!今夜、こいつを…!!

そもそも、なぜ止めない…?

怖くないのか…?

まさか、何かあるのか…?

 

 「……なぜ止めない。」

 『止めたい気持ちは、あるよ。』

 『でもね…』

 

大人は、静かに続ける。

 

 『…今、止めたら、君の怒りが、居場所を失う。』

 「……あ?」

 『怒りも、憎しみも』

 『君が生き延びるために、必要だったんでしょ?』

 

胸の奥が、ざらつく。

 

 「必要だった?」

 「違う…!お前らが…!お前ら大人がそうさせたんだろうが…!!」

 『……うん。』

 『私たち大人がそうさせて来てしまった。』

 

大人の声は、変わらない。

 

 『でも、今は』

 『とても、苦しいだろう?』

 「当たり前だろ…!!」

 

俺は、吐き捨てる。

 

 「奪われた。」

 「縛られた。」

 「信じたら、終わりだった。」

 『……そう思うよね』

 

 「思う、じゃねぇ…!!」

 「これは全て事実だ…!!」

 

懐が、熱い。

触れれば、終わる。

 

 『……アトラ』

 

大人は、俺の名前を呼ぶ。

 

 『君が今、誰かを殺したいと思ってること』

 『私は、否定しない。』

 

心臓が、強く鳴った。

 

 『でも君自身を、殺していいとは思わない』

 「……そんなもの綺麗事だ。」

 『そうかも。』

 『でも、先生はね』

 

一拍、置く。

 

 『君が“憎しみだけになってしまう”のが』

 『いちばん、怖い』

 「……」

 『それ、自由じゃないから』

 

言葉が、胸に引っかかる。

でも、噛み砕かない。

いや、噛み砕けれない。

 

 「…黙れ!!」

 「俺は、今夜…自由になる…!!」

 『うん。』

 『だから、ここに来たんだよね。』

 「……」

 『誰も信じないって決めた人は普通、誰にも会いに来ない。』

 

沈黙が、落ちる。

 

 「……黙れ。」

 

俺は視線を逸らす。

 

 「俺は憎んでないと、この命として、生物として立ってられない…!」

 『そっか。』

 

大人は言う。

 

 『じゃあ今は、それで立ってていい。』

 「……は?」

 『倒れないための感情なら使っていい。』

 

中性的で、やわらかい声で言ってくる。

 

 『でもね』

 『ここでは、刃を抜かなくていい。』

 「……命令か…?」

 『お願い、かな。』

 

間が伸びる。

 

 『今夜だけ、ここでは、君を傷つける選択をしないで。』

 

俺は、強く包丁を握る。

震えが止まらない。

 

 「……クソが…!」

 

殺意は、消えない。

憎しみも、ある。

 

それでも――

大人は、そこに立っている。

逃げない。

押し付けない。

夜は、何も変わらなかった。

……

………

声は、もう返ってこない。

問いも、呼びかけも、途中で終わったままだ。

俺は立っていて、目の前の大人は這いつくばって惨めに血の池を作って寝ている。

俺が勝っただけ。

ただ、それだけだ。

 

 「……」

 

何かを言うべきだった気がする。

でも、言葉は出てこない。

確かに、終わらせた。

それは事実だ。

でも――終わったのは、相手だけだった。

胸の奥が、静かすぎる。

騒がない。

満たされない。

空腹ですらない。

 

 「……自由、か」

 

口にしてみる。

けれど、その言葉は、ここでは役に立たなかった。

誰にも止められない。

誰にも責められない。

誰にも呼ばれない。

それだけの状態が、残った。

俺は一度だけ、足元を見る。

そこにあるはずのものは、もうない。

だからといって、進む道が増えたわけでもない。

 

 「……そうか」

 

理解した瞬間、何かが終わった。

守ると言う声も、

縛ると言う言葉も、

もう存在しない。

それでも――俺は、軽くなっていない。

振り返らない。

振り返る意味がない。

夜風が、やけに冷たい。

さっきまで感じなかったはずなのに。

俺は歩き出す。

行き先は決めていない。

止まる理由もない。

この先、

俺を止めるものは、もう存在しない。

それだけが、確かな世界だった。

俺はシャーレを出た。

朝が来たことに、気づかなかった。

空が明るくなっているのを見て、

「あぁ、もうそんな時間か」と思っただけだ。

驚きも、焦りもない。

俺は歩いている。

理由はない。

目的もない。

足が前に出るから、出している。

それだけだ。

街は、いつも通りだった。

店は開き、人は話し、笑い声もある。

誰も俺を見ない。

見たとしても、意味を持たせない。

 

 「……」

 

声を出してみようと思ったが、やめた。

出したところで、何が変わるわけでもない。

腹が鳴らない。

眠くもない。

疲れているかどうかも、分からない。

感覚があるはずの場所が、

全部、薄い膜で覆われているみたいだった。

信号が赤に変わる。

止まる。

青に変わる。

渡る。

それを“正しい”とも“従っている”とも思わない。

ただ、そうなっているから、そうする。

 

 「……自由だ。」

 

そう思ったわけじゃない。

言葉が、頭をよぎっただけだ。

でも、その言葉は

何も連れてこなかった。

誰かの顔を思い出そうとしてみる。

輪郭は浮かぶ。

名前も出てくる。

でも――そこに感情が、付いてこない。

好きだったのか。

憎んでいたのか。

守られていたのか。

縛られていたのか。

全部、どうでもいい。

あ、でも、スイーツ店、行ってみたかったな。

 

 「……」

 

歩き続ける。

どこに向かっているのかは分からない。

止まろうとも思わない。

立ち止まる理由が、存在しないからだ。

ふと、「このまま何年でも歩けるな」と思った。

怖くはない。

安心もしない。

ただ、何も感じない状態が、当たり前になりつつある。

それが――いちばん静かで、いちばん確かな変化だった。

俺は今日も進む。

何も背負わず、何も選ばず、何も失った実感すらないまま。

世界は、ちゃんと続いている。

俺を必要としない形で。

それでも足は、止まらない。

この返り血、どうにかしないとな…




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えーと、簡単に言わせてもらうと何個か作品を絞ってきました。続けてほしい作品に投票してください。1位から3位までの投票数が多かった作品を書きます。 あ、因みに、その3つしか書かないというわけではありません。ただ、受験勉強などで時間が無く、書ける時間がないからです。高校に合格したらまた今みたいに続けます。 この中から選んでください。

  • 呪言師のブルーアーカイブ
  • スイーツ!?食べる!!
  • あ゙ー…どうも、普通のキヴォトス人です…
  • クソみたいな世界で、俺は
  • やあ皆、俺だ。
  • シロコと俺
  • 先生に塩対応してたら殺されそうなんだが
  • 探究心は無くならない
  • おかん
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