クソみたいな世界で、俺は   作:月山 白影

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拒絶される側の人間はノイズの中でただ独り

 

 

 

 

 

 

 

 「俺…帰る…今日…」

 『アトラ…』

 

俺は立ち上がる。

辛い…やだ…

もう…死にたい…

自由とか…もう…いい……

全部…俺が生きてるから悪いんだ…

俺が生きてるから…皆に迷惑がかかるんだ…

なら…俺は生まれちゃいけなかった……忌み子なんだ……

俺は気づけば外に居た。

音が聞こえない。

酷いノイズ音が音をかき消す。

うるさい…

俺はただ、歩く。

行く宛もなく、ただ、歩く。

こんなになるなら…もう…死んだほうが…マシだよな…

あぁ…そうだ……首括って死んだらいいんだ…

俺は…ゴミだから…

 

 (そうだ、お前はゴミだ。)

 (お前は首括って死んだらええねん。)

 (忌み子が。)

 (気持ち悪い。)

 (死ねよ。)

 

酷いノイズ音の中に複数の声が聞こえる。

うるさい…

でも…本当のことを……言われてるだけなんだ…

 

 「あぁぁ…!!」

 

俺はしゃがみ、耳を塞ぐ。

うるさい…!

うるさいうるさい…!!

なぜか分からないが涙が零れる。

耳を塞いでいるのに、酷いノイズ音と謎の声は止まない。 

嫌だ…

もうやだ…

生まれてきただけなのに…

なんで…こんな……

死ねるなら…今…死にたい…

でも…死んだら皆に迷惑かけちゃう…

生きててても迷惑かけちゃう…

俺は…どうすればいいんだ…?

……迷惑なんて考えていられない。

そもそも…疲れたのに死なせてくれない方がおかしい…

なら…死ねるのは当然の権利だよな…

だったら…いっか…

俺は歩き出す。

どこかに死ねる向かう。

静かな所で死にたいな…

愛銃…無くなっちゃったし…

愛刀も…

あ…でも家にまだあるかな…ナイフ…

でも…取りに行くの面倒くさい…

……

………

俺は歩いていた。

どこへ行くのかは分からない。

ただ、建物の隙間から見える空が、やけに遠く感じたから。

足は勝手に前に出る。

止まる理由も、戻る理由も、もう考えるのが面倒だった。

周りの音は相変わらず、ガラス越しみたいにくぐもっている。

人の声も、車の音も、全部「世界の向こう側」の出来事みたいだ。

……気づけば、街の中にいた。

人が多い。

なのに、俺は一人も見えていないみたいだった。

俺は歩く。

ただ、歩く。

誰かの肩にぶつかる。

 

 『……チッ。』

 

舌打ちされる。

謝る気も起きなくて、そのまま歩く。

今度は、わざとぶつかられた気がした。

よろける。

 

 『邪魔なんだよ。』

 

小さな声。

ノイズの中で微かに聞こえる。

でも、ちゃんと俺に向けられているのは分かる。

しばらく歩くと、また誰かに押される。

今度は後ろから。

足元がぐらつく。

転びそうになる。

笑い声が聞こえた気がした。

……あぁ、そうか。

俺は、ここに居ちゃいけないんだ。

人の流れの中を歩いているはずなのに、

俺の周りだけ、妙に「空いて」いる。

視線だけは、刺さるほど飛んでくる。

また、誰かにぶつかられる。

今度は、明らかに乱暴だった。

体が揺れる。

壁に手をついて、なんとか倒れずに済む。

 

 『気持ち悪いな……』

 

小さな声。

でも、はっきり聞こえた。

次の瞬間、背中に衝撃。

何が起きたか、すぐには分からなかった。

誰かに、乱暴にどかされたんだと、少し遅れて理解する。

周りは、誰も気にしていない。

まるで、最初から「そこに居ないもの」みたいに。

……ほらな。

やっぱり、俺は邪魔なんだ。

世界の方が正しい。

俺の方が、間違ってる。

だから、こうなる。

俺はまた歩き出す。

フラフラしながら。

誰かに何かをされても、もうどうでもいい。

どうせ、俺は――「居ない方がいい物」なんだから。

人混みのざわめきの中。

また誰かにぶつかられ、体がよろける。

……もう、いい。

そう思った瞬間だった。

 

 『――ちょっと』

 

軽い、けれど妙に通る声。

俺の前に、影が差す。

 

 『さすがにそれは見過ごせないかな〜?』

 

明るい声。

でも、笑っているはずなのに、空気が一気に冷える。

ピンクの髪色。

無邪気そうな笑顔。

……聖園ミカ。

 

 『ねえ。今の、わざとだよね?』

 

聖園ミカは俺じゃなく、さっき俺を突き飛ばした女を見る。

声音は甘い。

けど、目が笑っていない。

 

 『人が歩いてるだけなのにさ。そんな扱い、必要?』

 

女が何か言い返そうとする前に、

 

 『ミカさん、抑えてください。』

 

静かな声が割って入る。

 

 『ここは公道です。感情的な対処は、状況を悪化させます。』

 

落ち着いた声。

凛とした立ち姿。

 

……桐藤ナギサ。

 

彼女は周囲を一瞥し、すぐに状況を把握したようだった。

 

 『……どうやら、この子が一方的に被害を受けているようですね。』

 

その視線が、俺に向く。

責めるでも、哀れむでもない。

ただ、事実を確認する目。

 

 『大丈夫ですか?』

 

……答えられない。

喉が、動かない。

すると、

 

 『……無理に答えなくてもいい。』

 

柔らかい声。

 

 『今の君には少し……世界の音が大きすぎるみたいだね。』

 

……百合園セイア。

 

静かにこちらを見てくる。

なぜか全部、見透かされている気がした。

 

 『安心してくれ。』

 

百合園セイアは一歩、俺の横に立つ。

 

 『君は、ここに居ていい。だから、そんな絶望した目で世界を見るな。』

 

短い言葉。

なのに、胸の奥が、ちくりと痛む。

 

 『ちょっとセイアちゃん〜、優しすぎじゃない?私、アトラ君の許せてないんだけど。』

 

聖園ミカが肩をすくめる。

 

 『でもさ。実際、放っておけないでしょ。こんなの。』

 

聖園ミカは再び周囲を見る。

さっきまでの雑音が、嘘みたいに静かだった。

 

 『ねえ。みんな。』

 

にこっと笑って。

 

 『この子、私たちが連れてくから』

 

その笑顔は、天使みたいで――

同時に、逆らえない圧があった。

 

 『異論はありません。』

 

桐藤ナギサが頷く。

 

 『このままでは、本人の安全が確保できない。』

 『……それに…』

 

百合園セイアが小さく息をつく。

 

 『彼、もう限界みたいだしね。』

 

俺は、三人に囲まれて立っていた。

世界は相変わらずうるさい。

でも――さっきまでの「拒絶」だけは、少し遠のいた気がした。

……どうして。

こんな俺を。

そう思った瞬間、

 

 『考えなくていいよ』

 

聖園ミカが、いつの間にか近くで言った。

 

 『今はさ。ただ、ついてきてよ。』

 

その言葉に、逆らう力は――

もう、残っていなかった。

聖園ミカの言葉の意味を、俺はちゃんと理解しないまま、

ただ――足が動いた。

三人の後ろを、少し遅れて歩く。

誰も、急かさない。

誰も、振り返って「早くしろ」とも言わない。

それなのに、俺は遅れないように歩いている。

不思議だった。

街の音は、まだうるさい。

人の声も、車の音も、全部ある。

でも、さっきまでみたいに、胸の奥に直接突き刺さってくる感じはしない。

……三人の背中が、視界を塞いでいるだけなのに。

聖園ミカは、何も言わずに先を歩いている。

桐藤ナギサは、時々周囲を確認するように視線を動かしている。

百合園セイアは……何も言わないけど、なぜか一番近くにいる。

 

 『……』

 

俺は、黙ったまま歩く。

行き先も、理由も、どうでもいい。

ただ――止まらなくていい。

それだけで、十分だった。

しばらく歩くと、街のざわめきが少しずつ遠のいていく。

 

 『ここまで来れば、もう大丈夫でしょう。』

 

桐藤ナギサが、静かに言う。

聖園ミカが振り返る。

 

 『ほら。ちゃんとついて来てるじゃん』

 

からかうみたいな口調。

でも、目はちゃんと、俺を見ている。

 

 『えらいえらい。』

 

……褒められるようなこと、何もしてないのに。

百合園セイアは、小さく微笑むだけで、何も言わない。

俺は、何も言わない。

ただ、そこに立っている。

 

 『今はさ』

 

聖園ミカが、少しだけ声のトーンを落とす。

 

 『考えなくていい。喋らなくてもいい。』

 『……ついて来てくれれば、それでいいから。』

 

俺は、頷きもしなかった。

でも、否定もしなかった。

――結局。

俺はまた、歩き出す。

三人の後ろを。

ただ、言われた通りに。

「どこへ行くのか」も、

「このあとどうなるのか」も、考えずに。

ただ――ついて行った。

俺はただ、この物語の続きが見たくなっただけだ。




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苦しめ or救い

  • 苦しめ
  • 救い
  • 俺のせいなんだよ…!
  • お前が不自由なのは…!
  • 俺のせいだ…!
  • もう…生きてるが嫌になってきた…
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